英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第25話(幕間終了)
12月15日――――
~カレイジャス・ブリッジ~
「クロイツェン州上空に到達後、天候、風向きともに変化なし。」
「現在速度、3000CE/h。対空レーダーの導力波なども今のところ感知していません。」
「このまま雲間を航行しつつ”双龍橋”を迂回します。貴族連合の警戒網に触れないよう充分に注意してください。」
「イエス・マム。」
大人の船員達の報告を聞いた艦長席に座っているトワは躊躇いなく指示をしていた。
「す、すごいな……さすがハーシェル会長。」
「ああ、たった一日でここまで板につくなんてな。」
「うん、父上の代理を立派に務められているようだ。」
「あはは、やっぱり頼んで正解だったみたいだね。」
「彼女自身は最初、凄く恐縮していましたけどね……」
「まあ、それは仕方ないだろう。むしろ学生の身でありながら、既に艦長をこなせる事に感心すべきだろう。」
「ええ……フフ、ですがこんなにも可愛らしい艦長は双界を探してもいないでしょうね。」
「ん、マスコットっぽい所が会長の特徴だし。」
「ふふ……それも器の一つなのだろう。」
仲間達と共にトワの様子を見守っていたシグルーンはある事を思い出して苦笑し、パントの言葉にルイーズは微笑みながら頷き、フィーとガイウスは静かに呟き
「フフッ、まるでエリゼお姉様を見ているみたいですわね。エリゼお姉様もミルス城で大人のメイドの方々に躊躇いなく指示をしていましたし。」
「そ、そうなのですか……?」
セレーネの言葉を聞いたエリスは信じられない表情でリィン達に尋ね
「アハハ……まあね。とにかく、今日からいよいよ行動開始ってわけね。」
エリスの疑問に苦笑しながら答えたアリサはリィンを見つめた。
「ああ……昨夜、話し合った通りだ。」
リィンは昨夜の会議を思い出した。
~昨夜・ブリーフィングルーム~
「カレイジャスの運用は基本的にトワ会長たち先輩にお願いできることになった。本格的に行動を開始できるのは明日からになりそうだけど……―――問題は、これから”どう”動いていくかだな。」
「この艦のおかげで、自由に帝国各地に足を運べるのはいいけど……現状、メンフィルが制圧したバリアハートやメンフィルの領地を除けば、ほとんどの場所は貴族連合に占領された状態なのよね。」
「そういった場所には、さすがに不用意に近づけないね。捕まるか、下手をしたら撃ち落されちゃうかもしれないし。」
「エ、エリオットさん……縁起でも無い事を言わないで下さいよ……」
エリオットの言葉を聞いたセレーネは不安そうな表情をし
「―――ですがその推測は強ち間違ってはいませんわ。」
「はい……先日のメンフィル軍の空からによる襲撃を知って相当警戒しているでしょうし……」
静かな表情で呟いたシグルーンの言葉を聞いたエリスは不安そうな表情で呟き
「……まあ、この艦にはメンフィルの技術によって搭載されてある防御結界があるから、そう簡単に撃ち落されないと思うが……」
「防御結界を使うような事態にならない事が一番ですね。」
パントとルイーズはそれぞれ静かな表情で呟いた。
「現時点で降りられる場所は意外と少ないかもしれませんね。」
「たしかに……サラ教官は、何か意見はありませんか?」
エマの意見に頷いたマキアスはサラ教官に助言を求めた。
「あー、自分達で決めなさい。あの渋いオジサマが降りちゃってテンション下がっちゃったし。何なら早速メンフィルの”協力者”に意見を求めてみたらどうかしら?何せ”軍師”がいるしね。」
しかしサラ教官はやる気のなさそうな様子で答え、それを聞いたリィン達は脱力した。
「サラ、不真面目すぎ。」
「ふむ、そう言ってくれるのは娘冥利に尽きるというものだが。」
フィーはジト目でサラ教官を見つめ、ラウラは苦笑し
「あはは、今度ラウラに仲立ちしてもらったらー?」
ミリアムは無邪気に笑いながら冗談半分に提案し
「ハハ、中々ユニークな教官だね。」
「フフ、そうですね。」
「まあこれ程個性の強い学生を担当するのですから、担当する教官もそれなりの個性を求められているという事ですわね。」
苦笑するパントの言葉にルイーズとシグルーンはそれぞれ頷いた。
「冗談よ、冗談。今後、君達の進む先で切った張ったが必要になるなら目一杯付き合わせてもらうわ。でも―――”カレイジャス”を託されたのはあくまで君達よ。相談には乗るつもりだけど、大切な決断は自分達でしなさい。」
「サラ教官……」
「フッ、もっともらしい事を。」
「いつも真面目に答えてくれたら、教官として完璧ですのに……」
(普段はどういう方なのかしら……?)
サラ教官の答えを聞いたリィンは目を丸くし、ユーシスは静かな笑みを浮かべ、セレーネの言葉が気になったエリスは不思議そうな表情でサラ教官を見つめていた。
「それなんだけど……まずはこの艦の”大目標”と”指針”を決めるべきじゃないかな?」
「”大目標”と”指針”、ですか?」
(ほう……)
(あら……驚いたわね。真っ先にそれに気付くなんて。)
トワの提案を聞いたエリスは不思議そうな表情で首を傾げ、パントとシグルーンは感心した様子でトワを見つめ
「みんなで一丸となれるある程度大きな将来の目標……そして、そこに至るための具体的な方針でしょうか。」
考え込んでいたエマは真剣な表情でトワを見つめた。
「うん、生徒会でもそうだけどそれが有るのと無いのとじゃ勢いとかやる気が全然違うから。」
「例えば学院祭なんかがそうだね。君達だって、ステージをやるために色々と頑張ってきただろう?」
「なるほど……」
「確かに、実習の前後や最中に色々打ち合わせもしたっけ………」
「何とか中止させまいと異変を食い止めた事もあったな。」
「うん、しかも”Ⅶ組”だけでなく他のクラスの意志も尊重して……」
「個々の目的はそれぞれある……だが、それらをまとめて引っ張っていけるような何かか。」
その場にいる全員は黙って考え込んでいたがやがてリィンが答えを出した。
「そうなると―――やはり”士官学院”そのものか。」
「あ…………」
「―――”貴族連合”に占領された皆様の学院ですね。」
リィンの言葉を聞いたエリスは呆け、ルイーズは静かな表情で呟いた。
「ああ………僕もそれは思った。」
「あの日、わたしたちが撤退するしかなかった場所……」
「確か今まで回って来た街等に士官学院からの脱出に成功した生徒達もいましたが……」
マキアスとフィーの言葉に続くようにセレーネは心配そうな表情で呟いた。
「会長、ジョルジュ先輩。トリスタと士官学院は現在、貴族連合の管理下でしたね?」
「うん、学院長たちが一応、頑張っていらっしゃるけど。」
「知っての通り、学院生の多くはトリスタから離れている状況にある。貴族連合に捕まる心配のなかった貴族生徒は残っているみたいだけど。」
リィンの質問にトワとジョルジュは学院の現状を答えた。
「―――状況はわかりました。だったらやはり、俺達の大目標は”士官学院の奪還”になると思います。」
「そうね……カレイジャスで各地を回れても最終的な拠点は必要でしょうし。」
「この内戦において少しでも状況を良くする……」
「それを続けながら目指していく将来の目標ということだな。」
「正直、厳しいとは思うけど。」
「んー、帝都も近いし守りも固いだろうからねー。」
「だが―――目標というのは大きい程やり甲斐があるものだ。」
「他の誰でもない――”俺達ならではの目標”というのも大きいだろう。」
「ああ……!何とかそこに辿り着ければ―――」
「ふふっ……」
「―――なるほど。これが”Ⅶ組”ですか……」
「貴族連合も彼らを警戒するだけはあるという事だね。」
「フフ、そうですね。」
リィン達の様子をサラ教官は微笑ましそうに見守り、シグルーンは静かな笑みを浮かべ、パントの意見にルイーズは微笑みながら頷き
「……何というか凄いですわね、皆さん……」
「はい……それに互いを信頼しあっているのが目に見えていますね……」
「こんな凄い人達が集まるクラスを立ち上げるなんて、やっぱり兄上は凄い……僕も早く追いつけるように努力しないと………!」
アルフィン皇女とエリスは苦笑し、セドリック皇太子は自身を叱咤し
「ま、前向きってのが最大の武器でしょうからね。」
セリーヌは静かな表情で呟いた。
「ふふっ、わたしたちも同じ事を考えてたんだ。……そこで提案なんだけど……今後、君達が地上に降りて用事をするついででいいの。各地にいる学院生達に声をかけてこの艦に呼んでもらえないかな?」
「あ……!」
「そうか……それもそうですね!」
「実際、この艦には現在、必要最低限のクルーしかいなくてね。臨時で働いてくれている人達もいずれは艦を降りてしまうらしい。その意味でも、士官学院のみんなに協力してもらいたいんだ。」
「そうして仲間を増やしていけばすぐには無理でも……いずれ―――機会があった時に士官学院を取り戻せる可能性が高められると思うんだ。何より、わたしたち自身の力で。」
「……会長……」
「ん、いいかも。」
「まさに”指針”ですね。」
「――わかりました。しばらく、この艦を拠点に帝国東部の状況を見極める……そうして各地に散らばった学院生たちを集めていく――それを俺達”Ⅶ組”の当面の任務としたいと思います。―――エリス、パント様、ルイーズ様、シグルーン中将閣下。改めてご協力、よろしくお願いします。」
仲間達の意見を纏めたリィンは新たな協力者の面々を見つめ
「元よりその所存でこの艦に乗船しました。未熟者ですが、皆様の足を引っ張らないように致しますのでよろしくお願いします。」
「期間限定とはいえ、私達も皆様への協力は惜しまないつもりです。改めてよろしくお願いします。」
「何か聞きたい事があればいつでも聞いてくれ。知恵を貸す事もまた”協力者”としての義務だからね。」
「フフ、改めてよろしくお願いしますね、皆さん。」
協力者の面々はそれぞれ答えた。
~現在・カレイジャス・ブリッジ~
「当面の任務は決まったが……まずはどこに向かうかだな。」
「ええ、降りられそうな場所はレグラム、ユミル、ケルディック、バリアハート、ノルド高原……一応、第四機甲師団の拠点にも降りられるのよね?」
「うん、昨日確認したら父さんの方も大丈夫だって。」
アリサに尋ねられたエリオットは頷いて答えた。
「ああ、できれば一回り回ってみたいが……」
「――それなんだけど。実は、皇子殿下から君達に”依頼”も回ってきてるのよね。」
「依頼、ですか?」
「なにそれ。」
サラ教官の言葉を聞いたリィンは首を傾げ、フィーはジト目になった。
「ふふっ。そこの端末を見てみて。」
「端末と言うと―――」
トワの言葉を聞いたエマは仲間達と共にブリッジ内に設置されてある導力端末に視線を向けた。
「これは……導力端末か。」
「学院の授業で習ったが……」
「百聞は一見に如かずよ。そちらにあるからまずは確認してみなさい。」
「ええ、それでは―――」
そして導力端末をアリサが操作し、リィン達は依頼内容を確かめ始めた。
「エプスタイン財団製の端末……授業で使ったのと同じタイプね。」
「相変わらずアリサさんは導力技術に強いですね……」
「さすがは”ラインフォルトグループ”の令嬢と言った所ですね。」
「改めて思いましたけど、この世界は科学方面が発展していますね。」
「ああ……対する私達の世界は魔術方面に発展している。興味深いな。」
端末を操作するアリサの様子を呆けた表情で見つめていたセレーネの言葉にシグルーンは答え、ルイーズの言葉にパントは頷き
「導力技術は私達からすれば当然の技術なのですけどね……」
「―――逆に言えば、異なる世界の技術は私達にとって驚くべき技術なのでしょうね。」
ルイーズとパントの反応を見たエリスは苦笑し、エマは真剣な表情で呟いた。
「――出たわ。」
「なるほど……」
「端末だとこういう風に表示されるのか……」
「情報局でも一部はこんな風になってるかな。」
そしてリィン達は依頼内容を確認し終えた。
「ノルド高原にレグラム、ガレリア演習場からの依頼……確かに各地で色々な問題が起きているみたいね。」
「な、なんだか見たような名前が書かれていた気がするんだが……」
「父さんの方面からの依頼もちょっと気になるけど……」
「ノルドに現れた不可思議な魔獣というのはさすがに気になるな……」
「これを全て、皇子殿下が集めて送ってくださったんですか?」
「すごいねー。帝国西部に行ったばかりなのに。」
仲間達が依頼内容を読んで考え込んでいる中、オリヴァルト皇子の手腕にエマとミリアムは感心していた。
「顔の広い人だし、遊撃士協会のネットワークも使っているみたいね。そんな感じで、君達ができそうな依頼を送ってくださるそうだから。やるかどうかは君達に任せるけど緊急度の高いものはやった方がいいかもね。」
「……了解です。正直、助かりました。」
「ふふ、具体的な目標があると我らも動きやすいからな。特に忘れてはならぬのが、士官学院生の安否確認か。」
「うん、わたしからも改めて依頼を出させてもらったよ。学院生の目撃情報も、少しずつ入ってきているんだ。そちらも端末で確認できるから、探す時に役立ててみて。」
「ふうん、便利そうね。」
「ああ、依頼と合わせて定期的にチェックした方がよさそうだ。」
トワの説明を聞いたセリーヌが感心し、リィンは頷いた。
「―――それじゃあ、行きたい所があったらわたしに声をかけてね?それと、船倉エリアでジョルジュ君が工房室を準備してくれているから。ARCUSやクオーツはそちらの方で準備してね。」
「他にも、艦内の施設は一度確認しておくといいわね。今後、君達の仲間が増えてきたら使える設備もあるでしょうし。」
「わかりました。では地上に降りるメンバーは――――」
そしてリィンがメンバーを編成しようとしたその時
「あ、あの!少しいいでしょうか……?」
「殿下……?どうかしましたか?」
セドリック皇太子が申し出た為、中断した。
「えっと……パント卿にお願いがあるんです。」
「私にですか?何でしょうか。」
「その……空いた時間で構いませんので、僕を政治家として鍛えて頂けないでしょうか……!?」
「ええっ!?」
「……何故そのような事を?」
パントへのセドリック皇太子の頼みにエリオットは驚き、ラウラは戸惑いの表情をした。
「レン姫達の話ではパント卿はメンフィル帝国の”宰相”という大役を務めていた方との事。エレボニアに再び戦乱を起こさない為にも、父上の跡を継ぐ僕は早く成長して、父上達を補佐したいのです!」
「殿下……」
「なるほどね。政治に関して滅茶苦茶優秀な教師がいるから、せっかくだから有効に活用するって事だね。」
「フィ、フィーちゃん。」
セドリック皇太子の話を聞いたユーシスは驚き、フィーの言葉を聞いたエマは冷や汗をかき
「た、確かにパント様程適任な方はおりませんが……」
「…………―――セドリック殿下は本当にそれでよろしいのですか?”他国”の政治を司った私の教えを請えば、それを参考にした政治を実行する為にエレボニアが今まで敷いて来た政治体系を大きく改革する事になる可能性も十分に考えられます。そしてそれに反発する勢力が現れ、再び内戦に発展する可能性もありますよ。かの”鉄血宰相”と貴族達が反発し合ったように。」
ある事に気付いていたセレーネは複雑そうな表情をし、パントは真剣な表情でセドリック皇太子を見つめて問いかけた。
「―――はい。もう2度とこんな事が起こさない為にも、僕は今のままじゃダメなんです。お願いします……!」
「……フム………アルフィン殿下はどう思われているのですか?」
「フフッ、パント卿がよろしかったのでしたら、お願い致しますわ。むしろ皇太子だからと言って遠慮せずにスパルタで教えてあげてください♪”色々な意味”でセドリックを成長させる為にも是非お願いしますわ♪」
パントに視線を向けられたアルフィン皇女は微笑み
「ア、アルフィン。」
アルフィン皇女の言葉を聞いたセドリック皇太子は冷や汗をかいた。
「フフ…………―――わかりました。”協力者”である間のみになりますがこの私でよろしければ、セドリック殿下の教育係を務めさせて頂きます。」
「あ……ありがとうございます……!」
そしてパントの答えを聞いたセドリック皇太子は明るい表情で頭を下げた。
「セドリック殿下ならきっと、パントさんの教えを無駄にせずに立派に成長するだろうな……」
「ああ……さてと。それじゃあ改めて地上に降りるメンバーを編成しよう。メンバーは―――――」
ガイウスの言葉にリィンは静かな笑みを浮かべて頷いた後メンバーを編成し、仲間達と共に各地に散っている士官学院生達との合流や依頼の消化等を開始した。
ページ上へ戻る