魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic6-A古代遺失物管理部・機動六課~Standby~
前書き
夏風邪に罹ってしんどいです。
ひょっとしたら次話の更新、少し遅れるかもしれません。
次元世界の秩序を管理する司法機関、時空管理局。次元空間内に浮かぶ時空管理局の本部である巨大な艦・本局、そのとある部屋。そこは光源の無い真っ暗な部屋だった。その真っ暗な部屋に空間モニターと言う光源が生まれ、部屋の内装がうっすらだが露わになる。部屋の中心には円卓が置かれ、周りに13の椅子が設けられている。
その内の3脚の椅子にホログラムではなく3つのモニターが展開され、それには人の顔ではなく時空管理局のエンブレムと、ローマ数字のⅠ、Ⅱ、Ⅲが表示されていた。
『時空管理局評議会の代表として、まずは祝いの言葉を贈ろうか』
時空管理局評議会。旧暦の時代に次元世界を平定し、時空管理局設立後にその一線から退いた3人が、その後も次元世界を見守るために作った組織・最高評議会と、彼らが掲げる理念の下に集った10人の管理局員や民間協力者から成る、管理局の運営とはまた違った事柄を決めるための組織で通称、権威の円卓。
『よもや本当にわずか18歳で内務調査部・調査官になろうとは』
『君ほど優秀な管理局員を迎えていられるこの事実、改めて我々は運が良いのだろうな』
エンブレムが表示されているモニターから男声で、ある人物を称える言葉が発せられた。今現在、この部屋に生身の人間が1人だけ居る。身長は180cmほど。銀色に輝く髪は肩に掛かるまでの長さ、瞳はサファイアブルーとルビーレッドの光彩異色。左目にはモノクルを付けている。身に纏っている管理局の制服の色はワインレッドを基調とし、肩部分の色はロイヤルパープルをしている。少々派手な色だが、それが調査官の正式な制服だ。
「祝いの言葉など無用です。デュランゴ議長、トレイル書記、リョーガ評議員。私は貴方たち評議会から調査官になるよう指令を受け、それを成しただけに過ぎません」
『まぁそう言うな、ルシリオン・セインテスト一等空尉。いや、その制服を身に纏っている今は准将と言うべきか・・・?』
『謙遜は美学だが、その歳で調査官になったことには素直に胸を張り、誇るといい』
「・・・呼び名はお好きなように。それで、今回わたしを召集した理由は何なのですか?」
18歳となったルシリオンは調査官になるための研修を無事に終え、試験も突破し、見事最年少で内務調査官となった。おそらくこの記録は今後破られることはないだろう。
『ルシリオン一尉。君に調査官として最初の任務を与えよう』
『この任務を全うした時、君をこの権威の円卓の新たなメンバーとして迎え入れるつもりだ』
『しかし、いかなる理由であっても職務放棄、何かしらの失態を起こした場合は、ある程度のペナルティを覚悟してもらう』
最高評議会3名からそう伝えられたルシリオンは内心で、誰も円卓入りなど望んでいないんだよクソ野郎、と悪態をついていた。彼が文句もなくひたすら権威の円卓に従っているのは、彼が想うチーム海鳴――己の命と同価値としている親友たちの身の安全のためだ。
(ペナルティ、ね・・・。俺の首輪を改めて締め直すつもりか・・・。失敗したらどうせ俺の真実をはやて達にでもバラすとでも言うんだろう・・・?)
ルシリオンが権威の円卓に下る条件として上げたのは6項目。夜天の主・八神はやてと守護騎士ら八神家を罪に問わない事。八神家が“闇の書”の関係者であったという事実を時空管理局・次元世界全てに公表しない事。管理局に入った彼女たちを犯罪者扱いせずに、管理局に務める同士として接する事。
“闇の書”事件の解決に協力してくれたチーム海鳴の人事を円卓の都合がいいように操らない事。彼がテスタメントだという事実を時空管理局・次元世界・関係者全てに漏らさない事。テスタメントとして手に入れたロストロギア・“ジュエルシード”の所持を認める事。
その条件を円卓が守っている限り、ルシリオンに自由はない。その分、チーム海鳴はそれぞれが決めた進路を進むことが出来る、というものだ。
「データを。調査官になりたての私に合った楽な仕事であることを祈るばかりです」
ルシリオンの手元にモニターが展開され、彼が調査官としての初仕事となる任務内容が表示された。彼の眉がピクリと僅かに動き、「機動六課・・・」彼にとって決して他人事ではない部隊名を口にした。
古代遺失物管理部。ロストロギア関連を専門とする部署で、ロストロギアの捜索や関連する事件・事故の対策・対応、保管などと言った任務を主としている。すでに一課から五課までが稼働しているため、六課となる。
『君の家族である八神はやて二等陸佐を課長とする新設部隊。試験運用ということで稼働期間は1年間となっている』
『その期間中、君は常時隊舎に駐在する特務調査官として、職務を全うしてもらうつもりだ』
『調査官としての立場を弁え、しっかりと職務に励んでくれ』
最高評議会からの話を右から左に聞き流しつつデータの閲覧を続けるルシリオンが「っ!?」ある一文を見て目を大きく見開いた。彼の目に映っているのは機動六課の後見人の項目欄。リンディ・ハラオウン総務統括官、クロノ・ハラオウン提督、カリム・グラシア理事官。それは彼が経験した以前の機動六課と同じ。しかし唯一、違う点はあった。
「リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサ・・・!?」
ルシリオンの存在意義である“堕天使エグリゴリ”の救済。その“エグリゴリ”の1機であるリアンシェルトの名前があったのだ。しかも彼女は今、本局の運用部総部長・少将という幹部の1人として、そのうえ権威の円卓とも関わりがある。彼にとってリアンシェルトは正しく目の上のタンコブである。
『リアンシェルトが、君を機動六課の監査役にするよう提案してきたのだ』
(チッ。余計な真似を。完全に嫌がらせだな)
調査官の職務の1つである監査役として機動六課に参加すると、戦力として機動六課に協力することが不可能となる。調査官はあくまで事務仕事一貫。公平・公正を旨とする立場上、出向先の部隊に利となる行動は取れない。たとえ部隊にどれだけの危機が振りかかろうとも、だ。
(端から参加できずとも後で何かと理由を付けて戦力として協力しようと考えていたが、調査官として参加したら最後、解散するその時まで戦闘行為が一切取れない・・・! 俺がプライソンと衝突するのを妨害するつもりか・・・? リアンシェルトの狙いはなんだ・・・!?)
ギリッと奥歯を噛みしめるルシリオン。しかし「ルシリオン・セインテスト一等空尉、確かに拝命いたしました」リアンシェルトが裏で手を引いている任務を受けることを承諾した。その理由は2つ。1つは、彼の知られたくない秘密をチーム海鳴に知らされたくないため。そしてもう1つは、自分の戦力を頼りにしなくともチーム海鳴はきっと事件を乗り越えたれる、そう信じたから。
(ま、レーゼフェアが出て来たらさすがにルールを破ることになるがな・・・)
こうしてルシリオンは、ただ事件の経緯を見ている事しか出来ないという不自由な中、機動六課と運命を共にすることとなった。
†††Sideルシリオン†††
特務調査官として、来月4月から稼働する機動六課に出向することになったことを部隊長となるはやてに伝えるため、ミッドへ降りるために次元港へ向かうことにした。通信で済ませば良いようなものだが、仮にもはやての夢である部隊へ参加するというものだし、直接顔を合わせて伝える方が喜んでもらえそうだ。
はやてがどんなリアクションをするか考えながら歩いて、すれ違いざまの局員たちからの「お疲れ様です!」に、「お疲れ様です」と応じつつ廊下を進む中・・・
「すげぇ、調査官の制服着てる人と初めて会えたぜ・・・」
「ほら、最年少で、しかも試験を1発合格したっていう・・・」
「ルシリオン・セインテスト一尉だよ」
「あの有名なチーム海鳴の1人だったって人だろ昔?」
「魔導師ランクも空戦SSって・・・。エリート街道まっしぐら過ぎだろ」
エントランスに辿り着くまでにそう言った類のヒソヒソ話が耳に入ってきた。調査官は本局に8人、5つの支局に2人ずつで10人、計18人と言った少人数しか居ない所為だろう。誰も好きこのんで査察官・監査官・監察官全ての職務を一手にこなさなければならないクソ忙しく面倒な調査官にはなりたくないから、その人数が少ない・・・と、最近知った。
「あ、マイスター❤」
アイリとの待ち合わせ場所だったメインエントランス近くの待合ロビーに着くと、アイリを捜すまでもなく声を掛けられた。そちらに目を向けると、中学生2年生くらいにまで体を大きく出来るようになったアイリが満面の笑顔を浮かべて大きく手を振っていた。
「お待たせ、アイリ」
「ぜ~んぜん待ってない♪」
「そうか。・・・アイリ、俺もミッドに降りる理由が出来たから一緒に行こうな」
「ホントに!? やったね♪」
権威の円卓の呼び出しがなければ、ひとりミッドへ降りる予定のアイリを次元港まで送った後、俺は自宅の局員寮であるマンションに帰るつもりだったんだがな。とにかく予定変更だ。ここ時空管理局・本局の各部署のオフィスが収まった超巨大な局舎から出て、駐車場へと歩を進める。
「マイスターと一緒~、一緒~♪」
ご機嫌なアイリの鼻歌を微笑ましく聴きながら、駐車場の一画である大型バイク専用の駐輪場に到着。はやて達が中学を卒業してミッドチルダに引っ越して来たのを契機に購入した俺の愛車。バイクと言うよりはリバーストライクだな。商品名は“マクティーラ”。狼という意味だ。
「一緒って。毎日一緒だろうに」
ポケットからリモコンを取り出し、イグニッションスイッチを押してリモート操作でエンジンを掛ける。ほとんどの始動手順をオートで済ませてくれるから、魔法技術で造られたバイクは本当に楽だ。まぁその面倒な手順をやってこそのバイク乗りだというのは俺も思うが、残念ながら管理世界で販売されているバイクは揃ってこのフルオートモデルだ。
「(地球から持ち込むことも法律で出来ないしな・・・)よし、チケットの手配も完了っと。あとは出発時刻までに次元港に行けば良いだけだ」
全長は約2900mm。リアタイヤは幅50cm、高さ1mの1輪。車輪とフレームを繋いでいるスイングアーム上部の左右にマフラーが2本ずつの計4本。フロントタイヤは軽自動車並のサイズの2輪で、ピッタリくっ付いていることもあって1輪にも見える。タンデムシートだから2人乗りは可能だが、サイドカーも一緒に購入した。買い物時には重宝する。魔法技術で屋根も付くから買った物が濡れる心配も無し。
「ほら、アイリ。ヘルメット」
シートを開けてヘルメットを取り出してアイリに差し出すと、「ん♪」長い髪を纏めたうえで受け取り、ヘルメットを被った。俺もヘルメットを被る。この時のために俺は長髪をやめた。いちいち乗る際に纏めるのはすごい面倒だからな。
「ゴー、ゴー♪」
俺とアイリはバイクに跨り、俺の背中に抱き付いて腹にまで両腕を回すアイリに「しっかり掴まっていろよ」そう注意してから発進、次元港へ向かって出発する。
「アイリ。確か今日、機動六課の隊舎に荷物などの搬入作業があるって話だったな」
「うん、そうだよ。はやても隊舎の視察だって話だしね。それに、アイリだって六課のロングアーチスタッフとして参加することになってるし、今日はシャマルに付いて視察なの♪」
先ほど最高評議会のクソジジイ共から貰った機動六課のスタッフリストの中に、聞いていた通りアイリの名前もあった。部隊内での役職は医務官。アイリは対“エグリゴリ”で傷つくことの多い俺のためにシャマルを師事して治癒魔法を学び、医務官の資格も取ってくれた。
ちなみにアリシアもロングアーチ所属の法務担当補佐を務めるようだ。つまりはいつも通りのフェイトの副官となる。スターズ・ライトニングの前線部隊ではなく後衛部隊のロングアーチとして参加することで、魔導師ランクの保有制限を緩くしているようだ。
「マイスターやシャル、それにアリサとすずかは、残念ながら不参加だよね。シャルは聖王教会の仕事でしばらく管理局仕事は休職。アリサは陸士108部隊の捜査官。すずかは第4技術部の主任補佐。それぞれの立場で頑張るって、そう言ってたよね・・・。マイスターも魔導師ランクが高すぎて無理だって言うし。アイリ、それがいっちばんの不満なの」
アイリの言うようにシャルとアリサとすずかは不参加となった。以前オレがはやてやなのは、フェイトに言ったように、チーム海鳴のメンバーは全員優秀すぎる魔導師で、どうやっても全員が同じ部隊にはなれない。唯一の例外として特務隊が挙がるが、事案が発生していない現在、どうやってもオールキャストの部隊は造れない。
「その事についてなんだが、俺も機動六課に出向することになった」
「え、うそっ! ひゃっはー! やったぁ~!」
「ちょっ、おい、暴れるな!」
フラフラと車体がふらつく。一応、一般に販売されている車輌には転倒を防止するための非常用オートジャイロやタイヤ空転の制御機能、衝突時の防護フィールド発生装置と言った機能の搭載が義務付けられているおかげで倒れることはないが、危険運転に適用されるかもしれない。
「マイスターと一緒に仕事が出来るんだね! はやて達も喜ぶよ!」
アイリが喜びを表すが、調査官として仕事となるとそんな嬉しいものじゃないんだよ。お互いにな。同じ部隊に居られることが嬉しいって思われるのは悪い気分じゃないが、職務期間中の俺は今まで以上に彼女たちに冷たく接しないといけない。海鳴市を離れてから同じような事をしてきたが、それは直接顔を合わせないから出来たこと。毎日一緒となると精神的にキツイ。
(リアンシェルトめ。これが俺への精神攻撃だとしたら効果抜群だよ、まったく・・・)
「お? メールだ」
後ろに座るアイリがそう言ったのが聞こえ、俺の腹から右手が離れたかと思えばその直後、「は・・・?」腹にリングバインドが掛けられた。すぐに「アイリ、何してる!?」問い質すと、「メール確認するから片手離れちゃうでしょ? だから落ちないようにね♪」アイリがそう答えた。バイクから落ちないようにリングバインドで俺とアイリの体を括りつけた、というわけだ。
「メールの確認くらい次元港に着いてからでもいいだろうに・・・!」
「緊急メールだったら大変でしょ・・・って、あ、キャロからのメール! マイスター! キャロからだよ!」
「聴こえている!」
俺の口添えでフェイトに引き取られたキャロは、先の次元世界と同じように自然保護隊へ配属となった。それから幾度か彼女からメールが届くようになった。アイリやフェイトにアリシア、それと自然保護隊員の人たちのおかげで今ではもうちゃんと笑えるようになっている。
「これからミッドへ向けて任務先の第61管理世界を発つんだって。アイリと再会できることが楽しみだって♪ ・・・マイスターが六課に参加するって話はまだはやて達に伝わってないから、マイスターの名前ないけど・・・」
「変に気遣うなよ」
「うん。でもさ、マイスター。あのキャロが今では陸士隊に入りたいって志願するほど強くなったんだよ。あの子が塞ぎ込んでた頃を知ってるアイリ達としてはビックリだよね・・・?」
「そうだな。これでライトニング分隊のメンバーはみんなミッド入りだな。スターズはどうなんだ?」
スタッフリストのスターズ分隊のメンバーには2人空きがあった。スバルとティアナだ。確かあの2人は陸士訓練校を首席で卒業し、今は陸士386部隊の災害担当課に配属されているはずだ。あの子たちが六課にスカウトされるのは再来週のBランク昇級試験の後。名前が挙がってなくて当然の話か。
(しかし・・・ティーダ・ランスターの死は結局変えられなかったな・・・)
ティアナの兄・ティーダの死は回避できたと思っていた。彼が亡くなったのは新暦69年。彼が亡くなった原因である違法魔導師は、パラディース・ヴェヒターのランサーとして活動していた頃に魔導師として再起不能にしてやった。それに没年も過ぎたことで油断したところで、4年前の71年に殉職を伝えるニュースを観た。
(先の次元世界のように、ティーダの死を愚弄する地上本部の幹部が居たことには呆れしか湧かなかったな・・・)
ティアナがまた無茶をしそうで恐いよ、ホント。
「スターズの分隊長なのはと、副隊長のヴィータが今日、フォワード候補の所属先の陸士386部隊に行くって話だよ。何人か候補が居たようだけど、今の候補をスカウトするみたいだね」
「そうか。無事に決まるといいな」
「だね」
次元港に到着し、アイリを降ろして先に搭乗手続きをしておくように言って、俺はひとり貨物ターミナルへ。愛車・“マクティーラ”をコンテナに詰めて次元航行船の貨物室に搬入してもらうためだ。貨物ターミナルの受付カウンターで手続きを済ませ、急いで船の旅客ターミナルへダッシュ。貨物ターミナルと旅客ターミナルを繋ぐバスが通っているが、来るのを待つより走った方が速い。
「マイスター!」
「おう、アイリ。すぐ手続き済ませるからな」
受付カウンターで搭乗手続きを済ませ、アイリと一緒に船内へ。指定席なんだが、以前から予約していたアイリと、つい先ほど予約した俺の席は離れることになった。アイリは「席代わってもらおうよ」なんて言い出すが、「たった数時間の旅だ。頑張れ」離れているのは2時間程度、ここは耐えてもらうしかない。
「は~い」
機内でアイリと一旦別れ、自分の席に着く。ミッドに着くまで音楽でも聴こうかとしたら『マイスター、お話ししようよ♪』アイリからの念話で出来なくなった。結局ミッド中央区の次元港に到着するまでアイリと念話でだが話し続けた。
次元港に到着した後は貨物ターミナルの受付カウンターで“マクティーラ”を受け取り、機動六課の隊舎がある中央区・南湾岸地区、正確には南駐屯地内A73区画へと向けて愛車を走らせる。
「マイスター、いっぱい写真を撮られたね~♪」
「こんな色の局制服なんてまずお目に掛かれないからな。管理局にたった18人しか居ないのに、調査官の制服が管理世界に周知されていることに驚きだよ」
まぁ管理局の公式ホームページに、制服の色によってどの部署に所属しているのか、どの役職なのかが記載されているからなんだが。さらには民間には局員個人のファンクラブが存在する。俺たちチーム海鳴全員にも非公式ながらファンクラブが存在していて、俺のファンクラブもあるわけだ。俺が調査官になったことも、公式ホームページに公表されているようだ。ファンです、って握手も求められたからな。
「お、見えてきたな」
「マイスター、まずいよ。遅刻っぽい」
「なに? あー・・・遅刻したのはわざとじゃないから、怒られたら俺も一緒に謝るよ」
「おねが~い」
渋滞に何度か引っ掛かりながらもようやく機動六課の隊舎が見えてきた。隊舎は中央区の郊外である南湾岸地区にあるため、「潮風が気持ち良いな」すぐ目の前が海だ。アイリが「海鳴市に似てるよね、雰囲気が」そう言って笑い声を上げた。先の次元世界でも同じ気持ちだったよ。
「搬入作業はまだ続いているな」
「おーい! はやてー! シャマルー!」
隊舎のエントランス前に居たはやてとシャマルの側まで行く。俺たちの接近に気付いた2人が「ルシル君!?」驚きを見せた。2人の前で“マクティーラ”を停めて降りる。
「どうしたんルシル君!? 今日ここへはアイリしか来ぉへんはずやったやろ?」
驚きから喜色満面の表情を浮かべるはやてと、そしてやっぱりと言うか「8分遅刻よ、アイリちゃん」視察に遅刻したアイリを注意するシャマル。
「だってここ郊外過ぎるよ~」
「ああ、ちょっとな。シャマル。アイリが遅刻したのは俺の責任でもある。許してあげてくれ。ここに来るまでに渋滞に引っ掛かってな。すまなかった」
「ごめんなさい」
アイリと一緒にはやてとシャマルに頭を下げると、「渋滞なら、しょうがないわよね・・・」シャマルは右手を頬に添えて渋々許してくれたんだが、「そうゆう時はどうするべきやったかな?」はやては腕を組んでアイリにそう訊いた。
「あぅ・・・。連絡です」
「そうや。報告・連絡・相談、ほうれんそうを大事にする。そうゆう決まりやったよな」
「うん。連絡しなくてごめんなさい」
「ん。アイリも六課の一員や。後輩も出来るし、甘えは許されへんよ」
「うん。じゃない。はいっ!」
ビシッと敬礼をしたアイリに「うん。決まってるよ」はやても敬礼を返した。アイリの遅刻への処分はこれで終わりとなり、「そんで、ルシル君はどうしてここに・・・?」俺が機動六課の隊舎に姿を見せた話に戻った。
「はやて、コレを・・・」
俺たちの間にモニターを展開し、俺が機動六課の隊舎に常駐する特務調査官として出向するよう辞令を受けたことを証明する書類を表示する。すると「え、ホンマに!?」はやてと、「ルシル君も一緒になるのね!」シャマルは、俺の参加に驚きと喜びを表してくれた。
「ああ、1年間よろしく頼むよ。で、だ。調査官として、俺の立場はこうなるんだが・・・」
はやて達にモニターに見せながら説明する。調査官は査察・監察・監査の職務のみを全うすること。出向先の部隊に戦力が必要になろうとも協力の要請を受けず、要請もしないこと。出向先の部隊に親しい者が居ようとも調査官としての立場を示すこと。などなど・・・。
「え~っと、つまりは万が一にも六課に新たに戦力が必要になっても、ルシル君の手は借りられんってことやね」
「ですけどそれは心配無用ですよ。はやてちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃんが3隊長ですし、シグナムとヴィータちゃんも居ます。シャルちゃんとアリサちゃんとすずかちゃんが居ないのは残念ですけど、それでも十分過ぎる戦力だと思いますから」
「そうやね。で、調査官としての立場を示すってゆうんは・・・?」
はやてが小首を傾げたから、「はやて」俺は微笑みながら彼女の名前を呼んだ。するとはやては「ちょう照れるわ、ルシル君」と目を逸らした。次に「八神部隊長」赤の他人に挨拶するように心がけて、無心の表情をつくって名前と役職を口にする。
「・・・なんや表情や声色も相まって胸にズキッて来るもんやね・・・」
「これが調査官の立場だよ。調査官としての職務中は、出向先に親しい人が居ようとも私情を持ち込めないんだ。だから俺は職務中、八神部隊長、シャマル医務官、アイリ医務官と呼ぶことになる」
「え~! なんか嫌だ~!」
「あぁ、そうなんやね・・・。あんまり気分良うないけど、それがルシル君の仕事や。受け入れるわ」
「なんか余計にルシル君が遠くなりましたね・・・」
はやてとシャマルとアイリが「はぁぁ~~~~」大きく長い溜息を吐いた。そんなにガックリすることなんだな。
「それでなんだがはやて。俺専用の執務室が欲しいんだ。本当に今さらだと思うけど・・・その、用意してくれないでしょうか? お願いします」
稼働まで1ヵ月を切り、物資搬入を今まさに行っている状況下というところでいきなり、自分専用の部屋を用意しろ、なんて命令できるほど俺は偉くない。だから敬語で、頭を下げて頼みこむ。というか、機動六課の特務調査官にするならもっと前からにしろ、とリアンシェルトに対して心の内で文句を垂れる。
「え? 他の隊員たちと同じオフィス内じゃアカンの?」
「いや仮にも調査官なので、隊員たちに見られるとまずい書類などもあると思うので、出来れば個別の部屋が欲しいと思う次第で・・・」
そこまで言うと、はやても「そうやな~」考え始めてくれた。そしてシャマルと部屋の空きがないかを相談。それを黙って眺めていると、はやてが小さく首を横に振った。あ、ダメだコレ、と察した。
「寮の方は1部屋空いてるからそこで寝泊りしてもらうけど、残念ながら隊舎に空き部屋は無いんよ」
「でもさすがに寮で仕事するのは効率が悪いでしょう? ルシル君」
「う~ん・・・」
「とゆうわけで、ルシル君の執務デスクは私の執務室である部隊長室に設置しようと思います♪」
「はやてちゃんのお部屋はとても広いですから、1人分のデスクを置いてもまだ余裕はあるわよ」
はやてとシャマルからの提案に「あー・・・」俺が渋るから、「なんか都合が悪いんか・・・?」はやての表情が僅かに曇った。シャマルも「はやてちゃんと一緒じゃダメなの?」なんて訊いてくる。
「これは完全に俺個人の感情の問題なんだけどさ。調査官として私情を持ち込めない状態で常に八神部隊長などと堅苦しい呼び方をしないといけないし、態度も冷めたものに改めることになる。そんな中ではやての個室で、君と一緒に居る時間が多くなると・・・」
そこで一度区切って俯く。そして「いつか我慢できなくなってしまい、はやてって呼んでしまうぞぉ~!」ガォーポーズでそう伝えると、「きゃー♪ はやて、って呼ばれてまう~♪」はやてもノリに乗ってくれて、頭を抱えて可愛い声を上げた。なんかもう・・・馬鹿になってきたな、俺・・・。いっそぶっ壊れた方が楽になるかもしれない。
「あらあら・・・。って、えっと、ルシル君・・・。それが理由なの?」
最初は俺とはやてのやり取りを微笑ましく見守ってたシャマルだったが、少し戸惑った声色でそう訊いてきた。
「別に誰かに監視されてるわけじゃないんだし、アイリ達の呼び名っていつも通りで良いんじゃない?」
「それはそうなんだが、やはり調査官としての責務を果たさないといけないと思うんだ」
普段通りにはやて達と接していることが万が一評議会に知られでもしたら、即座にペナルティが課せられるかもしれない。所詮は推測でしかないが、少しでもその危険性がある以上は、俺は奴らの指示に従って手足で居るしかない。
「う~ん。そやけどもうホンマに空き部屋はないんよ」
「ルシル君。申し訳ないけどやっぱりはやてちゃんの部隊長室にしかデスクは置けないわ。それがダメなら他のオフィスに席を用意するしかないの」
「もうはやてと同じ部屋で良いんじゃないかな・・・?」
はやて達にそう言われ、やっぱり都合の良いことを並べてるなと猛反省した俺は、「お世話になります」はやて達の提案を受け入れることにした。こうして部隊長室に俺専用のデスクを設けてもらうことになった。
「ん、決まりやな」
「ルシル君。デスクの形状とか機能とかのリクエストある? 今リインちゃんの体格に合うようなデスクを探しているから、ついでに探すわよ?」
「あぁ、他の隊員たちが使うような物で構わないよ。はやて達から回されてくる部隊運営の書類を確認・調査するだけだから」
「判ったわ。追加物品リストに入れておくわね。アイリちゃん。医務室の搬入作業も後で行うから手伝って」
「ヤー! うおー! いよいよって思ったらなんか燃えて来た!」
「ま、何はともあれルシル君が私らの部隊を見守ってくれることになったわけやな。恥ずかしい様は見せられへん。しっかり気張らんとな!」
「ええ、そうですね!」
「んっ!」
はやて達が隊舎に振り向くのに倣って俺も隊舎に見上げる。今は信じよう。JS事件とはまた違う事件が起きようとも、俺が力を貸さなくたってはやて達は乗り越えられるってことを。
後書き
グ・モロン。グ・デイ。グ・アフドン。
ようやく、ようやく機動六課稼働まで来ることが出来ました。いよいよANSURシリーズの完結編である本作も折り返し地点。このエピソードⅣはエピソード0のベルカ編と同じくらい戦闘が多くなるので、案外サクサクっと終わるかも知れません。前作でSTS編をやっちゃってるので、話がダブる部分はカットしていくかも・・・?
ちなみにですが、ルシルのバイク(トライク)のデザインは、前部がFFⅦ ACCのフェンリル、後部・・・というよりはリアタイヤとスイングアームのみがブラックロックシューターのブラックトライク、マフラーはフェンリルと言った感じです。色はやはり黒一色です。
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