本気で挑むダンジョン攻略記
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Chapter Ⅱ:Xenogenesis
第05話:initium
前書き
10000字なんて書いてたら埒が明かないと最近気づきました。
6000字~8000字くらいの丁度良さを目指す所存であります。
連日投稿?何それ美味しいの?
※章→Chapter に変更。Diesに合わせます。
「よし、これで君は僕の眷属だよ、ベル君。」
「はい。よろしくお願いします。神様。」
オラリオのメインストリートからかなり入り組んだ所にある廃教会の地下の一室。
御伽話の英雄譚のような華やかさとはかけ離れた場所で、一人の人間と神との契約が交わされた。
「よし、それじゃあさっさと彼に報告しないとね。僕も少し話しがある。」
「はい。」
そして二人は地下室から階段を登って教会の礼拝堂へ。
壁は所々崩れ、建物の中であるにも関わらず草は生えて風が入り込む。お世辞にも綺麗とは言い難いその場所で、あまりにも場違いな男が一人、書物を片手に椅子に座っていた。
「おーい、ラインハルト君。ベル君の儀式は終わったぜい。」
「そうか。まずはおめでとうと言っておこう、神ヘスティアよ。【ファミリア】の結成、心より祝福しよう。」
その男を一言で表すなら『黄金』。輝く金の長髪に、威厳溢れる声、そして黄金律と称すべき完全な美。
聖槍十三騎士団黒円卓第1位、ラインハルト・ハイドリヒがそこにいた。
☩☩☩
神ヘスティアとの出会いは3ヶ月程前。主人公を捜索してオラリオを徘徊している時に、露店で売り子をしていた彼女に声をかけられたのが最初だった。
ファミリアに勧誘されたが此方にその気は無かったので勿論断ったが、代わりにファミリアに入りたがっている新人を見つけたら彼女に紹介するという約束をした。
勿論、主人公を彼女の眷属にする為の布石である。
そして、今日。ファミリアへの入団希望を悉く門前払いされていたベルを発見したラインハルトはベルに声をかけ、すぐさまヘスティアへ紹介。ベルはヘスティアの眷属として冒険者になった訳である。
実を言うと、ラインハルトがベルをフレイヤに紹介するか迷っていた事も確かだ。しかし、原作でフレイヤがベルを気に入っていた事から【フレイヤ・ファミリア】にベルを入れる事はベルの成長の妨げになるかもしれないと断念。それにファミリアの仲間とのグループでの行動は安全と引き換えに成長の分配を意味する。出来るだけソロで行動させたいという思惑もあり、原作通りにベルをヘスティアに紹介したのだ。
「さて、それでは神ヘスティアよ。ベルに関してだが、卿に一つ提案がある。」
「僕にかい?」
「ああ。ベルのダンジョン探索と修練、我々に任せてみないかね?」
「ええ――!?」
ヘスティアが予想外の提案に驚きの声を上げた。ベルはいまいち状況が分かっていないのか、ヘスティアとラインハルトの顔を交互に眺めている。
「ベルくんを紹介して貰ったのにそこまでしてくれるのは迷惑じゃないかい?」
「そこに関しては問題は無い。それに新米冒険者がソロでダンジョン探索。危険ではないかね?」
「確かにそうだけどさー」
ただでさえファミリア結成に貢献してくれたラインハルトに、お返しをするならともかく更に迷惑になるというのはヘスティアとしては首を縦に振りにくかった。
「ベルよ。卿はオラリオに何をしに来た?」
ヘスティアの説得が難しいと考えたラインハルトは先にベルの説得に切り替えた。
「は、はい!えっと...『迷宮神聖譚』に出てくる運命の出会いって奴に憧れて...」
「別に恥ずかしがる事もあるまい。要は、その物語に出てくる英雄のようになりたい。そういう事だろう?」
「…はい」
「ならば普通の冒険者のように過ごしている場合では無いぞ?神の恩恵を刻まれたとはいえ所詮は人の子。時間は有限だ。一分一秒たりとも無駄には出来ん。ベルよ、卿は強く成りたいかね?」
「…なりたいです。強く。」
そして、ラインハルトの言葉を聞いて、ベルの表情が変わっていた。
先程までの年相応の少年の顔から、まだ垢が抜けていないものの冒険者の顔になった。
それを確認したラインハルトはヘスティアへと標的を絞る。
本人の意思決定は取れた。後は保護者の同意を得るのみである。
「神ヘスティア。勿論ベルの安全は保障しよう。一級冒険者に匹敵する者が指導に付く。武器やアイテムも此方で提供しよう。」
「そんな、そこまでしてもらうなんて悪いよ!」
ふむ、つまりはヘスティアは自分たちだけ一方的に得をするのが嫌、という事らしい。
つまり、此方も得をすると言えば何とかなるかもしれん。
「何も其方だけが得をする訳では無い。神ヘスティアよ。我々はダンジョンの制覇を目標としている。」
「「ダンジョン制覇!?」」
これにはヘスティアもベルも驚くしかない。現在公式での攻略階層は58。まだ半分を過ぎたあたりだ。先は果てしなく長い。
「我々は優秀な戦力を欲している。将来的には少数精鋭の、ファミリアの枠を超えたチームを作る事を目標としている。つまり、将来的にはベルに、そのチームに入ってほしいのだよ。」
「なんだって!?」
「ぼ、僕がですか!?」
「そうだ。これでも人を見る目はあるつもりだ。才能があるかどうかはある程度見れば分かる。ベルよ、卿の将来性に我々は期待しているのだよ。」
「つ、つまり、ラインハルト君はベル君を一級冒険者に育てたい、って事で良いのかい?」
「ああ。そういう解釈で構わん。将来の仲間に対する先行投資と考えてくれ。」
「き、聞いたかいベル君!」
「はい神様!」
互いに手を取りあって大喜びする2人。
まあオラリオでも一握りしかいないトップ集団に入れる才能がある、と伝えられたのだ。気持ちは分からなくもない。
「ベルよ。確かに卿には期待しているが、楽に強く成れるとは思わない事だ。厳しい訓練が待っている。そこらの冒険者の様な楽はさせん。血反吐を吐くこともあるだろう。それでも強くなりたいならば、『英雄』になりたいならば、その時は我々は卿を快く迎えよう。どうかね?」
「…ラインハルトさん。僕は強く成れますか?」
「卿が挫けず、諦めず、死に物狂いで努力すれば、結果はおのずと付いてくる。卿の頑張り次第だ。我々はそれをサポートするだけだ。」
「…僕、強く成りたいです。『英雄』になってみたいです。」
「先は長いぞ?楽な道では無い。それでもかね?」
「やります。」
なるほど。どうしてまた、子供の癖に一端の男の顔をする。これが主人公って奴か。
「神ヘスティア。卿はどうかね?」
「…ベル君が覚悟を決めたんだ。僕はここでベル君を待つよ。それしか出来ないからね。」
「神様...」
「ベル君。君自身が決めた目標だ。気張れよ?」
「はい!」
何とかラインハルトによるベルとヘスティアの説得が終わった。
ラインハルトとしても目的達成のための最初の障害が取り除けてホッとしたところである。
「それでは、早速明日から訓練を開始するとしよう。今日は2人で親睦を深める事だ。」
「はい、よろしくお願いします!」
「それじゃあベル君、早速二人で親睦を深めようぜい!」
「ちょっ、神様~!?」
…ちょっとだけ主人公って羨ましいなあと思ったり思わなかったり。
☩☩☩
「いらっしゃい。待ってたわ。」
ヘスティア達と別れたラインハルトは、そのままフレイヤの元に来ていた。
フレイヤと契約してからというもの、ラインハルト自身がダンジョンに潜るとき以外は三日に一度のペースでフレイヤの元を訪れている。尤も、実際は食事をして葡萄酒を片手に雑談する程度のものだ。
…デートと思ったら負けである。
そして帰り際にオッタルらの相手を片手間にやって終了。それがここ一年間の流れである。
「ねえ、ラインハルト。ちょっと聞きたい事があるのだけれど。」
そしていつも通り食事をしていると、フレイヤが手を止めて質問を投げかけてきた。
「さっきヘスティアの眷属になった子...何て名前なのかしら?」
「(やはりベルの事か...原作よりも早いな)」
原作では偶然見かけて、という感じだった筈だが、おそらくラインハルトを観察していた為発見が早まったのだろう。直ぐにヘスティアに紹介して正解だった。
「名はベル・クラネル。冒険者になりたくてオラリオに来た少年だ」
「ベル・クラネル...」
やはり興味を持ったか。だが、逆にこれは良い傾向だ。これを機にラインハルトからベルに関心が移れば此方も気が楽になるというもの。もっとベルに興味を持たせなければ(使命感)。
「卿の興味を惹いたか...卿にはあの少年がどのように映ったのかね?」
「あら、妬いてるの?」
「全く」
「つれないわね」
こいつ、できる!(球磨川感)
おっと、ネタに走っている場合では無い。流石百戦錬磨。一筋縄ではいかぬらしい。
「あの子の魂、とても不思議な色だったわ...綺麗だった、透き通っていた...貴方の黄金とは違う、とても綺麗な色。」
そう言ってフレイヤは恍惚とした表情で微笑んでいた。
「ねえ、何故私のところに連れてこなかったの?」
「何か問題でもあるのかね?」
「ええ。ヘスティアだったから別に構わないけど、普通私の所に連れてくるものじゃない?」
「卿のファミリアは規模が大きい。ベルの成長にはソロの方が都合が良い。」
「そう。まあそういう事にしておくわ。」
「ベルは我々で鍛える。手出しは無用だ。」
「あら、それはまた楽しみだわ。貴方が関わることでどう色が変わっていくのか、とっても楽しみ。」
「悪いようにはせんよ。」
「ふふ。貴方と出会ってなければ直ぐにでも私のものにしてたわ...」
「そうか。それは光栄だ。」
「もう少し喜んでいいのよ?」
結局、フレイヤの中でベルは2番手らしい。
勿論、絶世の美しさを持つフレイヤに好意を持たれるのは嬉しい事なのだろう。しかしラインハルトにとっては色恋沙汰よりもダンジョン攻略が優先なのだ。
暫くはまだこの状態が続くのだろう、と心の中で嘆息するラインハルトであった。
…この後、ストレス発散としてオッタル達をボコボコにした。
ガリバー兄妹がレベルアップした。
解せぬ。
☩☩☩
翌日。ラインハルトはベルを連れてオラリオのメインストリートを歩いていた。
「ベルよ。今から我々の本拠地に案内するが、くれぐれも本拠地の場所は他言無用だ。良いな?」
「はい。分かりました。…えっと、ラインハルトさん。」
「ん?なにかね?」
「何故ローブをそんなに深く被っているんですか?」
「目立つからな。」
「…ああ、なるほど」
「本拠地の場所を知られたくないのに私が目立ってはいかんだろう?」
そんな雑談を交わしつつ、メインストリートから脇道へ入り、小さな教会の前で立ち止まる。ベルたちが本拠地としているところとは違い、真新しさが目立つ綺麗な教会だった。
「ここだ」
「ここ、って教会ですか?」
「中に入れば分かる。」
そして教会へと入って行くラインハルトの後にベルもついていく。
教会の中はベル達の本拠地に二階建ての一軒家が繋がっているような造りになっており、とてもダンジョン制覇を狙う集団の本拠地には見えない。
そして教会の奥へと進んでいくと、一つの扉があった。
「ベルよ、開けてみろ。」
「は、はい。」
ラインハルトに促されてベルが扉を開けると――
「え?」
そこには階段があった。地下へと続く方の。
「行くぞ」
「え、は、はい!」
そこから下へ降りて謎の地下道を歩くこと5分。そこには大きく『Ⅶ』と書かれた扉があった。
そして、その扉を開けると大きなホールの様な空間があった。闘技場のように中央に向けて低くなっており、周りには観客席のように100人程度は座ることが出来るようになっている。
そんな中ベルの目を惹いたのは中央に存在する大きな『円卓』だった。その周りに椅子が13個あり、それぞれ背もたれに『Ⅰ』~『ⅩⅢ』と書かれている。そして13個のうち5個の席に人が立っていた。
各々がラインハルトに向けて仰々しく礼をしている。
「ご苦労。諸君、座りたまえ」
そしてラインハルトの指示によって5人が席につく。
ベルは緊張して黙ってラインハルトの後ろについているだけだったが、5人のうちの3人――白髪の男と子供(?)に赤毛の女性の視線が突き刺さりビクビクとしている。
「さて、諸君。昨日連絡した通り、本日からこの少年を我々の部下として加える。」
「え、えっと...ベル・クラネルです!よろしくお願いします!!」
挨拶が終わると、5人が一様に此方に近寄って来た。
「はろはろーベル君。ルサルカ・シュヴェーゲリンよ、よろしく!」
「シャキッとしろ!」
「あいた!」
そして最初に挨拶してきた少女――ルサルカがもう一人の赤毛の女性に拳骨を落とされた。
「ちょっと~、こっちは緊張を解してあげようとやったのに~」
「ケジメをつけろと言っている。場の空気を弁えろ。」
「まあまあ、別に良いじゃない。あ、私はリザ・ブレンナーよ。よろしくね。」
「はぁ...エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグだ。」
そして女性陣3名の紹介が終わり、続いて男性陣2名だ。
「ヴォルフガング・シュライバーって言うんだ。シュライバーって呼んでよ。」
「ヴィルヘルム・エーレンブルグ。ベイでいい。」
少し威圧的ではあったが、一応名前は教えてくれたので、思ったよりも怖い人たちでは無い...と思いたい。
「ここにいる以外に数名の部下がいる。出会う機会があれば挨拶しておけ。」
「えっと、部下って言うのは?」
「我々は『聖槍十三騎士団・黒円卓』という組織だ。つまり、正規メンバーの席が13個しかない。そこは分かるな?」
「は、はい。分かります。」
「つまり、組織に入れたから、我々が育てたからといった理由で全員が正規メンバーになれる訳では無いのだよ。具体的には、『レベル6』以上である事が条件となる。」
「レベル6!?」
「ダンジョンを制覇するのだ。サポーターであっても最低でもそれくらいの力量を要する。ベルもレベル6になるまでは席は与えられず部下扱いだ。」
レベル6。一級冒険者の中でも限られた者だけが到達できる領域。
あまりにも遠く見える目標に早くもベルは気が遠く成りそうであった。
「まだ諦めるのは早いわ。私達以外の席が7個もあるんだから、今のところベル君が一番下だけど可能性はあるもの」
「リザさん...」
「だから一生懸命頑張りなさい。良いわね?」
「はい!」
「ん~、可愛い!」
「わぷっ」
リザから思いっきり抱きしめられてその豊満な胸に顔をうずめてしまうベル。
「ちょっ、離してリザさん!」
「耳まで真っ赤にしちゃって、初心なんだから~」
「いい加減にしろ!」
「いたッ」
暴走しかかったリザを、またしても拳骨で止めたエレオノーレ。
リザが涙目でエレオノーレを睨むが、エレオノーレは涼しい顔でベルに近寄り、腰をはたいた。
「シャキッとしろ。私が今日からお前の指導を行う。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「私の仕事はお前を『駆けだし』から『一級』にする事だ。私の言う事には全て『YES』と答えろ。良いな?」
「はい!」
如何にも、といった感じでスパルタ気味に指導を行うエレオノーレ。
その威圧感にビクビクしながら、ベルは頭の中でこう思っていた。
…ちょっと、早まったかもしれない。
後書き
強く生きろよ、ベル君。
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