普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
149 〝アニー・ポッター〟
SIDE ???
(あれ? ボクは確か死んだよね?)
思えば、〝あの人〟に守られてばかり──〝あの人〟の背中に隠れるばかりの人生だった。
―や~い、〝イチエン〟―
―〝イチエン〟って覚え易い名前って羨ましいよなー! ハハハハハ!―
あの時の事は今でもはっきりと思い出せる。
〝あの人〟に会うまでは気が弱かったボクは、自分の名前でからかわれている時はよく泣いていた。……いま思えば、ボクに対する嫉妬も含まれていたのだろう。
(ボクは自分の名前が大嫌いだったっけな。……〝あの人〟に会うまでは)
―〝イチエン〟を笑うな! 母さんが言っていたぞ。1円を笑う者は1円に泣くって!―
〝イチエン〟を否定出来ていない辺り、不器用な庇い方だったと思うケド、それでも嬉しかった。皆──それこそ、ある意味問題児であったボクの事を気に入らない学校の先生までボクの名前をバカにしたからだ。……尤も、ボクの事をバカにした学校の先生については社会的に抹殺してやったケド。
(嗚呼、一番最初に助けてもらったのは小学3年生の時だったっけ)
〝あの人〟にそう言われてボクは自分の名前がほんの少しだけ好きになった。
(それから〝あの人〟と一緒に居ることが多くなって)
〝あの人〟側は心地好くて──その内、〝抱いてはいけない気持ち〟を抱くようになった。……勿論、〝あの人〟には伝えてはいない。
中学に上がって、ちらほらと女子から告白されるようになった。……が、そういうヤツに限って、〝あの人〟の悪口を言うし──下心も見え見えだった。……ボクは所謂、天才と云うヤツだったのだろう。1つの事象を見聞きすれば10の事を知る事が出来たし、その10の事柄から幾つかの結果を推測する事も出来た──それでホイホイと告白してきたのだろう。
(でも……それでも……)
「彼も──ボクも死んでしまったんだよなぁ……」
〝あの人〟がボクを突き飛ばした時は何事かと思ったケド、ボクらが居た場所に落下してきた鉄骨。〝あの人〟が助けてくれた。
……が、〝あの人〟が死んでしまった。それに戦慄いたボクは後退り、いつの間にか車が行き交う車道に飛び出していた様で──
「そう悲しそうな顔をするでない。……待たせたの、一 円よ」
突然この白と黒の空間に響く鈴の音の様に澄んだ、ボク以外の声音。
「誰?」
後ろを向くと正に〝絶世の美女〟を体現したかのような女性が居た。
……ボクはこの女性を見た時、〝識らない〟ケド〝知っている〟そんな妙な感覚に捕らわれる。
(うーん、なんだろ? この喉の奥に魚の小骨が引っ掛かったみたいな感覚は)
「妾は人が云うところの〝神〟と云う存在での。……予定外の事故が原因──今回の場合はあの鉄骨の落下事故が原因で死んでしまった人間を転生させて回っておる。……そして勿論、お主もこれに該当する」
「えっ? じゃあ──」
「そう、お主の言う彼──升田 真人も今さっき、転生させてきた」
「よかった……!」
神サマの言葉を聞いて、一番最初に浮かんだ感情は〝安堵〟でその次に〝歓喜〟だった。
(また……会えるんだ……!)
ボクはこの状況は察しがついている。……神様転生。神様が人を不注意などで殺めてしまった時、殺めてしまった人間をその人間が元居た世界以外──大抵はマンガやアニメ、ライトノベルの世界などに転生させる。……それが神様転生。
「その表情じゃ大体察しはついている様じゃのう。右手に持っているサイコロを振ってみぃ」
「っ!?」
ボクはいつの間にか握っていた右手の中に有る違和感に驚愕するが、相手は〝神〟である事を思い出して勝手に得心する。
神サマからの指示を思い出し、見た目普通のサイコロを振るう。……出た目は5。
「5つか。特典を言うがいい」
「往く世界の情報はある?」
「特典を使って決めぬ限りは往く世界はランダムじゃ。……よくある二次創作みたいに、マンガやアニメ、ライトノベルの世界のどれかだとしか言えぬ」
「……じゃあ、1つ目は〝真人君と同じ世界に転生させて〟」
「あやつと同じ世界じゃな。あい、判った」
「2つ目。【烈火の炎】の八竜で。……出来る?」
アニメ等の世界なら〝力〟は必要だ。
「出来る。【烈火の炎】の八竜だな。……承知した──火竜の印は他者には見えない様にしておこう」
「……ありがとう。……じゃあ3つ目。転生した真人君と同じくらいの年齢にして」
「御安い御用じゃ」
「4つ目は誰が転生者か判る様に」
「判った。……それにしても、他の転生者達と比べてお主は欲が少ないのぅ、感心感心♪」
神サマは、喜色満面の笑みで言う。
「最後に……ボクを女にしてくれ」
「……正気か?」
「うん」
(今度は──今度こそは真人君と……!)
「……なら良い」
神サマが呆れた表情で頷いたのを確認した瞬間、ボクの意識は一瞬の浮遊感の後闇に沈んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「此処は──ぐっ! があっ!」
『此処は何処』と言い切る前に酷い名状し難い頭痛と、頭にナニか得体の知れないモノを突っ込まれている様な不快感がボクを襲う。
(痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい!)
頭は頭痛のお陰で正常に働かない。働いてくれない。……でも、頭痛の最中に出て来る〝覚えてない〟のに〝覚えている〟、家族──らしき人物との会話の端に挙がる単語の数々から1つの、正答である可能性が一番高い答えを弾き出す。
「……〝私〟──んっん、〝ボク〟の名前は〝アニー・ポッター〟──つまりは【ハリー・ポッター】の世界」
軈て頭痛も止み、乱れていた息を整えながら、事実関係を確認していく。
「……はぁはぁはぁ──ふぅ…。……養父は〝バーノン・ダーズリー〟。養母は〝ペチュニア・ダーズリー〟。従兄弟に〝ダドリー・ダーズリー〟。……そして今日は、10歳のボクの誕生日──はは、笑えないよ…。……ん?」
〝【ハリー・ポッター】に於けるハリーポジ〟──と云う厄ネタに、現実逃避の一つや二つしたくなりつつも事実を並べていくうちに、ふと違和感を覚える。
「……物置部屋じゃないのか」
比較的に裕福だった〝前世〟の家と比べたら小さくはあるが、間違いなく〝自室〟が与えられている事に驚く。……しかしそれは〝TS〟して──女性になっている手前では当たり前の事だったのかもしれない。
……〝ダーズリー家〟──この家が大好きな〝普通〟に考えたら少女を物置小屋で生活させるなんて、〝異常〟だから。
「……ホグワーツに行ったら、まずは“閉心術”を覚えなきゃ」
とりあえずはそう決心して、日課の朝食──兼、朝食作りの為にキッチンへと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目まぐるしい程に流れてく季節に置いてけぼりならない様にしているうちに10ヶ月近くが経過していた。1991年も半ばに差し掛かり──7月ももうすでに終わろうとしていた。
「……ハッピーバースデー、アニー──なんちゃって」
イギリスのどこか海がすぐそこ見えるとある小屋。すぐ近くでぐごーぐごー、と鼾を発てながら眠りこけるダドリーがこれみよがしに着けている──〝カッチョイイ腕時計〟を見ては、日付が変わった瞬間にそんな事を呟いてみる。
……ボクが取れていれば、隠せていたホグワーツからの手紙だが、なんの因果か──この世界線ではペチュニアおばさんが取っていて、こんな海辺の小屋に来る羽目になっていたのだ。
「会いたいよ、真人君…」
日々の児童虐待に近い扱いにしても、色々と限界で、口からは──精神が肉体に引っ張られているからか、そんな弱音も出てくる。
……そんな時だった。
――カチャリ
「…っ!」
扉の方から小さく、そんな音がした。
……〝小さく〟だ。大きくはない。待ち望んでいたのは稲妻の様に大きさのノックだった。……しかしこれは、それこそ〝普通(?)に〝鍵開け〟の魔法で開けた〟かのようにも思える。
身構えていると、軈てぎぃ、と扉が物静かに開かれ、これまた物静かにぬぅっ、と入ってきたのは〝2メートル超の巨漢〟──ではなく、〝墨汁を引っ掛けられた様な黒髪に杖を持った鷲鼻の男性〟だった。
SIDE END
後書き
趣向を変えてみたらこんな感じに…
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