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ダンディズム

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3部分:第三章


第三章

「というかそうしてくれるんだ」
「そうよ。お金は気にしないでね」
「そっちはいいんだ」
「安いお店知ってるから」
 声が微笑んでいるのがわかった。孝宏にもだ。
 そんな話をしながらだ。二人の部屋に入って着替えているとだ。ここでも英美里が言ってきた。
「あと。シャツとトランクスもね」
「こっちはどっちも古いけれどね」
「いいお店知ってるから」
 こう言うのである。
「買っておくわね」
「悪いね、何から何まで」
「だって。私孝宏君の奥さんだから」
 にこりと笑ってだ。彼の顔を見て話す英美里だった。
「家事と服のことはね」
「してくれるんだね」
「だから任せてね」
「うん、そうさせてもらうよ」
 孝宏は普段着になってそのうえで英美里に応えた。そうしたのである。
 まずはここからだった。ネクタイが見事なものになった。それを見てだ。
 課長はだ。会社の中で彼に笑いながら言ってきたのである。
「まずはそこからだな」
「何がですか?」
「一点豪華主義からなんだよな」
「何か江戸っ子みたいなこと言われますね」
「ははは、そこからなんだよ」
 ここで孝宏は気付いた。課長が彼のネクタイを見ていることをだ。
 それでだ。こう課長に尋ね返したのだ。
「これのことですよね」
「そう、それだよ」
 課長は彼がネクタイに手を当てながら話すのに応えた。まさにそれだというのだ。
「そのネクタイだよ」
「これ妻に買ってもらったんです」
「いいネクタイだろ」
「はい、八条グループのネクタイですね」
 系列会社のだ。そうした紳士服の会社で作られているものなのだ。
「それなんですよ」
「そこからだよ」
「そこからですか」
「さて、君がこれからどうなっていくのか」
 実に楽しそうに笑ってだ。課長は自分の甥になった孝宏に言う。
「見せてもらうか」
「お話がよくわかりませんが」
「それはこれからわかるよ」
 今は笑ってこう言うだけの課長だった。しかしだ。
 孝宏は次第に変わっていった。シャツにトランクスもこれまでとはうって変わって見事なものになり靴もだ。見事な靴が何足も入った。
 そしてだ。さらにだった。
 ブラウスもだ。長い間着ていたものからだった。
「いいブラウスだな」
「これも妻に買ってもらいました」
「君の給料からにしてもだね」
「まあ妻もパートに出ていますし」
 所謂共働きである。
「お金はそれなりにありまして」
「だからそういうのを買っても困らないね」
「領収書見てたら本当に安いんですよ」
「英美里ちゃんはそういう店を見つけたりものを買ったりするのが上手なんだよ」
「そうだったんですか」
「あれでね。しっかりした娘だよ」
 姪をだ。課長はここぞとばかりに褒める。
「外見はお気楽な感じだろ」
「まあそう見えますね」
「しかしそれでもなんだよ」
「実はしっかり者なんですね」
「それがあの娘なんだよ」
 完全に姪の売り出しになっていた。だがそれも課長にとっては自然なことだ。
 
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