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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第三十話 意外な才能です。

帝国歴484年6月20日――。

 ラインハルトらが、見事新鋭艦を奪還し、イゼルローン要塞にささやかな話題を巻き起こしていたころ、帝都オーディンではアレーナのもとに一人の小さなお客の訪問があったのである。

「わぉ!サビーネじゃん。どうしたの?」

 貴族社会では敬語、礼儀、これをもってステータスとなす。サビーネを出迎えたアレーナの態度と言葉は悉くそれに反するのだが、近頃はサビーネはそれになれてしまったらしく、何も言わない。

「アレーナお姉様、ご無沙汰しております」

 礼儀正しくスカートのすそをつまんで、頭を下げるサビーネに、アレーナは手を振って、

「そんなつまんないことはいいわよ。いちいちやっていたら息が詰まるじゃないの」
「ですが、これも礼儀作法の一つですから――」
「礼儀作法ってのはね、必要な時にやればいいだけのことよ。友人にまでそんなことしてたら、友情に垣ができるわよ」
「・・・・・・・」

 サビーネが浮かない顔をしている。垣という言葉になにやら思い出したらしい。そしてその原因をアレーナはすぐに思い出して、ごめんね、と謝った。

「元気してる?あれから色々と大変だったみたいだけれど?」

 カロリーネ皇女が失脚し、帝都から行方不明になった以後、皇女にお仕えしていた侍女たち全員がノイエ・サンスーシを離れた。こと有力貴族の子女については、本人はともかくその親たちにとっては「偽皇女」に娘をお仕えさせていたことはぬぐいがたい汚点となったのであり、娘たちに冷たい態度をとる貴族家もあったほどとうわさが流れていた。それが本人の意志ではないものだというのに。

 サビーネもまた、実家であるリッテンハイム侯爵家に戻され、そこで以前のような生活を送っていたのであるが、あれいらい両親とはうまくいっていないようなのである。こっそりとアレーナに当てて書かれた手紙にはそう書いてあった。母親はともかく父親が、カロリーネ皇女にお仕えしていた経歴はリッテンハイム侯爵家の汚点になってしまったのだというのだ。

 エリザベートの方は、ブラウンシュヴァイク家の家風か、はたまた当主のブラウンシュヴァイク公の器量の大きさか、それとも情報をシャットアウトしているのか、ともかく父娘が不仲だとか、娘が不遇だとか、そう言った類のうわさは耳にしない。もっともアレーナがサビーネと親しくしているからこそ、そういった情報を耳にできたのかもしれないが。

「何度も言うけれど、あなたのせいじゃないわ。むしろあなたは被害者なのよ。ご両親のことを悪く言うつもりはないけれど、ご両親がそもそもあなたをノイエ・サンスーシに入れたのだから」
「ですけれど、お姉様。私があの時にお父様にカロリーネ皇女殿下のことを話さなければ、こんなことには・・・・」
「それだったら私に原因があるわ。私がついついあなたに余計なことを話してしまったのだから」
「いいえ、お姉様は『人に話すとつまらないうわさがたつわ』とおっしゃっていました。そのいいつけを破ったのは私なのです」

 アレーナは胸が痛んだ。前世ではこんなことはなかったのに。しらっとした態度でいつも切り抜けてきていたのだが、こんな純真な相手に接するとどうしても罪悪感を覚えてしまう。

 この子たちをこんな風にしてしまったのは、私なのだ。だから責任を持たなくては。

 アレーナはそんな風に考えていた。その時ふと別の考えが浮かんできた。

 リップシュタット戦役でリッテンハイム侯爵家は当主が無残な死を遂げているが、その家族はどうなったのだろう。リヒテンラーデ侯爵家の一門は当主の死後女子供は流刑になったことを考えれば、リッテンハイム侯爵家とて同じような運命にあったのかもしれない。あるいはうまく脱出してフェザーンか同盟にでも亡命したか。いずれにしてもその後の消息は不明だという原作から推察すると幸福とは言えない余生を送ったことは間違いない。

 このままではサビーネはそうなってしまう。だとしたら今両親と不和な今彼女をリッテンハイム侯爵家から離すチャンスではないだろうか。このままこうしていても、両親からは冷たくされ続けるのだから。いっそ――。

(そうだ、いっそのことサビーネをチート化させてやろうかしら)

 などと不遜な考えが浮かんだということではない。ただ、目の前の少女が不憫でならなかったのだ。


■ アレーナ・フォン・ランディール
 でも、どうやって?と私の中の声が問いかける。貴族のお嬢様なのよ。まさかOLにするわけにもいかないわよね。まして軍隊などもってのほかじゃないの。体力ないんだから。家で引き取って血縁者として過ごさせる?それともリッテンハイム侯爵家に私の親から話を入れてどこか二人でしばらくひっそりと暮らすように手配する?

 こんな時に脳みそ働かないなんてムカつくわね、といろいろ考えていた時だ、お姉様お姉様、と声が上がった。

「あの機械、なんですの?」

 サビーネが視線を向けた先には私の改造した戦略シミュレーターが鎮座ましましていた。簡単に説明してあげると、サビーネはつつましやかな瞳に興味のきらめきをもって見つめていた。ここのところしょげてばかりの顔を見ていたからかな、少しでもこうやって興味しめしてくれるんならって、

「ねぇ、サビーネ。そんなに興味あるならやってみる?」

 なんて言っちゃった。そうしたら、いいんですの?とサビーネが嬉しそうな声を上げてくれた。いいわよサビーネ。私のせいでこんなことになったんだから、せめてその償いを少しでもさせてちょうだい。
 サビーネを中に座らせて、私がそばでいろいろと教えてあげた。「こっちのフェイズの時にはこんなことができるのよ、相手のターンになったらこっちとおなじことをコンピューターが考えるの、最終的に相手の拠点を制圧するか、艦隊を壊滅させた方が勝ちよ」などなどね。
 そうね、まずはわかりやすい艦隊戦をやってもらおうかな。ん~と、よし、これでいいでしょ。

 私が選んだのは初級。5000隻の艦隊を指揮して相手の艦隊を撃破するやつ。同数同士だから戦術が試される戦いよ。私がやったときは損害100隻に満たないで相手を全滅させたけれどね。

「じゃあ行くわよ、サビーネ」

 私が外で操作すると、シミュレーター円筒は閉まった。モニターを見上げると、そこにはリアルタイムの戦況が表示されているし、中に入っているサビーネの様子も観察できる。

 サビーネはしばらく考えていたようだけれど、すぐに真剣な表情になって艦隊を動かし始めた。ほどなくして先頭同士が接触、砲撃戦が開始される。同程度の艦隊だから損害数は互角・・・って、そこで右翼を下げるか?!サビーネ!!右翼に引きずられて中央も下がっちゃうって!敵がホラ、突入してくるよ。
 え?あ、違う。右翼は後退するのじゃなくて、少しずつ本隊と離れていく。中央はなおも後退、右翼は後退を中止して本隊と一定距離、左翼はそのまま・・・まさか!?

 いつの間にか艦隊は凹陣形まがいになってた。つまり?ってことは!?突入してきた敵艦隊を・・・包囲しているってこと!?

 サビーネ艦隊は瞬く間に敵の主力を袋叩きして、一撃で殲滅していってる。気持ちいいくらいの快勝よね。でも、それにしても、初級とはいえこれほど鮮やかに勝つなんて・・・・。損害数サビーネは839隻、敵は3967隻だから圧倒的に勝利だし。

 サビーネにこんな才能があったなんて・・・・。これは、将来の提督の一人になりそうね。味方になればいいけれど、敵に回った時には・・・・私はこの日を後悔することになるかもしれない。

■ サビーネ・フォン・リッテンハイム

 お姉様がびっくりなさった目で私をご覧になってる。どうしてなのですかとお尋ねしてみると『初級とはいえ、こんな鮮やかな勝ち方、士官学校の候補生だってできないわよ。』なんておっしゃっている。さすがにそれは大げさすぎると思うのだけれど・・・・。それとも本当の事なのかな。
 なんとなく体と頭が勝手に動いたの。よくわからないけれど、この場面じゃそうしなくちゃいけないんだなって、思ってしまったの。なんでだろう?

 そういえば以前お父様に聞いたことがあるの。リッテンハイム侯爵家はルドルフ大帝がご存命だったころ、政治・軍事両面で、特に軍事に置いてとてもご活躍なさったリヒャルト・フォン・リッテンハイム侯が開祖なんだって。

 だったら私にもその血が流れているのかな。でも、戦争は嫌い。私、この目で見たことはないのだけれど、一度だけ見てしまったの。あれは4歳くらいの事だったかな。車で郊外にピクニックに出かけた時に偶然施療院の近くを通ったのだけれど、あの時のことは今でも覚えているわ。軍人さんがたくさん中にいて、血で染まった包帯を巻いていて、ひどい人は手も足もなかったり・・・とても痛そうにして苦しがっていた。お母様は汚いものを見てしまったって表情をして私を覆いかぶさるようにして抱いてくださったのだけれど、私は今でのその時のことを覚えているわ。一瞬だったからこそ、余計目に焼き付いているのかも。

 私は貴族の家に生まれて、ずうっと貴族の間で育ってきていて、だから平民のひとのことを全然よくわかってなくて・・・・。アレーナお姉様やイルーナお姉様に教わる前はそんなこと考えもしなかったって事柄を最近よく考えるの。

 今思うことは、本当に私たちだけがこんな暮らしをしていていいのかなってこと。それをアレーナお姉様に話すと、自分でよく考えてみなさいっておっしゃってくれたわ。おっしゃるだけじゃなくて、資料を渡してくださったりもしたの。もちろん家に持って帰れないから全部お姉様の家で読むだけだったけれど。

 そしてさっきのシミュレーターをやって一つ思ったことがあったの。今からでも遅くないなら、私、女性士官学校にはいってみようかなって思ったの。14歳ならまだ入れるわよね。お父様やお母様ともうまくいってないのだから、話せば入れてくれそうな気がするの。厄介払いの意味で・・・・。私には弟がいるし、お兄様もいるし、私なんかいなくっても・・・・。

 
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