英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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外伝~癒しの演奏会~
各地を回っていたリィン達は七耀教会のシスター見習いでもある士官学院生―――ロジーヌの依頼を受ける為にケルディックの礼拝堂にいるロジーヌを訪ねた。
~ケルディック・礼拝堂~
「Ⅶ組の皆さん……お越しいただいてありがとうございます。依頼を見てくださったみたいですね?」
「ああ、ケルディックの為に演奏の催しを考えているそうだな。」
「その件で、僕に何か相談したいこともあるらしいね?」
「ええ、そうなんです。皆さんもお忙しいでしょうが、御力を貸していただけませんか?」
リィンとエリオットの言葉に頷いたシスター―――ロジーヌは懇願するかのような表情でリィン達を見つめて尋ねた。
「ああ、勿論協力させてもらうよ。」
「そうだね……ケルディックの為に何かできる事があるのなら。」
「私も同じクロイツェンの民として協力は惜しまぬつもりだ。」
ロジーヌに協力する事を決めたリィンとエリオット、ラウラはⅦ組を代表して答えた。
「皆さん……ありがとうございます。―――あの焼き討ちの日から数日……町の復旧は少しずつ始まっています。メンフィル帝国から支援物資が届いたり、復旧にもギルドの方達やイーリュン教の方達と協力して手伝って頂いて。」
「ふむ、たしかに町の復旧は進んでいるようだ。」
「ギルドもできる限り協力しているみたいね。」
ロジーヌの話を聞いたラウラとサラ教官はそれぞれ頷いていた。
「ですが……やはり町の皆さんは心に深い傷を負われているみたいで。町が焼かれた光景が目に焼き付いて眠れない方などもたくさんいらっしゃるんです。」
「あれからたった数日だからな……」
「無理もないです………あれほどの惨状でしたから。」
「犠牲者は出なかったけど、ケルディックの人達は辛い思いをしているのでしょうね……」
「多分、完全に痛みが治るのはずっと先の事でしょうね……」
「……………………」
ロジーヌの話を聞いたリィン達がそれぞれ重苦しい雰囲気を纏っている中、ユーシスは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「そんなみなさんの心の傷を少しでも癒して上げたくて……一生懸命考えたんですが。この礼拝堂で”演奏会”のような催しができないかと思いまして。」
「演奏会……」
(演奏…………?)
ロジーヌの口から出たある言葉を聞いたエリオットは目を丸くし、ロジーヌの言葉によって何かを思い出しかけたゲルドは不思議そうな表情をした。
「はい、今年の夏にトリスタの教会で行われた催しもとても素晴らしかったですから。あの時のような演奏会ができれば町のみなさんを元気付けて差し上げられるんじゃないかと。」
「なるほど……それでエリオットに相談を。」
「……うん、やってみる価値は十分にあると思う。音楽は人の心を癒してくれる……僕も今まで何度も励まされてきた。ケルディックの人達の傷は深いだろうけど、僕らが頑張れば少しは癒してあげられるはずだよ。」
「ああ、そうだな。ケルディックで演奏会を実現するために、なんとか動いてみるとしよう。」
「リィンさん、皆さん……ありがとうございます!」
リィンの答えを聞いたロジーヌは明るい表情で感謝の言葉を述べた。
「ふふ、そうと決まれば何から手をつけるかだが。」
「必要なのは演奏する『場所』……そして『奏者』と『楽器』だね。それらをどう揃えられるかで、演奏できる曲も決まってくると思う。この礼拝堂は十分な広さがあるし、場所はここで問題なさそうだけど……」
「奏者と楽器か……どちらも一から揃えていくのは難しそうな感じだな。学院祭のときと違って、俺達が練習する時間は作れないだろうし。」
「うん、ある程度心得があって、楽器の用意もある方々に協力を頼む必要がありそうだ。エリオットや吹奏楽部の者達は頭数に入れて差し支えなさそうだが。」
「うん、僕も一応バイオリンを持ってきているしね。吹奏楽部はまだ全員揃っていないけど……後で僕が声をかけておくよ。欲を言えばプリネとツーヤにも手伝って欲しいんだけど………」
「……クロイツェン州の統括領主や治安維持の関係の仕事で忙しいあの二人を参加させるのは難しいだろうな……」
エリオットの言葉に続くようにユーシスは複雑そうな表情で呟いた。
「そうだね……それと、ルーレにいる顧問のメアリー教官やバリアハートのプリネと契約しているアムドシアスさんにも声を掛けたい所だね。」
「ええ、いいセンでしょうね。あとは、君のお姉さん―――フィオナさんも帝都でピアノ教室をやっているのよね。あたしも前に聴いたことがあるけど、彼女の実力なら申し分ないはずよ。」
「たしかに……身内で思い当たるのはそれくらいですね。他にも協力してくれそうな奏者がいればいいんだが………(……そう言えばバリアハートの中央広場で”あの人”を見かけたな。彼にも声をかけてみたほうがいいかもしれない。)」
「楽器の方も何とかしなくてはな。とにかく、心当たりを一通りあたってみるとしよう。」
「演奏場所についてはこちらでなんとか確保してみますね。ケルディックの皆さんのために……どうかよろしくお願いします、皆さん。」
「うん、任せておいて!」
その後リィン達は各地を回って自分達の知り合いである吹奏楽部に所属している奏者達や旅の音楽家、メアリー教官やプリネ達に事情を説明してアムドシアスに演奏会に参加する協力を貰い……更にピアノはフィオナが双龍橋で見かけたピアノを使う事になり、ピアノを管理していた鉄道憲兵隊に頼むとケルディックまで持って来てもらえる事になり……全ての準備が整った後ロジーヌに再び話しかけた。
「ロジーヌ。もしかして演奏会の場所を準備していたのか?」
「皆さん……ええ、演奏会の場所を準備していたんです。教壇を運び出したらちょうどトリスタの演奏会と同じくらいのスペースが確保できました。」
「あはは、本当だ。これならピアノもちゃんと置けそうだね。」
「ああ、奏者が集まっても演奏するには十分だろう。」
「あ……それでは?」
「ああ、奏者と楽器の段取りを無事につけられたよ。演奏会の準備が整い次第、改めて迎えに行く手筈になっている。」
「本当ですか……!?ありがとうございます!ふふ、皆さんにお願いしてやっぱり良かったですね。」
リィンの答えを聞いたロジーヌは嬉しそうな表情で声を上げた。
「あとは演奏会の準備を仕上げるだけだな。」
「ああ、そろそろ双龍橋からピアノも到着する頃だ。協力して運び込んだり、町の人達にも呼びかけをしないとな。」
「そうだね、吹奏楽部のみんなも事情があって来られないプリネとツーヤを除けばちゃんと揃っているし……あはは、なかなかいい演奏会になりそうな気がするかな。」
「では、そろそろ演奏会の準備を始めますか?」
「ああ、さっそく始めよう。エリオットたち奏者が最高の音楽を奏でられるようにしておかないとな。」
「あはは、よろしくね。」
「フフ、では気合を入れて取り掛かるとするか。」
こうしてリィン達はロジーヌと協力して演奏会の舞台の準備を始めた。まだ怪我人なども残っている中、静かに作業は進められ……しばらくすると、鉄道憲兵隊から双龍橋に置かれていたピアノも届けられた。
「ふう、何とか無事に運び込めたな。」
礼拝堂に設置したピアノを見たリィンは安堵の溜息を吐いた。
「これが双龍橋にあったというピアノなんですね。ふふ、とても立派と言うか。」
「うん、地下に放置されていた割にかなりしっかりしているようだ。」
「もしかして誰かが手入れをしていたのかしら……?」
ロジーヌの言葉にラウラは静かな表情で頷き、ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。
「あはは、これなら問題なくいい音を出してくれそうだね。やっぱり”リーヴェルト社”製はさすがだよ。」
「リーヴェルト社……」
エリオットが呟いた言葉を聞いたリィンは複雑そうな表情をし
「帝国に昔からある有名な楽器メーカーよね。亡くなった父様が、そのメーカーのオルゴールをいくつか持っていたわ。」
アリサは懐かしそうな表情をした。
「うん、オルゴールもかなり人気があるんだよね。僕の使っているバイオリンもリーヴェルト社製なんだよ。」
「貴族の間でも人気が高いと聞いたことがあるが。」
「有名メーカー……そういうことか。音楽に詳しくない私も何となく聞き覚えのある名前だと思ったが。」
「あれ……?クレアさんも確か同じ苗字じゃなかった……?」
ユーシスの話を聞いたラウラが納得している中、ある事に気付いたゲルドは不思議そうな表情で首を傾げ
「あ…………」
「クレア・リーヴェルト―――そんなフルネームだったわね。」
「た、確かにそうでしたね……」
ゲルドの指摘を聞いたエリオットは呆け、サラ教官は静かに呟き、エマは戸惑いの表情をした。
「ふむ、もしや何か関係があるのか……?」
「(……クレア大尉の過去はさすがに話す訳にはいかないな……)―――それよりもまだ演奏会の準備は残っている……協力してすませてしまおう。」
「あはは、それもそうだね。」
「うん、急いで準備を進めるとしよう。」
ラウラが考え込んでいると目を伏せて黙り込んでいたリィンが仲間達を促した。その後気を取り直したリィン達は準備を再開し、しばらくしてようやく演奏会の準備を整えた。その後、各地の奏者とカレイジャスに待機する吹奏楽部にケルディックまで来てもらい……軽い打ち合わせとリハーサルのあと、ついに演奏会を開始したのだった。
「こ、この音は……?」
「講堂の方から……」
「そう言えば礼拝堂のほうで何かやるとか言っていたっけ……」
怪我人たちの看病をしていた市民や商人達は講堂から聞こえて来た演奏会による音楽に気付いた。講堂ではメアリー教官やアムドシアス、そしれエリオットやリィン達の知り合いである旅の演奏家―――アンドレによる最初の演奏が始まっていた。
「綺麗な音色……」
「ああ、何だかほっとするね……」
「……ハハ、心の痛みも和らいでいくような……」
「…………ん…………」
「ね、姉ちゃん!やっとまた目が覚めたんだ!?」
「……うん………」
「ふわああ……なんだろ、このオンガク。」
「ジェイクも……!」
講堂から聞こえてくる音楽によって見舞いの市民達や怪我人たちは癒されていた。
(……………!あ………)
リィン達と共に演奏会を見守っていたゲルドの脳裏にはまるで封印が解けたかのように次々と失われていた記憶が蘇った!
あの、こんにちは。
おじいちゃん、いるかな?
来たか。爺さん達はやらせねぇぜ!行くぞ、マイル、ミッシェル!
うん!レオーネさんはここは僕達に任せてその娘と一緒に僕達が撃退するまで家の中で待っていてください。
また会えるといいですね。お元気で。
ゲルド…………お前が……幸せの一生を歩む事を………私はあの世でも祈っているよ……………
なぜ……なぜ、そんなに優しくなれる…………肉体を捧げ、そしてまた、魂を捧げ……この世界がお前に何をしてくれたと言うのだ…………
………………
私、わかるような気がする。
…………?
きっと、この世界とか異界とか……わけて考えちゃいけないのよ。
どちらかが助かればいい……そんな解決の仕方なんて、きっと………ウソなんだ。
この最後のチャンスをゲルドは信じていたのね。
(全て…………思い出したわ……っ!レオーネお爺ちゃん…………フォルトお兄ちゃん……ウーナお姉ちゃん……アヴィンお兄ちゃんにマイルお兄ちゃん……………ミッシェルさん……デュルゼルさん…………ジュリオ……クリス……どうして……私が生きているのかわからないけど……………………私は今、”幸せ”だよ…………)
全てを思い出したゲルドは一筋の涙を流しながら自分の記憶にある人物達の顔を思い浮かべて微笑みを浮かべていた。
こうして奏者達は予定していた曲目を次々と演奏していった。やがて外にいた人たちや、目を覚ました怪我人たちまでもが音楽を聴きに来てくれ……ケルディックの人々に僅かだが確かに光が戻っていくのを、リィン達は実感できるのだった。そして最後の演奏が終わるとその場にいる全員が拍手をした。拍手が鳴りやまない中ゲルドが静かに前に出てきた。
「え…………」
「ム……?」
「ゲ、ゲルド?一体何を――――」
突如自分達の前に出たゲルドの行動にエリオットは呆け、アムドシアスは眉を顰め、リィンが戸惑いの表情で声を掛けようとしたその時
「―――――♪」
ゲルドは礼拝堂全体に聞こえる程の澄んだ声で歌い始めた。
「綺麗な歌声…………」
「……ああ…………俺が今まで聞いたことがある歌の中で……一番だと思える歌だ…………」
「……心に響く……不思議な歌ね………」
「まさかゲルドにこんな特技があったとはな……」
ゲルドの歌を聞いていたアリサやユーシスは聞き惚れ、サラ教官とラウラは静かな笑みを浮かべ
「ううっ…………」
「何で……勝手に……涙が……」
市民達の中には感動のあまり泣き出す者も現れ始めた。
(………私……いえ、この場にいる全員に活力や霊力が…………セリーヌ、この歌ってまさか……!)
(ええ……”子守唄”を始めとするヴィータが得意としている魔術的要素が込められている”唄”ね……でも、アタシ達が知る唄にはこんな”唄”はないわ…………ましてやこんな大勢の人々の活力や霊力を回復する凄まじい唄なんて、ヴィータでも無理でしょうね……)
一方自分や礼拝堂内にいる人物達全員の活力や魔力が回復し始めている事に気付いて驚きの表情をしたエマはセリーヌに視線を向け、セリーヌは真剣な表情で歌い続けるゲルドを見つめ
「~~~~~♪」
その場にいる全員に注目されているゲルドは臆することなく、全てを慈しむかのような穏やかで優しげな微笑みを浮かべながら歌い続けた。
その後ゲルドの歌が終わると大喝采が起こり……去り際にゲルドにお礼を言う者達も少なくなく……演奏会は大成功に終わった。
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