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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第52話残酷な兄妹の現実、そして少女の言葉を心を洗って・・・

アリーside

2025年1月22日、アルヴヘイム中立域、央都・アルン

先程定期メンテナンスを終えたALOに私達全員がログインした。その時どうしてかリーファちゃんがキリトくんの肩に顔を押し付けて泣いていたから、あの後リーファちゃんに訳を聞いてみたらーーー『失恋した』、らしい。その時私はどう言おうか迷ってしまったけれど、『また新しい恋を見つける』とか『女の子は失恋すると強くなる』とか逆に言われてしまったので勝手に大丈夫かなと思っていた。失恋すると強くなるーーーか。私は胸張って言えないなぁーーー胸って言うとなんだか哀しくなるからもうやめておこう。
アルヴヘイムの中心地、央都・アルンには大陸全土の妖精種族が集まっていて、とても賑やかな街である事がよく分かる。中には数組のカップルもいて、私や竜くんがあんな感じになったらなんて事まで考えてしまう。そんな中、この旅の最後の目的地が目の前広がって見えたーーー世界樹。この大樹の上に存在する天空都市に最初に辿り着き、妖精王オベイロンに最初に謁見出来た種族が光妖精、高位種族アルフに転生出来る。でも私達の目的は世界樹攻略のグランドクエストではなく、私達の友達、竜くんの妹の未来ちゃんとアスナさんの救出。前に竜くんはーーー

『実は手掛かりがあるのはアスナさんだけで、彼女と同じ状態だったから未来もいるってオレが勝手に思ってただけなんだ・・・』

なんて言ってたけど、私達は彼について来た事に後悔はしてない。だってーーー友達のために来たんだから。
私達はとりあえず世界樹の根元まで歩きだし、談笑しながらアルヴヘイムの中心、アルン中央市街のゲートを潜り抜けたーーー瞬間、キリトくんの上着のポケットに入っていたユイちゃんが顔を出した。

「ユイ、どうしたんだ?」

キリトくんは突然顔を出したユイちゃんに声を掛け、ユイちゃんはーーー

「・・・ママ」

『ッ!?』

「ん?」

「ママが・・・います!」

ママーーーユイちゃんがそう呼ぶ人物はこの世にたった一人しかいない。SAOギルド《血盟騎士団》副団長、《閃光》のーーーアスナさん。

「本当か!?」

「間違いありません!このプレイヤーIDはママの物です!」

「ユイちゃん!未来は・・・ミラ姉ちゃんはいるか!?」

「ミラさんのIDは・・・現れました!ママの座標はまっすぐこの上です!ミラさんはその場所から1時の方向に15メートル程離れています!」

ユイちゃんがアスナさんと未来ちゃんのIDを感知した。という事はーーー本当に二人はここにいるんだ。ユイちゃんの言葉を聞いて、黒い服を着たスプリガンの二つの影が羽具現化し、強い風圧を起こしてこの上空に飛び出した。

「ちょっとキリトくん!」

「クソッ!あのバカ共・・・!」

(はよ)おあの二人止めなアカン!頭に血が上っとる!」

「ライリュウくん!キリトくん!ちょっと落ち着いてよ!」

リーファちゃん、ライト、キャンディ、私がロケットの如く飛び出した二人を呼び止めようとするけれど全く耳を貸すつもりはない様子で、二人は速度を落とす事なく空を駆ける。二人共、気持ちは分かるけどここは落ち着かないとーーー

「オレここにいるけど!?」

『えっ!?』

「じゃあ今キリトと一緒に行ったのは・・・」

ライリュウくんが今ここにいるという事は、先程飛んで行ったのはキリトくんとライリュウくんではなく、キリトくんとーーー

『ミスト!?』

神鳴未来を愛していた男、霧島弾(ミスト)。私達は急いで背中に妖精の羽を出し二人を追う。キリトくんは元々速いから止まらない限り追いつけないけど、ミストは今までとは比べ物にならないくらいのスピードを出してる。そのまま二人は雲を突き抜けーーー

「気を付けて二人共!すぐそこに障壁があるよ!」

先日GMが設定したシステムの障壁に激突した。それにより反動で後退した二人をライリュウくんが押さえつける。

「一回落ち着けよお前ら!」

「落ち着けるか!!今すぐあの上に行かなきゃいけないんだ!!」

「じゃあ逆に聞くがなんでお前はそこまで冷静なんだよ!?あの上にいるのはお前の妹じゃねぇのか!!」

「いいから落ちつけってんだよ!!」

ライリュウくんが止めようとしてもキリトくんとミストは強く抵抗し、ライリュウくんは二人の胸ぐらを掴み二人を樹の根元のドーム前まで投げ落とす。ライリュウくんはすぐに二人を追って、二人が落下地点に落ちた所を取り抑える。

「ライリュウお前!二人を助けに来たんじゃないのか!!」

「あぁ助けに来たよ!でも今突っ込んでも二人に会えるかどうか分からねぇだろうが!!」

「お前そんな冷静な奴じゃないだろ!《ナーヴギア》被ったまま病院のベッドで眠ってる妹が目の前にいるんじゃないのか!!」

私達もライリュウくんにやっと追いついてこの喧嘩を目の当たりにしている。ライリュウくんはキリトくんと同じく、未来ちゃんとアスナさんを助けに来た。ミストもライリュウくんも、救いたい人は同じなのに今こうして無意味な喧嘩をしている。確かに家族が目の前にいるかもしれないのに、冷静でいられるのがおかしくない訳じゃないけどーーー

「冷静な訳ねぇだろ!!オレだってすげぇ焦ってんだよ!!二人はお前らが惚れた女達だってのは分かるし、今すぐ行きてぇって気持ちも分かる!!でも須郷がオレ達に気付いてアカウントを削除したり、二人に何かされたらどうすんだ!!弾!!和人!!」

『!!』

ーーーライリュウくんは、竜くんは決して冷静なんかじゃなかった。焦っていた。今すぐ助けに行きたくてウズウズしているのを無理矢理抑えていただけだったんだ。少し考えてみれば分かるはずだった。竜くんは自分達が戦う術を消される事と、二人にこれ以上の危険が降りかからないようにしたかったんだ。竜くんに言われてキリトくんとミストは少しだけ落ち着きを取り戻し、抵抗する事をやめたーーー

「和人って・・・どういう事?」

『?』

私達の後ろで、『和人』という名前に反応したリーファちゃんが私達に声を掛けた。口を抑え、後退りながらーーー

「・・・俺の本名は桐ヶ谷和人、SAO生還者(サバイバー)だ。俺は・・・俺とライリュウはある二人の女の子に会うためにALOに来た。一人はライリュウの妹、神鳴未来。もう一人は、俺の恋人・・・結城明日奈」

キリトくんがALOに来た理由、素性全てをリーファちゃんに明かした。それによりリーファちゃんの顔は哀しみに染まり、目からは一筋の涙が流れる。この時彼女が発した言葉を、私達は聞き逃しはしなかった。

「似てるとは思ってたけど、キリトくん・・・
























お兄ちゃん、なの?」

『・・・え?』

お兄ちゃんーーーその言葉を聞いて、昨日彼女が言っていた言葉を思い出した。

『キリトくんの顔が・・・どことなく、あたしのお兄ちゃんに似てて・・・』

あの時彼女はこう言った。似てるんじゃなくてーーー

「・・・スグ?直葉なのか!?」

本人だったんだ。

「・・・ひどいよ。あんまりだよ、こんなの・・・」

「ス、スグ・・・?」

リーファちゃんは左手でシステムウィンドウを操作し、キリトくんの呼び掛けにも耳を傾けずにーーー

「スグ・・・!!」

今この場から姿を消し、現実の世界に戻ってしまった。
この残酷な光景を前に、私達は固まってしまったーーーただ一人を除いて。

「行けよ」

キリトくんと同じく、妹のいる兄ーーー神鳴竜。

「さっさと行ってやれよ!!何が『俺も妹いる兄貴だから』だ!!メチャクチャ嫌われてんじゃねぇか!!よくそんなんでオレや未来の事に口出せたな!!ふざけんな!!何より家族も大切に出来ねぇ奴が、恋愛だのなんだの語ってんじゃねぇぞ!!行かねぇなら今ここでお前を斬り捨てるぞ、桐ヶ谷和人!!」

SAOでの話をしているのか、今ここで起こった状況の事を言っているのか、それはデスゲーム途中離脱の私達には分からない。けど竜くんの言っている事は分かる。彼は今友達としてではなく、『兄』としてキリトくんに伝えようとしてるんだ。

「・・・ユイ、ライリュウ達と一緒に待っていてくれ」

「パパ?」

「・・・パパな、パパの妹と・・・ユイの叔母さんを泣かせちゃったんだ。仲直りしてくる」

キリトくんはユイちゃんを私達に任せて、ログアウトした。兄として、妹に会うためにーーー

「・・・ユイちゃん」

「どうしたんですか?ライリュウさん」

この沈黙に耐えられなかったのか、ライリュウくんがユイちゃんに声を掛けた。

「ごめんな?」

「え?パパを投げた事なら大丈夫ですよ。私はその時パパの服から出ていたので、別に痛くは・・・」

「いや、そうじゃなくて。それもそうだけど、そうじゃなくて・・・」

彼はユイちゃんに何かを謝りたいのか、口を開いた。キリトくんを投げ落とした事ではなく、何か別の案件のようだ。それも、竜くんがこんなに改まって言う程のーーー

「オレ、SAOでキミの事をヒースクリフに・・・茅場晶彦に教えちゃったんだ」

前にキリトくんに聞いた。《血盟騎士団》団長、ヒースクリフの正体がSAOを、《ソードアート・オンライン》というデスゲームを創った最低最悪のマッドサイエンティストーーー茅場晶彦だった。茅場はゲームマスターとして世界を監視しているのではなく、正体を隠しプレイヤーとしてデスゲームを生きる人達を見ていた。
竜くんは記憶をなくしていたユイちゃんの事を茅場晶彦に教えた事を悔やんでいた。

「茅場は普通にGM権限を行使する事が出来た。つまり・・・ユイちゃんを消せたかもしれないんだ・・・」

「ライリュウさん、私の事が茅場晶彦に知られていなくても、私は《カーディナルシステム》に存在を抹消されていました。だからライリュウさんが気にする事は・・・」

「だとしてもだ!!」

突然大声を挙げた竜くんは両手と膝をつき、頭を下げる。土下座、という謝罪などの気持ちを示す行為である。

「オレは茅場にキミの存在を知らせた!SAOで、キミからキミのパパやママを奪ったのは、キミから家族の時間を奪ったのは《カーディナルシステム》でも茅場でもない・・・オレだったんだ!ずっと、ずっとキミに謝りたかった!もし会えた時に、この事を伝えた時に嫌われても文句は言わないって思ってた!キミの事を思うと、胸が・・・張り裂けそうなくらい痛かったんだ・・・!!」

竜くんはずっと謝りたかったんだ。ユイちゃんから家族の時間、温もりを奪った事に。彼は心は、その業という刃をずっと突き付けられていたんだーーー

「怒ってませんよ」

「!?ユイちゃん、その姿は・・・」

ユイちゃんは優しくそう答え、全身に光を纏った。光が消えた時には小さな妖精ではなく、人間の9歳から10歳くらいの白いワンピース姿になっていた。これはSAO時のーーーこの少女のかつての姿。その姿になったユイちゃんは竜くんをーーーそっと抱き寄せた。

「ライリュウさんが私の事で責任を感じてるってパパから聞きました。怒らないでやってくれ、嫌いにならないでやってくれって。私は怒ってませんし、嫌ってもいません。だって私、パパやママと同じくらいにライリュウさんの事・・・おいちゃんの事が大好きですから」

この少女の優しく心を洗われるような言葉は、竜くんの心に突き刺さろうとしていた刃を塵と化し、壊れかけた心を癒していく。その言葉を聞いた竜くんは大量の涙を流し、両腕でゆっくりと、強く、幼い少女を抱く。この光景は私達の心の奥深くに温かく染み込み、知らずの内に涙を流していた。きっと彼にはーーー竜くんにはなんのわだかまりも存在しないと思う。みんなーーーそう思ってる。
それにしても、出すタイミング逃しちゃったなぁ。いつ出そうかな、さっき世界樹の障壁の上から落ちてきた、タップしてもウィンドウの出ないーーーこのカードキー。
 
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