おぢばにおかえり
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第三十一話 研修先でもその五
「何処行くのよ」
「だからお店に行くのよ」
「グッズでも買おうかしら」
「グッズはいいけれど」
いきなり一人にされてしまった気分です。
「何で急に行くのよ」
「気を利かせてあげるのよ。感謝しなさい」
「そういうことだからね」
「気を!?」
私が何が何なのかさっぱりわからないでいると本当に皆行こうとします。冗談ではありません。
「どういうことよ」
「だから。二人で楽しんできなさいって」
「デートをね」
「デート!?」
また皆とんでもない勘違いをしていると。そう思いましたけれど。
「ちょっと、デートって何が」
「阿波野君、それじゃあね」
「ちっちもね」
皆私と阿波野君だけを残してそそくさと行ってしまいました。とりあえず二人になってしまったわけですけれど。まずは阿波野君をジロリと横目で見ながら言いました。
「何でこんなことになるのよ」
「不満なんですか?」
「すっごくね」
はっきりと言ってやりました。
「何で映画村まで阿波野君と一緒なのよ」
「あれっ、嫌なんですか?」
「はっきり言ってそうよ」
本音を言ってやりました。
「全く。いつもいつも」
「それで先輩」
私の話も全然聞いていません。
「吉原ですけれど」
「一緒に行こうっていうの?」
「はい。どうですか?」
「今周りに阿波野君しかいないし」
これが一番大きな理由でした。仕方ないです。
「わかったわ。それじゃあ」
「吉原に」
「おまけにこんないかがわしい場所になんて」
「面白いじゃないですか」
「面白くも何もないわよ」
また阿波野君に言うのでした。
「そんなの」
「まあまあ。じゃあ他に色々と回ります?」
「吉原だけじゃなくて?」
「映画村って色々あるんですよ」
それは私も知っています。伊達に東映の撮影場所ではありません。必殺も暴れん坊将軍も大岡越前も遠山の金さんも全部ここで撮影していますから。
「お化け屋敷もありますしね」
「そういうのもあるの」
「ほら、この道だって」
今私達がいる道を指し示す阿波野君でした。
「あれじゃないですか。よく侍が歩き回っていますよね」
「そういえばそうね」
言われてみればそうです。ここで前から浪人が来たりとかそういうシチュエーションが多いです。広くて左右に民家が並んでいるあの道です。
「他にもお池があって」
「怪獣が出て来るあそこよね」
「ええ。あそこにも行きます?」
「そうね。それじゃあ」
そのお池では夜になったらまず誰かが切られて落ちます。この場面を何回見たのか覚えていません。とにかくしょっちゅう見てきています。
「まずは吉原なのね」
「はい。いいですよね」
「言っても聞かないし」
溜息と一緒に言いました。
「だからね。いいわ」
「そうですか。それじゃあ」
「全く」
今度は呆れる言葉が出ました。
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