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第二章 理想の少女
厄介な人物
例の件があってから数日が経過した。
現在アリシアは、預かっているシャーロットと一緒に事務所で目玉焼きを作っていた。
ちなみにシャーロットと一緒にいる“機械妖精”のメイベルは、本棚の一角に敷かれたクッションの上で、気持ちよさそうにすやすやと眠っている。
正確には、余計な“有機魔素化合物”の消費を抑えるために機能を“眠り”をしているだけである。
だがその様子があまりにも気楽そうに見えて、アーノルドは苛立ちを覚えてしまう。
面倒事ばかりが増えていくのはアーノルドにとって好ましい状況ではない。
けれど現状では、それを受け入れざる負えないのだ。
そう思いながらアーノルドは、先程から実の姉妹のように楽しそうに料理を作っているアリシアとシャーロットの後ろ姿を見る。
お揃いのエプロンをつけながら、先程は目玉焼きを作るのに失敗したシャーロットにアリシアが、よし、それは卵焼きにしようと言って楽しそうに焼いているのを見た。
ほほえましい光景なのだが、アーノルド素直に喜べない。
何しろアリシアもここに寝泊まりすると言い出したのだ。
シャーロットを預かることになった事で、ここで料理をするらしい。
しかも料理の作り方や、お菓子の作り方を知らないシャーロットに、アリシアは教える楽しみを見出していた。
更にシャーロットもそんなアリシアを、姉のように慕っている。
はっきり言って事情が事情なために、シャーロットとアリシアがあまりにも仲がいいと……アリシアに危険が及ぶのではないかと思ってしまう。
アーノルドにとってのアリシアは、恩人の子供であり、そして大切な“妹”のような存在だ。
だからもっとこんな場所に来るのではなく、普通の人生を送って欲しいと思う。
今、アーノルドがいるこの場所はとても“危険”だ。
けれど、それでもアリシアはここに来てしまう。
理由は、“有機魔素化合物”だ。
アリシアはそれを作ることが出来る。
だからそれに頼ってしまっているから、ここに来るのをアーノルドは止められない。
「もっと繁盛すれば、そんなアリシアの力を借りなくても済むのにな」
一人呟くも、幸いにもアリシア達は料理が夢中で気づかなかったらしい。
それに安堵しながらアーノルドは、これからどうしようかと考える。
先日の件は、やはり“異常”な出来事だ。
出来れば関わりたくなかったが。
「デザイナーズチャイルド、ね」
アーノルドは、その嫌な響きを口にする。
一度関わってしまったのと、使い勝手が良いのもあって選ばれたんだろうか。
内部的なしがらみがあってこちらに預けたらしいが、こちらとしては、特にアリシアがあのシャーロットという少女に“情”を持ちすぎて自身の身を危険に晒さないかが心配だ。
ああ見えてアリシアは正義感が強く直情的だ。
そして情が深い。
その性格はあアーノルドにとって好ましいものではあるが、今は、そんなものがなければと思わざる負えない。と、
「さて、出来た。今日は焼きたてのクロワッサンが安売りだったの」
そう言って嬉しそうに更にクロワッサンを山盛りにしていくアリシアを見ながら、誰がいくつ食べるのかと聞くべきかアーノルドは迷った。
そこで窓の外が急に暗くなる。
大きな雲がこの建物の上空に来たのかとアーノルドは思いたかった。
だがそれはすぐに否定される。
するすると窓の外に縄梯子が降りてくる。
怪人でも降りてくるような錯覚を覚えたアーノルドだが、確かに彼はこの歳の新聞を賑わせている人物であり、そういった意味でも“怪人”と言って良いのかもしれない。
アーノルドにとってはとても面倒くさい人物だ。
案の定現れたその人物は白いタキシードに身を包んでいた。
彼は外からアーノルドに向かってにこやかに笑いかけ、
「やあ、今日も機嫌が悪そうだね、アーノルド」
そう告げて、無言のアーノルドの答えも待たずに窓を開けて、勝手に事務所に入ってきたのだった。
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