宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第三部
名誉と誇り
にじゅうろく
前書き
面「ご趣味は?」
プ「狩りです」
森林の眼前に構えられた陣。
私は光学迷彩機能をオンにして、木の上からその様子を子供のように心踊らせながら眺めていた。
よくまあ、これだけの人数をこの短時間で集めたものだと感心する。
どうやらこのタイミングを見るに、冒険者の派遣と平行して準備を整え、行動を開始していたようであるが、はっきり言ってここまで到達する速さは尋常ではなく、強行軍であったのは想像に難くない。
それでも生き生きと、いまかいまかと出陣を待つその姿からはそんな様子は見て取れない。
どうやらこの星の現地民の体力はなかなか侮れないらしい。
すると、傭兵団の団長と思われるスキンヘッドの大男が、肩に馬鹿デカイと言わざるを得ない大槌を担いで、のっしのっしと我が物顔で天幕の間を闊歩しているのを認める。
「よぉし、テメェら! 俺達が一番槍を勤めるんだ、気合い入れていけよぉ!」
開口一番、酒焼けのような声をがならせる。まるで無法者集団かと思ってしまうような、厳つい男達が口々に声を張り上げてそれに応えていた。
ざっと見て50人弱の規模で、なかなかの大所帯ではある。が、比較的腕が立つであろう者は、団長を含め4人程度といったところか。
その他にも、チラホラと腕の立ちそうな者が確認できるが、国軍の中にはあまり目立った人材は見付からない。
「おうおう! 赤鬼さん達のご到着だぁ!」
先ほどの大男が声を上げて視線を向けた先。
そこには、15人程度の団体が毅然と列をつくり、一糸乱れることなく行進していた。
「あれは……第2騎士隊です」
私のヘルメットの通信機能から、愕然とした声が聞こえてくる。
エリステインの声だ。
一応、こちらの映像をリアルタイムで船へと送っており、エリステインがそれを確認して私へと知っている情報を流してくれている。
にしても、初耳だ。
「第何まであるんだ?」
「第1から第5までになります」
そういうことはもっと早く言おうね!
聞かなかった私が悪いのかもしれないけどさ!
「ちなみに、貴様は?」
「私は、第5騎士隊の副隊長を勤めていました」
序列的にはどういったモノになるのだろうか? まあそれは後で聞けばいい。
にしても、随分と彼女が動揺している風に見受けられるが、第2騎士団とはそれほどのものなのだろうか。
確かに、他とは一線を画す空気を纏っているし、それに一番私が気になっているのは……。
「あのに地竜に騎乗しておられるのが、第2騎士隊長のヴァルクムント様です」
それだそれ。
額には真っ直ぐと前に突き出た1本の鋭い角。体は、太古の昔に地球に生息していた恐竜、竜脚類のように首が長く、四足歩行で地面を揺らしながら歩いている。前足の方が長いことから、見た目アパトサウルスよりもブラキオサウルスに近い。
頭の天辺から足先まで、軽く10メートルはあり、頭から尻尾までなら20メートルはいくだろう。
というか、ヴァルクムントとかいう人もかなりの大柄であり、地竜と呼ばれた恐竜の背に胡座をかいて座っているが、あれは騎乗と言っていいのか?
「第2騎士隊は精鋭中の精鋭です。得物は短槍と長槍を使い分けての近中距離に特化してます。人数は決して多くはないですが、間違いなく一人一人の力量はスタイン総隊長に一歩及ばない程度といったところです」
スタインの力量が分からないのよ、私。
「その中でヴァルクムント様は別次元と言えます。スタイン総隊長でもまず間違いなく勝てないでしょう」
うん、だからね、スタインの力量が全く分からないのね。勝手に自爆したじゃない? 彼。唯一彼の負ったダメージは君の蹴りだからね。
「あの長槍から繰り出される一撃は苛烈の一言。二つ名は“一騎当千”」
そもそも、あのヴァルクムントが持ってるのは槍じゃない。
どう見てもあれは偃月刀だ。
何興奮してるのこの子。
「……鼻息がうるさい」
私の一言も苛烈だろう。
「私、ヴァルクムント様に憧れているんです」
聞いちゃいねーよこの女。
取り合えず偵察はここまでと、私は船に戻ろうと木を跳び移ろうとしたそのときであった。
「おうおう! ヴァルクムントのおっさんまで出刃ってくるたぁ、こいつは穏やかじゃねぇなぁ!」
「ふん。相変わらず礼儀がなってねーじゃねぇか、ガルド」
スキンヘッドの傭兵はガルドというらしいが、ヴァルクムントと2人、随分とまあ暑苦しい。
「お前んとこも、聞いてるんだろ?」
「まぁよう。にしても、流石の俺も驚きだぜ? あのスタインが死んだなんてぇのはよ」
「馬鹿が……こんな大人数がいるところで馬鹿デケェ声だすな」
そう言ってヴァルクムントは地竜から降り立つ。
「あぁ、腰いてぇ」
重りをそのまま砂場に落としたような音。着込んでいる鎧の重さを加味しても、ほとほと人が地面に降り立つような音では決してない。
スキンヘッドの大男、ガルドとそれよりも更に大きな体格を誇るヴァルクムント。
ガルドが190センチ強に対し、ヴァルクムントは210センチを超えている。
まるで小山のような2人が並んで立っている様は壮観の一言。この2人がいれば、大抵のことはどうとでもなってしまうような威厳と風格を持ち、それだけで歴戦の猛者であると分かる。
ここ数10年、国同士の争いからは離れていたと聞いたが、これはまたとんでもない男共がいたものだ。
「混沌獣の討伐たぁ、何年振りになるかねぇ」
野獣のような獰猛な笑みを見せるガルドに、ヴァルクムントはふんっ、と鼻を鳴らす。
「この森はよぉ、色んなモンを喰らってきやがった。ときたまバランスが崩れちゃあ化け物共が溢れ出て来やがる」
「……“大渦災”なぁ。5年くらい前だったか?」
「今年で6年だな」
だいかさい? 初めて聞く単語に、私はエリステインに何かと問いかける。
「大渦災は獣や魔物が森から溢れてくる現象なのですが、数年から数十年と起こりうる期間は一定ではないんです」
「魔物の大氾濫といったところか。なにか兆候が見られるようなことは?」
「……ありません。全くもって予測不可能なんです」
それは厄介極まりないな。
硬い肉が大量発生し、その処理に付き合わされたことを思い出す。
ウォーリアーやクイーンごときに負けはしないが、正直あの数と、特殊な戦闘地形で交戦することが多いため、中々に面倒なのである。
種族の特性上、広域というか、大多数を一度に相手取るような武装は皆無と言ってよく、コンピューターガントレットに搭載されているプラズマ爆弾が、持ち運びできる唯一の広域殲滅兵器と言っても過言ではない。
討伐する対象は違えど、そういったことがこの星でも定期的に行われているということは、それなりに対策もあるのだろう。
なんせ、魔法が存在しているのだから、それを利用しない手はない。
「そう、ですね。大渦災の際はこのように国軍、傭兵、冒険者と大多数の人員を動員して事に当たります。広域殲滅魔法を使える魔法使いはもちろん重宝しますが、何分数が少ないもので……。それを補う形で、攻城兵器を利用することもあります」
単純な大質量の物理攻撃でもって、対象を粉砕するわけだ。確かに理に適っている。
その他にも聞いてみれば、稀に混沌獣もその姿を現すようなこともあり、その際は必要以上の犠牲を払って討伐するか、成り行きを見守るらしい。
何故、成り行きを見守るようなことをするのかと言えば、それは大気中に漂う“魔素”が関係しているとのことで、基本、混沌獣が生息している場所は魔素が多く、混沌獣はそれを好んで住み着いているとのことだ。
それに比べ、人が住まう場所は魔素が薄く、混沌獣はそれを好まない、と言うのが学者の見解であり、それにならって派遣された討伐隊は安全圏まで撤退し、森に帰って行くのを静観し、追撃は行わないとのことだ。
人的被害の拡大を抑えるという意味でも、混沌獣との戦闘を避け、追撃を行わないということはもちろん、そもそも魔素が濃ければ濃いほど人間には良い影響を与えず、所謂、『魔素に酔う』といった状態に陥るとのこと。
そういった場所で長時間曝されると中毒症状を起こすのだが、混沌獣からも魔素が垂れ流しされている状態であるらしく、それもあって人族を含め、混沌獣などの特殊な存在以外は魔素が濃いところは避ける傾向があるということだ。
なんらかの原因で大渦災もそういった魔素溜まりが突如発生し、渦を巻くように広まっていくことから同期して、森の生き物も渦を巻くように散開するのが原因だろう、というのが学者の見解だそうだ。
「だから“大渦災”なのか」
「はい。なので、稀に混沌獣が引き寄せられて出現してしまうんです」
ふむ……。
これは私の勘なのだが、恐らくこの世界の人々は誰しも大なり小なり魔力を保有しているのだろう。なので、魔素に当てられるといったことが起きる訳だ。
更に言ってしまえば、それを好む混沌獣の体内に含まれる魔素の濃さは相当なモノでああると予測できる。
なので、混沌獣と対峙した際、この世界の人間は望む望まずに関わらず、その影響を色濃く受けてしまうのだろう。その反面、私の体にはそういったモノもなく、奴等の影響を受けづらいという仮説が成り立つ。
――後日、この考えをエリステインに伝えたところ、私に魔力が全くないことにひどく驚かれた。
私、宇宙人ですし……。
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