罪作りなボイス
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5部分:第五章
第五章
その彼等に気付くことなくだ。紘は言うのだった。
「是非。僕頑張るからさ」
「それじゃあ」
「そうして。次の日曜だよ」
曜日をだ。自分から言う彼だった。
「絶対に観に来てね」
「場所はこの学校ですよね」
「そう、この学校のグラウンドで一時から」
その練習試合の詳しい時間もだった。
紘は自分から言ってだ。そうしてだった。
約束を取り決めたのだ。一応話は終わった。香菜は優しい微笑みでだ。その紘に言ってきた。
「じゃあこれで」
「うん、これで」
「これから放送がありますから」
放送部員としてだ。彼女は今は話した。
「すいません」
「あっ、それじゃあね」
「日曜に」
「そう、日曜にね」
「また」
こう言ってだった。今は別れたのだった。
紘もだ。香菜が向こうに去っていくのを見届けてからだ。
自分も踵を返した。ここでやっと気付いて思い出したのだ。
クラスメイト達がいた。その彼等はずっといたのだ。
だが紘も香菜もこのことには気付かなかったのだ。もっと言えば二人のことだけで一杯で彼等のことには気が回らなかったのだ。
しかし彼等はだ。紘に対してだ。
にやにやと笑ってだ。こう言ってきたのだった。
「よかったなあ」
「今度の日曜か」
「練習試合観に来てくれるんだな」
「一時だよな」
「いたのか」
今更思い出してだ。こう返した紘だった。
「そういえばそうだったよな」
「そうだよ。いたよ」
「ずっと見守っていたからな」
「よかったな。本当にな」
「頑張れよ、試合もそっちもな」
「そっちって何だよ」
ついだ。紘はその言葉にも反応した。
そしてだ。こう言ったのだった。
「そっちって」
「まあな。頑張れって」
「言うのはそれだよ」
「俺達からはな」
「だから何なんだよ」
紘はその『そっち』についてはだ。どうしても認められなかった。そしてだ。
部活にも励みだ。日曜を迎えた。彼は。
やはり二番ショートだった。前日に顧問に告げられた。その顧問の先生は。
彼にだ。部室でこんなことも言ってきた。
「いいか。牛若丸になれ」
「源義経ですか?」
「ああ、吉田義男になれ」
笑顔でだ。こう告げたのである。
「今度の試合もな」
「何か随分古いですね」
「別にいいだろ。凄い選手だったんだからな」
「けれど先生あの人の現役の頃知らないですよね」
見れば先生は三十代といったところだ。そろそろあちこちに肉がつきはじめている。とてもだ。吉田が現役だった頃を知っていそうにはない。
しかしだ。それでもだった。
先生はだ。また話すのだった。
「真弓とか平田の頃なんじゃないんですか?」
「まあそうだな」
「それでも先生が子供の頃ですよね」
タイガースフィーバーも過去のものになっている。今は新しい阪神の時代だ。
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