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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  154 飛行訓練

 
前書き

クリスマスなんて無かった。

……いいね? 

 

SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー

木曜日の朝。今日も今日とて何でもないかの様に朝食の席に座る。……しかし外のグリフィンドールの一年生はどこか浮き足立っている。……その理由は大体見当がついていたりするので、スルーする事に。

「今日かクィディッチの練習は…」

数日前のある朝、同室のシェーマスに叩き起こされる。〝何事か〟と思い、階下の談話室に向かうと一枚の貼り紙が掲示されていて──ネビルやアニー、ハーマイオニーなどの一年生がその掲示を〝暗鬱〟〝緊張〟〝興奮〟〝歓喜〟──各々違う感情で見ていた。

[飛行訓練は木曜日に始まります。スリザリンとの合同授業です]

掲示されていた一枚の紙にはそう書かれていた。

〝飛行の訓練〟、それはクィディッチの練習とも言い換えられる。故にグリフィンドール一年生のこの朝食の席は活気に溢れ──ているわけではなく、(むし)ろ暗鬱とした空気が蔓延(はびこ)っている。

〝スリザリン生と合同〟──この一文がグリフィンドールの一年生を憂鬱な気分に落とし込んでいるのだろうと云う事は、大体判った。

〝スリザリン〟と〝グリフィンドール〟は今年の一年生も例に()れず、〝不倶戴天(ふぐたいてん)〟──とまではいかないが、〝犬猿の仲〟な様だ。

……俺からすればマルフォイを始めとした──自分の血筋を鼻高々に(うた)うスリザリン生にしても、傲慢さを言葉の端々に見せるグリフィンドール生も〝どっこいどっこい〟なのだが…。

(……そういう意味じゃあ俺も〝グリフィンドール生〟だな…)

〝傲慢〟と一口に掃き捨てる俺はある意味──俺の私見でしかないが、グリフィンドール生の気質に近いのかもしれない。

ハーマイオニーは自身が運動が得意では無いことを自覚しているのか【クィディッチ今昔】を〝シミ1つ見逃してやるものか〟と云う気概で読み込んでは、ハーマイオニー自身に言い聞かせる様に蘊蓄(うんちく)を披露している。

ネビルはそんなハーマイオニーの蘊蓄をまるで──天からの啓示の様に聞き入っているあたり、ネビルも箒に乗るのは苦手らしい。

……ちなみ俺はスネイプ先生の授業──魔法薬学に()いては、グリフィンドールから点を引かれたくないので、よくネビルと組んでいる。……〝ネビル係〟なんて呼んだ奴は、〝タップダンスの刑〟だ。

「まったく、マルフォイの坊っちゃんの言葉を借りるのも(しゃく)だけど──一年生が箒を持っちゃいけないなんてあんまりだ」

「ああ、まったくだ。ロンが今からクィディッチに参加出来れば、絶対良い選手になれるのに…」

フレッドとジョージは俺を持ち上げる。周り──特にグリフィンドールの生徒からは期待を籠められた視線が刺さる。……中でもネビルなんかは判りやすく情景(しょうけい)の目付きで見てくる。

(……あの時ハッスルしすぎなければ…)

思い出すのは今年──ホグワーツに入学する前に行われたフレッド、ジョージからのクディッチの布教試合。ものは試しにと〝加速〟の虚無魔法を箒に付与(エンチャント)したので、もの凄い速度を出してしまったのだ。

……その時は直ぐに〝加速〟を止めたのでマグレとなったのだが、フレッド、ジョージからのクディッチの布教はさらに強くなった。

――「ご身分だなウィーズリー」

そろそろフレッド、ジョージの──嫌いな訳ではない囃し立てを止めようとした時、横合いから尊大な口調で語り掛けられる。

どうやらフレッドが例に出した〝マルフォイの坊っちゃん〟がやって来た様で、フレッドとジョージの顔が(しか)められ──更に、ご丁寧に後ろに〝オトモダチ〟のクラップとゴイルを後ろの両隣に連れ立っている。

……典型的なガキ大将に見えて、いっそ笑みをこぼしそうになったのは内緒だ。

「どうせ君──」

「あ、僕のフクロウだ」

マルフォイが(なにがし)か──多分、嫌味を俺やフレッド、ジョージに言おうとした時──ネビルのフクロウがナイスタイミングでやって来て、1つの包みを落とすと、また飛んで行った。

ネビルはその包みを開けるとその包みから出てきたのは(てのひら)サイズの玉だった。……ネビルは(いぶか)しみながらさの玉を握る──と、一も二もしない内にその玉は、白い水に赤い絵の具を大量に落とした時みたいに真っ赤に染まった。

……俺はその道具に見覚えがあった。シェーマスも“思い出し玉”を知っていた様で、シェーマスは得意気に口を開く。

「それ知ってる、“思い出し玉”だよ。……握って赤くなったら何かを忘れてる時なんだって聞いた事がある」

今、ネビルが握っている“思い出し玉”の色は〝赤〟。……それはネビルが何かを忘れていると云う事。……(もっと)も、ネビルの場合は〝何を忘れているのか〟すら忘れていそうだが…。……ディーンも俺と同じ事を感じたのか、その件について弄られている。

「“思い出し玉”か──ふん、こんな物ロングボトムが持っていても無意味だろう」

「あ、返してよ」

話の出鼻を挫かれたマルフォイは、不機嫌そうにネビルから“思い出し玉”を取り上げる。……俺は一瞬だけ近くに居たアニーに目配せ(アイコンタクト)をする。……アニーは俺の気持ちを汲んでくれた。

「マルフォイ、ネビルに返してあげなよ」

「ポッター──わ、判った。判ったからそんな目で見ないでくれないか」

絶対零度も()くやのアニーの視線がマルフォイを貫き──どうにもアニーに気があるらしいマルフォイは直ぐに“思い出し玉”をネビルへと返却して退却していった。

……そこに居合わせたグリフィンドール生の面々に失笑が生まれる5秒前の事だった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「何をぼやっとしてるんですか。皆、箒の左に立って──ほら、きりきり動いた動いた」

遂にやってきた飛行訓練。指定された場所でシェーマス、ディーンらとうだうだ談笑していたら、猛禽類(もうきんるい)を思わせる鋭い目の──担当の教諭であるマダム・フーチがそうかつかつとやって来て、一際大きい箒の横に立つ。

〝箒に乗るのはまだかまだか〟と判りやすく意気軒昂(いきけんこう)に胸を弾ませているシェーマスの隣に居るネビルは、マダム・フーチのその論調を聞いた時点で厳格な人だと判ったのかいつものおずおずとした態度を余計におずおずとさせる。

マダム・フーチはこれからの動作を実践していくのか、右手を箒の上に出す。

「右手を箒の真上に出して──そして、〝上がれ〟──と言う」

マダム・フーチが改めて「上がれ!」と箒へ向かって叫ぶ。するとマダム・フーチの箒は勢い良く浮き上がり、彼女の掌の中に収まった。

「「「「「上がれ!」」」」」

皆、一斉に叫ぶ。しかし箒が上がったのは俺、アニー、マルフォイを始めとした数人だけだった。

「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴って下さい。……この飛ぶ時の注意事項としては、箒がぐらつかない様に押さえる事。良いですね?」

マダム・フーチは箒に(また)がって地面を蹴り──地面から大体2メートルくらいのところまで浮上する。早く飛びたい皆は、〝おお~〟と感嘆している。

「浮上したら今の私の居る位置──大体2メートルくらいのところで止まる。笛を吹いたらですよ。……1…2…の──」

懐から笛を取り出すマダム・フーチ。……マダム・フーチはカウントをしていざ笛を吹こうとするが──笛が吹かれる事は無かった。

……いざ笛が吹かれようとした瞬間、ネビルの体が箒と共に浮き上がったからだ。

「あ」



「戻りなさい、ロングボトム!」

「わ、わ、わぁぁぁ!」

掠れた──どこか絶望した様に声を洩らしたネビルはその数秒後にマダム・フーチの制止を聞かず──あるいは聞けずに、右に〝うわー〟、左に〝うわー〟、上に〝うわー〟、下に〝うわー〟と右往左往する。

遂に箒を掴んでいられるだけの握力を失ったのか、ネビルは箒から手を放してしまう。……そうなれば、ネビルは当然墜落してしまうわけで…。

「……あちゃー…」

「いや、〝あちゃー〟言ってる場合じゃないし──“動きよ止まれ(アレスト・モメンタム)”」

俺は、まず死ぬような高さでは無かったが杖を出し、落下してくるネビルを止めようしたが、それより一手早く、地味に近くに居たアニーが止める。アニーはその杖さばきでそっとネビルを地面に下ろす。

「ポッター、素晴らしい魔法の技術です。その技術とロングボトムを救った精神性を称え、グリフィンドールに20点」

グリフィンドールへの加点と共にアニーをマダム・フーチは誉める。不意の加点に──それもまず貰えないだろうと思っていたマダム・フーチからの加点にグリフィンドール生はドッ、と沸き上がる。それとは対照的にスリザリン生は砂を噛んだような顔をしている。

「ロングボトムも──」

しかしネビルは起き上がらない。様子を訝しんだマダム・フーチはネビルの近くに寄る。

「気絶しています」

今度はスリザリン生が沸き上がる。嘲笑だ。

「はぁ、私はこれからロングボトムを医務室へ連れていきます。……良いですか、決して箒で飛んではいけませんよ? もし飛んだらクィディッチを始めさせる前にホグワーツから叩き出しますからね!」

そうマダム・フーチは言い残し、ネビルを杖で浮かせ校舎消えていった。

………。

……。

…。

シェーマス、ディーンとマダム・フーチが戻って来るまで雑談しようと思っていたが、ここでまた鼻持ちにならない──芝居掛かった語り振りでマルフォイがネビルが落としていたであろう“思い出し玉”を拾っては口を開いた。

……ちなみにアニーはハーマイオニーに絡まれている。

閑話休題。

「おや、これは──ロングボトムが持っていた“思い出し玉”じゃないか」

「返して、マルフォイ。……それはネビルの物だから」

「いやだね、ロングボトムに探させてやる」

アニーがマルフォイに言うが取り付く島もない。

「……悔しかったら僕について来てみなよウィーズリー」

〝何故に俺?〟──そう突っ込む前にマルフォイは箒に跨がり、旋回する様に宙へと上がる。

「どうするの?」

「行く必要は無いわ、ロン」

アニーとハーマイオニーが言う。……確かにハーマイオニーが言う通り、態々(わざわざ)飛ぶ必要は無い。空中のマルフォイの口が〝腰抜けが〟と動いたのは見逃していない。

……来年辺りに〝ナメクジの刑〟に処してやることを、内心にて決心した。

「ロン?」

アニーは短く聞いてくる。マルフォイはマルフォイで──もう一度俺に向かって〝腰抜け〟と呟き、思い出し玉を遠くにぶん投げる。

「どうするの、あれ?」

「〝どう〟するのって〝こう〟する。……“来い(アクシオ)”」

教職員棟の方に勢い良く飛んで行ったネビルの“思い出し玉”を〝呼び寄せの呪文〟で〝呼び寄せ〟る。すると“思い出し玉”は教職員棟にそのままの勢いで跳ね返されたかの様に戻ってくる。……マクゴナガル先生と目が合った気がした。

「狡いぞ、ウィーズリー」

「どこが?」

渋い顔でマルフォイが降りてくる。グリフィンドール生なんて──ハーマイオニーを含めて失笑している。

「……それよりマルフォイはマダム・フーチに対しての言い訳を考えておいたほうが良いんじゃないか?」

――「その必要は有りません」

声の方向にはマダム・フーチ。マルフォイの蒼白い顔が一層蒼白くなる。


「……ウィーズリー、貴方の〝呼び寄せ呪文〟は大変見事でした。グリフィンドールに10点」

戻って来てそうそうの加点にグリフィンドールの生徒が──アニーの時ほどではないとは云え、沸き上がりを見せる。

「さて、ミスター・マルフォイお話をしましょうか」

マダム・フーチのその言葉を聞いた時、〝マルフォイのこれから〟を想像したらしいグリフィンドールの生徒の何人かがにやり、と笑う。最早有頂天かと云うくらいだ。

……ちなみにマダム・フーチがが戻って来るのが早かったのは、ネビルを運んでいる最中にネビルが目を覚ましたのでマダム・ポンフリーへの報告はネビル自身する事にさせたかららしい。

その日、マルフォイは退学──とはならなかったが、スリザリンから30点が引かれた。

SIDE END 
 

 
後書き
あーがす・ふぃるち←可愛くみえたらなんとかかんとかパトローナム 
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