| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ四十五 故郷に戻りその一

                 巻ノ四十五  故郷に戻り
 上杉と真田の境まで来た、ここまで来てだった。
 兼続は上田の方を見てだ、感慨を込めて言った。
「あっという間でしたな」
「ここに来るまでは」
「はい、ここで真田殿とお会いしてです」
「ここに来るまで」
「まさにです」
 実にというのだ。
「あっという間でした」
「確かに。越後でのことがです」
 幸村も兼続の言葉を受けて感慨を言葉に込めた。
「夢の様です」
「夢の様にですな」
「過ぎてしまいました」
「ですな、歳月が経つのは速いといいますが」
「まさに矢の如し」
「夢幻の如くですな」
「全く以て」 
 こう二人で話すのだった、境に来たところで。
 そしてだった、兼続は幸村にだ。上田の方を見てまた言った。
「そろそろです」
「はい、真田の方からもですね」
「お迎えが来ています」
「そうですな」
 幸村も見た、彼等を。赤い服の者達が来ていた。幸村はその彼等を見つつだった。兼続に対して言った。
「では間もなく」
「これで、ですな」
「お別れです」
「暫しの」
 兼続は幸村に微笑んで応えた。
「そうなりますな」
「暫しですか」
「はい、九州と東国での戦がありますので」
「その二つの戦の時に」
「お会いすることになりましょう」
 まさにその時にというのだ。
「ですから暫しです」
「そうなりますか」
「はい、ではまたお会いしましょう」
「越後のことは一瞬の夢でも」
 またこう言った幸村だった、ここで。
「しかしその一瞬の夢を抱いて」
「そしてですな」
「それがしはその夢も糧にしていきます」
「是非その様に」
「していきまする」
 こう笑顔で話してだった、幸村は兼続と互いに礼をして微笑みで別れた、幸村は十勇士達と共に上田の入った。
 そして迎えの者達の方に向かう時にだ。十勇士達が幸村に言った。
「あの笑顔、忘れられませぬな」
「直江殿の笑顔が」
「まだおられますが」
「もうお顔は見えませぬな」
 兼続の方を振り向いた、彼等はまだいるが。
 それでも離れてしまい顔は見えなくなっている、それで十勇士達も言うのだ。
「しかしあのお顔がです」
「忘れられませぬ」
「実によい笑顔でした」
「殿もそうでしたが」
「人は別れる時の相手の顔を覚えておる」 
 幸村は十勇士達に言った。
「直江殿もそれは同じだ」
「では、ですな」
「直江殿も我等の顔をですな」
「覚えておられますな」
「そうですな」
「笑顔で別れた」
 幸村もまた、というのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧