新妹魔王の契約者~龍剣使いの神皇帝~
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2巻
織斑家での戦闘会議×《里》から知った真実
『ほう、どうやら頭の固い長老達にしては対応が早かったようですね』
「ああ。だが実力は大した事なかったよ、昔なら兎も角今の俺なら剣を抜く事なく戦える」
『確かに。一真様は創造神黒鐵であり、深雪様は女神雪音としてこの地に君臨された。奴らもまだ気付いていないのだろうな』
「ですがこうも早くとは思いませんでした。勇者の一族が澪を殺しに来たと言う事は、澪の実力を見たのか偽りの情報を耳にしたのか」
『まあ深雪様の仰る通りでして、現在里にいる諜報者と連絡してみましたら偽りの情報を仕入れた長老達が動いたと』
単身で魔界に向かっている迅であるが、詳細までは知らなくとも知っている俺だからこそ聞かないでいる。深雪と迅が話し込んでいると、俺は斯波について考えていた。あの斯波を《里》の外に出すとは意外過ぎるけど、何らかの首輪を付けて動いてるんでそう簡単にあちらから動く事はない。
『五年前の記憶であれば、悲劇後に幽閉論が噴出した前例があの斯波恭一だもんな』
「刃更が天才であれば斯波は鬼才と呼ばれ、強すぎる力に対して気分屋過ぎる性格の為に問題起こして何年も座敷牢に幽閉され続けていた」
「成り行きはどうであれ、一真様と深雪様と一緒に戦ってくれた柚希はそこまで敵対しようとはしておりません」
「そうだね。一真様とのデートや一緒に買い物が出来たのも、全ては策の一部かと思います」
『蒼太に沙紀の言う通りなのだが、澪は自分が魔族の血を引いている事も知らずに半年程前まで普通の人間として生活してたんだからな』
普通に育ってきたのにも関わらず、監視対象として避けられる事はなかったが消滅対象として切り替えた奴らにとって今の澪は瞬殺されてしまうだろう。
勇者側は人間界の平穏を守る事が唯一の使命を持つ連中だし、あちらの使命の崇高さを否定するつもりは更々ないが折り合えないのならば割り切ってやるしかない。ここにいる俺・深雪・蒼太・沙紀の四人は、戦闘力も勇者の奴らよりも上だしISや神の守護者である夜叉でもある二人。
「とりあえず戦うのは俺と深雪となるが、澪の受け継いだ力を狙う現魔王派の魔族を相手にするのとは訳が違う。戦闘力はこちらが上だが、何時どこでイレギュラーが起きるか分からん。迅は引き続き魔界にて調査をしててくれ」
『了解。ま、過去だと仲間であっても今の一真様なら同胞であっても戦えるなら安心ですぜ。一つ心配なのは奴ら以外の勇者らが動くと厄介かと。何しろ世界の平穏を目的とする勇者の一族は、澪が受け継いだウィルベルトの力を脅威として力を手に入れたり利用する魔族らと異なり容赦なく殺しに来る輩だ』
「それについては問題ありません。今回勝利しても《里》が一度下した決定を覆す可能性は低く、寧ろ危険と判断して更に強い刺客として来ても問題無いでしょう」
『勇者の一族は日本以外にも世界中のエリアを分割し、それぞれの担当エリアを守護しておりその内の一つが日本の《里》を敵に回せば必然的に世界中の勇者の一族を敵に回す。その辺りについてはどうなっています?』
「既にお父様のご指示にて、世界中の支社が勇者の一族を監視するそうです。蒼い翼は世界中にある支社には当然警察や諜報隊員がいますので、今更敵になろうともお兄様にとって戦う相手を敵と認識すれば問題ないです」
『なるほど、勝利後も考えているとなると今後に対しても問題なさそうだ。相手が「白虎」を持ち出そうと敵と認識した一真様、思いっきりブッ倒して下さい』
俺らは互いに答えて投影型の電話を切って、明日は休みなので早めに休んだ。決戦まで一週間だが、今のままでも充分勝てるけど一応澪や万理亜にも相手をしてもらう予定だ。対策や戦闘能力も俺と深雪らより下なので、地下二階にある鍛錬所にて相手を知る為の勉強会となった。
「柚希が持つ霊刀『咲耶』を駆使し、中遠距離戦闘を得意とする技タイプ。全応型剣士については澪と万理亜も知っての通りだが、高志や胡桃について情報を持っているんで共存したいと思っている」
「そうだね。今回戦うのは一真と深雪姉さんでも、情報共有した方が相手の事を知れて更に言えば今後私達の戦力にもなれるかもしれないしね」
「澪様もですが私も幾つか戦いのヒントにもなりますしね。あの槍やら勇者の一族に関する情報は一真さんが持っています」
「今から言う情報は《里》にいる諜報員からの情報であり、ほぼ真実に近い情報だと言う事です。お父様が報告を聞いた後、澪達に分かりやすく説明されます」
まず高志についてだが、アイツは五年前の俺と同じくスピードタイプで戦闘スタイルも高速槍使い(ランサー)だ。基本的には速度で攪乱しつつ、相手に接近しての攻撃がメイン。今と昔であれ、タイプが変わる事もなく能力タイプは本人の先天的な資質が大きく影響する。無論、後から他系統を鍛える事も可能だが本来の系統を上回るようなレベルにまで行く可能性は低い。
「と言う感じで、五年前の俺と今の俺でも実力的には最上級である。この間少しだけ相手したけど、槍を掴んでからの蹴りと重力による攻撃を防ぎきれなかった所を見るとまだまだ鍛錬不足の小僧にしか見えんよ」
「一真さんが持つ力の一つだと聞いてますが、一体どれくらいの力を持っているのですか?創造神と言えば全てを創った神だとは言え、他にも能力を持つ神だと言う事は聞いた事がありません」
「確かにお父様は創造神ですが、他の力は異世界にて習得した技です。なので気にしたら負けですよ、万理亜」
「そう言う事だ、得意分野として魔力なら深雪や澪に朱音達が得意でもある。得意分野の系統から有効戦術を組み入れば良い。魔力タイプの上位魔法士だと距離を取れば何とかなるが、決戦までは二人にも強くなってもらいたい。対策として今後強い方が有効活用出来る」
俺一人で二人を圧倒した力を持つにしろ、パワーバカ三匹を倒しただけの力はセーブした力とも言える。正面からやり合えるし、今回剣から槍へと変化した事で隙が生まれてヴァルガを葬った訳だ。俺らの事は後程にして、少々問題なのは高志が持つ槍について話題を変えたけどな。
「予想内であったが、高志が使っている長槍についてだが・・・・あれは『白虎』と言う特殊な霊槍だ」
「『白虎』って、日本史の教科書にも出てくる高松塚古墳の壁画にある?」
「まあな。元は中国に起源を持つ『四神』の一角で、西方の守護聖獣とされているがあの霊槍には『白虎』の力が宿っている。ま、俺が槍に触れた時は流石の『白虎』でも敵だとは思わなかったらしいしな」
「勇者の一族が聖獣を使役する事があるのは知っていますが、四神クラスの存在となると力は伝承に従い中国に縛られてると思うんですが・・・・」
「万理亜の言う通りで、あの霊槍に宿っている『白虎』は本家ではないけれど過去に日本にも存在します。高松塚古墳とは別にある平安京の四神相応、陰陽道が盛んだったあの時代に京の都の守護を任された陰陽師の一部により四神は神格化されて、その際の媒介として神器が作られました。無論お父様が持つ神器とは違う代物で、こちらのは異世界のであの霊槍はこの世界の代物でその内の一つとされています」
俺らが持つ神器は異世界から持ってきた代物であり、こちらの神器とは大違いにも程がある。元神シャルロットが作ったシステムであるが、こちらは何人もの高名な陰陽師が持てる力を注いで作り上げ多くの民衆の信仰によって力を増大させた神器とされている。力の凄まじさはこちらの神器よりも劣っているけど、使い手を縛り『白虎』も霊槍としての力を発揮する為には条件と制限が存在している。
「とまあそんな感じで、条件と制限を注意すればの事だが俺と深雪は特に気にしてない。西方の守護聖獣であっても、最終的には創造神の力で動くなとか言うかもな。いくら聖獣でも、全てを創ったとされている創造神ならだが『白虎』は西に向かって力を発動出来ないらしい。西を背にして守りながら東に対して放つ攻撃の時に最大限発揮するようになってるとか」
「最も中国天文学に由来する西方とは、正確な方角である西とは異なるわね。あくまで平安京の概念を元にした神器であり霊槍、中国の五行思想だと金で四大元素だと風だからスピードタイプには一番適してるわね」
「鈴音の言う通りであって本家の白虎を構成する西方七宿の内、オリオンと牡牛は日本だと冬の星座とされている。限定的であるが、氷属性も引っ張って来られるようだけど副次的なもんだから余り見せたりはしない」
「お父様や私も直接見た事はありませんが、《里》にいる諜報員でも分からないとの事です。ただ『全てを薙ぎ払う豪風』を生み出すと言う話だと、長槍は間合いが長いですが射程なら私の魔法や剣に鎧を持ってますので懐に入ればこちらの方が有利となります」
俺と深雪がどう戦うかは別として、相手が持つ力を情報共有した事で今回の喧嘩も俺らでやるが見学として澪と万理亜が近くにいる事となる。無論蒼太と沙紀も一緒だが、もしドウターが出てきたら優先度を変更して対ドウター戦をするだろう。俺らが作戦会議をしている間、高志と斯波は携帯のコードレスイヤホンで応えていた。
『うーん、やっぱり都会だと良い場所は中々ないなぁ。そっちはどうだい高志?』
「・・・・こっちもだ。通常結界でどうにかするのは諦めた方が良いかもな」
東城刃更=織斑一真と再会したあの日の晩から二日後の昼前。高志達は手分けして街を見て回っていたが、目的として俺らとの決戦に適した舞台の選定。人的被害が出ない事だけを考えると、広大な敷地と森を持つ都立公園が最適だが森や山と言う自然には土地を守り清めた霊的ポイントが多い。一真は神仏や精霊と話せるので、少し話せば即対応可能だがコイツらにはその権限を持っていない。
「この辺りも北の一級河川と都立公園の森と丘が交差しているが、地脈が乱れていては得策ではなさそうだ。刃更、ではなく一真と魔族が対決した場所も将来的に自然災害により壊滅してしまう」
『そーだね、今回高志が持ってきた「白虎」を持ってきた事で強大な力を発動させられる場所は自然と限定されてしまう。最悪、力をセーブしながらだけど果たして一真相手にセーブされた力で相手をするのは野暮だよ。高志も味わったと思うけどさ、一真が槍を掴んで蹴りを入れたまでだと力は同等だけど胡桃ちゃんと共に潰した力はヤバいと思うなー』
「・・・・あの力は前魔王ウィルベルトが使った重力制御だが、一真も使えるとでも『その可能性は高いよ、何せ一瞬にして重力制御を発動中は一真も手加減だったし』一真が重力制御を使えるとして、俺らの勝率としては『白虎』が全力を出せる場所じゃないと勝率はかなり下がる」
『敵は一真ともう一人いる事も忘れないでね、何せ血の繋がった妹さんがいた何て事は今まで知らなかった情報さ。あの妹さんがどんな力を使うかは分からないけど、あの後一度《里》に報告したら面白い回答してきた』
五年前里に居た頃を知る刃更だと圧倒的な存在で、早瀬高志はどんなに鍛錬しても天才と凡人には比べ物にならないぐらい強かった。同じスピードタイプでありながら、どれだけ息を切らしても同じレールに並ぶ事も出来ない存在。
あれから五年経った今知られた真実により、ここにいる高志達もそうだが《里》にいるほとんどの者が偽りの記憶を植え付けられていたと言う事を知った。唯一知っていたのは長老と外から来た第三者。
『《里》に報告したら、長老以外の民達は偽りの記憶を植え付けられた事に気付いていないそうだ。無論東城家と付き合いが長かった野中家もだけど、初めから里出身者ではないと知ると何やら記憶の改竄により織斑一真は偽名として東城刃更と名乗ったと長老が言ってた』
「何だそれは!最初から一真は俺達を騙していたって訳なのか?」
『騙してたんじゃなくて、最初から里出身者だと思わせていたと言っていいぐらいにね。まるで一真はこの世界に存在してないかのような感じだけど、実際長老と第三者から警告をもらったよ』
「警告だと?『うん。僕の口から言わせてもらうと「決して織斑一真を怒らせるな、逆鱗に触れると魂ごと消滅させてしまう」とかだったかな』まるで神を怒らせるなとでも言いたいのか?」
凄惨な事件を起こして今日まで、ここにいる勇者の一族らはずっと厳しい修行を重ねてきた。あの日を忘れる事なく、その絶望の記憶を抱えながらどんだけ辛い修行にも耐える事が出来て強くなれた。
自分達が強くなれた理由はそれぞれ異なるが、柚希は里を追放された刃更への想いを己の強さに変えて妹の胡桃は姉の助けになると願ったから今の強さを手に入れた。高志はあの時起きた悲劇を二度と起こらないよう願い、強くなってきたが一真とは過ごしてきた時間密度が絶対的に違う。
「柚希や胡桃に俺は、刃更とは幼馴染で一緒に過ごしてきた時間で今一体何をしてるかと思えばこの世界の災いの種である先代魔王の娘と一緒にいる。だが刃更=一真は悲劇を経験しても気にしていない様子だった。まるであの日の事を過去のような感じにしやがっている」
『今更君達に言うつもりもないけど、ここからは僕の推測だけどさ。恐らく今まで過ごしてきた一真は分身体と考えればどこか納得しないかい?そんで本体である織斑一真と合流したとなると合致するしね。犯した罪、一真が消してしまった仲間達の魂も全て浄化されたみたいにね。一真は魔族でもなければ勇者の一族でもないとすれば、残りは神族だと推測できる』
斯波が言っていた事は事実でありながら推測とした独り言だったが、それは全て合っていて実際俺は分身体と合流後にこの世界に来たのだから。なので今更過去の事を掘り下げたとしても、生き残った里の者も被害者と加害者。柚希は俺に対する想いがあるだろうが、妹である胡桃は五年見てきた事で許せない気持ちはここにいる高志も理解していた。
『僕らは最悪な敵と戦う事になるから用心に越した事はないよ』
「ああ、例えどれだけ時が流れていようと俺達の心に刻まれたあの日の記憶は決して消える事はない」
と言う風な会話後、高志と斯波は場所探索を開始していたが果たして安全な場所が見つかるとは思えない。蒼翼町は一見人間だけが暮らしているけど、蒼翼独立黒鮫課はヒト以外で犯罪やらを片付けるエキスパート。いくら勇者の一族であっても早々倒せる相手ではないし、創造神黒鐵と女神雪音の事を知らなければ、神対勇者と言う絵図になるだろう。
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