おぢばにおかえり
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第三十話 春季大祭その四
「だから。おぢばを案内しただけよ」
「何だ、そうだったの」
「てっきりちっちがねえ」
「そうそう」
皆かなり本気で信じていたみたいです。そんなことは絶対に有り得ないのに。私は本当にキスも何もかも全然経験ないですから。デートだって。そりゃ昨日のあれがデートっていうのならデートになるのかも知れないですけれど。それでもそれもまだですし。
「年下の男の子をって」
「思うわけよ」
「そんなわけないじゃない」
全く。冗談じゃないです。
「そういうのは旦那様か旦那様になる人とだけよ。ずっと心に決めてるんだから」
「うわ、お堅い」
「っていうか戦前!?」
皆私の言葉を聞いてかえって呆れてしまったみたいです。
「そんな考えで今だにいるなんて」
「幾ら何でも生真面目過ぎるわよ」
「僕だってそうですよ」
阿波野君がここでまた能天気に話に入ってきました。
「お付き合いする人は常に一人って考えてますから」
「あら、じゃあ相性ぴったりじゃない」
「ねえ」
皆それを聞いて顔を見合わせて言い合います。
「ちっちって浮気とか不倫とか絶対に駄目な人だし」
「だったら余計にね」
「何が相性ぴったりなのよ」
またかなり変な方向に話がいっています。あっちに行ったりこっちに行ったり。振り子か何かみたいに話が揺れ動いています。
「私と阿波野君はただの先輩と後輩なんだから。それ以外の何でもないのよ」
「はいはい、わかってますって」
「何もかもね」
皆今の私の言葉は軽く受け流してきました。本当に何でもないといった態度です。
「とにかくよ。君」
「僕ですか?」
「そう、君よ」
「名前何ていうの?」
今度は阿波野君に尋ねる皆でした。
「確か阿波野君だっけ」
「はい、そうです」
そして阿波野君自身もそれに言葉を返すのでした。私は急に暇になった感じです。
「阿波野新一っていいます」
「ふうん、いい名前ね」
「そうね。背高いし顔もいいし」
「スタイルもいいじゃない」
皆阿波野君を見つつ言います。
「性格もよさそうじゃない」
「合格よ、おめでとう」
「何が合格なの?」
私にはさっぱりわからずまた首を傾げてしまいました。
「よくわからないのだけれど」
「ああ、こっちの言葉だから」
「おいおいわかるかも知れないけれどね」
「おいおいって。とにかくね」
変な感じになっていたのでまた言いました。
「私は別に。阿波野君はただの後輩よ」
「今のところはそうですね」
「ずっとよ」
阿波野君の言葉にまたむっとしてしまいました。
「だから何でそう言うのよ。それはずっとじゃない」
「ずっとなんですか」
「当たり前でしょ。他に何があるのよ」
「ですから今のところは」
「今のところはって」
さっぱり意味がわからないで問い詰めていると。皆が周りで呆れた顔になっているのが見えました。
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