機動戦士ガンダム0091宇宙の念
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宇宙編
月決戦編
第36話 暁月
無重力という馴れた空間を滑り、MSデッキに向かう。
「大尉!機体の整備は終わっていますから!」
アストナージ・メドッソ。
僕の機体を整備してくれる信頼できる整備兵だ。
ブリッジのオートドアを潜り、艦長の椅子に座る彼に話しかける。
「このまま月に向かうのか?」
「あぁ、月の外出を沿って、敵艦隊を叩く」
「しかし、今のジオン残党にこれ程の戦力があるなんてな」
「このまま終わりはしないさ、きっと裏に黒幕がいるだろうさ」
「…」
「気になるのか?アムロ」
「…この前編入されたメカニックマン、なんといった?」
「チェーンか?彼女なら今はブリーフィングルームだろう」
「わかった」
まだ若い見た目とは裏腹に、幾多の経験を積んできた熟練のMSパイロット、アムロ・レイ。
それを見送る、ロンド・ベル隊の指令にしてラーカイラムの艦長、ブライト・ノア。
対ジオン残党部隊のロンド・ベル隊。
最強の残党狩り部隊が遂に動き始めていた…
レウルーラ級ー
「大佐、先程収容したグラフィー軍パイロットが面会を希望していますが」
「わかった、ブリッジに来るように伝えてくれ」
踵を返し顔を合わせる。
金髪の髪をなびかせた彼女は作戦士官兼、ニュータイプ研究所所長のナナイ・ミゲル。
「大佐…」
そっと寄り添う彼女の温もりを感じ、唇を交わす。
「ナナイ…ブリッジに向かう」
「はっ…」
自動ドアが開き、重苦しい雰囲気のブリッジ。
「…大佐」
目の前にいる。
あのシャア・アズナブルが。
「グラフィー軍所属、グラン・デンバウアーであります」
「収容したパイロットは、2人と聞いたが?」
額には傷があり、ネオジオンの軍服を見に纏った姿は、まさに赤い彗星の存在感そのものだった。
「…もう1人は医務室にて治療を受けていまして…」
「そうか。大尉、貴公らがこの艦に収容されたことは、機密にする」
「は?」
「我々は今極秘行動中だ。かと言って貴公らを見捨てるわけにもいかん。貴公らを連れて、この艦は月の裏側を通って、サイド5に向かう」
「しかし、ガデット少将には連絡を…」
「いや、グラフィー軍とも月面で合流する予定だ」
「そうですか…ならば私を使ってください。一パイロットとして」
「いや、今は休んでいい。合流ポイントに着けば連絡は取れる。それまで楽にしてくれ」
「は…承知しました」
長くも、短くもない通路を滑り、ブリーフィングルームに入る。
ここで待てだと?ふざけやがって。
フーバー達は無事だろうか…
アイラが気になるな…
ゆっくりと体を起こし、医務室へと向かった。
「バウ、着艦するぞぉ‼︎」
ガイドビーコンによって導かれた翡翠色の機体が傷だらけの装甲板を軋ませつつせまいドックに詰まる。
「はぁ…はぁ。メアリーは…?」
ギラ・ドーガに並び鎮座するハイザック。
どうやら無事帰還できたようだ。
「お疲れさん…大丈夫か?」
あまりに暗い顔を心配したのか、整備長が声をかける。
「一旦休め。作戦は順調だ」
ろくに返事もせず自室に向かった。
今はもう、何も考えられない。
とにかく一刻も早く終わらせたい。
この悪夢の様な戦争を。
ふと胸にしまった懐中時計が気になった。
「返しそびれたな…」
返せるはずもない。
そう思い机の上に置かれた時計に目をやる。
標準時3時02分。
どうりで眠いわけだな。
懐中時計をベッドに括り付け、部屋を出た。
「隊長」
部屋の前には、メアリーの小さな顔があった。
「よかった…無事だったんだな」
「はい…隊長こそ、ご無事で」
心配そうにこちらを見ている彼女は、それほど疲れているようにも見えないが、明るいわけでもない。
まぁそれはいつものことだが。
「はは、下半身はぶっ飛ばされたけどな。なんとか」
メアリーが顔を俯かせた。
一瞬意味がわからなかったが、それが自分の事を見ているとわかると、変な羞恥心が体を襲った。
「え、は?俺じゃねーよ!バウのことだ‼︎」
「え。あ、私…」
なんとなく気まずい二人はMSデッキへと向かった。
ろくに談笑する場所すら少ない艦内では、パイロットは自機が気になるのが性だ。
「バウ…あれじゃあもう戦えませんね」
「ああ…」
残った上半身は傷だらけだ。
もちろんバウの。
「大尉の隊が心配だ…」
まだ帰還してないというし、とっくに戻ってきてもいい頃だ。
「隊長は、アイラ少尉ばっかですね」
「なんだ、急に」
あまりメアリーがプライベートのことを聞くことは少ない。大体そういう話は、マルロがしていたから…
「多少感じますよ…そういう気持ち」
「え?」
「隊長のことを慕ってもいますし、尊敬しています。隊長も、私のこと気にかけてくれてるのはわかります」
「ああ…」
「なのになんでか、隊長からは…隊長のことは、特別になんだと勘違いしてしまって…」
「なぁ、メアリー」
不器用な彼女の言葉を遮って、自分の中に隠れた言葉を吐き出した。
「地球、行ったことあるか?」
「え?いや、ないです」
「俺もだ。いつか、本物の海で泳いだり、本物の青空を眺めてみたい」
「…」
「けど、だからって宇宙が嫌いなわけじゃない。こんなに広い宇宙に、自分という存在を感じられたときは、何よりも充実した時間を過ごせる」
「はい、私もです。この宇宙が好きです」
メアリーはすっとMSデッキの向こうの宇宙を見た。
「だろ?人ってすごいよな、あんなに離れた星から同じ命を繋いでるんだから」
「えぇ。向こうからも、同じようにこっちを見てる人がいるんでしょうね」
「そうだな。きっと」
なんだか疲れも取れてきたな
そう考えていると、メアリーがまたこっちを向いて口を開いた。
「見に行きませんか?一緒に。今度、この宇宙を地球から」
「あぁ、楽しみにしてる」
広い地球圏に、多くの人が生きている。
この壮大な事実を感じた二人は、まるで心を重ねている気分だった。
後書き
この度更新が遅れてしまい本当にすみませんでした。
忙しい日々が続き、中々投稿できませんでした。
またこれからも何卒よろしくお願いします。
次回に続きます!
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