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青砥縞花紅彩画

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21部分:雪の下浜松屋の場その六


雪の下浜松屋の場その六

弁天「へん」
日本「むっ」
弁天「(南郷に顔を向けて)兄貴、もう化けちゃいられねえや。おらあ尻尾を出しちまうよ」
南郷「(ちっと舌打ちして)この野郎、しっこしのねえ。もうちっと我慢できねえのかよ」
弁天「何言ってやがる、男と見られたからにゃあ窮屈な思いをするだけ無駄ってもんだ。もし、お侍さん(ここで駄右衛門と忠信を見る)」
日本「むっ」
忠信「何じゃ」
弁天「お察しの通りだよ。わっちゃあ男さ。どなたもまっぴら御免なせえ」
 そして弁天どっかりと胡坐をかいて座る。それから煙管を持って来て火を点ける。
与九「何と、男とは」
赤星「これはまた何ということ」
南郷「へっ、どうやら驚いて言葉もねえようだな」
弁天「言葉も波止場もねえだろうな(ニヤリと笑いながら)」
南郷「おいおい、波止場は俺のシマだぜ」
弁天「おっと、そうだった。さて、と」
 ここで場を見回す。
弁天「何で俺達がここに来たか知りてえだろ」
日本「無論」
忠信「どうせたかりか何かであろうが」
弁天「そうよ。金の欲しさにな。女形を気取って化けた苦労は実らなくて残念だがな」
日本「またその様な戯れ言を」
忠信「それにしてもこのごに及んでその態度、何とも太い奴だ」
弁天「騙りに来るんだ、首は太いが肝は太いんだよ(そういいながら自分の首と肝を指し示す)」
南郷「おいおい、太いの細いのって橋台で売る芋じゃあるめえし」
弁天「ははは、そりゃそうだ」
日本「それにしてもその態度、盗人ながら見上げた奴等よ」
弁天「褒めたって何も出ねえぞ」
日本「そしてその肝、さぞかし名のある物共であろうな」
弁天「何だ、俺達を知らねえのか」
赤星「知るわけがないだろう、盗人の名なぞ」
与九「そうじゃそうじゃ、一体何をぬかすか」
弁天「(ニヤリと笑って)へっ、そうかい。じゃあ」
 ここで煙管を手にする。そしてそれを右手に持ちながら話をはじめる。
弁天「知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂と五右衛門が歌に残せし盗人の、種は尽きねえ七里ヶ浜、その白浪の夜働き、以前を言やあ島で年季勤めの児ヶ淵、江戸の百味講の蒔銭を当てに小皿の一文字、百が二百と賽銭のくすね銭せえ段々に悪事はのぼる上に宮、岩本院で講中の枕捜しも度重なり、お手長講を札付きにとうとう島を追い出され、それから若衆の美人局、ここやかしこの寺島で小耳に聞いた祖父さんの似ぬ声色で小ゆすりたかり、名さえ由縁の弁天小僧菊之助とは俺がことだ」
  そしてここで見得を切る。腕の桜の彫物を見せる。
  南郷もこれに続く。
南郷「その相ずりの尻押しは、富士見の間から彼方に見る、大磯小磯小田原かけ、生まれが漁師に波の上、沖にかかった元船へその舟玉の毒賽をぽんと打ち込む捨て碇、船丁半の側中をひっさらって来るかすり取り、板子一枚その下は地獄と呼ぶ暗闇も、明るくなって度胸が座り、艪を押しがりやぶったくり、舟足重き刑状に、機能は東、今日は西、居所定めぬ南郷力丸、面を見知ってもらいやしょう」
  それを聞いた日本駄右衛門さては、という顔で。
日本「では今世間を騒がせる日本駄右衛門とその配下の者達か」
二人「(ニヤリと笑い)その通り」
弁天「まずは頭の日本駄右衛門に」
 駄右衛門がびしっと格好をつける。
弁天「右腕の忠信利平」
 ここで忠信がきっという顔をする。
弁天「そして左は南郷力丸」
 南郷がニヤリ、と笑う。
弁天「そして赤星十三郎」
 赤星がバッ、と弁天を見やる。
弁天「わっちゃあほんの頭数さ」
 そして不敵な笑みを作る。それを受けた駄右衛門は思わず唸る演技をする。
日本「むむむ、あの五人男のうち二人まで来るとは」
忠信「後の三人も何処にいるかわからぬぞ」
赤星「全くです。これは一大事」
 ここで三人も見合ってニヤリと笑う。
南郷「こうなっちゃあ仕方がねえ。これはここに」
 今しがた受け取った百両を取り出す。そしてそれを幸兵に投げ渡す。
 
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