ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第51話血まみれ父さん・般若の母さん・天才バカ兄貴・妊婦の義姉さん・見捨てるオレ・眠れる仮想の妹
竜side
2025年1月22日
オレ達はあの蝶の谷の領主会合強襲事件の後、無事に世界樹のある街《央都・アルン》に辿り着けた。でもその直後、サーバーのメンテナンスが行われるため激安の宿屋でログアウトした。メンテナンス終了予定時刻は午後3時、それまではみんな各々好きなように過ごすだろう。
サーバーメンテナンスが始まる前までインしてたから超眠くてそのまま寝ちまった。今起きた時間が午前9時、学校がないにしろ遅すぎたな。朝飯あるかなーと思いながら二階のオレの自室から出て、一階のリビングのドアの前にーーー立とうとして床におかしな物を見つけた。
「なんだ?この赤いの・・・」
この赤い液体ーーートマトジュースか?オレん家のリビングはキッチンと一緒になってるからな。大方父さんか母さんが溢したんだろうな。それにしても、このトマトジュース随分血生臭いなーーー
「・・・って血だこれ!!」
なんでリビングから血が流れて来てんだ!?まさか強盗でも入ったか!?じゃあこの血はーーー
「父さん!!母さん!!大丈夫か!?」
オレはドアを開けて中に入る。するとそこにはーーー頭から血を流して倒れている父、神鳴辰馬がいた。
「父さん!!大丈夫か!?」
「うぅ・・・竜、か?」
良かった、まだ息がある!でも一体どうしてこんな事になったんだ!?
「父さん何があったんだ!?母さんや龍星は無事なのか!?」
「龍星が・・・危ない。竜、母さんを・・・母さんを止めてくれ・・・!」
母さんがコレをやったのか?しかも龍星までこんな姿にしようとしてるのか?バカなーーーあの普段はすごく温厚な母さんがこんな事をーーーそうだ、二年間SAOにいたからすっかり忘れてた。
母さんの性格は、いつも穏やかで優しい。オレが隻腕となった左腕を直に見る事が出来る程度まで立ち直れたのは母さんの存在が大きい。ただたまに、ごくたまーにだがーーー
「テメェ妊娠してる嫁を何危険なトコに一人いかせてんだコラァ!!!このド腐れバカ息子ガァァー!!」
「ぎゃぁぁゴメンナサァァァイ!!」
尋常じゃない程ブチ切れる。
「今夜テメェの最後の晩餐確定したぞオラァー!!表出ろやァァー!!」
「え!?ボク殺されるの!?家追い出すとかじゃなくて!?あ!竜!助けてくれェー!!!」
「ヤダ」
それはもう尋常じゃない。この一件には全く関係ないオレですら恐怖を覚えるレベルだ。結局の所、幾つになっても母親は恐い。しかも怒りMAXになると顔が般若みたいに変わる事もある。
どうやら原因は龍星が子供身籠ってる奥さんを須郷の所に潜入させた事みたいだな。こればっかりは龍星の自業自得だ、オレが助ける義理はない。それに見た所、父さんは今まさに般若顔になっている母さんだった存在を止めようとして返り討ちにあったらしいな。
とにかくオレは全く関係ない。飯にするかーーーッ!!
「これは・・・」
コーヒーゼリーかーーーふむ、大好物だ。
「じゃあここで殺ったらァ!!」
「いたっ!!ちょっ・・・何コレ!?痛い!!痛い!!」
珈琲豆の芳醇な深い香りとコク。それを閉じ込めた気品を感じさせる味ーーー
「うらァ!!」
「何!?いたたたた!!」
さらにミルクとの出会いでまた違った顔を覗かせる。罪深い程に贅沢な逸品だーーー
「しゃあ!!」
「やめてェーー!!折れる折れる!!」
これを嫌いと言う人間の思考は理解出来ない。では、早速一口ーーー
「食ってないで助けろオイー!!」
「あっ!!!」
ヤバイ、スプーンですくったコーヒーゼリーが落ちる!!クソッーーー間に合え!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ーーー0.08秒で口内にイン!!
「すげぇ!!そんな食いたかったの!?ってバカ!!それどころじゃないんだよォ!!」
もにゅもにゅーーーうん、この柔らかな食感もオレは好きなんだ。最早『NOSWEET・NOLIFE』だな。
「見ろォーーーーー!!母さんのあの姿を!!とんでもない事になってるだろ!!」
「チョコマカスルンジャネェ・・・」
何?まだやってたのか。完全に兄貴の自業自得だろ?母さんが般若顔になって龍星を痛め付けてるのは完全に龍星のせいだろ?
「しかもあんな顔して関節極めてくんだぞ!!すごい技巧派だぞ!!止めろ竜ゥ!!アレはもうお前の知ってる母さんじゃない!!」
ソウダネ。ギコウハギコウハーーー
「やれー竜ゥ!!母さんを解放してやれーーー!!」
「ニガサネェゾ・・・」
『!!』
確かにコレはもう他人事じゃなくなって来たぞーーーこのテーブルをガッと掴み、オレもろとも龍星を潰そうとしている般若母さんを見たら今更ながらそう思った。
「潰れろォォォーーーーーー!!!」
『ヒィィィィィーーーーー!!』
「ちょっとお義母様!!それは流石にやりすぎです!!」
『!?』
母さんが止まったーーー助かった、のか?でも誰が?誰があの般若と化した母さんを止めたというんだ?それは、先程の母さんに対する呼び方で理解た。
初めて会った時にはサイドアップだった長い茶髪をポニーテールにして肩に垂らし、よく見たら少し膨らんだお腹をした綺麗な女の人。前に河村家之墓に須郷と一緒に来ていたーーー
「雪乃ちゃん!!」
「ユッキィィィィィ!!」
「雪乃さん!?」
橘雪乃さん。龍星が須郷の所に潜入捜査に行かせた母になろうとしている奥さん。母さんを止めてくれて助かったけどーーー多分まだ仕事の途中だよな?
「これ以上潜入捜査を続けてると危険だと思ったから、昨日限りで終わりにしたんだ」
「その危険に気付かせたのはりゅーちゃんでしょ?」
「その通りでございます・・・」
そうか、もうお仕事終わりなのか。確かにこれ以上須郷の所にいさせたら危険すぎるからな。うん、オレが教えたようなモンだよなコレ。
そう思っていたらーーー雪乃さんがオレを見ていた。
「義姉としては初めまして、ですね。旧姓は橘、神鳴雪乃です。どうぞよろしくお願いいたします」
「えーっと・・・義弟としては初めましてですね。龍星の弟の竜です。兄がお世話に・・・いえ、ご迷惑をお掛け致しました」
「いえいえ、私こそリューセーに助けてもらってばかりで・・・」
いえいえ、今回ばかりはウチの天才バカ兄貴の責任でございます。オレ的には『リューセー』というのが気になったけど、恐らく愛称か何かだろうな。龍星も『ユッキー』って呼んでたし、きっとそう呼び合うモンなんだな、うん。それにしても、橘って旧姓だったのか。まあ母さんも『雪乃ちゃん』って呼んでたから本名で潜入してたんだな。
「それにしても・・・雪乃さん、お若いですね。女性に対して大変失礼だとは思うのですが・・・年はお幾つで?」
「そんなにかしこまらなくても。年は21、リューセーの一つ上です。それに時間が掛かるだろうけど・・・いつかは『義姉さん』って呼んでほしいな♪」
流石に他人行儀だったかな。でも突然義姉ができてもすぐには順応出来ない。龍星の一つ上かーーー確か龍星の誕生日が1月12日だから、もう龍星ハタチなのか。
それにしても、こんな綺麗な女性があのバカ兄貴のどこに惚れたんだ?
「まあ、とにかく・・・よろしくお願いします」
「こちらこそ、改めてよろしくお願いします」
とにかくこの女性はーーー雪乃さんはもう家族なんだ。あのバカ兄貴がオレの知らない所で暴走してたら止めてもらおう。そして、いつか産まれてくるオレの甥っ子か姪っ子。その時オレは叔父さんとしてーーー今現在、仮想世界で眠り続けている未来も叔母さんとして、神鳴家に産まれてくる新たな生命を愛でるのだろう。そのためにーーー絶対に未来を解放しよう。
「あの~・・・パパは・・・お祖父ちゃんは?」
あ、次期お祖父ちゃん忘れてた。
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