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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第二十二話 激闘!!第五次イゼルローン攻防戦なのです。その2

 
前書き
 大芝居・・・いいえ、中芝居・・・違う、そう、小芝居の始まりなのです。 

 
帝国歴483年5月19日――。


 同盟軍艦隊では、帝国軍艦隊が退却の兆しを見せ始めたことをしって、手ぐすねを引いてその時を待ち構えていた。

「いよいよだな」

 旗艦アイアース艦橋上で、ブラッドレー大将は誰ともなしに呟いた。もしここにシトレ、シャロンがいればその意味をまた違った風にとらえたかもしれないが、その意味を理解できたのは、そばに立っているヤンだけであった。
 この遠征に当たって、シドニー・シトレは大将に昇進していたが、その際にシャロン中佐を呼び返し、代わりにヤンを一時的にブラッドレー大将の側役として旗艦に同乗させたのである。その真意はいかなるものか、ヤンとしては測り兼ねた。

「敵艦隊、要塞に向けて回頭!!退却に移りました!!」
「よぉし!!今だ!!全艦隊、敵艦隊に追尾、食らいつけ!!」

 総司令官席でロボスが吼えた。彼にしてみれば、ここが千載一遇の機会。これでイゼルローン要塞を陥落させることができれば、一気に元帥になることはほぼ確実。これまでの無為な日々を補って余りある栄達である。
 そのロボスの気迫は全軍に染みわたり、全艦隊が羊の群れを追う猟犬の様にかさにかかって急進して食いついていった。

「おぉ!!始まったぞ!!」

 観戦している最高評議会のメンバーたちも喜びの声を上げる。彼らにしても、イゼルローン要塞を陥落させるという歴史的な瞬間に立ち会えるうえ、現政権の支持率はウナギ上りになるだろうという観測が胸に充満していた。

(やれやれ、どうもこういうのは好きではないな)

 沸騰した熱気の中、一人ヤン・ウェンリー少佐だけは冷めた目で周囲を見ていた。「負けることを前提にする」という作戦のため、口を出すわけにも行かないが、かといって無為に死んでいく将兵たちのことを思うと気分の良いものではない。

「ヤン、安心しろ。手は考えてある。そうそう兵たちを無為に殺さんさ。これはパフォーマンスだ。そのことを覚えておけ」

 ブラッドレー大将は目ざとくヤンの顔色をみて、そう言った。

「敵がトールハンマーを発射しないという保証は、どこにもありませんよ」
「それは承知している。だから先鋒を第八艦隊に任せたんだぞ。大丈夫だ。今回の損害は見た目には派手なものになるが、実情はそうではないさ」

 第八艦隊のシドニー・シトレ中将とブラッドレー大将との間では、既にそのことを予測した打ち合わせが済んでいると思われた。

「そうありたいものですね」

 ヤンは気が乗らなそうに言った。ブラッドレー大将が考えていることはおおよそ想像がついていたが、その作戦が齟齬をきたしたとき、果たして「軽微」な損害でいられるだろうか。


一方のイゼルローン要塞、そして駐留艦隊司令部では驚愕の顔が並んでいた。

「て、て、テキ――」
「どうした!?ここにはテキ屋はおらんぞ!!まともに報告せんか!!」

 クライスト大将がオペレーターに叱責した。「違うよ、バカ!ハゲ!」という目で大将をにらんだオペレーターが、

「敵艦隊が急速前進!!わが艦隊と混戦状態です!!これではトールハンマーを撃てません!!」
「何ィ!?」

 クライスト大将以下が愕然となった顔をした。すでにトールハンマーの発射シークエンスに移行しつつあるというときなのに。
 一部の兵はそのうろたえ切った態度をみて「あ~あ。だから言わんこっちゃない。前線からの情報をちゃんと聞けよお前ら。バ~カ」などと白けた目で見ていたが、それを表だっていうこともできず、ただ無表情のままそれぞれの任務に当たっていた。

 もっとも声に出して言ってしまった者もいる。

「あ~あ。だから言わんこっちゃないじゃない。前線からの情報をちゃんと聞きなさいよ。バカじゃないの!?」

 と、帰投してきた艦隊駐留ドックでティアナがぼやいていた。

「ティアナ、ぼやいている場合じゃないわよ。例のクルムバッハ少佐、ここでラインハルトとキルヒアイスを狙いに来る頃合いよ。私たちも掩護に向かいましょう」

 イルーナが教えた。

「行くのですか?ベードライの時も、決闘事件の時も、私たちはラインハルトに掩護しなかったですけれど」

 と、フィオーナ。

「あれは私たちがラインハルトの近くにいなかっただけの話よ。助けられる機会があれば助けたいの」
「でも、ラインハルトは迷惑に思いませんか?あ、違うのか、だいぶ幼少の頃からイルーナ教官たちに教えられているんですものね」

 ティアナが納得顔をする。

「ティアナ、そういうことよ。それではいきましょうか。あまり時間もないことだし」
「はい!急がなくちゃ!!」

 3人は艦を残った士官に託すと、報告と称して艦の外に出た。


 イゼルローン要塞の外では激戦が続いていた。トールハンマーを使えない帝国軍は対空砲火と駐留艦隊の連合をもって、総力戦に当たっていたが、殺到してきた同盟軍艦隊とスパルタニアンの攻撃で次々と要塞に被弾し、外部の損傷はいよいよ激しくなってきた。

「いいぞ!!もう少しで要塞を落とせる!!」

 ロボスが腕を振り上げながら叫んでいる。少々軽率なところがないでもないが、あと少しで歴史的偉業を成せると思えば、無理のない事である。

「突入部分の、外壁の対空砲火、ほぼ無力化しました!」
「よし、ありったけのミサイルを叩き込め!!主砲、集中斉射!!撃て!!」

 ロボスの号令で、各艦隊が一斉にピンポイント攻撃を仕掛ける。そこは突入部隊の揚陸する地点で有った。合計5か所。そこに集中して攻撃を仕掛けられたのだからたまらない。
 流体金属と言えども、水爆ミサイルによって吹き飛んで散り、外部がむき出しになったところもあった。

「よし、外部から揚陸部隊を降下して、要塞を制圧せよ!!」

 ロボスが高らかに叫んだ。

 この様子を見ていたクライスト大将が愕然となった。もはや防ぐ手はない。外から数十万の敵が数か所から侵入してくれば、防ぎようがない。

「まずい・・・まずい・・・・まさか私が要塞司令官の時に!よりによって私が要塞司令官のときに!!どうしてイゼルローン要塞が落とされねばならんのだぁ!!あと少しで退役できるところまで来ているというのに!!」

 焦ったようにつぶやいたクライスト大将だったが、次の瞬間狂ったように叫んでいた。

「も、もはやこれまでだ!!トールハンマー発射用意!!」
「ええええええええええ????!!!!」

 という目を全員がした。なぜなら外には相当数の味方が残っているからだ。

「か、構わん。今ここで手をこまねていては、敵に侵入されて要塞は陥落するぞ!!中には民間人も多数いる。皇帝陛下の民を死傷させてもよいと卿らはいうのか!?」
「し、しかし――」
「軍隊は人を守るものだ!!そのためになら犠牲を厭っている場合ではないだろう!!」

 皮肉にもクライスト大将が言ったその言葉は、後半はともかくとして、ヤン・ウェンリーも常々言っていることであった。

「トールハンマー発射せよ!!発射だ、発射ァァァァァァッ!!!」

 狂ったように司令官席の前の机をたたきながらクライストが叱咤した。


 同盟軍艦隊では、イゼルローン要塞表面上に急速な動きがみられるのに気がついていた。

「と、と、と、とぉ~~~~――」
「なんだこんなときに!?気合いを入れてほしいのか?入れるなら、儂がいれてやる!!」

 そんなことじゃねえよ、と艦橋にいた全員がロボスを冷ややかな目で見たが、当のロボスはオペレーターに「正確な状況報告せんか!?」と叱責を浴びせていた。

「と、トールハンマー、です!!トールハンマーが発射体制に!!」
「バカな?!そんな!?味方をうつというのか!!」

 愕然とするロボスと、顔面蒼白になる最高評議会のメンバー、政財界の有力者たち。無理もない。この状況下においては、旗艦ですら全軍の中陣にいたのである。トールハンマーの射程内に入っていた。

「きゅ、急速反転回避、回避だぁ!!」

 ロボスがうろたえたように叫ぶ。その横で、冷静に状況を見ていたブラッドレー大将はひとりうなずいていた。

「ついに来たか!!」

 彼はあわただしく立ち上がり、第八艦隊に通信を開いた。というのは、敵に最も肉薄しているのは、この第八艦隊だからである。

「シトレ!!いよいよ来るぞ!!」


 その第八艦隊司令部内でも動きはあわただしかった。

「わかっております。ご心配なく」

 シトレはそう言うと、傍らに立っていた参謀長、そして次席幕僚のシャロンに目を向けた。

「準備できています」

 参謀長はそう言うと、シャロンにうなずいて見せた。彼女はすぐに自分の席に座ると、驚くべき速さでコンソールパネルを操作し始めた。

「よし、有人艦隊は直ちに散開、所定の場所に退避!!無人艦隊のみ引き続いて攻勢を展開せよ!!揚陸艦はどうか?」
「はっ!偽装した無人揚陸艦のみ展開し、有人の揚陸艦はイゼルローン回廊外縁に急速撤退させております」

 つまりこうである。イゼルローン要塞に殺到していたのは、揚陸艦を含めた艦すべてが無人艦隊のみであり、有人艦隊はトールハンマーの射程からいつでも急速回避できるような地点に展開していた。
(つまりリング状になれるように、という体制である。)
 遠征直前に、シャロン中佐がブラッドレー大将とシトレ中将にひそかに意見具申してきたものであり、その中に無人艦隊をもって敵を、そして味方を欺くべしと書いてあったのだ。
 先にも述べた通り、第八艦隊は首都星ハイネセンを先行出立していた。表向きの目的は哨戒のためであったが、事実は途中途中の惑星基地に約半数の将兵を「守備兵」としておろし、半数を無人艦隊にしていったのである。

 というわけで、第八艦隊のほぼ半数に当たる7000隻はすべて無人艦艇で構成されていた。そのソフトウェアを開発したのも、ほかならぬシャロンである。

 よって、今から派手に飛び散るのはほぼ無人艦だけであり、それによって、敵にはこちらが甚大な損害を受けての撤退というように見せかけ、味方、ことに評議会のメンバーにも、トールハンマーの恐るべき威力を身をもって示すといういわば「パフォーマンス」を行おうというのであった。

「味方艦隊はどうか!?」
「既に司令部直属の艦隊はトールハンマーの射程より離脱!第五、第八、第六、第四艦隊も逐次撤退に入ります!!」
「ようし!!本艦も急速回頭!!全速で引き下がるぞ!!」

 シトレがそう言い、全艦隊に撤退を指示した。

* * * * *

 イゼルローン要塞放棄ブロック動力部内部では、クルムバッハ少佐とその配下に囲まれたラインハルトが一人銃を突きつけられていた。

「私の命を狙う理由は?やはり、ベーネミュンデ侯爵夫人の差し金か」

 つゆほども動揺を見せずにラインハルトが尋ねる。

「そうだ。いや、そうであったが、今は私個人の復讐もあるのでな。散々戦場でコケにされ、無能呼ばわりされたのだからな。お前みたいな『青二才』に」
「事実を言ったまでだ。全体の戦局もわからず、個々の戦闘艦のなすべきところも知らず、まして兵一人の事も考慮すらできない者は、無能呼ばわりされて当然だろう」

 ラインハルトが怒りの眼をクルムバッハ少佐に向けた。それに対してクルムバッハ少佐の方は今にもつかみかからんばかりに肩を振るわせて激怒していた。

「貴様、小僧!!この期に及んでも!!構わん、殺せ!!」

 その時だった。無機質なアナウンスがブロック内に響き渡った。

『トールハンマー、発射シークエンスに移行します。発射10秒前・・・9・・・・8・・・。』
「な、なに?!」

 クルムバッハ少佐たちが愕然となった一瞬の隙に、ラインハルトが動いた。すばやく銃を抜きたちどころに二人の脳天を撃ち抜いて倒す。これで敵は4人となった。

「こ、小僧!!」

 クルムバッハ少佐が銃を放ったが、ラインハルトが地面を転がって交わした。

「ラインハルト様~~!!!」

 キルヒアイスが駆けつけてきた。叫び声とともに銃を放つと、正確に心臓を撃ち抜かれた二人の敵が倒れる。

「ひ、ひいいいいい!!」

 情けない声をあげてクルムバッハ少佐が逃走を図った。その直後、閃光がきらめき、トールハンマーが発射された。



「と、トールハンマーが発射されます!!」
「回避、回避だぁ!!!」

 ロボスが叫んだ瞬間、凄まじい光の奔流と衝撃が同盟軍艦隊を襲ってきた。一斉に悲鳴を上げる艦橋、ことに評議会メンバー、政財界有力者たちの驚きと動揺はひどいものだった。

「キャアアアアアアアアアアッ!!!」
「た、助けてくれぇ!!まだ死にたくない!!」
「嫌ァァァァァ!!」
「殺されるぅ!!!」
「死ぬのは御免だ!!!」
「ママ~~!!」

 という、なんとも士気を下げかねない情けない悲鳴が響いた。ある議員は頭を抱えてしゃがみ込み、ある議員は床にうつ伏して震えている。女性評議会議員など、泣声を上げる始末だった。だが、旗艦は既にトールハンマーの射線、射程の外にいたので、光の奔流を後ろから眺めているだけであったのだ。

(やれやれ、こういう人たちが後方で前線の惨状を知らずに命令していたのか。頭でわかっていても、実際にこういう光景を見ると、なんともやりきれないなぁ)

 その光景を見ながらヤンはひそかにと息を吐いた。

「どうだ。効果覿面だろう?」

 ブラッドレー大将がそっとヤンにウィンクして見せた。

「ええ」

 ヤンがそう言った時、トールハンマーの第二射を告げるオペレーターの悲痛な声が聞こえた。



* * * * *

 形成不利と悟ったクルムバッハ少佐が必死に逃げていく。

「待て!!」

 ラインハルトが逃げる相手に叫んだが、残る一人に阻まれた。そいつは銃を撃ったが、焦っていたのかあらぬ方向にとんでいっただけだった。

「どけっ!!」

 ラインハルトが銃を撃ち放すと、敵は地面に転がったが、転瞬、ラインハルトの足をつかんでいた。

「しまった!!」

 地面に足を取られたラインハルトが中心部に大きく円形にあいた動力炉へと通じる穴に転げ落ちていく。

「ラインハルト様ァ!!」

 間一髪の差で、キルヒアイスがラインハルトの右手をつかんでいた。

「キ、キルヒアイス!!駄目だ、手を離せ!!お前まで巻き添えにしてしまう!!」
「いいえ、私は絶対に放しません!!」

 クルムバッハ少佐が逃げようとしてこの光景を見た。瞬間彼は悪魔の様に喜びの表情を浮かべながら戻ってきた。

「くくく・・・残念だったな」
「何が残念なの?」

 不意に後ろで声がした。クルムバッハ少佐が驚いて後ろに目を向けると、3人の女性士官が立っていた。

「ティアナ、ここは任せたわよ」

 イルーナがそう言い、フィオーナと共にラインハルトとキルヒアイスを助けに走っていった。

「き、貴様ら、ここで何をしている?!」
「何を?あ~なんて間抜けな台詞なのよ。あんたこそ何してんの?大方ラインハルトを狙って失敗して尻尾巻いて逃げようと思ったら、ああいうことが起こってるんで、気を変えて二人を始末しに引きかえしてきたってところ?」

 ティアナが小ばかにしたように淡々と言うので、クルムバッハ少佐がたちどころに血を登らせた。

「き、貴様、女だからと思っていれば!!」

 女だと、しかも一人だと安心したのか、つかみかかってきたクルムバッハ少佐をティアナが銃を抜く手も見せず、台尻の一撃で吹き飛ばした。顔面を強打され、したたかに背中を壁にぶつけたクルムバッハ少佐がずるずると床にへたり込んで動かなくなった。

「バッカじゃないの。女、女って」

 ティアナが銃を相手に突きつけたままちかより、素早く両手を縛り上げ、銃を奪い取った。

「フロイレイン・ティアナ」

 振り向くと、ラインハルトとキルヒアイスが立っている。イルーナとフィオーナは他に倒れているクルムバッハ少佐の手下たちの息を探っていたが、やがてこっちに戻ってきた。全員死亡しているようだ。

「助かった。すまなかった」
「余計なことをしちゃった?放っておいても二人なら大丈夫だと思ったけれど、念のためにね」
「いや、危なかった。私もキルヒアイスもあそこで終わっていたかもしれない。ありがとう」

 イルーナとアレーナに子供のころからみっちりと教育されたのか、こういう時のラインハルトはとても素直だった。

「わたくしからもお礼を言います。本当にありがとうございました」

 キルヒアイスも頭を下げる。

「いいわよいいわよ。あ、それでね、これ、どうするの?」

 ティアナに「これ」呼ばわりされたクルムバッハ少佐は地面に無様に転がっていた。まだ意識を取り戻していない。ティアナに軽く足でつつかれて、ようやく彼は目を覚ました。

「こ、ここは・・・・ハッ!?き、貴様ら、私をどうするつもりだ?!」
「皇帝の寵姫の弟を(ラインハルトは皮肉たっぷりにそう言ったが)狙ったのだ、前のヘルダー大佐同様、裁判にかけられ、まずは一族皆殺しということだな」
「い、いいいい一族皆殺し!?」

 白粉を塗りたくったクルムバッハ少佐の顔色が白を通り越して青くなる。

『トールハンマー、第二射、発射体制に入ります』

 場内にアナウンスが響き渡る。

「そこで待っているがいい。要塞の憲兵隊に連絡して、貴様の身柄を引き取ってもらうからな」

 そういうと、ラインハルトは踵を返して入り口に背を向けた。

「ま、まて、まて、待ってくれ!!」

 クルムバッハ少佐が必死に立ち上がり、ラインハルトの後を追った。だが、後ろ手に縛られていた悲しさ、足取りがおぼつかない。そこにトールハンマーの第二射が放たれ、閃光がたばしった。

「わあああああああっ!!」

 目にもろに閃光を浴びて、縛られた両手で目を庇ったクルムバッハ少佐がよろめきながら中心の動力炉への開口部に突進していった。

「危ない!!」

 全員がとめようとしたが、遅すぎた。クルムバッハ少佐はものすごい叫び声を上げながら落下していった。

「・・・・あ~~~、やっぱりこうなったか」

 ティアナが憮然とした様子で呟く。

「済んでしまったことは仕方がないわ。ラインハルト、どうするの?」

 イルーナが尋ねた。

「首謀者が死んでしまった以上は、どうにもできない。クルムバッハ少佐の証言があれば、ベーネミュンデ侯爵夫人を糾弾できると思ったが、それは次のことになりそうだ」

 次、か。とフィオーナはつぶやく。それはラインハルトが元帥に叙せられた後のことなのだ。

「行こう。ここにいると危ない」

 ラインハルトが言った。


* * * * *

 トールハンマーの二斉射によって、同盟軍艦隊はすりつぶされるようにして消滅し、慌てふためいて退却していった、と、帝国側には見えた。
 ところが、実際に壊滅したのはほぼすべて無人艦隊だけであり、その損害数は6900隻。有人艦隊で消滅したのは、回避のタイミングが遅れてしまった運の悪い艦、わずかに100隻に満たないものであった。とはいえ、指示を完全徹底させていれば要らぬ犠牲をださなかったのに、ということで、シトレやブラッドレーは面白くない顔つきであったが。
 ロボスにしてみれば、損害は1万隻に満たないということで、体勢を整えての更なる攻撃の続行をしたかったようだった。事実彼はその後の会議でそう言ったが、同席していた評議会のメンバーがヒステリーを起こし、一斉にもう帰りたいと喚き叫んだため、やむなく彼は撤退を決意していた。もっとも、要塞にある程度のダメージを与えたということで彼の功績は評価できるものになるだろうとブラッドレー大将から言われていたこともある。
 会戦当初の艦隊戦からの損害をすべて累計すると、同盟軍の損害は、艦艇7356隻、そのうち無人艦隊が6900隻なので、有人艦隊の損害は500隻に満たなかった。これほど大規模な会戦にしては異例の低さである。
 対するに帝国軍の損害は艦艇7837隻と同盟軍を上回った。これは進退窮まったクライスト大将が発射した「味方殺し砲」によって、すりつぶされて消滅した艦艇が多かったことを示している。
攻防戦での戦闘で撃沈された艦はむしろ少なかったのである。

 こののち――。

 クライスト、ヴァルテンベルク両大将は、降格こそなかったが、参事官という形でオーディンに転属になることとなる。原因は言うまでもなく「味方殺し砲」を撃ってしまったことだが、それ以上にラインハルト、イルーナらの一部の良識派からの忠告を全く無視してしまったことが原因だった。
 これについては、クライスト、ヴァルテンベルクともに隠ぺいしようともくろんだのだが、運の悪いことに軍務省監察局監察課所属のカール・グスタフ・ケンプ中佐とオスカー・フォン・ロイエンタール大尉が現場にいたのである。彼らはすぐに帝都オーディン軍務省にそれを報告した。その報告は、クライスト、ヴァルテンベルク両大将が握りつぶす前に、マインホフ元帥、ビリデルリング元帥、ワルターメッツ元帥の3長官のもとに入ったから大変である。

「すぐに奴らを呼び返せ!!解任、解任じゃあ!!!」
「ふざけおって!!部下の報告を聞かず、しかもそれを握りつぶすとは言語道断!!」
「はてさて、あきれたご仁たちじゃのう」

 三者三様の反応ながら、このことはすぐに実行されるのであった。ちなみにゼークト大将のほうは、一応ラインハルトからの報告を無視せず、抗戦する意志を示してある程度踏みとどまったことを考慮されて、降格にはならなかった。昇格もしなかったが、その代わりイゼルローン要塞の駐留艦隊司令官に任命されたのである。これは、無事に勤め上げれば、次は軍務省の高等参事官のコースが待っている路線であった。

 他方、ラインハルト、イルーナ、そしてヴァルテンベルク艦隊の幕僚だったレイン・フェリルはそれぞれ一階級の昇進が決まっていた。これは暗に「昇進させてやるから口をふさいでいろ」という上層部の命令が聞こえるかのようだった。
 ラインハルトとイルーナはそれぞれの部下たちの昇進を要求、これは案外あっさりとかなえられた。
ジークフリード・キルヒアイスは大尉に、フィオーナとティアナもまた大尉に昇進することとなるのである。
 
 

 
後書き
 観戦武官というものが19世紀~20世紀にありました。原作で、自由惑星同盟の民間人、政治家を観戦に連れていったらどうなったでしょうか? 
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