おぢばにおかえり
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第三十話 春季大祭その八
「だからね」
「わかったわ。それにしてもちっちの詰所って」
「何?」
「凄くいい場所にあるわよね」
「そうそう、それはね」
「そこのところが羨ましいわ」
皆のうちの何人かが本当に羨ましそうに私に言ってきました。
「まあ中には高校からもすぐの詰所があるけれどね」
「あそこはまあ別格として」
そういった詰所もあるんです。大教会ごとに詰所はありますけれどその中でも私のいる奥華は神殿にもかなり近いのです。これがとても有り難かったりします。
「それでも。あれね」
「奥華って恵まれてるわ。やかたの中だし」
やかたというのは今おぢばで建設中の神殿を八方に取り囲む建物のことです。瓦の屋根でかなり独特の形をしています。ここに天理大学や博物館だけでなく修養科や憩の家、それに大教会の詰所が入ります。奥華はそのやかたに詰所がある大教会の一つなんです。
「修養科の人達なんか歩いてすぐでしょ。うちなんかもう」
駅の向こうに詰所がある教会の娘が言います。
「歩くだけでも大変なんだから」
「商店街って坂道でしかも長いしね」
「そこよ」
やっぱり言うのはそこでした。
「その長い道を通るのがお年寄りの人とかかなり大変なのよ」
「だから車使ったりしたりね」
「その辺りはケースバイケースね」
「その辺りは詰所によって色々よね」
「高井先輩の詰所なんか」
もう卒業されてますが皆よく覚えています。岡山の大きな教会の娘さんでしかも物凄く奇麗な人でしたから。先輩達の間でも長池先輩と同じくかなり目立っておられました。
「滅茶苦茶遠いからね」
「高井先輩の大教会ってかなり古いんじゃなかったかしら」
「明治二十年代にできてるわよ」
「っていうことは相当古いのね」
「奥華と同じ位?いえ、これって」
言ったすぐ側から気付きました。奥華よりもです。
「もっと古いわよね、やっぱり」
「高井先輩のお家の教会自体もかなり古いわよ」
「そうそう」
高井先輩のお家は所属の大教会の中でもかなり有名な教会です。随分と古いですし岡山のその辺りではおみちの重要な場所でもあります。先輩はそこのお嬢さんなんです。
「あの教会も確か明治二十年代だったわよね」
「大教会できてすぐになるのね」
「天理教の中でもかなり古い教会ね」
そんな話をしました。私のお家はそこまで古くはないです。明治というとどうも今一つピンときません。その頃の私のご先祖様が何をしておられたのかも知りません。理は代々ですからちょっと先輩が羨ましいな、とか思ってしまいました。
そんなことを思いながらひのきしんを終えて詰所に向かう為に商店街を歩いていると。急に横から声がかかってきました。この声は。
「久し振りね、ちっち」
「先輩」
その人でした。高井先輩です。天理大学のはっぴを着られてその下はズボンに上着のあっさりとした服です。高校の時よりもずっと奇麗に見えるのは気のせいでしょうか。
「元気そうじゃない」
「はい、お久し振りです」
考えていたらそこに御本人なので驚きながら応えました。挨拶をしているとまた先輩の方から声をかけてきました。
「どうしたの?驚いてるみたいだけれど」
「いえ、それは」
「私の顔に何かついてるとか?」
「そういうのじゃないですけれど」
それにしても本当に。高校の時よりもさらに奇麗になられて。高校の時もよく芸能事務所からお声がかからなかったものだと思っていましたけれどもうそれ以上です。
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