暴れん坊な姫様と傭兵(肉盾)
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前書き
=三●#)´3`)・;'.、「ぶベぇえ!?」
痛みを忘れて意識が浮上した。
気を失う直前の事が思い浮かばなくなるほどに鈍化した意識が目覚める。
意識が戻っていくにつれて思考が戻ってきた。
―――なんか僕って、最近こんな目覚め方ばかりしてるような気がする。
三度目?……いや、二度目か?
失神してるのに思考出来ている。
意識が浮上していくのをボンヤリと感じている。
どうしてそうなってるかよくわからないけど―――意識が浮上するのを止められないまま、自分は眼が覚めるのであった。
「うぅ~ん……」
ボヤけた視界に白い天井が映った。
天井から降り注ぐ光が眩しくて、寝起きの眼に痛く刺さる。
それでも薄目にして光を極力遮りながら、視界の端に何かをいるのを見た。
人だ。 人が覗きこんでいる。
誰……?
「―――、――」
「うわぁあっ!?」
異様な“何か”が覗きこんでいた。
眩しくてボヤけた視界を意識すると、それは人だけど…かろうじて人だと思わしき“何か”が僕を見下ろしていた。
おかげで物凄くビックリして眠気が一気に吹き飛んだ。
「―――、――」
「な、何!? 何~~ッ!?」
仰向けになっていた身体が弾けるように起きて、目の前の謎の人物から距離を取ろうとその場で後退った。
それでも物言わぬ人のような“何か”が自分から視線を外さずにジッと見詰めてくる。
何なの、こ…この人…!?
目の前の人物は何と言うか…普通とはちょっと違っていた。
まず一番の特徴に、目の部分だけ覆う被り物を着けているという点だった。
眼帯のように目をスッポリと覆って、まるで仮面のようだった。
その仮面には真横に細長いガラスようなものが埋め込まれていたが、向こうでどんな視線を向けているのか窺い知る事が出来なかった。
「(……何というか、仮面がものすごく怪しい)」
次に目立つ特徴は外套だ。
フード付きで頭から足の半分まで覆うほどの外套を羽織っていて、頭ごと全体的な輪郭が覆い隠されていた。
髪まで隠してるせいか、女か華奢な男なのか…判別がつかなかった。
「(……何というか、体付きを隠すような外套も怪しい……)」
そして変わった所を挙げると…その肌だ。
肌がとても白くて、血の気がとても薄そうだった。
微動だにしない口元と相まって無機質な印象を抱き、ちょっと不気味に感じた。
「(……何というか……何なのぉ!? なんかとても白いよぉ~!?)」
よくわからない不気味さが理解不能にダメ押しして、いっそ怖くなっていた。
「―――、――」
色白で仮面の人は相変わらず無言だ。
問い詰めるでもなく、挨拶するでもなく、罵るでもなく…ただ仮面越しに自分をジッと見詰めているだけで、彫刻みたい動こうとしない。
これは、人…?
いや、人なのか…?
手も足もある。
口も鼻も付いてる。
目も…多分あると思う。
人間…何だと思う……だけど、なんか怪しくて違うような気がした。
なんでこんな所に―――と、ふと自分は気付いた。
自分はどこにいるのだろうか?
「(ここ…どこ…?)」
余裕がないまま、仮面の人に注意しつつ周りを観察すると…どこかで見覚えのある部屋である事に気付いた。
基本的に全体的に真っ白、天井も壁も床もシミが見当たらない清潔な空間。
真っ白なシーツで覆われた硬めのベッド、視界を遮るように白布をカーテンのように吊るされた仕切り。
混乱した頭でよく見たら……ここは以前、エルザ姫に殴られた後で治療のために寝かされた場所にそっくりだった。
て言うか…ここって、僕がお城で寝かされてた場所なのでは?
「サンタ。 様子はどうですか?」
訳が分からず混乱していると、布の仕切りの向こうから誰かの声がした。
「―――、――」
仮面の人はその声に反応して、僕から目を離した。
ベッドから降りると、手を揺らすように軽い足取りでトテトテ、と布の仕切りの向こうへと行ってしまった。
……仕切りの向こうに誰かがいるのだろうか。
さっきの仮面の人と話していると思わしき小声がボソボソと聞こえてくる。
一体何がどうなっているのだろう……それを考えるよりも先に、仕切りの向こうから人が現れた。
「お目覚めになりましたか?」
「あ、あなたは…!」
「覚えていらっしゃいましたか」
入れ替わりに現れたのは、いつぞやのメイドさんだった。
自分をエルザ姫の所まで案内し、この白い部屋で目覚めた時に顔を合わせた事がある人だ。
ん……てことは…?
「メイドさん…あれ、じゃあここは…」
「お目覚めになったばかりで混乱していますでしょう。 ここはデトワーズの王都にございます」
「ほ、本当に王都に? でも僕は確か…」
そうだそうだ、思い出した。
僕はレヴァンテン・マーチン、傭兵だ。
国境近くの砦務めで傭兵の仕事をしていた。
倉庫整理だけの仕事だけど、久々に安定して収入が入る仕事に就けた.。
つい最近の出来事だ。
なんだけど……なぜ僕は王都にいて、こんな所に寝かされていたのだろう?
もし、本当に前に寝かされた場所と同じであるのなら、メイドさんとここで出会うのは二度目という事になる。
「運ばれてきたのですよ」
自分の疑問を察してか、メイドさんが答えを教えてくれた。
観察するようなメイドさんの視線は、困惑している自分の様子を見抜き、言葉を続けた。
「状況を把握していないようなので、私が説明しましょう」
そして出てきたのは…説明ではなく、ざっくりとした答えだった。
「―――あなたは姫陛下に目を付けられました」
……へ?
「え、今、なんて、誰、に……?」
「ですから、エルザ・ミヒャエラ・フォン・デトワーズ姫陛下の御目に留まり、ここまで連れて来られた。 王都に来るまでの間ずっと気絶していたあなた様は目を覚まさなかったため、そのまま医務室へと運ばれた。 それが国境の砦にいるはずのあなた様がここにいるに至った理由です」
思考が追いつかず途切れ途切れの自分の口とは対象的に、メイドさんはハキハキと分かりやすく状況を説明してくれた。
「なんで…」
「なんで、とは私から説明する事ではありません。 これ以上の事は姫陛下より直接申し渡されます」
メイドさんは踵を返し、尻目で自分を視線が向けられた。
あの目は“黙ってついて来い”、と促す目だ。
自分が知る限り、それは幾分か柔らかいものだったが、僕は慌てて転げ落ちるようにしてベッドから降りた。
「……結構。 動けるのでしたら、これより姫陛下の所へお連れします」
「あ、はい…」
展開についていけず、言われるがままにメイドの後ろに付いて行く。
「―――、――」
「きゃわぁ!?」
すると仕切りの向こうでさっき見た顔…もとい仮面がそこにいた。
血の気の引いた色白の仮面の人は、全く気配がなく布の仕切りにピッタリと寄り添うように立っている。
それをかなりの至近距離で見てしまった自分は反射的に飛び上がった。
「サンタ」
「―――、――」
驚く自分の混乱をよそに、メイドさんが声をかけると仮面の人はテクテクと駆け寄っていく。
「この方に関しては気にしないでください。 特に何かしたりはしませんですから」
「あ…はぁ…」
メイドさんは特に驚くでも動揺するでもなく、当たり前のようにその不気味な仮面の人がいる事を容認していた。
いや…気にするなと言われても、色白無言でついてくる仮面の人とか不思議すぎて気になってしまいます。
「では姫陛下の所にお連れしますので、私に付いて来てください」
しかしそれ以上の問答は続かず、メイドさんは先にスタスタと進んでいった。
僕はビクビクしながらも仮面さんの横を通って、メイドさんの言う通りに後に付いて行く。
「―――、――」
そして仮面の人は少し遅れて僕の後ろにテクテクと歩き出した。
後書き
サンタ:色白肌に、バイザーのような仮面、体を覆う外套を付けた謎の人。 口は付いているけど喋らない。その様子はどこか人形じみた不気味な存在。 しかしそれは人形ではない。 なお、名前は別に良い子のためのおヒゲのお爺さんが由来ではない。
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