英雄伝説~西風の絶剣~
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第15話 クロスベルでの出会い
side:リィン
ユンさんと別れた僕は言われた通り山を越えて鉱山町マインツを目指していた。襲ってくる魔獣を避けて険しい山岳地帯を越えて何日か山の中を彷徨っていると少し賑やかな音が聞こえてきた。
「人の声が聞こえる。もしかしてマインツが近いのかな?」
更に山を下っていくと目的の鉱山町マインツに到着した、よかった、流石にもう疲れてきていたからな。
それに教団の奴らが使っていた防寒具もそろそろ脱ぎたいと思っていたんだ。重いし正直デザインがアレだし目立つから好きじゃない。
僕はとりあえず雑貨屋に向かった。
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雑貨屋『ベッカライ商店』で取りあえず普通の服を買ってその日は宿で一晩を過ごした、因みにミラはユンさんがくれた物を使っている。
最初は申し訳ないと断ったんだけど遠慮するなと言われてもらったんだ。ユンさんは返さなくてもいいと言っていたけどやっぱりここまでお世話になってそれは出来ないと再会を約束する意味で貸してもらった。
「この山道を降りて行けばクロスベルか」
懐かしいな、僕が初めて猟兵として仕事をしたのがクロスベルだ。あれから何年が過ぎたんだろうか。
「皆……」
きっと凄く心配をかけてしまったはずだ、一刻も早く皆に会いたい。その為にも早く警察署に行ってアリオスさんに会わないと!
僕はクロスベルに向かうべくマインツ山道を下ってクロスベルを目指した。
山道を下り町への入り口をくぐると前に来た時より更に近代的になったクロスベルの風景が目に映った。僕は懐かしむ間もなくクロスベル警察署を目指した。
「C・S・P・O……ここがクロスベル警察署かな」
行政区……市庁舎や図書館、そして目的の警察署がある区間、この手紙をアリオスさんに渡せばいいのかな。僕は警察署に入り受付に向かう。
「クロスベル警察署にようこそ、本日はどのような……あら、坊や一人かしら?お母さんやお父さんは一緒じゃないの?」
「えっと、こちらにアリオス・マクレインさんがいると聞いて……届け物を持ってきました」
「あら、アリオスさんのお知り合い?まだ小さいのに偉いわね~。ちょっと待っていてね」
受付のお姉さんはそういって奥に行った。まあまだ9歳だし子供扱いされて当然だよね。そんなことを考えながらしばらく待っていると長髪の男性がこちらに歩いてきた、もしかしてこの人がアリオスさん?
「すまない、待たせたな」
「貴方がアリオスさんですか?」
「その通りだ。所で君は一体誰の使いだ?少なくとも私の知り合いに君のような子供をつれている人物は思い浮かばないが……」
「あ、申し遅れました。僕はリィンと申します、実はユン・カーファイ氏から手紙を預かってきています」
「老師から?」
アリアスさんは手紙を受け取ると中の文に目を通しだす。
「確かにこの字は老師の物だが、しかしこれは……!?」
手紙を読んでいたアリオスさんの表情が険しくなりその鋭い眼光が僕を捕らえた。
「……」
「……あの、何か?」
「すまない、立て続けで悪いが少し待っていてくれないか?」
「あ、はい。分かりました」
僕はそういうとアリオスさんは慌てた様子でどこかに向かっていった、更に数分間が過ぎると今度はアリオスさんともう一人男性がこちらに来た。
「セルゲイさん、この子が……」
「間違いないのか?」
「あの字は老師の物でした、信憑性は間違いないと思います」
「そうか、ようやく見つけたか」
無精髭の生えた男性は僕の傍に来ると目線を合わせる為に屈む。
「坊主がリィンか?俺はセルゲイ・ロウ。早速で悪いんだが我々に付いてきてほしい」
「えっと、分かりました」
セルゲイさん達についていき警察署内の一室に連れて行かれる。そこには茶髪の爽やかそうだが強い意志を感じさせる瞳を持った男性がいた。そしてアリオスさんが扉を閉め、僕は部屋にあった椅子に座る。
「改めて自己紹介をさせてもらおう、俺はセルゲイ・ロウ。アリオスとそっちにいるガイの上司で捜査一課に所属している、よろしくな」
「俺はアリオス・マクレイン、よろしく頼む」
「俺はガイ・バニングスだ。よろしく頼むな、坊や」
「リィンと申します」
簡単な自己紹介を終えるとセルゲイさんが僕に質問をしてきた。
「さて…まず君に効きたいことがある、あの剣仙ユン・カーファイから手紙を受け取るとは思わなかったがそこにはあることが書かれていた、『D∴G教団』……君は奴らの施設にいたのか?」
「……はい、僕は教団の施設で人体実験を受けていました」
そう言った瞬間3人の表情が一瞬強張る。
「それは間違いないんだな?」
「はい、僕は施設で色んな実験を受けてきました。非人道的なことも沢山されて……」
レンや死んでいった子供達を思い出すと思わず苦し気な表情を浮かべてしまった。するとガイさんが僕の背中を優しく擦ってくれた。
「辛いなら無理はしないでくれ」
「ありがとうございます、でも僕は全部話します、あそこで起きた事全てを……」
そして僕は施設に関して知ってることを全て話した。セルゲイさん達も真剣な表情で僕の話を聞いてくれていた。
「……言葉も出ないな」
「酷い奴らめ、子供の命を何だと思っているんだ!!」
アリオスさんとガイさんは多少の違いはあれど怒りの表情を浮かべていた。
「辛い事を思い出させてしまってすまなかったな。だがこれで奴らが存在している事が明確になったな」
「あの、奴らは一体何者なんですか?子供を誘拐する異常集団だというのは分かってますが……」
「『D∴G教団』……前からゼムリア大陸中で起きている子供を狙った誘拐事件の犯人じゃないかと我々……いや国中が秘密裏に調査している。奴らについてだが正直その活動や目的はおろか存在すら信憑性のない連中でな、噂だけの存在じゃないかという人間も多数いたが坊主の発言がこれを覆したんだ。ありがとうよ」
セルゲイさんは僕に握手をする。
「セルゲイさん、これでようやくD∴G教団を追い詰めることが出来るんじゃないですか?」
「ああ、出来れば物的証拠もあれば良かったがそれは望みすぎだな」
「あの、これは使えないでしょうか?」
僕は懐からD∴G教団について書かれた書類を取り出した。
「リィン、それは?」
「教団の施設で見つけたんです、何かの役に立つかと思って持ってきたんですが……」
「でかしたぞ坊主!それがあれば教団についてもっと知ることが出来る。これは大きな収穫だ。俺はさっそくこのことを上の連中に報告してくる。教団の調査に消極的だった奴らもこれを見せれば何も言えないはずだからな」
セルゲイさんはガシガシと乱暴に僕の頭を撫でる。
「そういえば君の君のご両親はどこに?きっと君の帰りを心待ちにしていると思う。住んでる場所さえ教えてくれればそこまで連れて行くよ」
「あの、実は僕……」
ガイさんの質問に対して僕は自分の正体を明かした。
「あのルトガー・クラウゼルの息子だって!?」
「猟兵王の……なるほど、この2年間の奴らの行動の意味が今分かった、こういうことだったのか」
「西風の旅団に何かあったんですか!?」
「落ち着け、リィン。実はここ2年西風の旅団は活動を休止している。戦争の介入や護衛などの任務は極力減り大陸中を動き回っているんだ。最強クラスの猟兵団のこの動きに一時期軍や遊撃士協会も警戒したがそれといった行動もなかったがそれがお前を探してるということなら奴らの動きに辻褄が合う」
「皆……」
やっぱり僕を探していてくれたんだ。そんなにまで心配をかけてしまって……早く皆に謝りたい。
「セルゲイさん、西風の旅団が今どこにいるか分からないですか?」
「残念ながら現在西風の旅団がどこにいるかは分からない」
「そうですか……」
そんな、ここまで来たのに結局皆には会えないのかな……
「だが連中をここにおびき出す事は出来るかもしれない」
「えッ?」
「奴らならあらゆる情報を集めることが出来るだろう。そこでこの街で猟兵王の息子を見たと情報を流す」
「なるほど、向こうから来てもらうという事ですね」
「しかしセルゲイさん、流石にそれだけでは信憑性が無さすぎます。あの猟兵王がそんなことで動くとは思いませんが」
「だろうな、だがあまり情報を流しすぎると教団も嗅ぎつけるかもしれん。現状じゃそれだけしかできないんだ、すまんな」
セルゲイさんの説明にガイさんは納得したようだがアリオスさんが待ったをかける。猟兵は警察以上に情報を大事にしている、そんな噂話程度じゃ猟兵が動くわけがない、でも……
「それで充分です、どうかお願いします」
「本当にいいのか?正直自分で言っておいて穴だらけな計画だと思うが?」
「大丈夫です、団長なら……お父さんなら必ず来てくれます」
僕はお父さんを、西風の皆を信じる。きっとここに来てくれると……
「……そうか、ならそのように手配しておこう。アリオス、悪いがお前も手伝ってくれ」
「分かりました」
「それとガイ、お前はもう上がれ。その代わりにその坊主の面倒を見てやってくれ」
「俺がですか?」
「お前には弟がいただろ?なら年下の扱いなら慣れてるはずだ」
「俺は構いません、リィンがいいならですが」
そういってガイさんは僕を見る、正直これ以上お世話になるのは気が引けるのだがいいのだろうか?
「本当にいいんですか?」
「なに遠慮はいらないさ。俺には君と年が近い弟がいるんだ、きっと喜ぶよ」
「そうですか……」
ガイさんは笑顔でそう言ってくれた。ここで僕が迷惑をかけたくないとわがままを言っても結局この人たちを困らせるだけだ。なら今はそのご厚意に甘えよう。
「ならお邪魔させてもらってもいいですか?」
「勿論だ」
「あ、そうだ。セルゲイさん、噂の中にこの言葉をいれてくれませんか?」
「ん、何だ?」
「それは―――――」
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ーーー
「すまない、待たせてしまったか?」
「いえ、大丈夫です」
警察署前でガイさんが出てくるのを待っていた僕はそう答えた。
「それじゃ行こうか、俺の家はアパントハイム『ベルハイム』っていうマンションの一室を弟と一緒に借りてるんだ」
「弟さんだけですか、親とかは……」
「両親は共に亡くなってるんだ」
「!?ッ……すみません、無神経な事を聞いてしまって……」
「いいさ、気にしていない。ロイド…弟の名前なんだがあいつは出来た弟でさ、本当は寂しいはずなのに泣き言なんていったことがないんだ。でもだからこそ俺には分かる。家族と離れ離れになる悲しみがな」
「あッ……」
ガイさんは僕の頭をポンポンと優しく叩く。
「必ず君の家族と再会させる、だから安心してくれ」
「……はい」
僕は本当に恵まれていると思う、ユンさんやガイさん達といった優しい人に巡り合えたから。
「お、ついたぞ。ここがベルハイムだ」
「屋上から入るんですか、珍しいですね」
ベルハイムの中に入りガイさんがある一室の扉を開けると中から何かが飛び込んできた。
「兄ちゃん、お帰りなさい!」
飛び込んできたのはガイさんとよく似た茶髪の少年だった、この子がガイさんの弟さんかな?
「おお、ただいまロイド。だが危ないから抱き着いてくるなっていつも言ってるだろう?」
「へへッ、ゴメンゴメン。でも最近兄ちゃん帰ってこなかったから嬉しくってさ!」
「お帰りなさい、ガイさん」
奥から綺麗な女性が現れてガイさんに話しかける。
「ロイドったら久しぶりにガイさんにあえてよっぽど嬉しいのね」
「セシル、ただいま。最近は仕事がいそがしくて帰れない俺に代わっていつもロイドの面倒を見てくれてすまないな、本当はなるべく帰れるようにしたいんだが……」
「ふふッ、気にしないで。ロイドは私にとってもう弟も同然だから。あら、その子は?」
「実はな……」
ガイさんは女性に事情を話した。
「……という訳なんだ」
「そう、家族と離れ離れに……」
流石に教団の事は話せないのかガイさんは僕はとある事情で家族と離れ離れになり警察が保護、しばらくは自分が預かることになった、というような説明をした。
「ねえ、貴方の名前は?」
「リ、リィン・クラウゼルです」
「そう、素敵な名前ね。私はセシル・ノイマン、よろしくね」
「は、はい!よろしくお願いします!」
緊張して声が上がってしまうがセシルさんはそんな僕をギュっと抱きしめた。
「セ、セシルさん?」
「……家族と離れ離れになるだなんて……きっと凄く心細いと思うわ。でも大丈夫、貴方の家族に会えるまで私達が貴方の家族になるわ。だからそんな堅苦しい呼び方しないでお姉ちゃんって呼んで?」
「あ、えっと……セシル…お姉ちゃん?」
「はい、よく出来ました♪」
ふわぁ、あったかい……まるでマリアナ姉さんに抱きしめてもらうような心地よさを感じる。とても安心する……
「むー!セシル姉ちゃんは僕のお姉ちゃんだぞ!」
するとガイさんの弟さん…ロイド君が頬を膨らませてセシルお姉ちゃんに抱き着いた。
「あらあらロイドったら、甘えん坊さんね」
「ははッ、いっちょ前にヤキモチ焼いてるのか?」
「ダメ!姉ちゃんは僕のなんだー!」
「えっと、あはは……」
賑やかで優しい雰囲気に包まれた僕は久しぶりに心から笑えたような気がした。
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