罪作りなボイス
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4部分:第四章
第四章
そのうえでだ。彼はあらためてクラスメイト達に尋ねた。
「場所は何処なんだ?」
「体育館裏な」
「そこだからな」
「そこなあ。何なんだ?」
彼はここで気付いていなかった。クラスメイト達がだ。
『娘』と言っていたのだ。『こ』という言い方だったので『子』と勘違いしたのだ。そのことに気付いていないままだ。彼等の話を聞いていたのだ。
そしてだ。その彼にだ。
クラスメイト達はだ。さらに言った。
「じゃあいいな」
「早く食えよ」
「食い終わってから行くからな」
「ああ、わかったよ」
林檎を素早くかじり終えてだ。ペットボトルのお茶を飲んでだ。
そのうえで彼は体育館裏に向かう。そこにはだ。
クラスメイト達もついて来る。その彼等を見てだ。
いぶかしみながらだ。彼は彼等に尋ねた。
「何でついて来るんだ?」
「まあな。ちょっとな」
「いいからいいから」
「気にしないでくれよ」
「いや、気になるからな」
こうだ。彼等に返すのだった。
「僕一人でもいい話じゃないのか?」
「いいからいいから」
「行こうぜ」
「それじゃあな」
「一体何なんだよ」
紘だけが事情がわからずだ。目を顰めさせていた。
だがそれでもだ。その体育館裏に来た。日はあまり強くなく人気もない。右手には体育館の白い壁があり左手には皐や桑がある。
その白と緑の中を通るとだ。その先にだ。
髪を短く切りだ。そして。
黒髪を奇麗に短く切り揃え大きな銀杏に似た形の黒い目をしている女の子を見た。前髪が眉を隠してしまっているが時折見える眉は細い。
口はやや大きく紅である。顔は白く雪を思わせる。
背は一六〇程で僅かばかり太めに見えないこともない。白いガードの硬い感じの軍服を思わせる制服はスカートだけが短い。
その彼女がだ。紘の前にいた。
彼女を見てだ。紘はすぐにこう言ってしまった。
「岡田さん?」
「あっ、はい」
香菜だ。その彼女がだ。
少し戸惑った様な声でだ。彼に言ってきたのだ。
「今度練習試合ですよね」
「ああ、軟式野球部の」
「泉谷君は確か」
「うん、ショートだよ」
彼のポジションはそこなのだ。敏捷さとグラブ捌きを買われてなったのだ。
「二番ショートでね。出る予定だけれど」
「わかりました。その試合を」
「その試合を?」
「観ていいですか?」
こうだ。紘に言ってきたのだ。
「よかったら」
「えっ、いいの!?」
「私の方も。よかったら」
お互いにだ。こう言い合うことになった。しかしだ。
紘の方がだ。さらにだった。
驚き戸惑いながらだ。そうして言ってきたのだった。
「そんな、岡田さんが来てくれるって」
「駄目ですか」
「駄目じゃないよ」
強い声でだ。彼は言い切った。
「駄目な筈ないじゃないか」
「そうですか。じゃあ」
「うん、観に来て」
紘は興奮しきった声で告げた。後ろにいるクラスメイト達はその彼には何も言わない。ただ二人を見ているだけだった。ここでは。
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