逆襲のアムロ
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32話 特務 3.7
* 地球軌道上外縁 ラー・カイラム艦橋 3.7 9:35
アムロとシャアはνガンダムと、サザビーと共にラー・カイラムへ帰投していた。
艦橋にはブライト、アムロ、シャアと3人揃い組。アムロが視線を艦橋から見える地球の方向を見据えると無数の光の点滅を確認できた。それは無数の艦船が交信し合っている証拠であった。
「あの点滅らが目下の敵か。数が多すぎる」
アムロが吐露を漏らすとブライトもため息を付いた。
「全くだ。同じ陣営であるはずだが、派閥争いで正規軍とも戦わなければならない。あの中の純粋なティターンズなど3割、いや2割。それだけならば戦いになるのだが・・・」
ティターンズとエゥーゴ、カラバと小競り合いしている間も連邦軍は軍縮と再編を粛々と行っていた。政権与党お抱えのティターンズは多くの軍勢を管理下に置いていたが、それを彼らは利用することはできなかった。あくまで連邦内部の中のイザコザでそれを国家単位で動くわけにもいかない。ジオンという勢力が残っている、その時点ではだが。
ティターンズは自前の部隊での自前の軍勢でやりくりをしていた。それでもエゥーゴやカラバを凌駕し、地球圏を統治するには十分な戦力を保持していた。この度、議会開催に伴い中立派閥にティターンズが危険を囁いた。すると普通の神経ならではの動きを示し、解体されるはずの戦力をこの議会の為だけに再動員させたのだった。
シャアが戦況詳報を目を通していた。しばらく経ってから首を振った。
「・・・普通に戦うと包囲殲滅されるな。しかし正規軍の奴らが戦いに加わるのか?」
シャアがブライトに問いかけた。ブライトが頷いた。
「今の情勢のままならな。我々が奴らをこのように牽制せざる得ないのも世論があるからだ」
今は宇宙がティターンズに蹂躙、破壊されるのではないかと戦々恐々と巷では専らな噂だった。
ここまでのティターンズの勢力拡大はほぼ恐怖政治だった。恐怖で人を従わせるやり方で急速に育った。銃を突きつけられて従いませんと言える常人はそれ程いないだろう。そんな無謀な勇者たちがエゥーゴでありカラバであった。
そんなエゥーゴもカラバもティターンズから勢力圏を奪うにつれて期待されていった。
地球上ではアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、オセアニアとほぼ解放されたといってよい形だった。
新機体と熟練のパイロットたちの手腕によるものだったが、ティターンズの引き際はとても鮮やかだった。ウッダー准将ら地球のティターンズ指揮官らがジャミトフの焦土作戦とも呼べる手法で全てのプラント事業の人員すら撤収時に引き揚げ、または破壊、虐殺をしていった。結果解放区の住人は明日の食事を心配する程の食糧難に陥っていた。
「故人が言っていたな。愚民共は娯楽と食事を与えられればそれに従う。何も考えない故に打ち切られた時に本当の恐怖を味わう。逆らうということがどういうことかをな」
ジャミトフは自身の側近らにそう漏らしていた。人と富、経済集まる所に暮らしが成り立つ。エゥーゴとカラバは解放運動を一時中断せざる得なかった。人が飢え始めているからだ。この状態でティターンズに攻められたら一気に戦線が崩壊することが目に見えていた。
しかし、ジャミトフはそうしなかった。彼はより悪辣なことを考えていた。エゥーゴらの少数故のライフラインの確保の困難さを存分に発揮して、彼らの支持を彼らで貶めてもらおうと考えていた。
ブレックスはラー・アイムに乗り、ダカールへ向かっている。
彼はその所業を世論に訴えることも考えていた。対するコリニーはエゥーゴらの運動が世界各地の食料プラント事業を撤退させたと発言する見込みとマスコミを操作し、新聞で報じられていた。
何が正しいのか。それは有権者一人一人が判断することだった。
有権者は薄々勘付いているが、それでもティターンズの正統性を批判できない。結果泥沼化している状態を如何に派閥と言う垣根を崩壊させることが出来るかと内心期待していた。
そんなウルトラC等存在するものかとブライトは思っていた。3人共表情が暗い。戦端を開いては戦線の維持はこのベテランたちにとっては楽な仕事だ。包囲殲滅されない様に距離を取る戦いしかできない。
その間に別働部隊が各コロニーの制圧に乗り出すだろう。それで戦いが終わってしまう。それが決定されるのはこれから始まる議会の結果次第だった。
「今回の議会での法案で通過させようとしているのが、<宇宙統治・統制法><地球環境維持法><対テロ対策法案改正>この3つだとマスコミが報じている」
ブライトが2人に話した。シャアは顎に手をやり、話し始める。
「宇宙の住まうものには人権を与えず、地球にいるものこそ至上の特権だと法律で定めるのか。そしてそれに贖う我々を抹殺の対象とする」
「馬鹿の所業だ!恐怖で政を司るなどと、古代の手法か!」
アムロは唸っていた。そしてアムロはブライトにその法案の通過の可能性について聞いた。
「ブライト。これらは全て通過する見込みなのか?」
「現状では・・・半々らしい。今は宇宙に住まうものたちも有権者扱いだからな。ガルマや他の地球の議員らも反対の意向を示しているが。根回しと開催後の主張合戦が勝敗のものをいうだろう」
「オレらには何もできないのか・・・」
アムロは個人の無力さを痛感していた。シャアもブライトも同じだろう。シャアは一つの組織の代表の為、些細な組織でも圧倒的な既存の勢力には逆らえないことに心を痛めていた。
「碌でもない父親だったが、父の教えがこのまま死んでしまう事に責任と無念さを禁じえないな。かといえ少数勢力で反抗するにできる手法など・・・」
「許されるようなことではないな。それはテロというものだ。彼らを増長させてしまう」
ブライトがそう考えに水を差すとシャアが頷いた。
「全くその通りだ」
すると、ラー・カイラムの通信士のトーレスからアクシズよりシャア宛てに通信文を受け取っていた。トーレスはタブレットに転送し、それをシャアに差し出した。
「シャアさん。マハラジャ提督からですよ」
「ああ、ありがとう」
シャアがその文面を受け取ると中身を読んだ。現状では些細な話だったが、2人に伝えた。
「まずはアナハイムから新造戦艦らが納品されてナナイらがそれに乗り込みこちらに向かっているそうだ。ガトーとラル、そしてハマーンも同行しているらしい」
ブライトは多少の戦力増強は望んでいた為素直に喜んだ。
「あとグレミー軍が停戦と和議を申し込んできた。彼らの内情も苦しい。争っていても利益にならないと踏んだそうだ。あとジオン本国も内乱状態であるらしい」
「内乱?そう言えばこの大事な局面で出てこないことをすっかり抜けていたな」
ブライトがそう話すとシャアが再び頷いた。
「この局面であの勢力が動かないことが一番理解に苦しむ。グレミーは孤立した。それで彼は彼で独自に動かねばならなくなったそうだ。そして今彼らは軍ではないそうだ」
「軍でない?どういうことだ」
アムロが不可解な顔をした。シャアが話を続けた。
「これだ。彼らのホームページが上がっている。設立は10日前だ」
ブライトとアムロがシャアが差し出したタブレット端末を差し出した。
「<グレミープラント株式会社>?毎日豊かなバランスの取れた生活をあなたに提供致します・・・。なんだこれは?」
アムロがシャアに質問した。
「グレミーはコロニー自治体と連携し、自分の戦力を金に換えて食料プラント事業を起こした。既に100万食もの生産体制が構築されているらしい。各地の貧困コロニーへ格安で輸出しているそうだ」
アムロは感心した。グレミーという者の下馬評を彼も聞いていた。若くそして覇道を目指す野心家だと。しかし、彼がしていることはそんなこととは全くかけ離れたことだったと思った。
ブライトが一息ついて述べた。
「ふう、アクシズの動乱は決着が付いた。そしてグレミーが会社を興した。この流れは何を期待すればよいのか・・・」
シャアはブライトの疑問に答えた。
「各コロニー間の自給率はとても低い。これを解決するには2,3サイド全てをプラント事業にしなければならない。しかしそれよりも金になる木が他事業で沢山あるためないがしろにされていた。広大な地球がそれを賄うにまだまだ効率的だった」
「ここに来て食糧難とは・・・。地球が閉ざされたら一気に宇宙は飢えるな」
ブライトがそう言うとシャアは頷く。
「グレミーは思った以上に先見の明があるようだ。簡単に矜持を捨て去ることができる。これは凝り固まった大人にはできない」
ブライト、アムロとも頷いた。
「そうだな。だからこうもにらみ合いになっているわけだからな」
アムロがそうぼやくと艦橋にベルトーチカが入って来た。
「アムロ!貴方宛てにとんでもないものが届いたよ!」
ベルトーチカが血相を変えていた。今度は紙媒体の文書だった。アムロはベルトーチカより文面を受け取ると、アムロが難しい顔をした。
「政府特務だと・・・」
アムロがそう発言するとブライトがその文面を覗き込んだ。
「(アムロ中佐はこの文面到着直後政府直属の特務部隊へ編入を命ずる。サイド6へ単機で赴かれたし。そこにある彫像を無事ダカールのゴップ議長まで輸送することが任務である)」
ブライトがアムロの代わりに読み上げるとアムロは露骨に嫌な顔をした。
「こんな時期に政府特務!オレのガンダムが戦力で重要である時に!」
ブライトはため息を付いた。アムロに「あきらめろ」と告げた。シャアも首を振った。
「軍に帰属している限り、君はスポンサーに従わなければならない。ましてエゥーゴに属しているのだ。ここで政府特命を固辞することはエゥーゴを不利にする要因でしかならない」
シャアがそうアムロに告げるとアムロはぐったりと肩を落とした。
「・・・そうだな。ブライト、ゲタを借りる」
「サイド6だな。行き先は?」
「インダストリアル1だ」
アムロは静かに艦橋を後にしていった。ベルトーチカはそれを追って行った。
艦橋に残ったシャアはふと考え、トーレスに通信回線をアクシズにつなげて欲しいと依頼した。
すると数分後、モニターにマハラジャ提督が映った。
「何か急用でしょうか総帥?」
「ああ、提督からの通信文を読みました。アクシズからもグレミーへ支援をお願いしたい」
「無論そのつもりでした。総帥の指示待ちでしたので明日にはグレミーの下へ支援物資や人員を提供致します」
「流石だな。手際が良い」
「恐縮です。この運動が宇宙の救いの一筋になればよいですが・・・」
マハラジャも食料難について考えていたらしいとシャアは思った。今までは連邦も民間までの統制はしなかった為、食料需給については問題皆無だった。しかしエゥーゴらの地球解放運動がティターンズの焦土作戦を促していった。それに宇宙も敏感に反応していた。
「この長い厭戦も未だ人口は50億以上いる。彼らを見殺しにはできない。それは我々の責務でもある」
「その通りです総帥。統治者、指導者は決してあんな悪辣な非人道的なことをしてはならないと考えます」
そして幾つかの問題をやり取りしてその通信を終えた。
* サイド3 宙域 ゼウス 艦橋
マーサはゆったりと艦長席に座り、地球圏の戦況を眺めていた。
その傍にフロンタルがやってきた。
「どうですか?地球は」
マーサはフロンタルの問いかけに微笑を浮かべた。
「無知なる者どもが過激な演劇をしているようですよ。その外側のシロッコの動きも面白いわ」
「更に外側にいる我々は出番がありますかな?」
「大丈夫よ。これほどの戦いの後、更地になった地球圏をビスト、この私が束ねるのよ。このサイド3の掌握も成功したわ」
マーサが艦橋の各モニターを映し出してフロンタルに見せた。ズム・シテイ以外のコロニーの内情が取れた。市民誰もが変わらず無難に平和に生活をしていた。その映像にフロンタルは笑みを浮かべた。
「これはこれは・・・皆何も意識、疑問を持たずして箱庭の中で生活を営んでいるとは・・・」
「ゼウスの力よ。彼らは彼らの居るコロニーだけが世界の全てを認識している。あらゆる闘争本能もすべて除去しているからいじめや争いもないわ」
ゼウスシステムという巨大なサイコフレームによりサイド3のコロニー全体の人民を洗脳仕掛けたのだった。
「何も変革など要らないのよ。導き手が意識をも統括することこそ恐怖に怯えず最良な人生を送ることができるわ」
フロンタルはマーサがとても良い狂いっぷりに期待以上だと感心した。するとマ・クベも艦橋へ入って来た。
「・・・フロンタル」
呼びかけられたフロンタルは振り向き、マ・クベを見た。その傍にはマリオン、クスコと小さな少年少女が複数いた。どの少年少女も同じ顔をしていた。
「・・・クローン上手くいったようだな」
「ああ、ニュータイプ部隊として組織可能だ。これに合わすモビルスーツを都合してもらえればね」
マ・クベの発言にマーサが椅子を回転させて振り返った。
「アナハイムからの新型量産機があるわ。ギラ・ズール。ギラ・ドーガの小型化に成功しその分機動性能推進性能抜群よ」
「それは結構・・・」
「貴方のもあるわよマ・クベ」
「?」
マ・クベが不明瞭な顔をした。自分の機体を何故用意したのか。その疑問をフロンタルが解いてくれた。
「私が都合して欲しいと頼んだんだよ」
フロンタルは仮面の下の口角を上げてそう告げた。マ・クベは露骨に嫌な顔をした。2人ともそれを見てクスクスと笑っていた。
「私を戦場に立たせて何が楽しいのだ」
「君の教え子たちの面倒を見るのは君の役目だろ?高見の見物を決め込むにはそれなりの席料が必要なのだよ」
「そうね。マ・クベ、貴方の戦略眼を買って私は貴方を雇ったわ。私たちの事業の最初で最後の楔を貴方に譲ろうと思うの。存分に見極めてやって欲しいわ」
邪悪な巨魁が2人。マ・クベはいつもの無表情でため息を付いて、無言の同意をした。
人生の終幕は成り行きを見守るだけなマ・クベにとって、もうどうでも良いことだった。
* ダカール市 連邦議会議事堂 西側通路 3.10
ブレックスは秘書と共に赤い絨毯の上を予算委員会室へ向けて歩いていた。
本議会の前にこなす議題が山ほどあった。本議会での議決は既に出来レースであり、
それまでの調整をするのが予算委員会だった。
予算委員会はその名の通り各省庁への予算について議論するのだが、それは多岐に渡る。
議員のスキャンダルや紛争、災害等、結果お金に関わると目されるもの全てが予算と都合付けられてしまうためで、実質の議会とはこの予算委員会にあった。
ブレックスが歩いていると先の角でガルマと出くわした。
「おお、ガルマ君」
「ブレックスさん、ご無事で」
両者とも握手を交わす。ガルマの隣には妻であり秘書のイセリナが控えていた。
「互いにここまで来るに苦労したでしょう」
「全くです。私は宇宙からの帰りで民間シャトルでの政府特権で何とか到着できました」
ガルマは軍服姿でなく背広を着ている。イセリナはパンツスーツだった。夫婦共に紺や濃紺というシックな服装だった。
「ガルマ君、以前我々の議席数で反対を通そうにもままならない。この予算委員会でどれだけ危険を訴えることができるかが重要だ。中立層を我々で動かさねば」
「仰る通りです。前回の議会でも何とか中立層の支持を得られてティターンズの肝いりの法案を退けることに成功できました。今回もそれでいければと・・・」
ガルマはそう言い切ると浮かない顔をしていた。イセリナも心配そうに見ている。ブレックスもその歯切れの悪さに質問した。
「どうしたのだガルマ君」
「いえ、この度はマスコミの情報が不利を報じています。前回は五分と言っていました。あの手の世論は中々どうしてかよく当たります」
ガルマは現実主義者だった。この7年間で培ったノウハウは彼を成熟させると共に若さという熱さを棄ててしまっていた。何か既に見えている雰囲気を出していた。
ブレックスはそんなガルマの姿を見て、一息付いてガルマの背中を叩いた。
「・・ゲホッ・・・」
「ガルマ君!私の様な老体がこんなに励んでいるのに何たる体たらくだ」
「・・・すみません」
ガルマが謝るとブレックスが腕をガルマの肩に回して耳に囁いた。
「長年の勘でね・・・。こんな窮地には何らかの突破口があるもんだ」
「?・・・勘ですか?」
「そうだ。伊達に君より長く生きていないさ。この空気、雰囲気を君は気が付いているかい?」
ガルマはブレックスに言われて、周囲を見渡した。何もないが何かが騒めいている、そんな感覚を感じるような気がした。
「そう、そう思い込むにもそれには何らかの要因があるのだよ。それは蓋を開けて見なければ分からないが、敵さんもそうさ。勝負所に油断をする訳が無い。必ず攻めてくる。と言うことは、まだ勝負になっているということさ」
ガルマはブレックスの言うことに成程と感心した。決まりきった勝負事でも、手を抜けば負ける。決め手を確実に行使してこそ勝利を得ることができる。それまでは一つの油断も両者ともしてはならない。それが勝負というものだから。
ブレックスとガルマは目的の部屋の大きな扉の前に立った。
「さて、戦いにいこうか」
「はい」
ブレックスとガルマは部屋の中へ悠然と入っていった。
* インダストリアル1 聖櫃へ通ずる道 3.8 16:30
アムロとベルトーチカはインダストリアル1のとある通路より暗がりの秘密の通路へと特務文面の指示する方向へ足を進めていた。すると目の前に階段が現れた。下りることに気温が下がっていく感覚にだった。
「アムロ・・・なんか寒いわ」
「そうだな、まるで地獄へ通じる黄泉の道のようだな」
「バカ!そう私を脅して何か得でもあるの?」
「あるさ。もっと近くに寄って離れないようになと」
そう言うとベルトーチカがアムロの腕にしがみついて歩いた。
薄暗くも足元は照らされていて、永遠と続く螺旋階段を下りていた。
・・・
永遠とは続かず終点についた。
とても広い広場だったが、周囲がとても真っ暗だった。
「・・・ここでいいのか」
アムロがそう呟くと、知らない声が答えた。
「ここでいいのだよ」
アムロとベルトーチカがハッと驚き、声のする方へ向いた。するとその方向にスポットが辺り、
冷凍睡眠装置に横たわるサイアム・ビストが居た。
「・・・誰・・・どちら様で」
アムロがそう言うと、サイアムはそのベットをゆっくりと垂直近くまで起き上がらせた。
「・・・白き英雄よ。私はこの世の理を傍観する者だ」
「まさか・・・ビスト!」
ベルトーチカがそう叫ぶとアムロが不明瞭な顔をした。
「ビスト?知らないな」
「アムロ!この老人はこの世の黒幕よ!ビスト財団の宗主。全ての事業はビストに通じると呼ばれる大物」
アムロは人物の大きさに実感が掴めずにいた。ベルトーチカは興奮をしていた。ベルトーチカは仮にもジャーナリストの端くれ。彼らにとっての生ける伝説なんだろうとアムロは考えた。
「で、そのビストさんが何で政府特務と関わりが?」
サイアムはアムロを見て、ふと笑みがこぼれた。
「フッ・・・アムロ君。君も少し皆と違うようだのう」
アムロはこの老人の言う話にこの老人もニュータイプなんだと思った。自分をそう感じ取れるのは。
「そうですか?一般的な人間ですが、少し技量があります。それだけです」
サイアムはため息を付いた。アムロはその反応に違和感を感じた。
「アムロ君。君はニュータイプ以前に何か違うのだ」
その回答をアムロが聞いた瞬間、アムロのサイアムへの見る目が変わった。
「・・・ビストさん。貴方は何を知っているんです」
サイアムは少し目を瞑り、しばらく経ってから答えた。
「ガエルから頼まれてね。この彫像をダカールのある人物へ届けて欲しいのだ」
サイアムがそう言うとサイアムの隣に新しいスポットが当てられた。
そこには趣味の悪い彫像をが有った。その姿は誰が見ても分かる姿だった。テレビでも良くお目に掛かる中立派閥のドン、ゴップだった。
「・・・これをその人物。つまり当人へと?」
アムロがそう言うとサイアムは無言で頷いた。そしてその彫像の隣に新たなスポットが生まれて、そこには見たことの無いモビルスーツが立っていた。
「MSN-001A1デルタプラス。目的の物に耐大気圏突入保護シートをかぶせて最短でダカールまで飛行して欲しい。以上だ」
そうサイアムが言い切るとサイアムはスッと目を閉じた。アムロは一つ気になる事をサイアムに聞いた。
「ビストさん。君も?ってオレ以外に知っているのですか?」
その質問にサイアムはうっすらと目を開けてこう述べた。
「・・・世の流れ、偶然と必然は表裏一体だ。彼は人類の行く末を案じておる。それも早急だ。彼は現時点で叶わぬならば人の世はこれまでだと考えている。またそれが彼の限界でもある」
アムロはサイアムの発言についてとても深さを感じた。この老人はこの世界の歪を知っている。それが一個人であるとこの老人は語った。
「・・・それがオレらの敵なのか」
サイアムは無言だった。するとデルタプラスが起動し、立膝を付く形でしゃがみこんだ。まるでアムロに乗れと言わんばかりに。
アムロはそれに乗り込んだ。ベルトーチカは眼下でその様子を見ていた。アムロはコックピット内の簡易シートを探し、それをコックピット内にセットした。
「ベルトーチカ!これで一緒に地球へ行くぞ」
アムロに呼びかけられたベルトーチカはデルタプラスに走り寄り乗り込んだ。手慣れた手つきで簡易シートに収まり、シートベルトを着用した。アムロはそれを確認するとデルタプラスの傍にあるゴップ像に保護シートを被せた。それをデルタプラスの胸に接着させた。
「これでよし。さてこの機体の認証コードは?」
アムロがデルタプラスの識別コードを調べると、予想通りの結果が出た。
「やはり政府特機。これなら誰にも撃たれることはない」
政府特務の特機コードは連邦に属している者の免罪符だった。その許容が桁違いであり、仮に誤って攻撃仕掛けた者はその場での射殺を周囲の者が遂行せねばならない程の脅威であった。
準備が整うとモニターに自然と出口までの行道が映し出された。全てが既にお膳立てだった。
アムロはその順路を追って、カタパルトのある大きな空間に出た。そのカタパルトに乗ると、来た道の通路シャッターが降り、内圧が落ち、目の前のシャッターが開き、宇宙空間が見えた。
「ベルトーチカ、行くぞ」
「はい」
デルタプラスは勢いよく飛び出し、すぐさまウェイブライダー形態に変形。一気に加速した。
「ぐっ・・・」
「きゃ・・・」
2人とも息が一瞬詰まった。あまり身構えなかったのもあったが、推進力、瞬発力が既存の機体とはまるで違った。
一筋の流星を地球軌道上のティターンズ含めた連邦軍が察知していた。哨戒していた部隊もいて、アムロの機体を感知していたが、追撃するに一瞬の出来事で何かが通ったとしか言いようがなかった。それでも取りあえずは司令部に報告を入れていた。
艦隊を司るバスクはその未確認機を確認するよう命じたところ、政府特務機という回答をオペレーターから受けた途端、命令を徹底させた。
「絶対にその特機に手を出すな!オレも含めてお前らの首が飛ぶぞ!」
その命令が全ての艦艇に飛ぶと、誰もがアムロらを見て見ぬ振りを決め込んだ。
バスクはその映像を見て苦虫を潰していた。
「・・・オレらの特権などこの程度だ。更に上の特権に従わざる得ない。オレの知らない何かがあの機体が持っている。しかしそれを知る由もない」
議会での法整備が済み次第、バスクらの天下となる。その予定で地球軌道に集合していた。その予防の為にコリニーは軍による宇宙からの地球防衛を任じ、先んじて議会承認も取れていた。
世界動向の決定にはテロ対策等、厳戒態勢を取ることは常識であった。勿論ダカール市も周辺含めて同様だった。
アムロらは無事大気圏突入を果たし、ダカール市の防空識別圏内に入った。すると空港の管制室より案内があった。
「・・・特務機、応答せよ。着陸場はM58滑走路を許可する。運搬物の受け渡しもその場で行われる」
「了解。こちらは政府特務中佐アムロ・レイだ。貴官の誘導感謝する」
通信を終えた時、眼下に青い海が見えてきた。
「うわ~キレイ・・・」
「そうだな。流石特務機だ。大気圏突入にもコックピット内の安定感も凄いな」
ベルトーチカ、アムロとそれぞれ感嘆を漏らした。
数十分後、デルタプラスは無事ダカールの空港に着陸を果たした。そのままある格納庫へとデルタプラスは飛行機形態のまま走らせて入庫すると、そこにはカイとミハル、ガエルが待っていた。
アムロとベルトーチカは機体から降り、カイと握手を交わした。
「名指ししてここまで来る羽目になったのは君のせいか、カイ」
「アムロ、お前がちょっと必要でな」
「何か問題があったのか?」
アムロが腕を組んでカイに問うと、カイはゴップとの会談について話始めた。
それを聞いたアムロは顎に手をやり、複雑そうな顔をした。ベルトーチカも思案顔だった。
「・・・カイ。ここに来るまでにサイアム・ビストに会ったのだが」
ガエルは主人の名前が出て、一瞬眉が上がった。カイはガエルの顔を一目見てから、再びアムロに顔を戻した。
「それで?」
「あのご老人は現状の歪を知っているような口ぶりだった」
「アムロはティターンズが元凶だと思っていないのか?」
カイの質問にアムロは即答した。
「思わない。ここまでの流れは起承転結での結びだ。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・違和感はあった」
アムロは自分がタイムトラベラーであるが、そこは伏せて自分の感覚だけで答えた。自分の知っていた歴史とはもはや掛け離れた時代になっている。カイもアムロの意見に同調し更に自論、カイが一番思っていたことをアムロにぶつけた。
「そうだな、違和感がある。オレが確信持って違和感を感じる理由の一つはお前だ、アムロ」
「!」
アムロはカイに直接的に言われてハッとした。ベルトーチカ、ミハルもカイの発言に心配そうに見守る。アムロは目を閉じて、しばらく間を置いた。カイの意見を聞こうとアムロは考えた。
「・・・カイ。オレのどこに違和感が?」
「今思えば始めからだ。あんな新兵だらけのホワイトベースで生き延び、サイド7を出て直後月で新型モビルスーツ開発に携わった。普通に異常だろ」
アムロは微笑を浮かべた。確かにそうだな、やりすぎた。アムロはカイの考えの続きを促した。
「それで?」
「端折るが、ララァさんにシロッコ、お前らの力を世間的に受け入れては自然になっているが、よくよく考えて見れば不自然極まりない」
アムロはカイの言いたい事が何となくわかった。サイコフレームやサイコミュなどのニュータイプの話だ。
「I・フィールドは物理的に何となく納得いく。しかしなんだあのサイコ・フィールドは!」
「ああ、オレもあの現象はよくは知らないんだ。ただ研究者があの技術を見出した、結果だね」
「人の感情、思考、反射神経をフィードバックできるシステム。生まれてきてしまったものは仕方がないが、オレのような一般人には気色が悪い」
「超能力に似たようなものだからかな?」
カイは渋い顔をして頷いた。
「そうだ。手品なら種明かしなどあるが、練習したところでお前らの能力を理解などできやしない」
アムロもそう思った。だから強化人間など人工的に生成しようということを企んだりする。
「で、お前さんをちょっと調べてみたんだ」
カイがそう言うとアムロがキョトンとした。
「ハヤトやフラウら当時のお前を知る人から聞いたよ。結果・・・」
「結果?」
カイはアムロを直視して言い放った。
「お前は誰だ?」
「!!!」
アムロはカイの質問に動揺しながらもポーカーフェイスでいた。しかしそれについての反論や反応ができなかった。カイは言葉を続けた。
「・・・オレは非科学的なことは信じやしないが、ここまで違和感あることを総合して尋常ならざることが起きているとしか考えられない。だから敢えて問おう。アムロ、お前は何者だ」
「・・・」
アムロ、カイ、ベルトーチカそしてミハル、4人の間に沈黙が落ちた。暫く経ってからアムロが口を開いた。
「・・・オレはアムロだ。だが、この時代のアムロじゃあない・・・」
カイがため息を付いた。ベルトーチカは片手をおでこに当てていた。ミハルは腕を組む。
カイが少し笑ってアムロに尋ねた。
「フッ・・・で、どこのどちらのアムロさんで?」
「・・・あと6年先のアムロだ。だが、この世界を知るアムロではない。もう一つの世界のアムロだ」
「並行世界・・・」
ミハルがそう呟いた。その呟きにカイがミハルを見て、アムロに目を戻した。アムロが続けて答えた。
「その世界でもサイコフレームは存在していたが、あくまで遠隔操作や反射神経での作用。まあ戦場意識の拡大もあったな」
カイがアムロに再び尋ねる。
「サイコ・フィールドについては?」
「知らない。そもそもサイコフレームの構造らもそれ程詳しくはない。金属のマイクロチップがどうのこうの・・・」
「じゃあ誰かがここまで革新に導いた訳だな」
「・・・それしか考えられない。オレの時代でサイコフレーム技術がこれの半分まで行くのに14年かかった。それを既に凌駕している」
「お前と同じオーパーツがこの世界にいると考えていいんだな?」
「ああ、一人はララァだ。もう一人はララァを作り上げた人物」
カイはわざと事情の整理を頭の他に仕舞い込んで、様々な情報をアムロから引き出そうと考えていた。
カイの後ろではミハルが手帳を開き、書き込んでいた。
「そいつがこの世界にここまでの技術革新をもたらした。この時代の均衡まで作用しているか?」
「・・・そこまでは考えにくい。オレがこの通り、別に世界に干渉して何か指導者になれたわけでもない」
「ならなかっただけじゃないのか?」
「・・・いや、無理だ。適材適所というものはあって、オレは政治家向きではない」
「では、アムロが指すそいつは?」
「出来れば、この世界のネオジオンの総帥であるシャアが世界を統一できているはずさ」
カイはアムロの口からシャアという言葉が出て、何故そこでシャアなのか?と感じた。その戸惑いにアムロが捕足した。
「ああ・・・オレが本来いた時代のオレの宿命のライバルだった。ララァはオレとシャアの思念がララァという人格を作り出し、この時代のララァに憑依させたそうだ」
「・・・シャアが元凶?この世界のシャアは?」
「実はそこが複雑で、オレはアムロに、ララァはララァへ、だがシャアはシャアにはならなかった」
「じゃあシャアはどこに・・・」
「オレも知りたい。奴がこの世界をオレとは違う角度で掻きまわしたことは明白だ」
「明白ねえ・・・」
カイはアムロの言葉に半信半疑だった。カイはリアリストな為、アムロの意見は汲むがとても記事にはできない。だが、今までの経験による自身の直感がアムロがイレギュラーだということを指している。
カイは再び口を開く。
「・・・ここはお前にとってパラレルワールドであり、今起きている事はカオス理論だ」
アムロはカイの言葉が真を得ていると考え、頷いた。
「そうだな。オレにとってこれは現実と掛け離れている。父親ともこんなに上手くいかなかったし、シャアとも和解もない。ララァも生きている。あとそこのミハルさんもな」
急に呼ばれたミハルが少し驚いた。
「わ、私ですか?」
アムロが頷く。カイが「どういうことだ?」と尋ねると、
「・・・ミハルさんは本来7年前に死んでいた」
「・・・」
ミハルは絶句した。確かに死が身近であったときがあった。カイはそれがアムロが居た世界の出来事だと理解した。
「・・・アムロ、お前の居た世界は不幸が多かったのか?」
「そうだな。結構離別が多かった。ハヤトもな」
「ハヤトもか・・・。この世界は案外幸せなのかもな」
「オレの一挙手一投足がこの世界の変化をもたらしているとカイは主張したいんだな」
アムロがカイの考えを聞いた。カイは頷いた。
「そうだ。お前は世界のキーパーソンだ。特別政治家のように動かなくとも世界に作用している、とオレが感じる。だからゴップに輸送役をお前に頼み、ここに呼びつけた。ゴップとしては連邦の英雄であるお前が輸送するということですんなり了承できた。可笑しい話だがな」
カイは自嘲し、アムロは深くため息を付いていた。
「・・・オレはそこまで深くは考えなかった。ただ、これから起こるオレが思った不幸から逃れるために必死にもがいただけだった」
「アムロ・・・」
ベルトーチカはアムロの肩をそっと触れた。アムロはベルトーチカを見て静かに微笑んだ。
カイはアムロに最後に尋ねた。
「で、この世界はどうだ?お前にとっては満足か?」
「・・・ああ。死んで欲しくなかった人達、敵味方問わず生きている。満足しているよ」
「なら良かった。お前の世界よりも最悪ならば、それはオレらにとって悲劇だ」
「そうだな」
そう言って4人共格納庫より出て今後の打ち合わせの為、空港のカフェテリアの方へ足を運んでいった。
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