英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第193話
同日、12:50――――
~バリアハート・クロイツェン州統括領主城館~
会議が始まる少し前ツーヤはある部屋を訪れていた。
「クロウさん、少しいいですか?」
「その声は……ツーヤか。好きにしな。」
「―――失礼します。」
部屋の主の許可を聞いたツーヤは部屋に入り、部屋に備え付けてあるベッドに無気力な様子で座っているクロウに近づいた。
「―――久しぶりですね、クロウさん。こうして顔を合わせて話すのはあたしとプリネさん達が学院を去って以来ですね。」
「ハッ……ユミルの時は挨拶も無しだったからな。それで何の用だ?俺の処刑の前に最後の別れ代わりにお前がプリネ達を代表して来たのか?」
ツーヤに話しかけられたクロウは皮肉げな笑みを浮かべてツーヤを見つめた。
「…………………」
クロウの問いかけに対してツーヤは何も答えずある端末を置いて端末を操作した。すると端末には席についているリィンやオリヴァルト皇子達の姿が映った。
「なっ……!?リィン!?それにお姫さん達や”氷の乙女”まで……一体何なんだこの映像は?」
映像に映るリィン達を見て驚いたクロウはツーヤに尋ねた。
「後10分で始まる『エレボニア存亡会議』の様子を映す端末にレンさんにハッキングしてもらって、こちらでも見れるようにしました。」
「『エレボニア存亡会議』……ああ、お前らに制圧されたエレボニアを何とか生き延びさせようっていう会議か。何でそれを俺を見せる?」
「―――リィンさんはその会議でクロウさんとクロチルダさんの”減刑”をリウイ陛下達に申し出るそうですからね。当事者であるクロウさんやクロチルダさんも見るべきだとプリネさんが判断して二人に会議の様子を見せる事にしたのです。」
「何だと……!?」
ツーヤの口から語られた予想外の言葉にクロウは信じられない表情で声を上げた。同じ頃クロウ同様城館の一室に幽閉されていたクロチルダもレーヴェからツーヤと同じ説明を受けていた。
「…………あの子、正気?クロウはわかるけどどうして私まで…………もしかしてエマに頼まれたのかしら?」
レーヴェから説明を受けたクロチルダは信じられない表情でレーヴェを見つめて問いかけた。
「”試練”の際にバリアハートに訪れていた連中の話ではシュバルツァー自身がこう言っていたそうだぞ。『クロウを……俺達の大切な仲間を処刑するなんて、絶対にさせるものかっ!勿論エマにとって大切な家族のクロチルダさんもだ!』、と。」
「…………………………」
レーヴェの話を聞いたクロチルダは呆然とした様子で黙り込んで映像に映るリィンを見つめていた。
同日、13:00―――――
~エルベ離宮・紋章の間~
エルベ離宮の最奥である紋章の間には会議用のデスクが設置されてあり、各国の首脳陣、アリシア女王やクローディア姫がそれぞれ席についており、さらにエステル達が窓際で警備をしていた。
「議事進行は僭越ながら私、クローディア・フォン・アウスレーゼが行わせていただきます。会議は一度休憩を挟んで、約5時間を予定しております。ただし進行次第では多少の延長はありえますのでよろしくご了承ください。それと―――会議に際して4名のオブサーバーに参加してもらっています。遊撃士、エステル・ファラ・サウリン・ブライト、ミント・ルーハンス・ブライト、ヨシュア・ブライト、女神フェミリンス。遊撃士協会と言う中立的立場から本会議の安全を保障してもらうため、参加を要請しました。」
「えっと……エステル・ファラ・サウリン・ブライトです。今日はよろしくお願いします。」
「マ……じゃなくてエステルの養女のミントと申します。本日はよろしくお願いします。」
「―――遊撃士協会所属、ヨシュア・ブライトです。誠心誠意、務めさせて頂きます。」
「我が名はフェミリンス。エステル達と同じく此度の会議の安全保障の為に参加を許された者です。以後お見知り置きを。」
クローディア姫に促されたエステル達はそれぞれ自己紹介をした。
「フッ、”通商会議”の件を考えれば遊撃士協会からの代表者も参加すると予想していたが、まさか君達が代表者とはね。」
「本日はよろしくお願いしますわ。」
エステル達が自己紹介を終えるとオリヴァルト皇子とアルフィンは微笑みながらエステル達を見つめ
(まさかエステルさん達まで参加しているなんて……!)
(むしろ遊撃士の中でリベール、エレボニア、メンフィル、クロスベルの各王族と面識がある上信頼されている彼女達以外はありえないでしょうね。)
リィンが驚きの表情でエステル達を見つめている中、クレア大尉は静かな表情で推測した。
「フッ、よりにもよってエステル達まで参加させるとはな。」
「エステルさん達はリベールは当然ですが、メンフィルとクロスベルからも信頼されている存在……これ以上ない人選ですね。」
「うむ。それとエステルとミントはS級に昇格する事が内定しているという……大陸全土に6人しかいないS級遊撃士を2人も今回の会議の安全保障の任につかせるとは、さすがはリベールじゃな!」
(確かにS級遊撃士が2人も安全保障をしている事も凄いけど、女神自身がこの会議の安全保障をしている事自体がもっと凄いわよ……)
リウイやイリーナ、リフィアがアリシア女王達に感心している中エリゼは苦笑しながらフェミリンスを見つめ
「クロスベルでは例の”教団”の件どころかクロスベル解放や”碧の大樹”攻略にも貢献したと聞いている。クロスベルの民達に代わり、この場を借りて礼を言わせて頂く。」
「……クロスベルが大国へと成り上がった事で多くの問題が発生すると思われますが、民達の生活が平穏であり続ける為にクロスベル帝国は遊撃士協会と連携してそれらの問題を解決して行く所存です。今後もよろしくお願いします。」
(あの方達がかの”ブレイサーロード”達……)
ヴァイスは静かな笑みを浮かべてエステル達を見つめ、エルミナが静かな表情でエステル達に会釈をしている中ユーディットは呆けた表情でエステル達を見つめていた。
「恐縮です。」
「遊撃士は市民達の為にある存在です。あた………じゃなかった。―――私達も急な国際情勢の変化に戸惑っている市民の皆様の為にも仕事により一層励む所存ですので、こちらこそよろしくお願いします。」
「え、えっと……これからもよろしくお願いします!」
各国首脳の称賛の言葉にヨシュアは静かな表情で会釈をし、エステルとミントも続くように会釈をした。
「フム、エステル殿達のご高名は我が国にも轟いておりますが………フェミリンス殿、でしたか。先程クローディア姫の紹介でフェミリンス殿が”女神”であると仰っていましたが……」
「―――事実だ。”姫神”フェミリンス。我が国に遥か昔から伝わる女神にして我らマーシルン家にとって先祖に当たる女神だ。」
アルバート大公の疑問に対してリウイは静かな表情で答えた。
「な……っ!?それは事実なのですか?」
「ええ。ただしメンフィル皇家と血縁関係があるとはいえ、私はメンフィル帝国とは何の関わりもありませんわ。」
「フェミリンス様の件はメンフィル皇女でありながら、癒しの女神教の司祭として活動しているティア神官長と同じようなものだと思って下さい。」
「なるほど……」
驚いているアルバート大公にフェミリンスとイリーナがそれぞれ説明をしてアルバート大公を納得させ
(”ブレイサーロード”と”剣聖”が貴女と血縁関係である事を知れば、アルバート大公は更に驚くだろうな。)
(フフ、そうですね。)
セルナート総長の小声にエイドスは苦笑しながら答えた。
「あの……少々よろしいでしょうか?そちらの女性――――ユーディット嬢が何故此度の会議に参加しているのでしょうか?ユーディット嬢はカイエン公のご息女なのですが……」
「ええっ!?」
「カイエン公と言えばエレボニア帝国で内戦を引き起こした主犯の一人だと聞いているが……」
「……ヴァイスハイト陛下、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
戸惑いの表情をしているアルフィンの疑問を聞いたクローディア姫は驚き、アルバート大公は信じられない表情でユーディットを見つめ、アリシア女王は真剣な表情でヴァイスに尋ねた。
「ユーディット嬢はカイエン公と違い、内戦を引き起こす事に反対し、内戦勃発後は内戦の影響で生活に苦しむ民達に私財をなげうってまで支援物資を送っていたとの事。また”才媛”と知られる彼女の能力は高く、更に彼女は俺の側室として嫁ぐ事が決まっている為、クロスベルやユーディット嬢自身の将来の為にも参加してもらった。」
「え……カ、カイエン公のご息女であられる方がヴァイスハイト陛下の側室にですか……!?」
「……メンフィル帝国はその件について承知しているのでしょうか?以前教えて頂いた”戦争回避条約”でカイエン公爵どころか、カイエン公爵家自身に対しても相当厳しい処罰を求めておられましたが。」
ヴァイスの説明を聞いたクローディア姫は驚き、アリシア女王は真剣な表情でリウイ達を見つめて問いかけた。
「無論承知している。詳しい経緯は省かせてもらうがユーディット嬢はカイエン公爵家とカイエン公爵夫人を守る為に単身でヴァイスハイト陛下との交渉を申し出、余がその場に立ち会っている。よって”戦争回避条約”の一文にあったカイエン公爵夫人の引き渡しやカイエン公爵家の爵位剥奪を撤回する事となった。」
「そんな事があったのですか……」
リフィアの説明を聞いたクローディア姫は呆けた表情で呟き
「―――オリヴァルト皇子殿下並びにアルフィン皇女殿下。遅くなりましたが父の愚行によって、陛下達を幽閉の身にしたどころか内戦を引き起こし、更にはエレボニア帝国が滅亡の危機に陥る事となった”原因”を作ってしまった事……この場を借りてカイエン公爵家を代表して謝罪の言葉を申し上げさせて下さい。――――全ての”元凶”の一人であった父を止められなかった事、誠に申し訳ございませんでした。」
「ユーディットさん………」
「……確かにカイエン公に対して思う所はあるが、貴女や貴女の妹キュア嬢は内戦を起こす事に反対し、内戦勃発後は民達に支援物資を送っていた事は西部で活動していた私の耳にも届いている。貴女達を責めるつもりはないので、どうか頭を上げてくれ。」
頭を深く下げるユーディットをアルフィンは辛そうな表情で見つめ、オリヴァルト皇子は静かな表情で答え
「……ありがとうございます。」
オリヴァルト皇子の言葉を聞いたユーディットは会釈をして頭を上げた。
「アリシア女王陛下、そろそろ始めて頂いてもよろしいでしょうか?エレボニアの皆さんにとって祖国の存亡がかかった会議でもあるのですから一秒でも早く会議の結果を知りたいと思っているでしょうし。」
「わかりました。ではまず事の経緯をエレボニア、メンフィル、クロスベルの三国よりそれぞれ順番に説明して頂きます―――――」
そしてエイドスに促されたアリシア女王は会議の進行を始めた。
こうして『エレボニア存亡会議』が始まった…………!
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