英雄伝説~光と闇の軌跡~(3rd篇)
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10章~遠い炎群 ~ 第102話
~紫苑の家~
「………そ、そんな………こ、これが………再現されただけのニセ物………?」
”紫苑の家”の敷地内に足を踏み入れたリースは周囲を見回して驚きの表情で呟き
「ああ………まさに本物としか思えへんな。なんちゅうか………空気の匂いまで同じって感じや。」
「………うん。」
懐かしそうな表情のケビンの言葉に寂しげな表情で頷いた。
「”紫苑の家”………どうやら七耀教会に関係する建物のようですね。」
「ええ、教会が運営する『福音施設』……まあ、修道院に近い孤児院みたいなもんですわ。」
周囲を見回して呟いたクローゼの疑問にケビンは静かに頷いて答えた。
「そうでしたか…………では、もしかしてケビンさんも………」
「ええ、孤児っちゅうヤツですわ。ま、色々あってここに世話になったんですけど。それにしても………ここに帰って来るんはちょうど5年ぶりくらいかな。」
「ケビン…………」
「…………………」
悲しげ表情のリースの視線にケビンは何も答えず黙って考え込んだ後、リース達に振り返って提案した。
「いずれにせよ………”第九星層”への手掛かりはここにあるはずや。まずは、敷地の中を一通り調べてみるとしよう。」
「うん………そうだね。」
その後ケビン達は鍵がかかっている礼拝堂内以外を探索し、ケビンとリース、そしてルフィナの過去の話に談笑し、再び鍵がかかっている礼拝堂の前に来た。
「……何もなかったね。あるとしたら鍵がかかっている礼拝堂………?」
「ああ…………………………………」
「ケビン………?」
考え込んでいるケビンに気づいたリースは不思議そうな表情でケビンを見つめ
「………なあ、リース。あの日………礼拝堂の当番はお前だったそうやな?」
見つめられたケビンはリースに振り向いて尋ねた。
「え…………」
ケビンの疑問を聞いたリースは訳がわからない様子だったが
「この”紫苑の家”最後の日………ルフィナ姉さんが死んだ5年前のあの日や。」
「………っ……………」
ケビンの言葉を聞き、辛そうな表情になり
「ケビンさん………!?」
「………その話が何か関係あるのですか?」
クローゼは心配そうな表情で真剣な表情のリタと共にケビンを見つめた。
「オレ、あの事件の後、院長先生を見舞った時にそう聞いたんやけど………どうや、合ってるか?」
「……う、うん………その通り…………だけど。」
「そっか………なら、リース。懐かポケットを調べてみろや。礼拝堂の鍵、入ってるはずやで。」
「え………」
ケビンの言葉に驚いたリースは自分の修道服を探った。すると胸元のポケットから古びた真鍮の鍵が出て来た。
「あ………」
「それは………!」
「なるほど………想念が現実となる世界……その法則がここでも働いたのですね。」
見つけた鍵を見たリースとクローゼは驚き、リタは納得した様子で呟いた。
「ま、オレもさすがに自信はなかったけど………今までの領域は全て、必然のある者が選ばれてた。その意味では、リース。お前がここに来るのもやっぱり必然だったわけやな。」
「そんな………でも………………まだ信じられないけどこれは確かに礼拝堂の鍵………とにかく使って中に入ってみよう。」
「………ああ。」
そしてリースが礼拝堂の鍵穴に鍵を差し込もうとしたその時
「リース、一つ言っておく。その扉を開いたら………もう、後戻りはできへんぞ。
真剣な表情のケビンが忠告した。
「え………」
「あの日、起こった真実をお前は全て知ることになる。………その覚悟はあるか?」
「………………………………」
ケビンの忠告を聞いたリースは黙って考え込んでいたが
「………望むところ。この5年………私はずっと納得いかなかった。あの後、私を含めたみんなは他の施設に引き取られて………従騎士の修行に入る前にここに行ってみたらすでに取り壊されていて…………だから………とっくに覚悟はできている。何よりも………姉様とケビンに近づきたいと思っているから。」
決意の表情で答え、優しげな微笑みを浮かべた。
「そっか………わかった。とっとと中に入るか。」
「うん………」
そしてリースは鍵穴に鍵を差し込み、扉を開いた。
「………………………………」
「………ケビンさん。もしかして私達は外で待っていた方がいいですか?」
扉の先を見つめ続けているリースを見たリタはケビンに尋ねたが
「いや………できれば一緒に来てほしい。ある意味、君達にも関わりのある話やしな。」
ケビンは首を横に振って答えた。そしてケビン達は礼拝堂の中へと入って行った。
~礼拝堂内~
「………………………………」
「5年前………何者かに雇われた猟兵団がこの”紫苑の家”を占拠した。なあリース。お前、その時のことどれだけ覚えてるんや?」
「わ、私は………突然、黒い男達が門を破って入ってきて………みんなを縛り上げて………先生を2階に連れていって………それで………」
ケビンに過去を尋ねられたリースは戸惑った表情で答えようとしたが
「………気付いた時は街の病院のベッドやった。そこでオレとルフィナ姉さんが助けに来たことと………そして姉さんが殉職した事を聞かされた。………そんな所か?」
ケビンが続きを答え、確認した。
「………うん。ねえ、ケビン………あの事件は一体なんだったの?教会に敵対する何者かの仕業だって聞いたけど………ケビンとあれから一度も会えなかったし………セルナート教官に聞いてもぜんぜん教えてくれなくて…………」
「ま、総長の立場になるとさすがに簡単には話せへんやろ。」
リースの疑問にケビンは答えた後、一息つき
「………まさかこの施設が封印指定された古代遺物の目眩ましに使われてたなんてな。」
「………………………………え。」
意外な答えを言い、ケビンの言葉を聞いたリースは黙り込んだ後、呆けた表情で呟いた。そしてケビンは女神の彫像が彫られてある壁に近づき
「………ここや。」
スイッチらしき場所を押した。すると壁が動き出した!
「!?」
「隠し扉ですか………!」
それを見たリースは驚き、リタは真剣な表情で呟いた。その後ケビンは隠し扉の先へと進もうとしたが
「ま、待ってケビン………!封印指定された古代遺物………まさかこの下には………!?」
仲間達と共に慌てた様子で追いかけたリースに呼び止められ、足を止めた。
「………その通りや。この下にはグランセル大聖堂の地下にあったのと同じ場所………古代遺物の封印に使われる”始まりの地”がある。
「!!!」
そしてケビンの答えを聞いたリースは目を見開いて驚いた。その後ケビン達は地下への長い階段を降り始め、歩きながら過去を話し始めた。
「………あの日。覚えてるとは思うけどオレとルフィナ姉さんは久々に帰省する予定やった。それぞれ別の任務に就いてたからいったん街で合流してから一緒に帰るつもりやったんや。………だけど姉さんの乗るはずやった列車が遅れて………オレだけ先に到着した所でその報せが飛び込んできた……」
リースに説明していたケビンは昔の自分を再び思い浮かべた。
「お前とチビたちが危ない………そう思ったオレは、単独行動で占拠していた猟兵の掃討を決行した。正直、練度は大した連中やなかった。従騎士程度のオレでも一通りの連中を無力化してチビたちと先生を解放できた…………だが、そこにお前はおらへんかった。チビたちから、猟兵の一人が気絶したお前を運んでどこかに向かったと聞いて………手当たり次第に探したオレは何とかこの場を探り当てた………なあ、リース………お前、気がついた時、リボンをしてへんかったやろ?」
「う、うん………でも、どうして……?」
ケビンに尋ねられたリースは戸惑った表情で頷いた後、ケビンを見つめた。
「お前のリボンがな、あの隠し扉の前に落ちてたんや。真新しい足跡もあったから何とか気づくことができたわ。」
「あ………」
「そして………お前を運んだ猟兵を追ってオレはこの場所に降りていった………」
そしてケビン達はついに長い階段を降りきって、行き止まりに到着した。
「なあ、リース。初めて合った時………オレがどんなだったか覚えてるか?」
行き止まりに到着し、立ち止まったケビンは振り向いてリースを見つめて尋ねた。
「………うん。私はまだ小さかったけど………不思議とあの時のことは覚えてる。あの時のケビンは………全てに絶望した目をしてて………正直……ちょっとだけ怖かった。この子はいったい何を見てきたんだろうって………」
「はは………何を見てきたか。」
リースの言葉を聞いたケビンは寂しげな笑みを浮かべた後、少しの間黙り、そして話し始めた。
「どうやら姉さんは知っとったみたいやけど………あの時な、オレ、自分の母親を殺してるねん。」
「……………っ………!?」
「!?」
「………な……………!?」
ケビンの話を聞いたリース達は信じられない表情をしてケビンを見つめた。
「ああ、殺したってのはちょいと大げさすぎたかもな。見殺しにした………ってのが正確かもしれへん。」
リース達の様子を見たケビンは苦笑した後、かつての自分―――アルジェント姉妹と出会う前の自分の姿を思い出して話し始めた。
「元々ウチは、母一人、子一人の家族やった。親父もたまに顔を見せたけどどうやら他にちゃんと家族のいるどこぞの金持ちだったみたいでな。でも、そんなんは関係なしにオレは母ちゃんの事が好きやった。この言葉遣いを近所のガキどもにからかわれたこともあったけど、大抵ボコボコにしてやったしな。料理好きで暖かくて………自慢の母親だったんや。でも7歳の頃………母ちゃんは親父から捨てられた。元々心の弱い人でな………みるみる元気がなくなって身体の調子も悪くして………オレ、色々頑張ったやけど全然元気付けられへんかったわ。そして………ある冬の日やった。母ちゃんが………寝てるオレの首を締めてきたんは。」
「!!!」
………ごめんな…………ごめんな………ケビン………でもお母さん………もう………疲れてしもうたんや………だから………だからな……ケビン………このまま………お母さんといっしょに………
「ま、苦労させるくらいなら一緒にラクになろうって話やろ。でもオレは………それには付き合えへんかった。夢中で母ちゃんを突き飛ばして………雪降る街に裸足で飛び出していった。母ちゃんのした事の意味もわからずにただただ混乱して、小一時間さ迷った。そうして腹も減って………母ちゃんのことが気になって……恐る恐る家に戻ってきたら………自分の腹に包丁を刺して、大量の血を流して倒れている母ちゃんがいた………」
「………ケ……ビン………」
ケビンの壮絶な過去を知ったリースは悲痛そうな表情でケビンを見つめた。
「はは、すまんな。しょうもない話を聞かせて。せやけど………多分、その時なんやと思う。……オレの中に”聖痕”が刻み込まれたんは。」
「え………!?」
自分の説明を聞いたリースが驚いたその時、ケビンはリースに背中を向けて星杯のロケットを掲げた。するとロケットは光を放ち、光が収まると行き止まりだった場所に扉が現れた!
その後ケビン達は”紫苑の家”に隠された”始まりの地”に足を踏み入れた……………
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