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青砥縞花紅彩画

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32部分:稲瀬川勢揃いの場その二


稲瀬川勢揃いの場その二

日本「問われて名乗るもおこがましいが、生まれは遠州浜松在。十四の時から親に離れ、身の生業も白浪の沖を越えたる夜働き。盗みはすれど非道はせず、人に情けを掛川から金谷をかけて宿々で、義賊と噂高札に回る配布の盥越し、危ねえその身の境涯も最早四十に人間の定めは僅か五十年、六十余州に隠れのねえ賊徒の首領(ちょうほん)日本駄右衛門」
弁天「さてその次は江の島の岩本院の稚児上がり、普段着慣れし振袖から髷も島田に由比ヶ浜、打ち込む浪にしっぽりと女に化けた美人局、油断のならぬ小娘も小袋坂に身の破れ、悪い浮名も龍の口、土の牢への二度三度、段々越える鳥居数、八幡様の氏子にて鎌倉無宿と肩書も島に育ってその名さえ、弁天小僧菊之助」
忠信「続いて次に控えしは月の武蔵の江戸育ち、ガキの頃から手癖が悪く、抜け参りからぐれ出して旅を稼ぎに西国を回って首尾も吉野山、まぶな仕事も大峯に足を留めたる奈良の京、碁打ちと言って寺々や豪家へ入り込み盗んだる金が御嶽の罪科は蹴抜けの塔の二重三重、重なる悪事に高飛びなし、後を隠せし判官の御名前騙りの忠信利平」
赤星「またその次に列なるは、以前は武家の中小姓、故主の為に切取りも、鈍き刃の腰越や砥上ヶ原に身の錆を研ぎなおしても抜け兼ねる盗み心の深翠り、柳の都谷七郷花水橋の切取りから、今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に月影ヶ谷神輿ヶ嶽、今日ぞ命の明け方に消ゆる間近き星月夜、その名も赤星十三郎」
南郷「さてどんじりに控えしは、潮風荒き小ゆるぎの磯馴の松の曲がりなり、人となったる浜育ち。仁義の道も白川の夜船へ乗り込む船盗人、波にきらめく稲妻の白刃に脅す人殺し、背負って立たれぬ罪科は、その身に重き虎ヶ石、悪事千里と言うからはどうで終いは木の空と覚悟はかねて鴫立沢、然し哀れは身に知らぬ念仏嫌えな南郷力丸」
 名乗りが終わる。それを受けて五人は姿勢をまた正す。
日本「五つ連れ立つ雁金の五人男にかたどりて」
弁天「案に相違の顔触れは、誰白浪の五人連れ」
忠信「その名もとどろく雷鳴の、音に響きし我々は」
赤星「千人あまりのその中で刻印打った頭分」
南郷「太えか布袋か盗人の腹は大きい肝っ玉」
日本「ならば手柄に」
五人「とらえてみよ」
青砥「うぬ、よくぞ言った」
 それを受けて頷く。そして捕り手達が動き出す。
青砥「かかれい」
捕手「ははあ」
 忽ち捕り手達と五人男の打ち合いがはじまる。五人男は刀を抜かずそれぞれ傘で相手をする。弁天と赤星やややおとなしめの動作だが忠信と南郷、特に南郷は激しい。駄右衛門はかなり強い。
 五人は二人ずつ相手をする。そしてあっという間に潰していく。青砥はそれを後ろから見ている。
青砥「ぬうう」
 五人は捕り手達を退けることに成功する。青砥はやはりそれを後ろから見ている。
 中央に駄右衛門、上手に赤星と忠信、下手に南郷と弁天が位置する。そして傘を拡げてさす。
 
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