提督がワンピースの世界に着任しました
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第12話 方針決め
「報告は以上です」
妙高が、そう言って報告を終えた。報告の内容は、自分たちの居る島が人食い島と呼ばれている事について、近くの島に定期的に来ているという商船について、そして最後には、グランドラインと呼ばれる航路について。
報告を聞き終えた頃には日をまたいで、既に翌日となっていた。
「こんな時間になるまで付き合ってくれて、ありがとう。後は大丈夫だから、もう休んでもらって結構だ」
妙高と加賀の2人には遅くまで付きあわせてしまった事を、申し訳なく思いつつも感謝して、先に休むように言った。
それから、話し合いが終わったので全員が席から立ち上がり、加賀と妙高の2人は出口の扉へと向かい、俺は再び提督机に座る。すると、扉の前で加賀が振り返り問いかけてきた。
「提督は、お休みにならないのですか?」
「もう少し作業してから休むよ」
「……そうですか、仕事も程々にして早めにお休みになってください。お先に失礼します」
「提督、ご自愛くださいね。それでは私も先に、失礼します」
気遣ってくれる加賀と妙高。司令官室から出て行く2人を見送る。そして、俺は司令官室に一人。加賀の報告内容をメモしてくれていた備忘録を確認しながら、思案に暮れる。
報告でグランドラインという言葉を聞いて、すぐにワンピースという少年漫画の事を思い出していた。それだけでは、この世界がワンピースの世界であるとは断定しきれない。けれど、先の遠征で出会った海軍やその海軍のシンボルマーク、そして艦娘の建造を成功させてしまった未知の果実。
未知の果実については、表面が見たことの無いようなグルグル巻きの模様に、赤や水色、紫という不自然な色、そして味は非常に不味いという特徴。今考えると、ワンピースという漫画で能力者になれるという悪魔の実の特徴と一致している。この特徴的な物は、悪魔の実なのだろうと思う。
だけど、今のところ身体に変化がなく、超常的な能力も身に着けていないのは口に含んだ実の量が少なかったからだろうか。建設に使った北上も、海に出ても問題は無いようだったし。
ただ、幾つかの事実を考えると、やはりワンピースの世界に来たのだと思えるだけの説得力があった。
自分がワンピースという世界に居る、と知ることが出来て良かったと思った後、この世界に何故自分は居るのだろうという疑問が浮かんでいた。
艦娘が居て、鎮守府が有って、自分は提督になっていて。これらの要素から、グランドラインの事を知る以前は、完全に艦隊これくしょんの世界だろうと思っていた。いま自分たちは日本の何処かに居ると思っていたのに、想像していた場所とはぜんぜん違う所だった。そもそも、自分の知っている地球とも違う惑星かもしれない、異世界という場所である。
つまりこれからは、土地勘が一切通用しない所に居るということ。頼れるのは、先の遠征で手に入れた海図と、妙高達が海域を偵察して手に入れてくれたという情報。遠征に出て海図を手に入れることが出来て幸運だったし、妙高達に偵察に行ってもらって早急に周辺の情報を集めてもらうという判断も正しかったと思う。
そして、ここにきて問題なのが俺自身ワンピースのストーリーをボンヤリとしか思い出すことが出来ない、という事。何故ボンヤリとしか知らないのか、記憶喪失している俺には分からない事だった。所々は記憶にあるのに、おおよそしか分からなくて中途半端な原作知識だった。
その中途半端にしか知らない理由は、原作を途中までしか読んでいないからなのか。それとも、記憶喪失だという症状と同じように、本来持っていた俺の記憶から消えてしまったからなのか。とにかく、作品自体は知っているけれど内容を詳しくは知らない、という状況が今の俺だった。
自分が持っている原作の知識を思い出して、整理すると次の通りだった。
主人公の名前は、モンキー・D・ルフィでゴムゴムの実という悪魔の実の能力者。仲間には、剣士のロロノア・ゾロ、狙撃手のウソップ、航海士のナミ、コックのサンジ、船医のチョッパー、考古学者のニコ・ロビンの7名が居る。
覚えていると言えるストーリーの最後は、空島と呼ばれる宙に浮いている島に行ったルフィ海賊団が、ゴッドエネルと呼ばれる雷を操る悪魔の実の能力者を倒したという所までだった。
その後の話について、かなり記憶が曖昧になっている。思い出せる範囲で思い出してみると、確かルフィ海賊団が乗っている海賊船を直すために、造船所が有る島に行ったはず。その他にも、奴隷オークションをしているシャボンディ諸島に行ったり、ゾンビが居る島で戦う話、マリンフォードという島での決戦など、キーワードは記憶にあるけれどストーリーの内容や順番が全然わからない。
原作知識が無くて一瞬落胆したけれど、ポジティブに考えて原作知識なんて知らなくても問題は無いだろうと結論付ける。
今の時点では、無駄に知識が有ったとしても、その知識に影響されてそっちを優先して行動してしまうという可能性もある。それよりもまずは、自分に関係する範囲を優先して考えて、艦娘達や神威鎮守府をしっかりと整えてから、他の事についてはそれから行動していけば良いと思う。
これから神威鎮守府の方針は、大きく2つ。神威鎮守府という拠点を充実させる事と、引き続き情報を集めるという事。
この世界には神威鎮守府以外に他の鎮守府は元から無くて、海軍の仲間や上官、大本営など大日本帝国海軍という組織が、この世界には存在しないという事を理解するのが肝心要。
すなわち、誰も助けてはくれない。自分の身、艦娘達の身は、神威鎮守府に存在する皆の力だけで守る必要が有る。そのためには、神威鎮守府という自分たちだけの拠点を充実させる事が大事である。
まずは、妙高達のお陰で目処がたった補給ルートを確実に繋げることで、資源切れの恐れを無くす。そして、艦娘を建造することに成功した未知の果実、多分これは悪魔の実なのだろうと予測している、ソレを探し出してきて艦娘仲間を建造して、神威鎮守府に艦娘を集結させて戦力を整える事。
そして、自分たちの立ち位置をどう定めるか考える事。
ワンピースの世界では、大きく分類すると海軍と海賊の2つの勢力が争っていたはず。自分たちは、このどちらに属する存在となるべきか。普通ならば、海軍に属するのが正しいのかもしれないけれど、数少ない原作知識によって、俺は海軍側にはあまり良い印象を持っていなかった。そして、この世界には存在しないが大日本帝国海軍に属している艦娘たちなので、他の海軍に所属するのは不味いと思う。かと言って、海賊を名乗ってこの世界の海軍に敵対するつもりも無い。
それとも、どちらにも属さない第三の勢力として立ち上がるのか。
まだ情報が足りなくて判断はできないし、俺たちは今のところ世間に認識されてすらいないから良いだろうと思う。けれど、艦娘を増やしていったら一大勢力として認識されるだろうから、いずれかは決断しないといけない時が来るだろう。そう、心しておかないと。
「とにかく、もっともっと情報が必要かな」
気づくと、窓から太陽の光が入り込んてきていた。どうやら、考え込んでいるうちに朝を迎えてしまったらしい。席から立ち上がり、窓の外を見てみる。すると、日が昇っている様子が海の向こう側、地平線に見えていた。
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