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Everlasting oathーブラッド・オンラインー

作者:ゆぅ駄狼
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命を踏み台にして進む

 叔父からゲームを受け取った後、βテストなるものを開始し、時が経ち────βテスト終了から約一ヶ月半が過ぎた。

 βテスト期間は終了したが、プレイしている最中は今までに無いくらいの心地良さを感じる事が出来た気がする。

「現実じゃ槍は使えないしなぁ、こう言う時に使うんだっけ。…………解せぬ」

 つーか、現実で槍を使うって何時代だよ。其処ら辺を歩いてる人が武器片手に歩いてたら大事件だわ。

 ソードアート・オンライン(SAO)と表記されたパッケージを手に取り、ボソッと呟く。

 仮想世界で戦いに酔いしれていた俺はいつからかβテスター中、最強のプレイヤーになっていた。

 誰よりも自分を傷付け、誰よりも自分の力を信じて、誰よりも楽しみながら前に進み続けた結果、100層まであると言われる鉄の城・アインクラッド──ある一人のプレイヤーが10層まで行くのが限界と言っていたのをケイスケは12層まで辿(たど)り着いていた。

 β版のパッケージを机に置き、ベッドに横たわる。

「一ヶ月で12層───あの時は何回も死んだけど、アイツらの戦法は全部覚えた。製品版では1ヶ月で20層は行ける」

 眠気で重くなっていた瞼を閉じる。明日に備えよう。出来れば早く入手してあの世界(SAO)に戻りたい。





「圭介、起きないとお前を舐める」
「何それ怖い」

 ドアの隙間からボソッと言うな。

 ケイスケは目を細めて口元を歪ませる。

 意識自体は少し前に覚醒していたが布団の中にいると出る気が損なわれてしまう。でも、自分の本能が黙ってはいない。今、この間にもソードアート・オンラインの製品版を手に入れてプレイしている人達がいる。

 もたもたしていたら差を付けられると思い、重く(だる)い身体をベッドから起こして布団から出て行く。

 身支度を済ませ、朝食を摂らずに玄関に向かう。すると、昨日の時点で叔父には外出すると伝えていた事もあり、叔父が玄関で見送りする為に待っていてくれていた。

 行ってらっしゃいと叔父の一言に対し、俺も返事を返す。

「行ってきます」

 玄関の扉を開け、叔父に手を振る。俺はソードアート・オンラインを買いに行くまでの間、ずっと今までのプレイを頭の中で振り返っていた。

 最初に驚いたのはモンスターに対して。他のゲームではスライム相当であるモンスターに攻撃されると意外に吹き飛ばされて、痛覚が無いのに痛いと言ってしまった。

『いやぁぁぁぁらめぇえええええええっっっ!』

 卑猥(ひわい)なことを叫んでる奴もいた。

 次に驚いたのは第1層のボス、『イルファング・ザ・コボルト・ロード』に対してだ。

 自分や他のプレイヤーとは別格の体格、明らかに大きさが別次元の武器。最初は勝てないと思っていたのだが、案外簡単に倒す事が出来た。

 製品版では其処(そこ)考慮(こうりょ)してボス自体に強化補正やらを掛けられているのだろうけど。

 アスファルトを蹴るようにして走り、店に辿り着くと思った通り、行列が出来ている。小学生から大人、幅広い年齢層の人達が並んで列が進むのを待っていた。

「すげー混んでる………だけど────」

 待つ必要がない、何故ならβテスターには特権があり、パッケージに付いてきた"引き換え券のような物"を店員に渡すと優先的に会計を済ませてくれる。だから、急ぐ必要は無かったのだ。

 ついでに説明すると、βテスターじゃない人はナーヴギアを持っていないのでそれ自体も買う事になる。店にとっては良い収入源になるだろう。

 自分を入れ、βテスター達は製品版を購入するだけで済み、出費は激しく無い。逆に持ってない人は十数万円はするナーヴギアを購入すると同時に製品版までも購入しなければいけない。行列を掻い潜り、製品版を手にする。購入し、急いで家に向かう。

「ただいま、叔父さん」

 玄関の扉を開き、叔父に声を掛けるとリビングの方からIloveyouと返事が返って来る───が無視。

 返事を聞くと自分の部屋へと向かい、ナーヴギアに製品版のソードアート・オンラインをインストールさせる。約15分、長い待機時間。待っている間に出来る事と言ったら説明書を読破するなど、他には部屋を整理したり、窓から景色を眺めたり、携帯を(いじ)るくらいか。

 ダウンロード状況が100%になるとすぐさまナーヴギアを被り、布団へと横になる。そして、身体全体を手で触る。

 最初はあまり信じれなかったのだが、ナーヴギアを装着して身体を触ると身体の微弱な電磁波を感じ取ってプレイヤーを認識するらしい。

 仮想世界の動きをどう再現しているのかと聞かれたら納得する。

 更にこのナーヴギア、恐ろしい事にゲームをプレイしている間、首から下の神経を全て遮断(しゃだん)し、プレイヤーを一時的に植物人間に似た状態にしていると言われていた。人体への悪影響はない事が確認されているから気にはしていないが。

「リンク・スタート」

 βテストの時にも言っていた、仮想世界へとフルダイブする為の起動ワード(言葉)を口にする。意識はゲームの中へと吸い込まれ、βテストの時と同じ風景が目に付く。

 『Welcome.to.SwordArtOnline!』

『ようこそソードアート・オンラインへ』という文字が消えるとアバター作成画面へと強制的に切り替えられる。

 アバターに関してはあまりこだわりは無い。(むし)ろどうでもいい。

 大勢のプレイヤー達は他のプレイヤーと被らないように『瞳』、『髪型』、『体型』など細い所まで自分好みにしていくが、発想を逆転させるとデフォルトで始める人はいない。という事ではないのか。

 そもそも、デフォルトは一人のプレイヤーがこの世界(SAO)に降り立つ度に新しい顔のデフォルトキャラクターが生まれて被る事はない。

「名前は圭介でいいかな、どうせ本名付けようなんて人は少ないし」

 βテストの時と同じ名前。オンラインゲームで本名を使う人は数少ないから被る事もあまり無い。ただ、自分の他に"ケイスケ"と付けた人がいたら名前を再設定しなければいけない。

 今回は自分が一番最初のケイスケで唯一のケイスケになった。アバターの外見はデフォルトのまま、名前はケイスケ。

 初期設定が終了すると光に包まれ、一つの街へと放り出される。

『始まりの街』と言われる街で、アバター作成が終わると全てのプレイヤーは自動的にこの街に飛ばされ、ソードアート・オンラインの第一歩を踏みしめる。

 前と同じ感覚、βテストと同じ──変化は無し、か。と内心呟く。

 右手を開閉させながら街の中を見渡すと初心者プレイヤーが多く、初期装備を確認したり、この世界での初期状態で持っている『金』、もとい『コル』を確認している者が沢山いた。

 やるべき事を理解しているケイスケは迷う事なく外のエリアへと向かい出す。

「ねぇねぇ!」

 近くから声がし、前進していた足を止める。

 だが、周りを見渡しても誰もいない。気のせいかと思いつつ、目的地へと再び足を動かすと───服を掴まれる感触が感じられる。

「目の前にいるんだけど?」
「あ、本当だ」

 前を見ると確かに女の子がいる。最初に思ったのが、何この子可愛い。

「君ってβテスターなの?突然なんだけど色々教えてくれないかな!」
「突然すぎるなおい」
「出会いとは常に突然なんだよ?」

 面倒事も突然なんだ。へぇ、ふぅん………うん、何もやることはないですね。

 元気の良い笑顔、突然過ぎる女の子。オマケに話がブッ飛んでいて頭がクラクラしてくる。男を釣って騙す新手の性別詐欺と思い、適当にあしらおうと思った。

 やけに凝ったアバター、バンダナが特徴的な紫髪ロングの女の子。もしくは性別詐欺。見た目は可愛いけど───俺は騙されない。

 詐欺の電話には何回も引っ掛かっているからな。騙そうたって簡単には行かないぞ。

「悪いけど、ネカマに構ってる暇は無いんだ」
「ネカマ?」
「なんでぽかんとしてんだよ」
「ネカマって………カマボコの一種かな?」
「食べ物に失礼だろ」

 最悪なケースが発生。とぼけたフリをする重度の面倒臭いタイプに巡り会ってしまったみたいだ。こんなのには構ってられない。そう思い、無視して避けて行くのだが、避けるまでは出来たけど前に進めないので困ったものだ。自分の服が掴まれて全力で引っ張られているから。

「お願い〜っ!」
「なんで俺なんだよ、離せこの!」
「ボクの直感が、君が良いって言ってるの!」

 そんな馬鹿な……お前の第六感(シックスセンス)優秀過ぎるだろ。

「ふざけんな、直感で人を選ぶんじゃねぇ!」
「色々教えてくれるまで絶対に離さない〜〜っ!」
「分かった分かった、教えるからとっとと離せ!」

 小さい女の子はパッと掴んでいた服を手放す。全力で前に進もうとしていたケイスケは突然放された勢いで前のめりになって顔を地面にめり込ませる。

「やったっ、ありがとねお兄さん!」
「は、はは……どう致しまして………」

 最悪な初日。レクチャーするだけの時間を攻略に費やしていたら一層攻略準備は大体終わるのでは?不安に心を蝕まれながらも移動を始める。

 色々となると『ソードスキル』についても説明しないといけない。言葉じゃ説明しにくいモノを初心者に教えていたらいつ終わるか分かったものじゃない。




 ソードアート・オンラインでの時間は現実の時間と同じで、こっちの世界が昼間であると現実も昼間になっている。

 予想通り、長い時間を一人の初心者に費やしてしまう。昼間から夕暮れがになるまで質問漬けにされ、ソードスキルについても何度も復習した。

 SAO内での教師になれる事間違いなし、ソードスキル専門だが。……イラッとするのが、相手がやけに親しく話し掛けてくる。君のアバター、カッコ良いよねっ!とか。自分のアバターはデフォルトのまんまであり、手は一切加えていないから。と内心ツッコミを入れる。

「俺はもう落ちる。後は頑張れ」
「うん、ありがと………えっと………」

 名前か………………………革命家、ドラゴ───

「ケイスケだよ」

 なんて言うわけない。海軍相手にする位なら街の中で体育座りして親指しゃぶってる。

「ケイスケ、またねっ!」
「またね、じゃない。もう会わないから」

 右手の人差し指を空中でスライドさせる。パネル式のメニューが開き、『option』をタッチした。視線を下へと下げて行き、『logout』を───………無い。『ログアウト』が無い。

「運営のミスか?おい、お前」
「ボクはユウキっていうのっ!」
「あーはいはい、ユウキ。お前の方にログアウトあるか?」
「待ってね……………………………無いよ?」
「お前さ。きょとんとしてるけど、どういうことか分かってます?」
「うんっ!」

 危機感ゼロ、重度の天然らしく、今の状況を理解していないようだ。頼りにはならないので仕方無く自分だけで考える。

 ログアウト不可能、運営にとってもヤバいのではないのか。一時的な問題だとしても仮想世界という檻に大勢の生きている人間を閉じ込めているのだ。

 身内がLANケーブルを抜いてくれればすぐに現実へと戻れるが、一人暮らしの人がいたとすれば相当ヤバい。

 ついさっき起こった問題ならば運営から通知が来る筈が、通知の気配は全く無い。既にパニック状態になっている人も少なくは無いだろう。

 次の朝に(おが)める報道はソードアート・オンラインの記事で一杯になる気がする。

「業者も焦ってるだろうな」
「なんで焦るの?」
「考えろ」
「ボク達は今、抜け出せないんでしょ?」

 存外、ちゃんと状況を理解していたようだ。

「なんだ、分かって………────鐘?」
「聞こえるね」

 夕陽が俺達を照らす中、始まりの街方面から鐘の音が聞こえてくる。時間は5時丁度。

 可笑しい───鐘を鳴らしてどうしようと言うのだろうか。βテストをしていた時は12時や6時、もしくは0時に鐘を鳴らすのが普通だった。

「な、なんだっ!?」
「わわわっ!」

 ユウキは咄嗟に俺の身体に抱き掴まる。

「抱き着くな離れろ!」
「そんな事言ってる場合じゃ無いよ!」

 身体が光に包まれ、何処かへと飛ばされる。光が消えると草原ではない違う場所に転移していた。

「始まりの街?」
「ねぇ、これは一体どうなってるの?」
「分かるわけないだろ」

 飛ばされた先は鐘がなっていた始まりの街で、何故か大勢のプレイヤーが集められていた。

 俺達と同じようで突然転移させられたようなのだが、やけに空が紅い。不安を(あお)ってくるような空気。 此処(ここ)にいるプレイヤーは全員ログアウトが出来ないという事態に気付いているみたいだ。

 えぇ……

 時間が経つと無数の『Warning!』の文字が紅い空一帯に張り巡らされていく。

 気味が悪い文字だらけの空を見てプレイヤー達は、なんかのパフォーマンスか?、なんだなんだなどと野次(やじ)を飛ばす。

 やがて文字からドロドロの血液のようなモノが溢れ出し、血液のようなモノはローブに身を包んだ男になっていく。

「プレイヤーの諸君、私のゲームへようこそ私は茅場晶彦。既に殆どのプレイヤーは気付いていると思うが──メニューからログアウトが消滅していると思われる。これは不具合などではない。ソードアート・オンライン本来の仕様である」

 周りが騒めき出す。ログアウトが無い、意味するのは現実にも戻れないということ───つまり、人間を仮想世界に『監禁』するということではないのか?プレイヤー達の間で疑問が生まれる。

『茅場晶彦』を名乗る男は現状を語る。自分はこのゲームの世界を操れる唯一の人物。

 頭に装着されたナーヴギアが強制的に外されると信号素子のマイクロウェーブが脳を焼き尽くし死に至らせる。

 頭に装着されたナーヴギアを強制的に外された例があり、213人が死亡した事実も確認され、亡くなった人達が運ばれる映像をリアルタイムで日本中に報道されている。

 更に、ヒットポイントがゼロになるとゲームの世界で消滅し、現実世界でも死に至るようだ。

「君たちが今いるのはアインクラッドの最下層、第1層だ。100層をクリアすればこの世界はクリアされ全員がログアウトすることができる」

 『100層』───無理、とは言わないが出来る保証が無い。

 HP(ヒットポイント)がゼロになる恐怖と戦いながら実際に剣を握り、死ぬ覚悟で戦いに出る奴なんてそんなにいる筈が無い。元々はたかがゲームだったのだから。俺自身、実際に死ぬなんて信じている訳では無いけれど──もし、本当だったら永遠に消える。

「最後に私からのプレゼントを用意した。アイテムストレージを確認してくれたまえ」

 周りのプレイヤーはメニューを開き、続いてアイテムストレージを開く。自分自身も周りのプレイヤーと同様、確認してみるが───確かに一つある。『手鏡』と表記された、持っていなかったアイテムが其処にある。

 手鏡をタッチするとアイテムが具現化される。……手元に現れたのは何の変哲(へんてつ)も無い手鏡。

「────ッ!?」

 手鏡で自分を認識すると転移した時と同じ光に包まれた。しかし、身体は何とも無い。………と思っていたのだが、本来なってはならない事が起きていた。

 皆、現実の顔になっている。自分自身も。皆の現実の顔が明かされていく。勿論、隣にいた性別詐欺者と思われる人物も。

「…………は?」
「君、もしかしてケイスケ…………?」

 上目遣いで俺を見つめてくる女の子。本物の女の子がずっと俺に話し掛けて来てたなんて思いもしなかった。

 嘘と思っていたアバターの顔はまんま本物で、変わっていたのは紫だった髪の色が黒になっている事だけだった。

 ユウキがオドオドしながら周囲を見渡している。可愛いからやめろ、口には出さないが心の中で静かに文句を垂れる。

 文句でも無いが。真実に驚愕(きょうがく)しつつも女の子をベタ褒めしていると────

「誰だお前」

 不意に正直な感想が口から零れてしまった。

「えー……さっきまでずっと一緒だったのに……」

 そう言い、ユウキはジト目で見てくる。

 本当は分かっているけどもこれだけは言っておかないと納得出来ない。ごめんなさい、性別詐欺だなんて疑って。

「それではチュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈る」

 茅場が言い放つと周りは一斉に騒ぎ始める。

 泣いて膝をつく者、恐怖に心を狩られてその場で発狂する者。次の街を目指す者。正常な判断が出来ているのは三番目の次の街を目指すという行動をとったプレイヤー達だけ。

 ケイスケもその部類に入るが、隣の女の子が足枷(あしかせ)となって自由に動けない。

 HPゼロが『死』を意味する。これが本当なら、ユウキを置いていったとして、ユウキが何処かで死んだら自分が見殺しにしたようなものだ。

 見知った人を見殺しにする、それも女の子を。心地良いものではない、なら───共に行動する他ない。

「ユウキ、来い」

 普通に考えて女の子にあんまり無理をしてもらいたくないという気持ちが強かった。

 しかし、この世界はレベルがものを言う世界だ。多少はレベルを上げといた方がいいと思う。ユウキの手を引っ張って次の街を目指そうとする。

「分かった、君についていけば大丈夫そうだから………ね?」
「今はレベル上げを頑張るしかないなー…………行くか」
「………うん」

 二人は次の街である『トールバーナ』へと向かって行った。




 デスゲームが始まってから一ヶ月が経った頃──一ヶ月が経っているというのに第1層のボスはまだ攻略されておらず、迷宮区すら突破していない。

 一ヶ月の間に遊びで自殺を(はか)ったプレイヤーがいたが、そのプレイヤーが戻ってくることは無かった。

 自殺によって茅場の言っていた『この世界での死は現実での死を意味する』という言葉の信憑性(しんぴょうせい)がかなり高くなっていた。

 結果、剣を握るプレイヤーが少なくなり、ボスを攻略しようという者が少なくなっていた。

「ユウキ、前!」
「やああああぁああぁ!!!!」

 ユウキの持っている剣が黄緑色に輝き、ソードスキルであるソニックリープを敵に当て、ルーウルフを横に一刀両断にする。

 ルーウルフは結晶体となり消滅し、今の戦闘によって二人のレベルが1上がる。雑魚敵を狩りながらレベルを上げるのは効率が悪いが、今の俺達に出来るのはこの位しかない。

「レベルが上がったよー!」
「俺もレベルが上がったよ。いつも通り、良い感じの収入源だな」

 何処の世界でも(マネー)は大事だと思います。そのおかげで御立派な装備を揃えられてるんだし。

 経験値こそ不足しているけれど、お金の面には全く困ってはいなかった。

 始まりの街近くのイノシシとかは15コルしか落とさない。しかし、今のモンスター、ルーウルフは500コルも落とした。第1層では流石にレベリングをずっとしているとそのレベルにあった武器を作る為にコルが必要なので結構貴重だったりするのだが、溜まりに溜まった小銭のおかげで武器は常に最新装備。

 因みにケイスケは槍のスキルを上げている。武器の名前は《アロイスピアー》、ユウキは片手直剣のスキルを上げている。武器は《アロイソード》。

 槍は良いものだ。リーチは長いし、威力面も不十分ではない。

「今のでレベルはどのくらいだ?」
「ボクの今のレベルは12だと思うよ〜、違った11だ」

 ケイスケとユウキは安全マージンを取るため階層+10のレベルにしているのだが、安全マージンを取るものは現在でもかなり少ない。それはさっき言った通り、剣を握るプレイヤーがあまりいないから。

 ケイスケ達がこうやって必死に戦っている間も大半のプレイヤーは安全な場所で指を咥えてデスゲームが終わるのを待ち続けている。

「今日は一旦終わろう」
「そうだね〜、行くところがあるもんね」
「ちゃんと覚えてたのか。偉い偉い」
「馬鹿にしてるでしょ」
「会った当時は馬鹿というよりも天然馬鹿だと思ってた」
「馬鹿だと思ってるじゃん!」

 本来ならば狩りを続けていたが今日は早めにレベリングを中止する事に。何故かと言うと今日の昼、大体1時間後に初の第1層攻略会議が開かれる。

 取り巻きがいるとは言ってもボス自体は俺一人で十分余裕だけどと、ケイスケは心に余裕を持っていた。

 ただ、面倒な事に今回は味方が大勢いる事。

 普通の奴らが突っ込んで行ったらレベル的には数分は耐えれるだろうけど、取り巻きがボスを倒すまで湧き、ボスのヒットポイントを4分の1にすると大曲剣タルワールに変えて攻撃をしてくる 。

 βテストの時に学習済みだが、他のプレイヤーの大半はこの事を知ってはいないだろう。となると───戦い方も完璧には把握(はあく)してない。つまり、自分が大勢のプレイヤーのカバーをする事になる。………しょうがない事だ。

「今日は攻略会議だけど………攻略会議ってことは誰かが迷宮区を突破したのかな?」
「少ないって言っても安全マージンを取ってる奴らは俺達だけじゃないし、第1層の迷宮区位は余裕で突破出来るんじゃね?βテストの時は第2層からだけど俺一人で突破出来たし」

 寧ろ、一方的に蹂躙してた。対人じゃないなら、CPUなら少し相手をしたら行動パターンが分かるし。

「意外と簡単なの?」
「ん〜〜、序盤は簡単に負けないのがRPGゲームだしね……飛び降りとかしてるプレイヤーがいなかったらもっと生きてるプレイヤーがいる。それくらい序盤の難易度は易しい筈なんだけどな」

 俺自身が飛び降りる瞬間を見たわけじゃないから確信は出来ないけど………流石に最初の内にモンスターにやられるなんてことは無い。とは言っても座り込んでいる奴らを見る限り、『生きた屍』と言っても違和感は無い。

「………これじゃ死んだと一緒だよ」
「…………だな」

 《始まりの街》に残っている人も多いが、此処、《トールバーナ》に残っている人もかなりいる。皆死にかけた顔をしているが。

「気付いてるなら戦えばいいのに……ちょっち鍛冶屋よるわ」
「うん、分かったよ」

 確かにこの層の安全区にいれば安全だ。

 だが、現実の体はどうなっているのだろうか、現実の体は何も食べていない為、いつかは死に至る。

 戦っても死ぬかもしれないし、戦わなくても死に至る。このソードアート・オンラインをクリアするまではずっと。

 座り込んでいても意味はないのに、誰かがやってくれるなどという考えで他人に押し付けて自分は安全な所で待機している。そんな奴らを見るだけでストレスが溜まっていく。

「ほらよ、ユウキ」

 ユウキを呼び止め、手に持っている物を頭に乗せる。

「これどうしたの?」
「さっき狩ったルーウルフの毛皮で作ってもらったコートだよ。ボス戦は防御力を少しでも高めとけ。」

 ほんの僅かな防御力上昇でも甘く見ると痛い目に合うよほんと。僅かな防御力が一撃の致命的攻撃をギリギリ二撃に抑えてくれるかもしれんし。

 大勢のプレイヤーがいる中には『戦いはしないけど貢献をしよう』といった考えのプレイヤーもいる。

 そんな人達のお陰で二人は常に強い装備の状態で戦場へと向かう事が出来た。勿論、そういった人達には感謝をしているし、時々だが御世話になっている鍛冶屋の人などに素材を無償で提供している。

「ケイスケはコートないの?」
「俺は攻撃を根性で避けるから別にいいよ」
「凄いね………」
「根性があれば何でも出来る」
「何でもは無理でしょ」

 実際、『根性』では無く、βテスト時の経験を活かし、相手の行動を理解して攻撃を避けている。ユウキにレクチャーする時に負ったダメージを除くのなら俺はまだ無傷だ。




「はーい!皆集まってくれてありがとう、俺はディアベル。職業は気持ち的に騎士(ナイト)やってます!」

 ジョブシステム等は存在しないのに自称『ナイト』を名乗る男。彼の冗談に周りからは笑いが溢れてきた。

 攻略会議の為にあらゆる人材を掻き集めた張本人、《ディアベル》。ケイスケとユウキもこの男に声をかけられて参加していた。

 そして、自分はこの男を知っている。もしかすると違う男かもしれない。名前だけならβテストの時に確認している。

 βテスターの時は第1層のボスに何度も挑戦しては倒されている男。その分第1層の攻略には詳しいと解釈でき、ボスの行動パターンに関しては俺よりも詳しいかもしれない。

「昨日俺のパーティが塔の最上階でボスの部屋を発見した。」

『マジかよ』、『やっと見つけたのか』、『無事に帰ってこられて何よりだ』、などの声が上がる。

 自分からしたら第1層の迷宮区を突破する事は簡単だし、今更かと思う。

 自分が前線に行かないのは隣にいる女の子を危険にさらさない為だからであり、一人であるならば既に迷宮区を攻略し終わっている。

 前に一人で迷宮区に向かおうとしたら『ボクも行くっ!』、駄目だと言ったら『ケイスケ一人じゃ危ないよ』と言って抱き付いて来ていた。

 横をチラッと見て、"眠りかけている"ユウキの頬を突いて遊ぶ。

「ちょっと待てや!」

 遊んでいると上の方から声が聞こえ、特徴的な髪型をしたプレイヤーが走り降りてくる。

「ワイはキバオウっちゅーもんや!攻略会議する前にこんなかに皆に詫びを入れなあかん奴がおる筈や」

 優遇(ゆうぐう)されたβテスターを嫌う者、別に珍しくもない。

「その、詫びをする奴というのは元βテスター達の事かな?」
「そや!あいつら情報を独り占めしてるんや!ここに装備とアイテムを置いてかなあかんと一緒に戦う事はできへんで!」

 面倒な提案をする奴もいたもんだ、と思いながらもユウキの頬を突く。

 例え提案が取り入れられても名乗りでなければバレる事はない。相手からして見た事のないアイテムや武器を持っていても『偶然手に入れた』の言葉で済む話。

「発言いいか。俺の名はエギル、あんたは情報を独り占めにしているβテスターが許せなく、アイテムと装備をここに置いていけと言っているんだよな?」
「そや!なんか文句はあるんかいな!」
「これが何かわかるか?」
「………そんなん雑貨屋行ったら配られているガイドブックとちゃうんか?」
「ああ、そして、これを配っていたのは元βテスター達だ。いいか皆、情報は誰にでも手に入れられているんだ。ここではそれを踏まえて論議されると俺は思っていたんだがな。」
「ぐっ……」

 悪人の中にも善人はいるって事かな。いい人だ。場の雰囲気が悪くなるのを防ぎ、尚且つ不満を抱いてる者に正論で応える。そういう人がいるだけでチームという物が築き上げられていく。

「ゴホン、攻略会議の続きなんだが…つい先ほどこの本の最新版が配られた。ボスの名前はイルファング・ザ・コボルト・ロード。こいつは最初は盾有りのアックスを使っているがHPが4分の1になると大曲剣タルワールへと持ち替えるらしい。しかもこのボスの取り巻きにルイン・コボルト・センチネルというのが出てくるらしい。」

 ディアベルはボス攻略に向けての会議を始める。始めるのはいいけど……

「集中、集中……集中って何ですかね」

 顔、近ぇよ。焦ってなんかいない。焦ってなんかいないから。

 "眠りかけていた"ユウキはとうとう"眠った"。

 全体重がケイスケに寄り掛かり、頭をケイスケの肩に乗せて寝息を立てている。

 普通にヤバい。異常なまで近距離に女の子が近付き、顔が近いせいか、無駄に意識をしてしまう

 顔を段々と紅潮させて行くケイスケを無視して会議は進んで行く。気付いて欲しいなんて思ってない。……寧ろ気付くな、恥ずかしいから。

「ボス戦ではパーティを組んで戦った方が有利に動く。それじゃ取りあえず皆、パーティを組んでみてくれ」
「起きる時間だ………ぞッ!」
「痛い!」

 柏木家伝統奥義って奴だ、通称『頭蓋破壊(デコピン)』。なんだかレベル4並の能力ありそう。

 ユウキにデコピンを一発、入れてみる────すると飛び起きた。

「い、痛いよ…………」
「デコピンなんて久しぶりにやったな。小学校以来やってないからドキドキした」

 いかに的確にぶち込むかが重要。

「女の子に本気の一撃を叩き込むなんて普通じゃないよ!」
「俺も女の子に己の指を放つのは初めてだったよ」
「反省してよ!」
「そもそも痛覚なんて存在してないんだから痛くないだろ」
「反射的に言っちゃうんだよ!おでこに若干違和感が残るの!」
「若干かよ………どれ」

 そう言ってユウキの額に自分の手を当てる。

「ちょ、ちょっと………!」

 反射的にユウキは俺の手を取り払う。顔を赤くして俯いているのだが、良く分からない。

 ユウキはふいっと顔を逸らすと、目に映った光景に疑問符を浮かべていた。

「騒がしいけど、何かあったの?」
「あぁ、仲間組んだ方が戦いやすいからパーティ作れってさ。俺達は二人でじゅうぶ──」
「なら、早く作ろうよ!メンバーは多い方がいいからね、さぁさぁ作りにいこっ!」

 は、お前、

 周りがパーティを組んでいるのを見てユウキは『早くパーティ組まないとっ』というのだが、自分は別に二人のままでいいと思っている。

 余計な足手纏いが増えると後々面倒になってくるから………って言っているのにユウキは自分達と同様、二人組みのプレイヤーの所に引っ張ろうとする。

 分かったから離せ、と言うと嬉しそうにして二人組みのプレイヤーの所に向かって行く。

 近寄って声をかけたのだが極度の人見知りなのか、相手はあまり言葉を交わそうとしない。フードを被った女性プレイヤーは無口。辛うじてコミュニケーションを取ってくれる同い年と思われる男性プレイヤーは名前を教えてくれた。

「俺はキリト」
「宜しくキリト、ボクはユウキっていうんだよ〜」
「くいくい引っ張るな襲うぞ」

 ハラスメントコードなんて使わせない。使おうとした瞬間に土下座してやるからな。

「俺はケイスケだよ」
「………あぁ、宜しく」

 ケイスケ達は握手をしてその場を立ち去った。




「どうなってやがる」

 時刻は夜のド真ん中、何故にベッドが一つなのだろうか。

 二文字で表すなら────────────事件。誰が何と言おうが事件だろ。

「ボクは別に構わないけど?」
「お前はアホか。男女が屋根の下、しかも密室の中に2人だぞ。恐ろし過ぎるシチュエーションだわ」
「うん、安全だよね!」
「うん、分かってないね。お前がベッドに寝ろ。俺は床で寝るから」
「ケイスケが寒くて風邪引いちゃうよ」
「ゲーム内じゃ風邪とかいう状態異常ないから」

 はい、俺の勝ち。

「凍結しちゃうよ?」

 は、は?

「俺は宿に殺されるのか。ふざけんな」

 状況を説明すると、パーティを組んだ後に攻略会議は解散され、宿に向かったのだが────一つの部屋にベッドは一つしかありませんでした。などという稀にある安価な宿の所為で窮地(きゅうち)に立っているケイスケに対してユウキは異常な程しつこく、ケイスケを一緒のベッドで寝させようとする。

 床で寝ようとするとユウキ様御得意の『〜くれるまで離さないっ!』と言い、服を引っ張る。

 もう、ユウキが半周回って可愛く思えてきてしまう自分がいた。

 長い間、論争が続いて最終的に首に抱き着かれ強制的に落ちたのは言うまでもない。





「ケイスケ〜〜っ!」
「何だよ」
「何でもないよ〜」

『呼んでみただけ』というやつだろうか。もしかして───弄ばれている………?

「君はなんでフードをいつも被ってるの?外した方が可愛いのに」
「…………別にいいじゃない」

 フードを被った女性プレイヤーはか細い声で呟く。

 第1層ボス攻略開始当日になるとプレイヤー達の士気は高まり、『今日は行けるな』と言う者がちらほらと出て来る。

 それぞれの役割を果たす部隊は『A』、『B』、『C』隊と分けられ、作戦は自分達を含めグループ4つの一塊、B隊で取り巻きの《ルイン・コボルト・センチネル》をA隊のタンク隊(最前線攻撃部隊)に近づけさせないこと。

 至って簡単、自分達が取り巻きを片付けてタンク隊が一気にボスを倒すという作戦。

 因みに残りのC隊は俺達が片付けきれなかった取り巻きを倒すという作業をする。

 俺が『行くぞ』と声をかけるとキリトとユウキが『分かった』と言い、無口な女性プレイヤーは頷いた。ボス部屋の扉が開く────

「全員、突撃!」

 ディアベルが戦闘開始の合図を告げた途端(とたん)、場にいる全てのプレイヤー達が叫びながら突撃し、剣を振り下ろして行った。

 男共の獣じみた叫びの中、刃物が敵の肉に突き刺さる鈍い音や金属同士がぶつかり合う音が耳を突き刺す。

 相手の動きはβテストと変わらない短調な行動(コマンド)。…………弱すぎる。ボスであるイルファング・ザ・コボルト・ロードを観察していてもβテストと変わらない。これなら行けると確信していた。

「B隊は───」

 ディアベルがケイスケ達の隊に指揮を出すが言い終わる前にケイスケは行動する。

 ルイン・コボルト・センチネルに近付いてソードスキル、ツイン・スラストを発動した。槍で雑魚を斬り刻み、一体が終わると、また一体。

 テストの時と変わってない。この調子なら誰も死なないで─────勝てる。

「ユウキ、前に出ろッッ!」
「スイッチっ!」

 ユウキの剣は甲高(かんだか)い発動音を立て、ソードスキルのソニックリープを発動し、ルイン・コボルト・センチネルを攻撃する。

 獣独特の醜い声をあげ、ルイン・コボルト・センチネルは結晶体となって消滅していく。

 アイツ等(キリト達)は大丈夫なのか、と心配して視線を切り替えるが心配するだけ野暮だったらしい。

 ………女性プレイヤーの動きが速すぎる。

 特に凄いのが細剣の手捌きで、ソードスキルを発動してる訳でもないのに発動してるかのような異常な太刀筋。

 キリトはその有り様に驚き、グッジョブと賞賛の言葉を向けていた。

 ユウキの方に視線を戻すと背後からルイン・コボルト・センチネルがハンマーを振り下ろそうとしている。ケイスケは全力で近付き、それを阻止する。…………軽い、が────

「馬鹿かお前は余所見するな」
「ご、ごめん…………」

 誰一人、死ぬなんてことは許さない。

「もう下がれよ」
「う、うん!」

 誰一人として死んで欲しくないんだよ。

『お父さんとお母さんを返せ』
「誰も、殺させない。勝たないと、いけないんだ」

 言われた通りユウキは後退して行く。

 無事に後退するのを目で追っていると、リスポーンしたばかりのルイン・コボルト・センチネルが再びユウキに標的を定めていた。

 気付いたユウキが、あっと声を漏らすが───剣で防ぐのに間に合わない。

「あ………………ぁ……………」

 ケイスケは口をパクパクとしながらユウキに向かって手を伸ばしているだけで足を動かす事が出来ない。

 ユウキは体勢を崩し、倒れ込む。もう駄目だと絶望していると緑色の光を帯びた剣がルイン・コボルト・センチネルの首を根刮ぎ斬り飛ばしていく。

「大丈夫か?」
「あはは……死んじゃうかと思ったよ………」

 救ったのはキリトだった。ユウキに手を差し出す、ありがとうと言ってユウキは手を取って立ち上がった。

「…………っ」

 拳を握り締め、今度は何も言わずに戦闘に戻って行った。

 ケイスケ達はその後もずっと湧いてくるルイン・コボルト・センチネルを倒し続け、イルファング・ザ・コボルト・ロードのHPが4分の1になり大曲剣タルワールに装備を切り替える───筈だった。

「(野太刀?何でお前が持ってんだよ)」

 ケイスケは不審に思う。

 ボスの持っている武器は《野太刀》。第1層のボスであるイルファング・ザ・コボルト・ロードが持つ者ではなく、第9層のボスが持っていた武器。

 武器のレベルが格段に違う《野太刀》に斬られたりでもすれば、それは死へと直結する。

 何で?俺の脳では理解不能だったが────『製品版ではボス自体に強化補正が…………』、"変わっていなかった"訳ではない、ちゃんと"変わっていた"。

「君達は下がっていろ、ここからは俺がいく!」

 タルワールの場合は横に大振りに斬るが、野太刀は違う。最初の攻撃はジャンプからの素早い攻撃で、第9層まで辿り付いたβテスターでないと気付くことは出来ない。

 「(は?おい。何言ってんだよ。お前βテスターだろ?野太刀の攻撃パターン位分かってるんじゃねぇのかよ。………まさか──────)」



 知らない?




「やめろおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!!!」

 ボスの持つ大振りな刀がディアベルを襲う。

 今までの敵とは別次元の威力。

 振り下された刀はディアベルの首元を捉えていた。刀はディアベルの首に食い込み、吹き飛ばしていった────ボトッと鈍い音。

 何かが地面に叩きつけられる音。

 ディアベルの首がない、膝をついたまま動かない…………残されたディアベルの胴体は時間が流れていくとやがて結晶体となって消滅した。

 目の前で人が死ぬのはこれで二回目、全身から血の気が引いていく。

「ああああ"あああ"ああああ"あああ"ああああ"あ"ああッッッッッッ!!!!!!!」

 瞬間、狂ったかのように槍を振り下ろした。目の前の敵を一方的にグシャグシャにしてしまってもディアベルが帰ってくる事はない。

「死ね、死ね死ねッッ!!クソ野郎ッッッッ!!!」

 其処にはボスの姿はもう無い。それでも尚、刺すそぶりを止めようとしなかった。

「ケイスケ……」

 自分に向かって手が差し伸べられるが伸ばされた手を弾き、拒む。きっとその時、自分の顔は歪んでしまっている。

 見ていただけだった。

 やれることはあったのに。

 最初から行動していれば良かった。

「何が……何がβテスター最強だよ……誰一人守れやしないのに……誰も死なせないって言うんじゃねぇよ俺────

 
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