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本気で挑むダンジョン攻略記

作者:MARIE
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Chapter Ⅰ:to the beginning
  第04話:そして始まりへ

 
前書き
一応内々定をいただき、就活もひと段落しましたので活動を再開します。
それとアンケートのご協力ありがとうございました。結果は物語が進むにつれて分かって来る事でしょう。
また、来年度には社会人になるので今年中に出来るだけ話を進めます。よって、今回はかなり展開を巻きにしてます。字数も少なめ(6000字強)です。

まあ色々と語る事はありますがとりあえず一言。
今年度もよろしくお願いします。
 

 
 
 結局、90層に続く階段も縦穴も見つからず、ラインハルト達黒円卓一行は地上へのとんぼ返りを余儀なくされた。
 死ぬまでにダンジョンをクリアしなければ罰ゲームとなる。
 クリアの為に獣殿というチートになり、更には黒円卓の主力ともいえるメンバーを連れているが、先に進めないのであれば幾ら強くても意味が無い。
 帰りの道中はシュライバーとベイに好きに暴れさせている間、ラインハルトはずっと考え事をしていた。

「(ダンジョンは100層まで。89階層より先に進むための何かしらのトリガーが有るのか?)」

 考えられる可能性は3つ。
 一つは単純に火力不足。聖槍の一撃で地面に穴を開けようとしたが貫通できなかったので、もしそうであれば創造、それこそ流出を使わなければなるまい。
 2つ目はダンジョンの何処かに90階層以降へ続く抜け道、もしくは階段を出現させるための装置がある事。これが一番現実的である。実際、ラインハルト達は縦穴を使って89層まで来たので、殆どの階層は見ていない。
 最後の可能性は、特定の誰かしか通れないという事。これが正解ならば絶望的だ。ラインハルト達以外でダンジョンをクリアできる逸材がこの世界にいる可能性など皆無である。オラリオ最強の冒険者であるオッタルですら手も足も出なかったのだ。ダンジョンのクリアは諦めるしかない。

「(いや、確実に最強になる奴(主人公)ならもしかしたら...)」

 前世の記憶ではあくまでラノベ数巻分の知識しか無いが、確か成長促進スキルとか色々持ってた気がする。そもそも主人公ってのは最終的にその作品で最強になるし(偏見)。

「(そうと決まれば暫くは主人公の...ベルだったか。そいつを見つけて育成するのが主になるな。)」

 今後の方針は決まった。
 あとは主人公以外の強い冒険者も揃えたいところだ。他のファミリアから引っ張ってくるのは難しいから、基本的には元冒険者か人数が少ない零細ファミリアの有望な新人が妥当だろう。
 そして今後生活していくうえでの資金が必要だ。
 しかし、自分たちは冒険者登録もしていなければファミリアに入っている訳でも無い。ギルドでの魔石の換金は難しい。かと言って商業系ファミリアとの繋がりもあるわけではない。

「(…という事は、困ったときの神頼み(・・・・・・・・・)か)」


 ☩☩☩


「あら、また来てくれたのね。嬉しいわ」
「なに、少々頼みたい事があったのでな。構わんかね?」

 ダンジョンから戻ってきたラインハルトはバベルの頂上、フレイヤのもとを訪れていた。
 もともとラインハルトが顔見知りの神がフレイヤしかいなかったこともあるが、【フレイヤ・ファミリア】がオラリオでも一位を争う探索系ファミリアであるというのは事前に調査済みだった事が大きい。

「ダンジョンへ行ってきたのでしょう?どこまで行ったのかしら?」
「89階層だ。もっと先へ進みたかったのだがね...」

 初めて二人が邂逅した時と同じように、優雅に葡萄酒を片手に談笑する2人。
 オッタル達をはじめとした【フレイヤ・ファミリア】でも最上位の冒険者達は、ベイと手合わせをする為に席を外している。どうやら先日の敗北でオッタルの闘志に火が付いたようで、先程ラインハルトに手合わせを申し込んできたのだ。当然側に控えていたベイやシュライバーがラインハルトの手を煩わせる事は無いとやる気になり、現在監督役にエレオノーレをつけている。シュライバーはスイッチが入るといけないので影に入って貰っている状態だ。

「それで、今日はどういう用件かしら?」

 雑談も終わり、フレイヤの方から本題に入る。ラインハルトとの時間を愉しみたいのはやまやまだが、ラインハルトの用事を遅らせるのは忍びない。そんな乙女な心情を知ってか知らずか、ラインハルトの方も直ぐに商談用に気持ちを切り替えた。

「単刀直入に言うと、女神フレイヤよ、卿に我々との契約を申し込みにきた。」
「良いわよ。許可するわ。」

 だが、内容を確認もせずにフレイヤは即了承。これには流石のラインハルトも驚きを隠せない。

「まだ内容は言ってはいないのだが?」
「貴方が持ってきた契約だもの。全てOKしてあげるわ。」
「…まあ良い。内容の確認をしようか。話はそれからだ。」

 将来的に眷属になって欲しい相手に対する譲歩。つまりはそういうことなのだろう。少なくともラインハルトは自分自身にそう言い聞かせ、予め準備していた契約内容を記した紙をフレイヤへ差し出す。

 ラインハルトがフレイヤに提示する内容は以下の通りだった。
 ・黒円卓がダンジョンで活動する際の後ろ盾となる事。
 ・ギルド、もしくは【フレイヤ・ファミリア】に出された冒険者依頼(クエスト)の斡旋。
 ・黒円卓が取得した魔石、怪物の宝(ドロップアイテム)の換金の仲介。
 ・対価として、冒険者依頼(クエスト)の報酬、及び魔石の換金額の3割を【フレイヤ・ファミリア】へ納金。
 ・ラインハルト以外の黒円卓のメンバーにおいて、同意が得られた場合のみ【フレイヤ・ファミリア】の眷属との手合わせの権利を与える。

 要は、黒円卓がダンジョンで活動するのを手伝ってくれれば、金と眷属のステータスアップ(経験値)をやる、という内容だ。

「あら、随分と面白い内容ね。」

 フレイヤは少しは自分たちに不利な内容かと思っていたのだが、むしろこれはフレイヤ達の一方的な儲け話である。

「これは契約なのでしょう?ギブアンドテイクの配分がおかしくないかしら?」
「構わん。ダンジョン攻略の為にも我々がダンジョンで活動出来る事が最優先であり、それが為されるのであればその程度の出費は痛くないのだよ。」
「そう。それじゃあもう一つ条件を追加していいかしら?」
「【ファミリア】に所属する事以外なら構わんが?」
「分かっているわ。ラインハルト、貴方が三日に一度でいいから此処に顔を出して頂戴。勿論ダンジョンに遠征に行っている間は来なくても構わないけど。」

 それが出来ないのであれば契約は出来ない、というフレイヤの意図が読み取れたラインハルトは二つ返事で了承した。

「ふふ、なら私から言う事は何も無いわ。女神との契約、ちゃんと守らないとダメよ?」
「勿論だとも。」

 そして示し合わせたかのようにグラスを合わせ、互いに葡萄酒を煽る。
 ここに、黒円卓と【フレイヤ・ファミリア】の契約が結ばれたのだった。


 ☩☩☩


 バベルを後にした黒円卓一行は、オラリオのメインストリートを歩いていた。

「もー、ベイったら張り切りすぎよー。私お腹空いたわー」
「しゃーねーだろ。久々に骨のある奴だったんだからよ」

 時刻は既に日付けを跨ごうかという時間帯。何故このような時間になってしまったかというと、ひとえにベイが【フレイヤ・ファミリア】の一級冒険者達を相手にした後にテンションがハイになってしまったからだ。
 監督役のエレオノーレが再三言い聞かせて漸く終わったときにはフレイヤの元を訪れてから4時間後だったというのだから恐れ入る。

「下手に加減して遊ぶからだ。我々の品位を下げるような事は控えろ、ベイ」
「まあまあ、良いじゃないエレオノーレ。適度に発散させた方が静かでいいわ。」
「そういうこった。それに換金にかなり時間かかっただろ。そんなにお前らの時間をとった訳じゃねぇ」

 フレイヤとの契約に基づいて早速今回のダンジョン遠征で入手した魔石をギルドを通して換金してもらったのだ。ギルドは最低価格での換金なのでフレイヤがいつも取引している商業系ファミリアや商人と取引する方が良いと言っていたが、手っ取り早く金が必要だったためにギルドで換金をしてもらったのだ。

 そしてギルドでの換金額、しめて[4億3200万ヴァリス]。それから3割にあたる[1億2960万ヴァリス]を【フレイヤ・ファミリア】に納金し、手元に残ったのは[3億240万ヴァリス]。
 ギルド職員はおろか、フレイヤの顔も引き攣って事からどれだけやらかしたのかは察して欲しい。
 何故こんな額になったかというと、階層主クラスの巨大な魔石が大量にあった事と、普段は【フレイヤ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】しか入手できない様な40~50階層周辺で入手可能な怪物の宝(ドロップアイテム)が沢山あった事だ。
 あまりにも金額が大きすぎて持ち歩けない程だったので、各自[50万ヴァリス]ずつ所持して残りはルサルカの影に貯蓄(プール)されている。図らずも黒円卓のお財布事情を一手に引き受けてしまったルサルカである。

 ―― 閑話休題(それはさておき) ――

 現在、ラインハルト達が何処へ向かっているかというと、ダンジョンへ向かう前に出会った少女との約束を果たすためである。即ち――


「いらっしゃいませー!」


『豊饒の女主人』。ダンジョン遠征前に出会った少女、シルが働く酒場に食事に来たのだ。
 WWⅡ(第二次世界大戦)時のドイツのような、騒がしくも何処か心地よい雰囲気。反応を見るにエレオノーレやリザ、ルサルカ達女性陣にはウケが良かったらしい。
 それと、ラインハルト達が店に入った瞬間に酒場の中の視線が一挙に集中していた。

「(ふむ...一見さんお断り...なわけでも無いか)」

 ラインハルト達は知ら無い。絶世の美男美女の集団が入った来たことと、彼らから自然と発せられる威圧感(プレッシャー)に注目が集まった事を。
 そして酒場の中の全員が注目したという事は、当然約束を交わしたシルも注目するという事で――

「あ、ラインハルトさん!来てくださったんですね!」

 ラインハルト達の姿を見つけたシルが彼らの元へ駆け寄って来る。どうやら彼女の方も約束は覚えていたらしい。

「ああ。6名だ。席はあるかね?」
「はい!お客様6名入りまーす!」

 シルが案内した席はカウンターから一番近いテーブル席だった。

「へえ、冒険者にしては良い男が揃ってるじゃないか。女性陣も別嬪さね。」
「ここの店主かね?」
「ああ、ミアってんだ。何でもを唸らせるほどの大食漢だそうじゃないか!じゃんじゃん料理出すから、じゃんじゃん食いな!」

 ちょっと待て。話が違う。
 シルの方を見ると、舌を出していた。これで絵になるのだから美少女は得である。
 仕方がない。

「卿らはどの程度までいけるかね?」
「少なくとも常人の10倍くらいは」
「同じく」
「私はちょっと少なめですね」
「僕はもうちょい上で」
「俺は20くらいは余裕でさあ」

 暗に満腹までどれくらい食えるかを聞くと、エレオノーレが10人前、ルサルカが同じく10人前、リザはそれより少な目でシュライバーとベイはもっといける、と答えた。
 メニュー表を見てもどういう料理か分から無い奴もあるし、その量を一々頼むのも面倒だ。メニュー表の金額的に考えて...

「ミア殿。50万で好きに作ってくれ。」

 ウエイトレスを介さずにミアに向けて直接オーダーをする。
 酒場の中がどよめき、ミアも此方を呆然と見てくる。
 50万ヴァリス。節制すれば一人が一年近く暮らせる金額だ。だが、ラインハルト達からすれば端金でしかない。
 それにこれは意趣返しだ。ミアとシルのポカンとした表情が見れただけでも溜飲が下がるというものである。
 ラインハルトがちゃんとお金はあるとちらつかせると、ミアは獰猛な笑みを浮かべた。

「ははっ、これは作り甲斐があるねえ!シル、リュー、アーニャ!こっちのテーブルにつきな!」
「「「はい(にゃ)!」」」
「ミア殿、酒も頼むぞ」
「あいよ!!」

 そこからは最早戦場だった。ミアが作ってシル達がそれを運びラインハルト達が食べる。最早それは湯水のように使われる銃弾と、それを死に物狂いで補給する補給部隊の様相をしていた。途中でリザとルサルカ、エレオノーレ、シュライバーがリタイアし、ベイとラインハルトのみになるがそこからがまた長い。まるで競うかのように酒を飲み、飯を喰らう。
 だがそれも仕方がないというもの。そもそもミアの作る飯が旨いのだ。庶民の料理の筈なのに味が良い。間違いなく一流である。
 更にはベイとラインハルトのどちらが先にリタイアするかで周りが賭けを始め酒場全体が謎の盛り上がりを見せ、最終的に50万ヴァリス分の料理が全て片付くという前人未到の偉業が達成されてしまった。最終的には引き分けに賭けていたウエイトレスの少女、クロエの一人勝ちである。

「ふむ。大変美味であった。」
「ははっ、こんなに食べたのはあんたらが初めてさ!そんだけ美味そうに食ってくれりゃあこっちも嬉しいよ!」
また来るぞ(We'll be back)
「ああ、次はもっと食材を準備しとくよ!」

 互いに握手を交わすラインハルト(食べた側)ミア(作った側)。彼らの間には確かにこの瞬間、互いを褒め称えるスポーツマンシップが存在した。

「よくやった!」
「今度は100万に挑戦しろよー!」

 そして場外で観戦していた客たちも二人を拍手をもって讃える。そして再び自分たちの席に戻り、先程の名勝負を肴に酒を煽り始めるのだった。

「もう疲れました~」
「...」
「グロッキーにゃ...」

 一方、ラインハルト達につかされ、50万ヴァリス分の料理を延々と運び続けたウエイトレス3人(被害者たち)は漸く一段落した激務から解放され力尽きていた。エルフの女性も平気そうな表情の中に僅かながら疲れが見てとれた。

「シルよ。実に美味な料理の数々であったぞ。」
「そ、それは私も誘った甲斐がありましたね。私のお給金もアップすること間違いなしです」
「そうか、また来るのでな。期待しておくと良い。」

『豊饒の女主人』を後にするラインハルト達を、流石のシルも苦笑いで見送るしか無かった。

 この日を以て、たった1日で黒円卓は『豊饒の女主人』のお得意様認定を受けた。この記録が他の客に抜かれることは以降一度も無かったという。


 ☩☩☩


 翌日。ラインハルト達は今後の方針を決めるための作戦会議を行っていた。
 最終目標はダンジョン攻略であるが、現状として先へ進めないので、暫くは手分けしてダンジョンへ潜り、生活費を稼ぎつつ90層以降への道を探すこと。
 また、有望な人材を探し育成を行う事。神の恩恵を授かった冒険者がいなければ先へは進めない等といった条件が発生した時の為の措置で、基本的にはエレオノーレが育成を行うのが一番だろう。ただし、有望な人材で無ければ無理して育成する手間をかける必要は無い。
 とりあえずは拠点(ホーム)を探し、ダンジョンに潜り、優秀な人材を育てる。それ以外の時間は各自自由という事で落ち着いた。


 ☩☩☩


 ラインハルト達がこの世界にきてから早くも一年が経過した。
 相変わらず90層以降へ進む道は見つからず、金ばかりが溜まっていく一方である。
 拠点(ホーム)も建設済みで、基本的に装備や武器は買わないので金の使い道が無い。
 先日などは此方から金を出して『豊饒の女主人』にラインハルト達専用の個室が増設されたほどだ。

 そして、ラインハルトはというとオラリオの街をほぼ毎日散策していた。
 ローブを被っているので人目にはつかないようにしている。
 何故こんなことを行っているかというと、人材探しである。そう、要は主人公(ベル・クラネル)を探していた。他の団員たちは彼の様相を知ら無いし、仮に探させたとして訝しまれる可能性がある。そして何より、自分が関係ないファミリアへ入ってしまう可能性を潰すためにも早期発見が望ましかった。


 そして、今日。


 ラインハルトの視界に一つの『白』が映りこむ。


 遂にだ。一年待った。

 ここからだ。ここからまたダンジョン攻略が始まるのだ。

 ラインハルトは逸る気持ちを抑え、厳かにその『白』に声をかける。


「卿よ、『英雄』に成りたくはないかね?」



 この瞬間、後世に語り継がれることになる『ダンジョン攻略記』が幕を開けた。
 
 

 
後書き
次回からは原作に入ります。
 
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