おぢばにおかえり
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第三十話 春季大祭その九
「ただ」
「ただ?」
「先輩のお家のことですけれど」
参列していた時のことを先輩に言いました。
「かなり古いですよね」
「ええ、まあね」
私達は歩きながら話をはじめました。話をしつつそのことを話すと。先輩は笑って私に言ってくれました。
「確かに理は代々よ」
「そうですよね、やっぱり」
私は先輩の言葉に頷きました。その横顔を見ていると本当に。長池先輩といい佐野先輩といい。どうして先輩達はこんなに奇麗なんだろうって思うことしきりです。
「じゃあ私は」
「代々だけれど本人次第よ」
「本人次第ですか」
「だってそうじゃない。幾らご先祖様が立派でも自分自身が駄目だったら何にもならないわよね」
「はい、それは」
自分自身がたんのうして仕込みを受けていかないと駄目というのは言うまでもありません。このことは私も小さな頃から言われてきました。
「その通りですね」
「そういうこと。ご先祖様の理も受け継ぐけれどそれをどうかするのは自分自身よ」
「自分自身ですか」
「そう。やっぱり努力しないと駄目なのよ」
先輩はにこりと笑って私に話してくれました。
「自分でね」
「やっぱり自分なんですか」
「私なんてね」
先輩は苦笑いを浮べられて御自身のことを仰られました。
「悪いんねんばかり積んでるから」
「そんな、先輩は」
「そう言ってもらえると嬉しいけれどね」
私の言葉にはすぐににこりとして下さいました。けれどどうにも晴れないお顔です。折角の奇麗なお顔なのに台無しになってしまっています。
「けれどね。やっぱり自分で思うとね」
「そうなんですか」
「そうなのよ。いいことはしていないわ」
「はあ」
「だから。ちっちはね」
御自身のことを仰ったうえでまた私に言ってきました。
「そういうところ。しっかりしてね」
「しっかりですか」
「そうよ。ちっちは真面目だし」
何か褒められて恥ずかしくなってきました。
「少しずつ。そういうことやっていってね」
「わかりました」
「そうしたら。どんどんよくなるから」
何事も少しずつ、というのも昔からお父さんやお母さんに言われてきたことです。言われてどうにも恥ずかしくなってしまって。顔が真っ赤です。
「ところで」
「はい?」
先輩は私の顔を覗き込んでこられました。
「何か奇麗になったわね」
「そんな、そんなことないですよ」
先輩の今の御言葉はすぐに否定しました。
「私変わってないですよ」
「この前会ったのって三ヶ月位前だったわよね」
「ええ、確か」
覚えている限りではそうです。
「そうでしたよね。それ位で」
「その時より奇麗になってるじゃない」
こう私に言うのです。
「何かあったの?」
「何かっていいますと」
「彼氏ができたとか」
今度はこの発言でした。
「そういうの?ひょっとして」
「まさか。そんなのないですよ」
「本当に?」
「最近変な子が側にいたりしますけれど」
「変な子ねえ」
「困ってるんです」
顔を暗くさせて先輩に言いました。
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