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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic5先駆者と悩める少女~Dragon Tamer~

とある少女について話そう。生まれは第6管理世界ユージラスはアルザス地方。その地方の少数民族である“ル・ルシエ”の出である。彼女は僅か6歳という幼さながらも、白銀の竜を使役、黒き火竜の加護を受ける、という強大な才に恵まれていた。しかしそれゆえに、少女は部族から追放という処分を受けることとなってしまった。その理由としては・・・

――強過ぎる力は災いと争いしか呼ばぬ――

というものだ。少女の才は恐れられ、また疎まれ、結果部族の平穏のためにという名目の下、6歳という少女を里から追放し当てのない独り旅に出したのだ。少女は幼く小さな飛竜を連れとして里を出、アルザス地方の過酷な環境の中をひたすら歩き続けた。1ヵ月ほどのち、隣のオーラン地方に到着したところで時空管理局の施設に保護され、その後本局の保護施設へと移された。
そして、竜使役というあまりにも珍しく強力なスキルを持つ少女を、管理局は局員として招き入れることを決定。アルザスの竜は次元世界でも有名で、その圧倒的な火力を次元世界の秩序安定に使いたかったのだ。しかしそこには誤算があった。

――竜召喚は確かに凄まじい威力を誇る。だが少女は碌に制御が出来ない――

――召喚された竜は少女に降りかかる危機を振り払うために半ば暴走状態で、手がつけられない――

――まともな部隊に所属させるにはあまりにも危険。戦場に単独で突撃させての殲滅戦を行わせるしか有用な利用方法はない――

管理局が下した判断がそれだった。しかし当たり前過ぎた話だ。少女はまだ6歳。教育も訓練も碌に受けていないのだ。才能だけで全てが上手く行くわけもない。こればかりは少女の責任ではなく、少女の竜召喚について調査をちゃんとしなかった管理局側の怠慢が、その全てだ。
管理局はそんな少女と竜の力を持て余した。少女は厄介者として追い払われるかのように各部隊を転々と異動させられる。当然少女の顔から明るい表情は失われていった。次第に少女は心すら閉じ始め、こう考えるようになってしまっていた。

――あたしの前にはいつも、あたしが居ちゃいけない場所しかなくて、あたしがしちゃいけない事があるだけ――

自分の居場所はどこに行っても無く、頼れる人も側に居らず、孤独のままに少女の時は流れた。そして今、少女はとある場所へ向かって小さな飛竜1匹を伴い本局内の廊下を歩いていた。少女に言い渡された新たな臨時の所属先は特務三課。
特務とは、臨時任務の為に編成される部隊に付けられるもので、正式には特務機動隊となる。任務内容は様々だが特に多いのは、脅威対策室からの指令で編成される大規模テロや小規模戦乱の鎮圧など、正しく戦場に立つ戦闘特化任務だ。

「特務隊・・・」

少女がポツリと漏らす。特務機動隊は任務内容に関わらずメンバーにはエリートが選抜される。そんなところに自分が呼ばれたことに疑心を抱いていた。しかし1つだけ理解していることもあった。少女の元に届いた辞令に記された任務内容は、とある管理世界での内戦を鎮圧するというものだった。つまり相手を制圧する戦力が必要になる。なら自分が呼ばれた理由は1つ、竜使役による戦力を充てにされている、と。

「キュクルー・・・」

「フリード・・・。ありがとう、心配してくれて」

少女の側を飛んでいた飛竜・フリードリヒ――愛称フリードが不安げな鳴き声を上げて、彼女の頬に頬擦りした。少女は気遣われていると判り、そっとフリードの頭を撫でた。そんな少女とフリードが目的地に近付くにつれ、少女と同じ方へ向かって歩いている緊張した面持ちの局員たちの姿が多くなってきていた。

(見られてる・・・)

若くても20代後半からの男性局員ばかりの廊下に10歳にも満たない少女、さらに飛竜を連れているということで自然と周囲の視線が少女たちに集まる。しかも少女をチラチラと見ながらヒソヒソと小声で何かを話している。
いよいよ居心地が悪くなってきたところで、少女たちの目的地である本局艦船ドック・第8待合室に到着した。待合室と呼称ながらもある種の会議室のように長机が幾つも2列縦隊で並んでいる。続々と好きな席に座っていく男性局員たちに続く少女は、一番後ろの隅っこの席に着いた。

「あ~あ~。なんでこうなるかな~」

少女が俯いて机の表面をぼんやりと眺めているところに、少女とは別の幼い女声での愚痴が待合室に響いた。少女もその声に反応して顔を上げ、入口の方へと目を向けた。

「まぁこれも仕事だ。みんなとの買い物(やくそく)はまた今度な」

「ちぇー」

そこには真っ白な長髪、水色の瞳をした少女と、銀色の長髪、蒼と紅の瞳をした青年が居り、白髪の少女は何やらご立腹の様子で、青年はそんな彼女を宥め続けている。その2人に続いて「ほらほら、入った入った」もう1人、ローズピンクの長いポニーテール、エメラルドグリーンの瞳をした少女が入って来た。待合室がざわざわと騒然となる。

「空戦SSランクのルシリオン・セインテスト一等空尉・・・」

「それにパラディンでもあるアルテルミナス・マルスヴァローグ二尉・・・」

「リンドヴルムを潰した部隊の内の2人じゃないか・・・!」

「今回の任務、終わったも同然だろこれ」

管理局の中でもトップクラスの実力者とされる内の2人、ルシリオンとアルテルミナスが部隊に呼ばれたと知った他の局員たちは勝利を確信した。しかし少女は管理局に保護されてから間もないため、彼らの異常性を知らないこともあってただ「綺麗な人たち・・・」という感想しか出なかった。

「え~っと、おっ、 向こうの席が空いてるね」

「え・・・?」

アイリがルシリオンの手を取って少女の座る奥の席へと向かって来た。アルテルミナスもまた「じゃあ私も」2人に続いて少女の近くへとやって来た。

「こんにちは。隣の席、良いかな?」

ルシリオンが少女へ向けて声を掛けると、「え、あの・・・」少女は返答を言い淀んだ。すると「こんな可愛い小さな子を怯えさせるなんてサイテー」アルテルミナスがルシリオンの肩を引っ掴んで少女の前から退かした。

「ルミナ、君もいよいよ俺に対する言動がシャルっぽくなってきたな。可哀想に。彼女の馬鹿っぽさに感染してしまって・・・。気をしっかり持って、強く生きるんだぞ?」

「やめて、そんな憐れむような目で見るの。君は前の席でアイリと一緒に座って。彼女の隣は私が座るから。それはいいかな? あ、ダメだったら断って良いから」

改めて隣の席に座って良いかを少女に訊ねたアルテルミナス。少女が小さな声で「はい。どうぞ」頷くと、「ありがとう」アルテルミナスは少女の隣の席に座り、そしてルシリオンとアイリは1つ前の席に着いた。

「私は本局・特別技能捜査課のアルテルミナス・マルスヴァローグ二等空尉。よろしく。そして前に座っているのが、内務調査部と特別技能捜査部を兼任してるルシリオン・セインテスト一等空尉。で、同じ特別技能捜査課のアイリ・セインテスト一等空士」

「よろしくな」

「よろしくね~♪」

「あの・・・あたしは・・・」

少女は少し戸惑いつつも、自己紹介を受けたことで懸命に自分も名乗り返そうと頑張る。これまで大人ばかりの世界で、飛竜フリードのみと頑張ってきた少女。直接声に出して言われずとも自分は厄介者だとされてきた数ヵ月。部隊に転属した当初は仲間として受け入れられてはいたが、フリードの暴走が原因で少しずつ少女の周りから人は居なくなり、幾度と孤立し続けていた。

「あたしは・・・」

自己紹介をしようとするとその光景がフラッシュバックし、少女の口を自然と閉ざしてしまう。どれだけ仲良くなろうとしても、最終的には離れて行ってしまう。目の前に居るルシリオン達もまた、自分の周りから居なくなってしまうのではないかと恐れてしまうのだ。

「キュクルー」

再び萎縮し始めていた少女にフリードが一鳴きした。少女はその使役の才からフリードを始めとした鳥獣系の動物とある程度だが意志の疎通が出来る。それ故にフリードが鳴いた意味を少女は察した。大丈夫、と。少女はグッと腹に力を入れ、急かすこともせずに優しい表情で彼女の言葉を待つルシリオン達をしっかりと見た。

「あたし・・・は、キャロ・・・、キャロ・ル・ルシエ、です・・・! よ、よろしく・・・お願い、します・・・!」

そしてたどたどしいながらも少女――キャロは自己紹介をやりきった。キャロからの精一杯な挨拶に「よろしく♪」ルシリオン達は笑顔で応えた。

†††Sideルシリオン†††

脅威対策室の指令の下に特務機動隊(エクストラフォース)が設立され、俺とアルテルミナス――ルミナが特務三課の隊員に選ばれた。任務内容は、第51管理世界ワイエルバキアで発生している内戦、正確にはクーデターを鎮圧するというものだ。当初は通常の武装隊などで問題なかったようだが、クーデター軍が質量兵器を持ち出したことで戦況は一気に不利に回った、とのことだ。

(戦闘特化と判ってアイリを連れて来たのはまぁまぁ正解だったな・・・)

岩影に隠れて手の平サイズの望遠鏡で覗き見るは、街を丸々1つを覆う城壁。その周辺には、装甲列車が城壁に沿うように何百両と連なり、搭載している砲門を外へと向けている。城壁の上には空から攻撃に備えるための砲台がずらりと並んでいる。さらに城壁に開いている見張り窓には銃火器で武装した男共の姿もある。なんの策も無く接近すると蜂の巣にされそうだ。

「連中の目的、なんだったっけ?」

「管理世界指定からの脱退らしい。元々この世界は軍事に優れていて、今クーデターを起こしている連中は軍事世界を造りたかったようなんだが、それを危惧した政府が管理局と交渉して管理世界入りを果たした」

「あぁ、それが気に入らないのか。馬鹿ねぇ」

「まったくだ」

特務三課の課長である部隊長から俺とルミナは兵器無力化チームのメンバーとして選ばれ、今こうして部隊を代表して敵が根城にしている要塞を眺めている。

「というかさぁ。いくら竜使役が出来るからってこんな幼い子を戦場に駆り出すなんて、バッッッッッッカじゃないの!?」

俺たち特務三課の本部であるL級次元航行艦・ビアンカ(今は衛星軌道上にて停泊中)に向かって罵声を浴びせ掛けたルミナ。彼女の手はメンバーの1人である少女、キャロの肩の上に置かれていた。

(くそっ。まさかこんな形でキャロと会うなんて予想外すぎるぞ)

ここワイエルバキアに向かっている最中、アイリとルミナはキャロと打ち解けようと煩わしく感じられないよう細心の注意を払いながらコミュニケーションを取り、少しずつ警戒を解いてくれていった彼女も俺たちに身の上話を話してくれた。

(内容は先の次元世界と大体同じだったが、特務隊に選抜されるなんてことはなかった・・・!)

キャロがこれまで受けてきた扱いに、ルミナは管理局に対して怒り心頭。局員としてではなく聖王教会・教会騎士団として、管理局に抗議するとか言い出したからさぁ大変。局内には聖王教会を良く思わない派閥もある。そこと衝突すると絶対に碌なことにはならない。だから俺は、キャロをしっかりとした保護責任者に預けよう、そう提案した。

――保護責任者ぁ~?・・・あ、あぁ、そっか、うん、なるほど。適任者が近くに居たね。いいよ、あの子のことは任せる――

ルミナはその提案を受けてくれた。誰を保護責任者にするかは言わずもがな。フェイトならきっと先の次元世界と同じようにキャロを大事にしてくれるはずだ。とまぁ、そんな風に俺たちが厄介者とされるキャロと一緒に居ることが部隊長が知り、どうせなら4人纏めて1つの班として最前線に立ってくれないか、と提案という名目で命令を下してきたのである。

「まぁ私たちとキャロを同じチームにしたことで1割だけ許してあげる」

「だね。キャロを他の局員たちに側には置いておきたくないもんね。キャロもぉ、アイリ達と一緒の方が気が楽だもんね~?」

「あ、あの・・・はい」

「キュクルー!」

アイリは珍しく本来の姿である30cmほどの大きさにまで戻って、フリードが乗るキャロの右肩とは反対の左肩に座っている。キャロもそれで良いと言ってくれたし、何よりアイリの小ささが可愛いとキャロもお気に入りの様子だ。フェイトに引き取られてからもしばらくは怯えて笑顔を見せなかったが、今回はアイリやルミナのおかげで結構早く打ち解けそうだ。

「さてと。武装したレールウェイ、砲台、武装した男たち。レールウェイと砲台に関してはキツ目のAMFがあるらしいし。どう攻略していこうか」

「少し待ってくれ。ここに来るまでに装甲列車(アレ)の映像記録を見せられて、パッと閃いた。どこかで見たことがあるってね」

俺は前方にモニターを展開した。ルミナが「どれどれ」モニターに顔を近付け、「キャロ。モニターに近付いて」アイリがキャロの頬をペチペチ優しく叩き、「あ、はい」指示に従ってキャロもモニター前にやって来た。

「何かの見取り図、それに設計図・・・?・・・ん? あれ、これってもしかして・・・!」

「あのレールウェイのものですか? ルシル一尉」

「ああ。TORAD/AT-X01――The tactics order Railway artillery defense/Arming train・・・、戦術級列車砲防衛用装甲列車・試作1号機。コードネーム、ケンタウロス」

「どうしたのコレ!?」

「以前、首都防衛隊と共にプライソンのアジトに潜入捜査した際に奴のデータベースからパクってきた」

「っ! そう、騎士ゼストの・・・。いやいや、ちょっと待って。まさか、この1件にはプライソンが関わってるの!?」

「関わってはいるだろうが、クーデターにはノータッチだろうな。あくまで兵器を提供している武器ブローカーという立場だろう」

「ブローカー。・・・あー、そうか。あくまで、自分が造った兵器を実戦に投入して試験運用させることが目的か。試作型っていうことだし、完成型に必要なデータを見返りとして、自分の兵器を与えたわけだ」

「まぁ大体そんなところだろうな」

プライソンが戦争を起こせるだけの兵器を開発をしている。兵器の設計図などを証拠として上層部に公開しようかと思ったが、プライソンが最高評議会によって生み出されたとなると奴はかつてのジェイルのように上層部と繋がりがある。もみ消されるかもしれないと判断した俺は適当な報告書をでっち上げ、本当に信頼できる上司であるリンディさんやレティ提督、あとクロノにも伝え、そしてはやて達にも話が行っている。

「装甲列車は攻撃用・防御用・弾薬保管用・転送室などといった専門車両を何十両と繋げた陸戦兵器のようだ。PAGG――Physical aggressive Gatling gun、物理ガトリングガン。コードネームはグリフィン。PAC――Physical aggressive Cannon、物理砲。コードネームはヒポグリフ。どれも並の防御魔法じゃ防ぎきれない威力だな」

「なるほど。城壁上の砲台については何か判ってることは?」

「おそらくだが、これだろうな。SWAA/EMLFX-01――Super-wide area aggressive Electro Magnetic Launcher fort/超広域攻撃電磁投射砲砲台・試作機。コードネームはウォルカーヌス。早い話が電磁力を利用して弾を超加速させて撃ち出すという代物だ」

この間、とは言っても半年ほど前だが、“レリック”回収任務の際に俺たちを襲ってきたガジェットドローン(今はまだ未確認の機械兵器扱いだが)はⅠ型とⅡ型だった。驚いたのはⅡ型の兵装が先の次元世界とは違い、光学ビームだけでなく小型レールガンやミサイルポットを搭載している機体もあった。Ⅱ型のレールガンは銃弾だったことで威力も低く防御可能だが、ウォルカーヌスのは砲弾だ。まずシールドは砕かれる。AMFのこともあるしな。

(ジェイルとは違う、機械兵器開発の天才、か)

4年後、JS事件とはまた違う事件が起きるんだろうな。JS事件を知っているからなんてアドバンテージに胡坐をかいてミスするヘマだけはしないようにしないと。

「どれも物理攻撃だって言うのは結構ラッキーな問題ね。私の固有スキルで分解すれば片付く」

「基本的な攻略にはルミナを当てにさせてもらおうか。まずは初撃方法だな。初っ端でコケることはしたくない」

ゴリゴリの力押しでも問題ないような戦力を持っているが、無駄に魔力を消費するような馬鹿な真似はしたくない。万が一にもルミナに俺の“秘密”が知られたらその日の内にチーム海鳴に伝わるだろう。それだけは阻止しなければ。それにキャロも居るし。黙っていてほしいと頼めばフェイトにも話さないだろうが、そんな心労を掛けたくない。

「ふと思いついたんだけど。ルシルって電子戦用の魔法、持ってたよね?」

「ステガノグラフィアか」

「そう、それ。ああいう兵器はどうしたって電子系システムで管理してるはず。それを支配下に置けば戦わずに済む。違う?」

ルミナの提案は装甲列車の映像を観た瞬間に考えついたんだが「後の事を考えると少し悩むな」今1つ乗り切れない。ルミナが「後の事・・?」小首を傾げた。

「アレはあくまで試作型の装甲列車だ。ステガノグラフィアでのクラックは簡単だろうが、もし今後どこかの世界で完成型が暴れ回る日が来たら」

「対策を立てられると面倒だね。試作型より兵装ももっと強力になるだろうしね」

「なるほど。それならどうしても対策の立てようがない私のスキルで真正面からぶっ壊す方が良いか。よしっ、決定。ルシル。装甲列車は私が潰す。ルシルとアイリは上の砲台と武装兵をお願い」

「了解だ」「ヤー!」

ルミナが単独で装甲列車を攻略している間、俺はアイリとユニゾンして城壁に並ぶ砲台や武装兵を攻略する。ワイエルバキアに新設されたばかりの地上本部から貰った城壁内部のデータを見てAMF発生装置の位置を確認。

「外からの攻撃で潰せそうだね」

「ああ。じゃあ行こうか」

「ええ」「はーい」

ある程度作戦も立てたところで攻略開始だ。本部に連絡を取ろうとしたところで「あの、あたしは・・・!?」キャロが小さく挙手した。ルミナが「キャロ。あなたはここで待機、お留守番ね」そう言いながらキャロの頭を撫でた。

「キャロ。俺たちは初めから君を戦わせるつもりなんて無かった。いいかい? キャロ。君はまだあまりにも幼い。守る側じゃなく、今はまだ守られる側なんだよ。確かにの竜使役は凄さまじい戦力だろう。だからと言って君のような子供が、こんな泥臭い戦場に立つ必要はないんだ」

「そうそう。こういう時は私たち大人が先頭に立って戦って、キャロのような子供を守るものなの」

「でも・・・!」

「キャロ。君も成長していつかは守る側に立つことになる。ただ今はその時期じゃないだけだ。だから俺たちに君を守らせてくれ」

俺は片膝をついて、キャロと目を合わせてそう伝える。キャロは少し戸惑いを見せ、次に涙で瞳が潤み、そして小さく嗚咽を漏らし始めた。ルミナとアイリがよしよしと頭を撫でてフリードも一鳴き。

「こちら対兵器(ブレイク)チーム、ブレイカー1。これより戦闘に移ります」

『了解。健闘を祈ります』

特務隊はエリート集団。そう言われても今回の特務三課のメンバーの平均ランクはA。兵器どころかAMFにすら手も足も出ない連中ばかりだ。必然と俺やルミナが真っ先に動くことになる。

「とりあえずキャロとフリードは、この中で待っていてくれ」

――ラッピングバブル――

「ふわっ?」

キャロとフリードを球体状の魔力バリアに包んで浮遊させる。初撃でキャロを傷つけるような事があってはいけないしな。アイリが「すぐ戻ってくるね♪」キャロにウィンクして、俺の元へと来た。そして「ユニゾン・イン!」アイリと融合を果たす。

「ヘマするなよ、ルミナ」

「そっちこそ」

コツンと拳を突き合わせる。ルミナがトントンと小さくジャンプを繰り返している中、俺は地面に両手をついて、「アイリ。よろしくな」魔術発動のサポートを頼む。そして魔力炉(システム)の稼働率を引き挙げて魔術師化し、術式スタンバイ。

『ヤー!』

「ルミナ、行くぞ」

「いつでもOK!」

――戦慄させよ(コード)汝の地災(スイエル)――

土石系中級術式、局地的に最大震度9を引き起こせるスイエルを発動。しばらくの沈黙の後、カタカタとそこら辺に転がっている小石が跳ね、そしてズンっと突き上げるかのような縦揺れ、続けて横揺れが発生した。今の俺には震度7で限界だが、ここの地域では地震が起きないという話だし、奇襲にはもってこいの術式だ。

「お? ツイているな。装甲列車がレールから脱線した! ルミ・・・って、もう行っているか」

スイエルの持続時間は3分。その間は振動で装甲列車もまともにルミナを狙えないと思っていたが、幸いなことに脱線したことで砲台車両の何両かが大きく傾き、地上へ向けて砲門を向けられない状態に陥っている。

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

剣翼12枚を展開し「いってきます」キャロに手を振って、「お気を付けて」手を振り返してくれた彼女に見送られながら空へと上がり、ルミナに遅れて城壁へと向かう。魔力炉(システム)の稼働率を下げて魔力から神秘を無くす。

『マイスター! AMF発生装置の地点、マーカーするね!』

2人きりになった時限定でのマイスター呼びをするアイリが目の前にモニターを展開してくれて、城壁内のどこにAMF発生装置があるかマーカーを付けてくれた。

「ありがとう、アイリ。パシエル!」

――舞い降るは(コード)汝の雷光(パシエル)・デュプルジャベリン――

雷槍30本を展開し、その全てに魔力の外殻で包み込む。

「ジャッジメント!」

そう、これはヴァリアブルシュートと同じ機構だ。外側の魔力バリアでAMFを中和し、本丸である雷槍で城壁を破壊。雷槍はマーカーの示す箇所へ向かって突き進み、AMFの壁に着弾。少しの拮抗の後、AMFを貫通して雷槍は狙い通りに城壁に穴を開けた。

第二波(セカンドバレル)・・・装填(セット)!」

さらに30本と雷槍を再展開して「ジャッジメント!」号令を下して一斉射出。再びAMFに僅かに妨げられるが、出力を変えなかった時点で手遅れだ。AMFを突破して城壁内に突撃した。そしてアイリが『直撃ぃ~♪』俺の内で嬉しそうに指を鳴らす。

「AMFが解除されたな」

武装兵が何か叫びながら携えていたライフルを俺に向けてパンパンと撃ってくる。ただの銃弾など目を瞑っていても避けられる。さらに城壁上に何十基と設置されているレールガンからも砲撃が放たれてきた。射角からしてルミナには当たらないだろうし、キャロの方へと向かないように注意を払う。

『マイスター。空戦形態ヘルモーズ、発動するね』

アイリからそう提案される。城壁を1周するだけで何分かかるか判らないし、「そうだな。頼む」アイリの提案を受け入れる。

『ヤー!』

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

剣翼12枚が背よりわずかに離れ、薄く長いひし形10枚の蒼翼を展開。飛行速度を跳ね上げさせ、城壁の外周を飛び回りながらパシエルで城壁とAMF発生装置を破壊していく。そして・・・

「こちらブレイカー1。要塞のAMF発生装置、その全基の破壊に成功。これより砲台の破壊、武装兵の無力化を行います」

『確認しました。引き続きお願いします。ブレイカー2も武装レールウェイの車両をつつがなく破壊していっています。全兵器の破壊を確認後、後続部隊を投入します』

「了解」

15分と掛けてAMF発生装置をすべて破壊し終え、見張り窓や破壊した穴から炎や黒煙が上がる。この時にはもう武装兵は俺への攻撃を完全に止め、消火活動に手一杯といった風だ。消火活動が終わるまで俺やルミナには構っていられないだろう。

『マイスター、マイスター! 見て見て、ルミナ、すっごいよ!』

アイリからそう言われて地上を見れば、ルミナはガトリングガンや砲弾の雨の中を何の苦もなく駆け抜け、装甲列車の80両弱を見るも無残に分解していっていた。アイツだけ本当に敵に回したくないよな。

「さ。俺たちもレールガンを潰すぞ」

『ヤー!』

城壁上のレールガンからの砲撃はなおも続く。AMFがもう機能していない今、俺たちの障害にはならない。だから・・・

「大人しく・・・墜ちろぉぉぉぉーーーーッ!!」

――崇め讃えよ(コード)汝の其の御名を(ミカエル)――

22枚中20枚の蒼翼を背より離し、蒼翼を20の砲門として運用する。先端より砲撃を連射し、レールガンの生命線となる電力供給ケーブルを破壊して砲弾を撃てなくしてから、本体である砲台を粉砕する。

『こちら本部。ブレイカー2が武装レールウェイの全車両を破壊。城塞の門を突破して街に突入しました。これより後続部隊を送りたいので、ブレイカー1、砲台の破壊および武装兵の無力化を急いでください』

「了解。砲台に関しては全基無力化が済んでいる。武装兵も直に無力化する。今すぐ後続部隊を突入させても問題はない」

レールガンの残り8基もたった今、多弾砲撃ミカエルで破壊し終えた。

『っ! 了解しました。ブレイカー1、余力があればそのまま後続部隊と共に敵本部の制圧をお願いします』

「了解。任務を続行する」

城壁の見張り窓から突入し、「パンツァーガイスト・・・!」古代ベルカ式の防御魔法を発動。魔力で全身を覆い包み、ライフルやマシンガンなどの銃火器の攻撃を避けもせずに全弾弾き返す。すると「クソッ、化け物め!」武装兵がそう言い放った。

『失礼しちゃう! お前らは私利私欲の化け物のクセに!』

――竜氷旋――

武装兵の1人がグレネードランチャーを連発してきたんだが、アイリの氷結魔法のおかげで俺に当たる頃には弾は完全凍結され、摩擦で空中分解した。さらにロケットランチャーまで持ち出してくる大馬鹿者も現れるが、アイリの氷結魔法のおかげでその威力を発揮する前に無力されていく。

「じゃあ今度はお前たちの番だ」

――天よ怒れ(コード)汝の酷雷(ジェレミエル)――

通路いっぱいの大きさを誇る雷龍ジェレミエルを2頭発動し、「食らい尽くせ」通路の左右へ向けて解き放つ。非殺傷設定へと戻しているから見た目に反して軽めのスタンガンくらいの威力しかないが、しばらく動けないようにするには十分な威力だ。武装兵は逃げ惑うが「ぎゃぁぁぁぁ!」感電して次々と倒れ伏していく。

『バインド、バインド~♪ 簀巻き、巻き、巻き~♪』

そんな連中にアイリがバインドを掛け、拘束完了だ。雷龍によって武装兵は全滅。城壁の兵器および兵力を完全無力化することに成功したことを本部へ連絡した後は、ルミナや後続部隊に続いて俺とアイリも街へ進撃。俺の広域攻撃とルミナの問答無用なスキル攻撃によって・・・

『こちら本部。クーデター軍より投降の意思あり、と連絡が入った。全制圧チームは攻撃中止。繰り返す――』

クーデター軍の戦意は挫かれ、自ら今回のクーデターに幕を降ろした。クーデターに参加した軍人や関係者はワイエルバキアの局員たちによって連行され、俺たち特務三課の任務は無事に終了した。

「あの、お疲れ様でした・・・!」

「キュクルー!」

本部であるビアンカへ帰艦するための転送ポイントへ向かう前にキャロと合流を果たす。労いの言葉を掛けてくれた彼女に「ありがとう」俺たちは笑顔を返し、「たっだいま~!」アイリはキャロの頭の上に座った。

「あの、ルシル一尉もルミナ二尉も本当にすごくて・・・すごくて・・・」

キャロがそこまで言ったところでブルッと肩を震わせた。その様子にルミナが「怖かった、かな?」穏やか声でそう訊くと、キャロは「あ、いえ!」首を横に振った。

「本当に?」

「・・・ごめんなさい。少し、恐いって思いました。でも、きっとあたしが今まで居た部隊の人たちも、今のあたしのような感じ・・・だったのかな、って・・・。ルシル一尉やルミナ二尉は、自分が恐れられてどう・・・感じますか・・・?」

キャロがおずおずと訊いてきた。俺とルミナは顔を見合わせて、強大な力を持つゆえに畏怖されてきたことに対する考えを伝えることにした。

「私だって最初は恐がられたものだよ。局でも教会騎士団でも、ね。触れた物を例外なく分解するスキル。異常ここに極まれりだしね。けど、結果をきっちり残していけば必ず受け入れられる。認めてもらうためにはやっぱり結果が必要だと思う」

「結果・・・」

「キャロ。望もうと望まないと強い力を持ってしまった以上、責任が付き纏ってくる。力を持つ者ゆえの責任だ。強い力は恐れられるものだ。だが、だからと言って自分まで恐れて疎ましく思ってはダメだ。それは責任放棄。どれだけ優れ、どんな素晴らしい事が出来ようともそれは暴力になる」

6歳の少女に背負わせるにはまだ早すぎるものだ。しかし俺とルミナの言葉が少しでも早くキャロに自信を持たせてやることが出来れば、それに越したことはない。

「だからキャロ。まずは自分の力と向き合おう。一番の早道は意味を持たせる、というのが良いかもしれない。俺は、守りたいものを守り、救いたいものを救う、その信念でこの力をコントロールしている」

「力に、意味を・・・持たせる・・・」

「うん。少しずつでも良いよ、キャロ。いつかあなたが守りたい人のために、恐ろしいかもだけど竜使役をコントロールしていこう。その時までどれだけ恐がられようとも、あなただけは信じてあげて。自分の力を。絶対に君の為になると思うから」

「・・・はい」

こうして俺たちの特務三課としての任務は完了した。ビアンカへと帰艦後、帰還報告を済ませた隊員たちは本局に到着するまで自由時間となった。そういうわけでキャロの相手をアイリとルミナに任せている中・・・

「あ、フェイトか。ルシルだけど、君に折り入ってお願いがあるんだ」

俺はフェイトにキャロのこれまでの経緯を伝えた。するとフェイトは『判った。引き受けるよ♪』喜んでキャロを引き取ると答えてくれた。あとはキャロに、フェイトの事を伝えるだけだな。

 
 

 
後書き
ジェアグゥィチエルモジン。ジェアグゥィチトロノーナ。ジェアホナグゥィチ。
ここでようやくキャロの登場です。移ろいゆく季節編で出したかったのでしたが、時系列を見るとかなり遅いんですよね、キャロとフェイトが出会う時期は。早めることも考えましたが、出来るだけ時系列を合わせようという結論に至り、ここまで遅くなりました。

で、新たなプライソン製の兵器、装甲列車試作1号機・ケンタウロス。大した出番なく退場。ルミナを相手にしたらどんな兵器もスクラップですわ。その脅威を世界に示すのは4年後です。

次話からいよいよ本格的にStrikers編・・・のもうちょっと手前ですね。設立直前になるかと思います。クロノとエイミィの結婚話は考えるのも面倒なので、どっかの場面でサラッと流すだけにしておきます。
 
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