英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第33話
その後ホテルに到着し、受付に空き部屋がないか聞いたロイド達だったが空き部屋はない事を伝えられ、今後の予定を話し合う場所が見つからない事に肩を落としている所になんとフォーマルな姿のワジが現れ、さらにワジは自分が宿泊している部屋を提供すると申し出たので、ロイド達はワジの好意に甘えて、ワジが宿泊している部屋に入った。
~ミシェラム・ホテル”デルフィニア”~
「フフ、しかし君達もなかなか優雅じゃないか。記念祭の最終日に休みをもらってミシェラムで豪遊とはねぇ。」
「あー………まあ、骨休みって所さ。それより、ワジ。君のその格好は……」
静かな笑みを浮かべるワジの話を聞いたロイドは苦笑した後、いつもと違い、フォーマルな格好をしているワジを見て尋ねた。
「フフ、イカスだろう?僕の副業の制服みたいなもんさ。」
「ふ、副業……?」
「それってどういう………」
ワジの答えを聞いたロイドは戸惑い、不良集団のリーダーであるワジが関わっている事からいかがわしい仕事をしている事を推測したエリィは表情を厳しくしてワジを見つめた。
「上流階級という冷たい世界で愛を見失ってしまった麗しくも寂しいご婦人たち………そんな彼女達に一時の夢を見せてあげる仕事さ。」
「なっ!?」
「そ、それってもしかして………」
「いわゆる『ホスト』さんですか。」
「うふふ、ワジお兄さんにはピッタリな仕事ね♪」
「おいおい!なんてうらやましい―――もとい、ケシカランことを!」
ワジの副業を知ったロイドとエリィは驚き、ティオはジト目でワジを見つめ、レンはからかいの表情で呟き、ランディは悔しそうな表情でワジを睨んだ。
「フフ、別にミラに困ってやってるわけじゃないけどね。いつもしつこく誘われるから仕方なく付き合ってあげてるんだ。まあ、慈善事業ってやつ?」
「なんて言い草だ………」
「そういうすげないところにコロッといっちまうマダムが多いってことかよ……」
「はあ……正直、感心はできないわね。」
(うふふ、確かにワジお兄さんは”一応神父さん”だから、ある意味”慈善事業”にはなるわねぇ?)
ワジがホストをしている理由を知ったロイドとランディ、エリィはそれぞれ呆れた様子で溜息を吐いている中レンは意味ありげな笑みを浮かべてワジを見つめていた。
「それではワジさんはホストのお仕事でここに?」
「ああ、いわゆるエスコート役ってやつさ。とあるご婦人に同伴してちょっとワケありのパーティに出るつもりなんだけどね。」
「え………」
「それって……」
ワジの口から出た”ワケありのパーティー”に心当たりがあるロイドとエリィはそれぞれ表情を厳しくした。
「ふふ……成る程ね。」
一方ロイド達の様子を見て何かに気付いたワジは静かな笑みを浮かべた。
「成る程って……何の話だ?」
「”黒の競売会”………大方、その名前を知って調べに来たって所だろう?」
「っ……………」
「はあ………バレバレみたいだな。」
「という事は、あなたが出る訳ありのパーティーというのも………」
「ああ、その競売会さ。去年も別のマダムの付き添いで行ったから、2回目になるかな。」
「そうだったのか………」
「まさかこんな身近な所に知っている人がいたとは、思いませんでしたね……」
「クスクス、これが『灯台元暗し』って言うんでしょうね♪」
ワジの話を聞いたロイドとティオは疲れた表情で溜息を吐き、レンは小悪魔な笑みを浮かべていた。
「でも君達、その競売会を摘発するつもりなのかい?さすがに無茶だと思うけど。」
「いや……悔しいけど元より摘発するつもりはないさ。ただ、知っておきたかったんだ。クロスベルの歪みを象徴したような豪華絢爛な裏の社交パーティー……俺達が乗り越えるべき”壁”がどの程度のものであるのかを。」
意外そうな表情で尋ねて来たワジにロイドは溜息を吐いた後、真剣な表情で答えた。
「ロイド………」
「フフ………なるほどね。その意気込みは買うけどあいにく”競売会”には招待カードがないと入れないよ。毎年、違った薔薇のデザインで通しナンバーも入っているから偽造することも難しい………どうしようもないと思うんだけどねぇ。」
「それなんだけど……実は、カードは持っているんだ。」
興味ありげな表情で自分達を見つめて助言したワジにロイドは懐から薔薇のカードを出して見せた。
「へえ………どうやって手に入れたかを聞くのは野暮ってもんかな?」
カードを確認したワジは目を丸くした後、微笑みながらロイド達に尋ねた。
「ああ、事情があってね。」
「この招待カードだけど………身元の特定はされないのかしら?会員限定で、登録されている人しか入ることはできないとか………」
「いや、それはないと思うよ。裏の社交界的な側面があるから新規の客を歓迎しているみたいなんだ。盗品を扱っている以上、あえて身元を特定されたくない有力者も多いみたいだしね。」
「ふむ、だったら何とかなるかもしれねぇな。そういや、1枚の招待カードで何人まで入れるもんなんだ?」
「特に決まりはないみたいだけど………ただまあ、大抵は2人連れだね。5人連れで入るのは目立つからお勧めはできないよ。」
「なるほど……」
「……確かにそれは言えてるかもしれないわね。」
「そうね。家族で行ったとしても、せいぜい3人が限度だと思うわ。」
ワジの忠告を聞いたティオとエリィ、レンはそれぞれ納得した様子で頷いた。
「それと、一応パーティーだからフォーマルな格好をした方がいいね。ま、僕みたいな格好をして悪目立ちするってのもアリだけど。」
「さすがにそれは遠慮しとくよ。―――なあ、エリィ。パーティー向けの服装だけどどこかで調達できる場所はないかな?」
「それなら、下のブティックがちょうどいいと思うわ。前に来た時に使った事があるし、私が立て替えておくから。」
「いや、それは………」
「あら、何だったレンが立て替えておくわよ?お金なら捨てても困らないくらい持っているし。」
「レンさんの場合は洒落になっていませんよね。」
「つーか、捨てるくらいなら俺が拾うっつーの。」
エリィの申し出を聞いたロイドは戸惑っている中、レンの申し出を聞いたティオはジト目になり、ランディは疲れた表情で指摘した。
「大丈夫よ、レンちゃん。そのくらい私にさせて頂戴。それより問題は、潜入するメンバーでしょう?」
「ああ………そうだな。クジ引きかジャンケンで決めるってのもアレだしな………」
エリィの指摘に頷いたロイドが考えこんだその時
「おいおい、何言ってるんだ。少なくともお前は確定だろうが。」
「えっ………」
ランディが意外な事を口にし、ロイドを呆けさせた。
「今回の件、一番拘っていたのはロイドさんですし………わたしたちのリーダーですから行くのは当然ではないかと。」
「それにはレンも同感ね。」
「で、でも………」
「もう、ここは素直に引き受けておきなさい。見てみたいんでしょう?クロスベルの”歪み”の実態を。」
「―――わかった。引き受けさせてもらうよ。」
ティオとレンの意見に戸惑っていたロイドだったがエリィに諭され、ようやく納得した。
「フフ、だったらもう一人、同伴する人間を決めるといい。一人で参加するっていうのはかえって目立つだろうからね。」
「そうだな、うーん……」
「私か、ティオちゃん、レンちゃん、そしてランディ。マフィアがいる事を踏まえて選んだ方がいいかもしれないわね。」
「残る3人は、会場の外でいざという時に備えて待機する。そんな役割分担でしょうか。」
「ま、どんな分担にするにしてもまずは下のブティックに行こうぜ。ドレスアップする時までに誰を連れていくか決めとけよ。」
「………ああ。そうさせてもらおうかな。」
フォーマルな服装を手に入れる為にロイド達はワジが宿泊している部屋を出たが何故かワジが付いてきた。
「――ちょっと待て。どうしてワジまで一緒に付いて来るんだ?」
部屋を出たロイドは振り向いて自分達に付いてきたワジに尋ねた。
「フフ、せっかくだからコーディネイトの指南でもしてあげようと思ってね。マフィアのチェックを誤魔化すコツを教えてあげるよ。」
「うーん、まあそういう事なら。」
「何かあからさまに興味本位っぽいですけど。」
「ま、聞くだけ聞いてみようぜ。」
「それじゃあ下にあるブティックに行きましょう。」
(うふふ、ロイドお兄さんは一体誰を選ぶのかしらね♪)
その後ブティックに仲間達と共に行ったロイドは連れて行くメンバーをエリィにし、エリィと共にフォーマルな格好をした後、ワジの部屋でパーティーの開催時間まで待った。
~夜~
「……綺麗ですね……」
「ふふ、そうね……」
夜になるとミシェラムは花火を打ち上げ、その様子を部屋から見ていたティオとエリィはそれぞれの感想を口にした。
「ああ……―――準備はOKだ。オークション会場に入ろう。」
「ええ、わかったわ。」
エリィと視線を交わしたロイドはワジから渡された伊達眼鏡を取り出し、眼鏡をかけた。
「ロイドさん、エリィさん。………どうかお気を付けて。」
「打ち合わせ通り、俺達はこの辺りで待機してるぜ。何かあったらすぐにエニグマかアークスで連絡してこいよ。」
「うふふ、それじゃあ二人とも、”また後で。”」
そしてティオ達はそれぞれロイドとエリィに声をかけ
「ああ。そっちの方も気を付けて。」
「それじゃあ行ってくるわね。」
声をかけられたロイドとエリィは頷いた後、ハルトマン議長邸に向かった。ロイドとエリィが議長邸に向かうと、入り口付近にるマフィア達が道を阻んだ。
「ようこそ、”黒の競売会”へ。招待カードを見せていただきますか?」
「ああ、これでいいかな。」
マフィアに尋ねられたロイドはマフィアに金の薔薇が刻まれたカードを渡した。
「………確かに。念の為お名前を伺ってもよろしいですか?」
「えっと……………ガイ・バニングスだ。身分を明かす必要はないだろう?」
「ええ、それはもちろん。」
「そちらの方は……?」
ロイドの確認にマフィアは頷き、もう片方もマフィアはエリィに視線を向けて尋ねたが
「ふふ、お疲れ様。私の方は事情があって身分を明かせないのだけど………こういう催しでもあるし、別に構わないのよね?」
「え、ええ、まあ。ですが一応、そちらのガイ様とのご関係を伺ってもよろしいですか?」
エリィに尋ね返されて戸惑った後、再び質問した。するとエリィはロイドの腕に抱きついて自分の豊満な胸をロイドの腕に押し付け
「あら、恋人には見えない?ふふ………と言っても、まだお父様とお母様には内緒にしている関係なんだけど。」
マフィア達に微笑んだ後説明した。
「ゴメン、僕が君の身分に釣り合わないばっかりに………でも、きっと事業を成功させてご両親にお嬢さんをくださいって頼めるように頑張るから……!」
「ふふっ、期待してるわね。」
一方ロイドはエリィの嘘の話に合わせた。
「コホン……失礼しました。」
「それではガイ様、お連れ様。どうか存分に、今宵の競売会をお楽しみになってください。」
そしてマフィア達は道を開け、ロイド達は議長邸の中へと入って行った。
「……どうやら潜入には成功したみたいですね。」
「ああ……後は二人が無事に戻ってくるのを祈って待つだけだな……って、小嬢はどこに行ったんだ?」
その様子を遠目で見守っていたティオと共に安堵の表情で溜息を吐いたランディだったがレンがいない事に気づいて周囲を見回した。
「え…………さっきまでわたし達の傍にいたのですが………」
「ったく、このタイミングで独断行動とか勘弁してくれよな。ティオすけ、小嬢のエニグマに連絡してどこにいるか聞いてみたらいいんじゃねぇか?」
「そうですね。」
溜息を吐いた後提案したランディの提案に頷いたティオはレンのエニグマに通信をかけた。
「―――うふふ、案外早く気づいたわね。」
「レンさん……今、どこで何をしているんですか?」
「ロイドお兄さん達をいつでもサポートする為に”準備”をしているわ。後10分したら戻ってくるから、そのまま待っていて。」
「は、はあ………?」
「小嬢は今何をしているんだ?」
戸惑いながら通信を終えたティオにランディは不思議そうな表情で訊ねた。
「はあ……それがロイドさん達をサポートする為の”準備”だと。」
「何だそりゃ??」
そして10分近く経つとレンが二人に近づいてきた。
「二人ともお疲れさま。」
「レンさん、一体どこで何を―――――え。」
「何だぁ?随分とシャレた格好に着替えたが、何なんだその恰好は。」
自分達に近づいてきたレンの服装――――普段身に纏っている服と同じ色である大人の色気を思われる漆黒色を基調とした色のフリフリドレスを身に纏い、肩までそろえていたいつもの髪形をユウナと同じ髪形にして更にサングラスをかけたレンを見た二人は驚いた。
「ふふっ、似合うかしら?」
「一体どこでそんな服装を………というかどこで着替えたんですか?」
「うふふ、この近辺にはレン―――”Ms.L”や”Ms.L”の代理人名義で購入したレンの別荘がいくつかあってね。そこの中でここから一番近い別荘で着替えたのよ。」
「ハアッ!?」
「そんな内緒話をする都合のいい場所がいくつも持っているのに、何でさっきわたし達が話をする所がない事に困っていた事に真っ先にその話をしてくれなかったのですか。」
レンの説明を聞いたランディは驚き、ティオはジト目で指摘した。
「ワジお兄さんが部屋の提供を申し出なかったら、レンの別荘を提供するつもりだったわよ?――――それじゃあレンも行ってくるわね。」
「お、おい、行ってくるって一体どこに――――」
レンの答えにランディが戸惑っていたその時レンは議長邸へと向かい、レンに気づいたマフィア達は入り口付近を阻んでロイドとエリィの時同様の台詞を口にした。
「ようこそ、”黒の競売会”へ。招待カードを見せていただきますか?」
「ええ、これでいいかしら?」
マフィアの確認に頷いたレンは金の薔薇が刻まれたカードを渡した。
「………確かに。念の為お名前を伺ってもよろしいですか?」
「―――ユウナよ。ファミリーネームや身分はパパたちから絶対に誰にも話すなって念押しされているから言えないのだけど……この競売会はそこまで明かす必要はないのでしょう?」
「ええ、それはもちろん。」
「それではユウナ様。どうか存分に、今宵の競売会をお楽しみになってください。」
偽名を語ったレンの確認の言葉に頷いたマフィア達は道を開け、レンは議長邸の中へと入って行った。
「オイオイオイ……!堂々と真正面から入っちまったぞ!?つーか、何で小嬢がロイド達が使った招待カードとは別の招待カードを持っているんだよ!?」
一方その様子を見守っていたランディは信じられない表情をし
「…………レンさんはあの”Ms.L”なのですから、よく考えてみたら資産家として有名な”Ms.L”自身に招待カードが来ていてもおかしくありませんし、”Ms.L”が持つ人脈を活用すれば招待カードの一枚や二枚、簡単に手に入りますね。」
「言われてみればそうだな………ったく、何で俺達に教えなかったんだよ………」
ジト目で呟いたティオの推測を聞いたランディは納得した後疲れた表情で溜息を吐いた。
こうしてロイドとエリィ、そしてレンは”黒の競売会”の潜入を開始した――――
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