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艦隊これくしょん【幻の特務艦】

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第七話 偵察任務。その2

その30分後――。

砲弾が飛び交い、すさまじい水煙が立ち込める中、それをくぐって全速力で走り続ける艦隊がいた。
「速度を落とすな!ここで落後したら・・・敵の餌食になるよ!」
水煙が林立する中を川内が叫んだ。
「姉さん!白雪さんが・・・!」
川内が振り向くと、時雨と神通に支えられながら顔色が蒼白になっている白雪の姿があった。先刻敵戦艦の副砲群の猛射を浴び、大破してしまったのだ。これが主砲である16インチ砲をまともに食らっていたら、白雪は轟沈していただろう。左右の二人が時折声をかけるが、白雪の反応は芳しくない。その時雨も神通もあちこちに傷を負っている。背後では深雪と長月が敵艦隊を相手に俊敏な動きで敵砲弾を交わしつつ奮戦している。だが、敵は戦艦3隻を中心とする水上部隊。圧倒的な戦力差があった。
「・・・・・・。」
川内は海上を見た。このまま北走すればいずれ佐世保鎮守府護衛艦隊と出くわすだろう。幾度も救援要請を打っておいたから間もなく到着するはずだ。だが、こちらは白雪が重傷を負い、自分も含めてどの艦娘も傷を負っている。長くは持ちこたえられない。
「ああっ!!」
背後で叫び声がした。はっと川内が振り向くと、長月が数歩よろめいて後退し、どっと神通にぶち当たるのが見えた。
「きゃっ!・・・長月さん!?」
主砲が吹き飛び、艤装もボロボロになった長月が苦しそうに息を吐いている。
「くっそぉ!!」
一人残った深雪が叫び、敵艦隊に向けて雷撃を放った。そのうち二本が軽巡洋艦一隻に続けざまに命中して吹き飛ばしたが、残る敵は残らず深雪に照準を合わせてきた。
「神通!!」
川内は叫んだ。
「私が後ろを引き受ける。あなたは時雨と共に白雪と長月を曳航してここを離脱して!!」
「で、ですが――。」
「いいから行きなさい!!早く!!」
川内がものすごい形相で叫んだ。一瞬神通がぎゅっと目を閉じるのがはっきりと見えた。だが、次の瞬間神通はうなずいていた。
「姉さん・・・無事で!!」
「あんたこそね。」
短く答えた川内は敵艦隊の中に突入していった。
「深雪!!あんたも神通の後を追って!!」
「何言ってるんですか!嫌ですよ。先輩一人残して引き上げるのは絶対に嫌です!!」
「命令よ!!」
「命令?そんなものはクソ喰らえです!!川内さんのことを見捨てるくらいなら、いくらだって罰を受けますよ!!」
「深雪・・・・。」
一瞬川内はこみ上げてくるものを抑えきれなかった。
「わかった。神通たちが安全圏に入るまで、二人で支えよう!!」
「はい!」
二人はその後数十分にわたって後衛として戦い続けた。
「これで・・・・駄目だ、まだ敵が来る!!」
「キリがありません!!先輩、もう充分じゃないでしょうか?」
「そうだね、よし、深雪、敵に向けて一斉砲撃でけん制!!そのすきにターンして全速撤退を――。」
そのとき敵艦隊に明らかな――喊声と表現するしかない――震動のようなものが走った。はっと川内が振り返ると彼方から猛然と走ってくる影がある。
「挟撃!?」
勝ち誇ったかのように敵艦隊が発砲を開始し、数隻の駆逐艦が前進してきた。川内は2隻をたたき沈めたが、残る1隻が猛然と突っ込んできた。体制が間に合わず、川内の顔から血の気が引いていく。
(そんな・・・・・)
「川内さん!!」
深雪の叫び声がしたその時だ。
「その艦もらったぁ!!」
大声と共に目の前の駆逐艦が轟沈し、次を進んでいく軽巡2隻も吹き飛んだ。後方の戦艦及び重巡洋艦にもおびただしい砲弾が命中した。
「今です!!川内さん、深雪ちゃん。早く!!」
長良が二人の前に飛び込むようにしながら敵に向けて砲撃を開始した。
「よし、川内、深雪、引くぞ!!」
利根が呆然としている二人を引っ張るようにして第6駆逐隊のもとに連れていった。
「頼む!」
また最後尾に取って返しながら利根が叫んだ。
「はい!」
4人はうなずいた。
「電、雷、ここは私と響で大丈夫だから、長良先輩たちの援護をして!」
「了解!」
「なのです!
二人は交戦中の長良たちの元に全速力で駆けつけ、戦闘に加わった。
「砲撃しながら、全艦後退します!!」
長良が叫び、駆けつけた電と雷とともにけん制の魚雷を放った。海面を進んだ魚雷は後方にいた戦艦1隻に命中して大破させ、重巡1隻を撃破したため、残存艦隊は慌てふためいたかのように戦列を乱した。二人を収容した呉鎮守府偵察部隊はすぐに戦場を離れた。
「全艦輪形陣形で川内さんと深雪ちゃんを中心に守りを固めましょう。」
長良の指示で偵察部隊は輪形陣形を取った。
「あ、ありがとうございます・・・・。」
「間に合ってよかったな。先に退避していた4人の事なら大丈夫じゃ。佐世保鎮守府から進発した護衛艦隊が4人を収容して全速力で帰投しつつある。」
利根は、ここに急行してくる途上、大破した白雪、長月を含む艦隊を発見したが、ほぼ同時に南下してきた佐世保鎮守府護衛艦隊と遭遇したことを話した。当初扶桑たちは自分たちが行くと言い張ったが、長良たちは救援には自分たちがいくと主張し、結局扶桑が折れた。それにはまだ敵の制海権を突破したわけではなく、帰路に敵の新手が出現するかもしれない事、それを突破するには強力な主砲と艦載機を有する佐世保鎮守府護衛艦隊の方が適していること。一方、川内たちを収容し、なおかつ全速力で敵艦隊を振り切るには高速艦隊の方が適していることなどを述べたためだ。
「そうですか!よかった!」
「じゃが・・・。」
利根は口をつぐんだ。
「ここからが正念場じゃ。先に退避していた4人は収容されたが、どうやら敵は空母部隊を展開しているようじゃからの。」
「空母部隊!?」
川内が愕然となった。やっと敵の水上部隊を振り切ったと思っていたら、まだ新手の空母部隊が控えているという。
「はい。偵察機からの報告ではここから南東の方向に少なくともヲ級2隻を含む空母部隊が展開、北上中とのことです。撤退が間に合えばいいのですが・・・・。」
筑摩が顔を曇らせた。最初に確認した敵艦隊は通商破壊か何かに乗り出すのではないかとみていたが、甘かった。平常の速力もあらかじめ外洋指定地に待機してこちらを包囲しようとする前ぶれだったのだ。敵はおおきくぐるっと迂回して東方に位置し、そこから北走してこちらの退路を断とうとしている。水上部隊の撃破は敵別艦隊に伝わるだろうが、それがどんな引き金になるのか、筑摩自身にもわかっていなかった。
「なに、大丈夫じゃ。ビスマルクの奴や鳳翔に救援要請は出した。すぐに合流できる。」
「だといいのですが・・・・。」
筑摩は海上をあちらこちら眺めた。幸いにして水平線上には敵艦の姿はない。ふと後ろを振り返ると、第6駆逐隊の4人は深雪を中心にしてにぎやかにおしゃべりしている。そんな明るさが筑摩には羨ましかった。
「助けてくれてありがとうな!ホント死ぬかと思ったぜ。」
「間に合ってよかったわ。ねぇ?」
「ええ、本当によかったわ。」
「あぁ。」
「なのです。でも、深雪ちゃんも頑張ったのです。一人で敵の戦艦を相手に戦うなんて、深雪ちゃんはすごいのです!」
「っへへ!深雪スペシャルをたっぷり食らわせてやったぜ!」
深雪が鼻の下をこすったが、急に真面目な顔になった。
「でも、必死だったからできたんだな。白雪や長月の事、そして川内先輩のことを失いたくないって思ったら、足が前に出てた。」
「その気持ち、わかるわ。」
雷がうなずいた。
「仲間を守りろうと頑張ることは一人前のレディーとして当然の事よね。」
「Хорошо。」
「あ!また変な言葉を使ってる!」
「そうか?」
「そうよ!ねぇ?」
暁が深雪に同意を求めようとして、その顔が凍り付いた。
「あ・・・あ・・・・ああ・・・・!!」
「どうした?」
深雪が暁の視線を追った次の瞬間大声で叫んでいた。
「敵機来襲!!」
「なにっ?!」
先頭の4人が振り返った。北西から猛然と艦載機の編隊が来襲し、急降下態勢に入ってきていた。
「こんなところで・・・・!!対空戦闘用意!!」
長良が叫んだ。8人は一斉に機銃や主砲を構え、撃って撃って撃ちまくり始めた。

同時刻南西諸島北東海域――。
「ちっ!!」
戦況の打電を受け取ったビスマルクが思わず舌打ちをした。
「偵察部隊からの報告よ!みんなそのままで聞いて!」
ビスマルクが後続艦娘たちに叫んだ。
「利根たちが佐世保鎮守府偵察部隊残存部隊と合流したそうよ!」
「さすがね!」
「やったっぽい!!」
天津風と夕立が叫んだ。
「早いわ!!その利根たちが偵察部隊を収容した直後、敵艦載機の猛攻撃を受け、応戦中なの!!」
「なんですって!?」
「ヤバいですよ、姉様。」
「ええ・・・・もうそう遠くはない地点まで来ているそうだけれど、間に合うかどうか・・・・・・・・。こんなことならこっちにも正規空母を編入すればよかったかしらね。」
「大丈夫です。」
雪風が言った。
「鳳翔さんや紀伊さんがいます!きっと、間に合いますよ!」
「だといいけれど・・・いいえ、間に合わせて見せる!」
ビスマルクはきっと顔をひきしめた。
「この状況を・・・・鳳翔さんたちに報告して、私たちが何とか食い止めるしかないわ!!急いで!!」


この報は鳳翔たちにも届いた。
「艦載機の子たちが間に合うことを祈るしかないわ。」
鳳翔がつぶやいた。利根たちとの連絡は取れていない。深海棲艦の発する妨害電波の影響だ。したがって、筑摩の偵察機が発見したという敵の別働部隊の情報も、この時には鳳翔たちは知らなかった。
「早く急行しなくてはならない。急がないと。」
「待ってください!」
紀伊が3人を制止した。
「なんだ?」
「敵の動き・・・・少し変だと思いませんか?」
「なに?」
「ここは敵の制海権の真っ只中です。その気になれば敵は偵察部隊などすぐに叩き潰せるはずです。にもかかわらずまだ1人も轟沈していません。利根さんたちの練度が高いことが原因だと思いますが、それだけではないような気がします。なぜか私には手加減しているように思えるんです。」
「どういうことだ?」
「なんとなくですが・・・・時間稼ぎをしているような気がします。」
「時間稼ぎですって・・・・?でも、そんなことに何の意味が・・・・まさか!!」
足柄が息をのんだ。
「別働隊・・・・。」
鳳翔がつぶやいた。
「はい。その可能性は十分にあります。おそらく掩護艦隊の到着も視野に入れ、一気に一網打尽にする作戦だと思います。」
「となると・・・・。」
日向が急いで海図を頭に描いた。
「東若しくは南東か。」
「はい。そこにおそらく、敵の空母が。艦載機を発艦するのには敵から距離を置いていること。そして確実に仕留められる包囲網を形成すること、これが条件です。」
「なるほど・・・・。」
「そこで、私に一つ提案があるのですが・・・・・。」
紀伊は話し出した。


 
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