英雄伝説~光と闇の軌跡~(3rd篇)
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第25話
~隠者の庭園~
「リース!おい、リースってば!」
リースを追って行ったケビンはリースの名を呼びながら歩いているリースに走って近づいた。
「……………………………」
「なあ………なに怒ってんのや?あ、そっか………さすがにお前の知らへん連中ばっかやもんな。なのにオレだけ盛り上がって………少し無神経やったかもしれん。それとももしかして、幽霊のリタちゃんやソロモンの悪魔のナベリウスちゃんと行動するのに抵抗があんのか?………悪い、配慮していなかったわ。………本当にスマン、謝るわ。」
「……………………………まだ誤魔化すの?」
謝罪してくるケビンにリースは何も答えず、ある程度歩くと立ち止まり、ケビンに背を向けたまま尋ねた。
「へ…………」
「確かに………私が少しだけ疎外感を感じていたのも事実。さすが、例の事件で一緒に危機を乗り越えてきた仲間なだけはあるって思った。それにリタさんやナベリウスさんも最初は一緒に行動することに心の中で抵抗はあったけど人柄を知れば、普通の人と変わらず、むしろ良い人達だって、わかったから別に気にしていない。」
「はは………まあ、色々とあったしな。それにリタちゃん達の事はオレも最初は驚いたけど、一緒に行動していたらええ娘達やってわかったしな。ナベリウスちゃんなんか特にホンマにあの”冥門候”かいなと今でも疑っているぐらいやで。」
「正直………寂しかったし、羨ましかった。この5年間、ケビンはずっと私のことを避けていたから…………………私の知らないところで仲間を作っているケビンを見てほんの少しだけ………哀しかった。」
「リース………」
哀しげな雰囲気を纏わせて語るリースにケビンは返す言葉がなかった。
「でも………それでもいいと思った。あの日、姉様があんな事になってケビンは傷ついていたから………自分を責めて、追い込んで汚れた仕事ばかり引き受けて………擦り切れそうになっているのが噂で聞いてもわかったから………だから………
気を許せる仲間ができたことは寂しかったけど、嬉しくもあった。」
「リース、あのな――」
リースの話を聞いたケビンは溜息を吐いた後話そうとしたが
「―――でも、違った。」
リースの続きの言葉を聞いて驚いて口を閉じた。そしてリースは振り返って真剣な表情でケビンを見つめて言った。
「ケビンは………あそこにいる誰に対しても気を許したりはしていない。心が冷め切っているのに表面だけ調子を合わせてるだけ。感情を完璧にコントロールして気さくな人間のフリをしてるだけ。しばらく見ててやっとわかった。」
「……………………………はは、そりゃまた妙な心配をされたもんやな。悪いけど、オレはそこまで器用やあらへんで。嬉しい時は嬉しいし、怒りだってそう抑えられへん。お前も昔から知ってる見たまんまのわかりやすい男や。」
リースの説明を聞いたケビンは呆けて黙った後、いつもの陽気な様子で答えた。
「確かに………”影の王”の言葉には本気で動揺してたみたいだね?」
「……………っ………………」
しかしリースの言葉を聞くと表情を一変させ、辛そうな表情でリースから目を逸らした。
「ケビンは気付いている………あの人たちが何を言ってるのかを。なのに他の人にはわからないフリをしている。ううん………ひょっとして自分自身にも。」
「はは………何言って………」
「『新たな供物を喰らい汝が印を発言させるがいい。』………あれはどういう意味なの?」
「……………………………なあ、リース。お前は少し疲れてるんや。」
「え………」
自分の質問に何も答えず考え込んでいたケビンの言葉を聞いたリースは呆けた声を出した。
「オレへの怒りと不満………それが変な風に結びついて見当外れな方向に向かってる。疲れてるからそんな風に悪い方、悪い方に考えるんや。なんやったらティナさんにカウンセリングしてもらうなり、治癒魔術かけてもらうなりしぃ。あの人はなんせあの”癒しの聖女”さんの母親で、イーリュンの信徒なんやから。話聞いてもらうだけでも、少しは落ち着くと思うで。」
「……………………………」
「……正直、お前には悪いことをしたと思ってる。忙しかったのは確かやし………合わす顔がなかったいうのも正直なところや。でも、これからは一緒に仕事することになるんやから―――」
「………もういい。」
「へ………」
リースの答えを聞いたケビンは呆けた。そしてリースはケビンに近づいて、ケビンの頬を叩いた!
「あ………」
「………いい加減にして。そんな空言………私に通用すると思うの?」
叩かれた頬を抑えて呆けているケビンをリースは睨んで尋ねた。
「……………………………」
「従騎士失格だけど………このまま一緒にはいられない。これ以上、空っぽなケビンを………私は見ていたくないから………だから……………………………」
何も答えないケビンをリースは悲しげな表情で見つめて言った後、ケビンから走り去った。
「あ……………………………………」
「………ケビンさん?」
リースが走り去った方向を見つめて考え込んでいるケビンにヨシュアが近づいて声をかけた。
「ヨシュア君か………はは、みっともない所を見せてしまったみたいやな。」
「いえ……………………………」
「………なあ、ヨシュア君。君、オレのことある程度は調べたんやろ?」
「…………それなりに。……………”外法狩り”ケビン・グラハム。星杯騎士団率いる十二名の”守護騎士”の一人。そして許されざる大罪人の処刑を一手に引き受けているという代行者。」
「はは、さすがやな。エステルちゃんに近寄る男の経歴くらいは徹底的に調べてるか。」
自分の正体を全て語ったヨシュアをケビンは苦笑しながら見つめていた。
「ええ………しかしあなたは罪人以外、決して危害を加えた事がない。その意味では当面は危険はないと判断したんです。」
「ふふ………なるほどな。」
「やはり……ワイスマンはあなたが?」
自分の話を聞いて苦笑しているケビンにヨシュアは真剣な表情で尋ねた。
「ああ………オレが滅した。元々、オレの任務はヤツを消すという事だけや。それ以外のことは全て仕込みと目眩ましにすぎん。君らとの協力関係も、な。」
「………わかっています。エステルが”グロリアス”に連れ去られた一件………あれも多分、あなたは最初から見越していたはずだ。」
「くく………そこまで見抜くか。そう、オレはエステルちゃんが攫われる可能性に気付きながら何の対応もせぇへんかった。彼女をエサにすることでワイスマンや、居場所の不明な君の動向を掴むつもりやった。」
ヨシュアの推測を聞いたケビンは冷たい微笑みを浮かべて頷いた。
「………そうでしょうね。それに………あの事件の後、エステルは”環”を破壊した罪により”外法”に認定されるところだったのでしょう?」
「はは、参ったわ………そこまでの情報すら手に入れていたとはな。………そうや。枢機卿をはじめとした封聖省のお偉いさん達はエステルちゃんの行動にご立腹でな。一時期はオレにエステルちゃんを消させる事も考えていてんで。………ちなみにウチの総長はエステルちゃんの行動を知った時、大笑いをして感心していたけどな。………ま、そんな話もあったけど、すぐに消えてもうた。なんでかは君ならよくわかるやろ?」
「………”剣聖”の娘であり”ブレイサーロード””ファラ・サウリン”卿……………エステルの背後にはメンフィル帝国が控えている………事ですね?」
「せや。加えてエステルちゃんは顔が知られすぎているし、エステルちゃんを守護している子達――特に”聖の守護者”や”蒼翼の水竜”、そして”黄金の百合”―――ミントちゃんの存在があったからな。」
「………なるほど。その3人は教会の中では神聖な存在だからですね。」
「ああ。”竜”っちゅうんは神聖な生物と定義されているし、特にミントちゃんは人型に変身しているから、それこそ”神の使い”と言われてもおかしくない竜や。それに”力天使”いうたら、天使の中でも中位に与する天使や。そんなオレらよりも神聖で高位な存在がエステルちゃんの行動を認めてんねんから、オレらも認めるしかないやろ?」
「……………………」
冷たい微笑みを浮かべて語るケビンにヨシュアは何も答えず、黙って聞いていた。
「それにどこで知ったかわからんけど、その話が出て少ししてからな。メンフィル大使とアリシア女王からの使い――ファーミシルス大将軍とカシウスさんが封聖省に来てな。カシウスさんからはリベールの為に王家の判断で”環”を破壊することを依頼した事、メンフィルからはもしオレらがリウイ陛下の恩人であり、戦友、そしてメンフィルの新たな未来を創る一人でもあるエステルちゃんとエステルちゃんの娘であるミントちゃんに危害を加えたら、大陸中にオレらの実態をバラして、メンフィルの全戦力でオレらを滅すると脅しかけてきてんで。それにエステルちゃん達に危害加えるなんて真似したらしたら、カシウスさんも黙ってへんやろ。………”剣聖”に加えて、メンフィルまで相手にするなんて、どう考えても勝敗はわかるやろ?それに気付いて青褪めたお偉いさん達はエステルちゃんに手を出したらあかんと思い知って、その話は消えてもうたんや。」
「……メンフィルが予測して動いたのは予想していましたが、まさかリベールも予測していたとは………」
「大方、メンフィルから知らされてんやろな。でなければ大将軍とカシウスさんが同時に封聖省に尋ねて来るとかあり得ん。………くく、ま、そういう事で実はオレがエステルちゃんに危害を加えるかもしれない可能性はあってんで?」
そしてケビンは冷たい微笑みを浮かべてヨシュアに言った。
「………それでも僕は………あなたに感謝しています。」
「え…………」
しかしヨシュアの言葉を聞いたケビンは驚いて呆けた。
「あなたの協力がなかったら僕は教授の操り人形のままだった。何よりも大切なものを………この手で壊してしまう所だった。その借りは一生かかっても返せないと思っているくらいです。」
「はは、大げさやな。言っておくけどアレは君のためにやったんやないで。君の呪縛が解けることでヤツを動揺させて隙を作る………それを狙ってやったことや。」
「それでも僕は………あなたに感謝せずにはいられない。その正体を知ってもなお好意を抱いてしまうくらいに。」
「はは………君、”結社”を抜けて正解だったかもしれへんな。向いてへんで、どう考えても。」
自分の本性を知ってもなお優しい微笑みを浮かべているヨシュアにケビンは苦笑した。
「ふふ………今更ですが僕もそう思います。―――リースさんの代わりはしばらく僕が務めましょう。彼女ほどではないでしょうがケビンさんのバックアップを務められると思います。」
「だから借りとか考えなくてもええっちゅうのに………でも、まあええか。君かてエステルちゃん達のことが心配で仕方ないところやろうし。ありがたく力を貸してもらうで。」
「ええ、そうしてください。」
その後ケビンはメンバーを編成し、ケビン、ヨシュア、ジン、ナユタ、ノイ、シュリのメンバーで”第三星層”の終点にある転位陣で次なる”星層”へ向かった………
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