逆襲のアムロ
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31話 奇蹟 3.6
* インド洋上 3.6
ウェイブライダー形態で接近してくるサイコガンダムMk-Ⅱらにほぼ零距離でのコンタクトを取ろうとした。勿論接近する敵と認識した3体は無数のビームの弾幕をZガンダムに仕掛けていた。
「勘は良いがとても荒削りで直線的過ぎる」
カミーユは紙一重で避け切り、左のサイコガンダムの肩部を砲撃した。
I・フィールドの有効距離より内側の攻撃はそのシステムを無力化する(要は近距離過ぎると)。
それを上回る防衛システムがサイコ・フィールドで、そのサイコガンダムもそれを使役した。
カミーユの一撃はサイコフィールドの抵抗作用により緑白色の閃光が弾けた。そしてカミーユの攻撃力が上回り肩部を貫いた。
攻撃を受けたサイコガンダムは態勢を崩す。しかし並ならぬ巨体は直ぐに立て直し、2体はカミーユを追い、1体はラー・アイムへと進路を進めていた。
それを見たカミーユは軽く舌打ちをした。
「戦術を知っているらしい」
カミーユが呟き、離れた距離から母艦を追跡するサイコガンダムに攻撃を仕掛けた。
案の定、遠距離では念じたビームでもI・フィールドに弾かれる。
それを見たカミーユは覚悟を決めた。
「(已む得まい。バイオセンサーのギアを上げて彼らを・・・)」
Zガンダムにはサイコフレーム機構の他にバイオセンサーを搭載させていた。
元々の仕様がバイオセンサーが通常搭載なガンダムであったゼータはサイコフレームの有効性の方が上だった為、同系のシステムならば喧嘩してしまう懸念があったのでバイオセンサーを外す提案をモーラから持ちかけられていたが、
「AT(オートマ)とマニュアルの違いの様なものだろ?バイオセンサーも良さがあるからそのままにしておいて」
とカミーユは告げて断っていた。
カミーユはスーッと深呼吸をして、精神を集中させた。
バイオセンサーは諸刃の剣だ。サイコフレームは人に優しい機構だが、バイオセンサーは人の潜在的意識や能力を際限なく喰らい付き力へと転用する。
カミーユは幾度もの戦いで窮地の時に利用した。その時の心身的な疲労感は相当なものだった。
そこでカミーユはバイオセンサーの開放のレベルを個人的に区別することに成功していた。
「まずはレベル1だ」
ガンダムの周囲に赤いもやが煙っていた。カミーユへと攻撃するサイコガンダムらは束のビームを浴びせた。ガンダムはその攻撃を全て浴びたがビームの粒子全てがまるで水を浴びたかの如く受け流していた。
「凄まじい攻撃だが、一番の問題はこの負担だ・・・」
カミーユは顔を顰めた。軽い胸やけがした為だった。ガンダムを母艦に向かいつつあるサイコガンダムへ狙いを定めて突撃を仕掛けた。
ラー・アイムへと移動しているサイコガンダムにはサードと呼ばれるコードネームのパイロットが搭乗していた。最早自己不明な記憶の下、この機体の操縦と刷り込まれた恐怖がすべき使命を支配していた。
「サード!この蚊トンボは私たちが請け負うわ」
フィフスと呼ばれる女性が無線で叫ぶ。それにゼロと呼ばれる男性が追って言った。
「お前が仕留めなければオレらの悪夢が終わらないんだ。頼むぞ」
サードはそれを聞くと、無言で頷く。
彼らの悪夢。それは身体の極限に挑戦する程の過酷な洗脳だった。
10数人いた被検体の内、生き残り自我が保てているのがこの3名だった。
そしてその3人共記憶に封をされており、思い出すだけで気が遠くなるほどの激痛を感じてしまう。
その研究施設である箱庭と呼ばれる施設で刷り込まれた指示以外の余計な感情や想いは痛みに繋がるよう体が支配されていた。
フィフスとゼロはカミーユを追撃した。巨体とは思えない速度を出してカミーユを射程に収めた。
「フィフス!リフレクタービットをフルコンタクトで!」
「了解!ゼロ」
ガンダムの周囲を無数のビットが舞い、カミーユの周囲を取り囲んだ。
「なんだ、これらは・・・」
カミーユは何かが周囲を飛んでいることに気付いていたが、構うことなくサードのサイコガンダムへ追撃して行った。
フィフスとゼロはそのビットらに目がけて拡散粒子砲を放った。それを受けたビットは加速度的に次々とビットらへと反射させていった。
加速度は破壊力の増幅にもなる。豆腐でも速度が有れば物理的には如何なる硬度でも撃ち抜ける。
カミーユはその攻撃にさらされた。最早光に近い速さだった。
「(なっ!・・・これは受けると死ぬ)」
カミーユは追撃速度を落とし、回避に専念した。時折掠るビームが自身のサイコ・フィールドを突破する威力だと感じていた。
「このままでは・・・レベル2に上げるしか」
カミーユはバイオセンサーの開放をもう一段階上げた。
カミーユの心肺機能が一瞬止まって動き出す。それにカミーユが息切れをした。
「ハア、ハア、・・・しかしこれで!」
カミーユは再びギアをフルスロットルにし、サードのサイコガンダムを追撃した。
フィフスとゼロは攻撃の手を緩めなかった。
「愚かな!この2機のオールレンジ攻撃を掻い潜れると思っているのか!」
ゼロが怒りで叫び、カミーユに目がけて弾幕の嵐を浴びせた。
しかしバイオセンサーによるサイコフィールドにより、最早カミーユのガンダムには何人たりとも傷を負わすことができなかった。
「化け物なの・・・」
フィフスは愕然とした。その一瞬よぎった敗北感に強烈な頭痛に見舞われた。
「うぐっ・・・ああ・・・」
その反応は無線越しにゼロが気が付き、フィフスに呼びかけた。
「フィフス!冷静を保て!我々はまだ負けていない」
フィフスはゼロの呼びかけに何とか平静を取り戻し、カミーユのガンダムを見据えた。
「どうする、ゼロ?」
ゼロは腕を組みカミーユの感覚を探った。ゼロの感覚が彼がかなりの肉体の酷使をしていることを理解した。
「・・・フィフス。あのガンダムはそうは持たない。このまま圧倒的な火力を奴にぶつけながらガンダムの体力を削り取る」
「わかったわ」
カミーユは2体を無視して、母艦に接近しつつあるサードのサイコガンダムへと突貫しようと追撃していた。それにゼロたちは止むことの無いオールレンジ攻撃の応酬を浴びせ続けた。
カミーユもその攻撃をシャワーの様に浴び続けていた為、神経を継続して酷使続けなければならなかった。痛みは慣れるが、心身の疲労感がその集中力を途切れさせる要因になることはカミーユも理解し、危惧していた。
「(早めに仕留めなければ・・・)」
カミーユはこの3体とも足留めできればとの想いで出撃していた為、戦闘としては甘さを抱えては足枷になっていた。カミーユはそれを決して覆すことはしなかった。
カミーユはメカニック、設計にしても目利きは世界で最高峰の技量・感覚がこの歳で備わっていた。
あの機体のそこを突くことで航行不能になるという部分を看破していた。それでいて機体を誘爆させないポイントを。
カミーユの眼前にサードのサイコガンダムが迫っていた。ゼロはサードに向かい危機を知らせた。
それは無線では呼びかけることが出来なかったため、念じた。
「(サード!後ろだ。やられるぞ!)」
サードはゼロの知らせに背筋に悪寒を感じ、後方モニターを確認した。するとウェイブライダーで突撃してくるガンダムの姿を目視できた。しかしその姿が異様だった。
「なんだ・・・あの赤いオーラは・・・」
サードはガンダムの纏う周囲のオーラがゼロたちのリフレクタービットを全て無効化にしていることを理解した。
「要するに、外部の圧力を全て弾く脅威の斥力か。この状態でこのガンダムに突撃されると・・・」
穴が開くとサードが冷静に分析した。したところで回避の術が困難極まった。
サードはサイコガンダムを反転させて、I・フィールドと自らのサイコフィールドを持ちうる上限まで展開させた。そしてカミーユのウェイブライダーがサイコガンダムに接触した。その瞬間、精神が異空間へ飛ぶの様な感覚に見舞われた。サードの周りが緑白い不思議な空間で自分が宙に浮いていた。
「なんだ。ここは・・・」
サードは丘の上に居た。眼下を見下ろすと街があるが、至る所火に包まれていた。
理由は分かる。現政権を支持しないで抵抗する組織のひとりがこの街に居ると言う噂がここまでの火種となった。巻き込まれた者達は至って関係ない。仕掛けた方も事態を重くは見ない。これは見せしめだった。
サードの目の前に知らない男性2人と女性1人が現れた。
。サードが頭痛を感じた。その彼らが彼に呼びかけた。
「ユウ。オレらに指示をくれ!あの腐った奴らに地獄を見せてやれと!」
一人の青年士官がサードにきつく詰め寄った。その隣でその士官を宥めるもう一人の若い士官がいた。
「フィリップ中尉!このままでは何もなく全滅します!組織的抵抗をやめて彼らティターンズの支配下に入る事も視野にいれては?」
「冗談じゃない!奴らは歯向かう一般人を虐殺したんだぞ!あいつらは軍人じゃない!軍人は市民の安全を守る者だ!」
すると一人の女性がサードの前に立った。
「大尉・・・。貴方の決断を待っています。玉砕か投降かです・・・。どちらにしても私もフィリップ中尉、サマナ少尉は従います」
そう女性が言うと、サマナはその女性に困った顔で話し掛けた。
「え~。僕はまだそんな覚悟は、モーリンさん・・・」
するとモーリンがサマナに一喝した。
「サマナさん!男なら腹を括りなさい!」
サマナは不満を言いながら、3人とも口論が続いて姿が消えていった。
次の場面では、ジムⅢに乗ったユウを始めとする小隊がティターンズの部隊と死闘を繰り広げていた。
ユウの無線にバックアップのモーリンの声が入る。
「隊長!サマナ少尉が支援を求めております。少尉の防衛に回った方向に民間人の防護シェルターが有り、多数の避難民が・・・」
その直後、モーリンから悲鳴が上がった。
「きゃあーー。そんな・・・サマナ少尉が・・・防護シェルターと共に信号が消えました・・・ああ・・・」
ユウは奥歯を噛みしめていた。フィリップから通信が入る。
「隊長!オレらの周囲はみんな避難民だらけだ。奴ら無差別に攻撃している」
すると、ティターンズの攻撃側の指揮官と思われる者からオープン回線で通信が入った。
「これ以上抵抗を続けるならば、街が地図から消滅する。武器を棄てて投降すれば考えてやらんでもない。繰り返す・・・」
そこでユウの視界が暗くなった。次に明るくなった時はどこかの部屋の中だった。
目の前に知らない青年将校が出てきた。凄いプレッシャーだった。
「君がユウ・カジマ大尉か。連邦でもエースと呼ばれた。私は感じる。君から才能をね」
その将校は髪が紫色で白い軍服姿だった。傍にまた知らない白衣姿の壮年の男性2人が立っていた。
「ムラサメ博士、ナカモト博士、彼は使えると思うが」
「シロッコ中将、彼の数値ならば良い成果が出るでしょう」
「頼む。今後は1人でも多くのニュータイプが必要だ。人の覚醒を待つには時間が足りなすぎる」
「分かりました」
その3人も眼前から消えて、今度は何もない白い空間にサードは立っていた。
「(・・なんだここは・・・)」
サードの記憶がその次に起こる最悪な出来事を肌で感じ恐怖に晒された。
真っすぐ見据えると、そこにはガラス越しにムラサメと呼ばれた研究者とサードのかつての2人の部下がそこに居た。
「君には刺激が必要らしい。催眠下での覚醒を本研究所では最善としている。その上で君は余りに洗脳しずらい。君にショックを与えることにした」
かつての部下2人は両手を縛られて椅子に座らされていた。
何か薬で眠らされているようだった。
「君は大事なものを失った事があるかね?とてもショックだろう。それを目の前で見るのと見ないとでは感覚が違う。君はそれを何も出来ず成す術もなく、ただ見るだけ。そんな状況を常人は平然としてはいれないだろう」
ムラサメの手に銃が有った。サードは急ぎその窓へ走り寄り、力強く叩いた。しかし分厚い強化ガラスでその振動が部屋に響くことはなかった。
「この者達で君が次のステージへ進むことができるんだよ。この2人に感謝して欲しい」
そこでサードの目の前が暗闇になった。サードは絶望していた。漆黒の空間に独り浮いていた。
「(・・・何もない・・・。何をしているんだ。いや、何もすることが無い・・・)」
サードは殻に閉じこもる、決して開けることのできない殻に閉じ込められていた。
「(何もできなかった。オレは何も・・・。あの時も投降するしかなかった。その後も民間に戻る機会もあったが、どこかで驕りがあった。まだオレは違う方法で軍人としてやれると。ティターンズでもそれを変えていけると・・・)」
しかし自分の選択が大事なものを失うことになってしまった。最早自分の選択に自信を失っていた。そこに何故か今まで見たことない青白い光が彼に指していた。それは彼にとって故事のクモの糸ような代物だった。
「(君は、大丈夫だ。人は間違いながらも修正しては成長していくものだ)」
その声にサードは反応した。自分がまだ生きても良いとその光が言っている。蝕んで病んだ心は活力を出すにはとても難しかった。その一筋の光から新たに光が飛び込んできた。
「ユウ隊長。ここで終わってどうするのよ。オレらはお前の守りたい意思、軍人としての気概を誇りに思っているぞ」
実体がないフィリップの声がサードの周囲より聞こえた。続けてサマナの声も聞こえる。
「隊長・・・僕は余りお役に立てなかったけど、貴方がここで立ち止まっていることにクレームを言いに来ました。僕は命を掛けました。貴方がそこで立ち止まる理由、納得できる事を言ってください!ないでしょ?なら、行かなきゃ」
サードの肩に幻影ながらモーリンの両腕が後ろから包み込んできた。
「隊長。何もかも背負い過ぎです。一つ二つの失敗が何ですか?貴方は今まで多くのひとを助けてきました。これからもそんな貴方でいてください、ユウ隊長」
サードは立ち上がり伸びてきている光の糸を掴み、出口であろうその場所へよじ登っていった。
ウェイブライダーの突撃をサードのサイコガンダムは互いの強力な斥力で互いに別々の方向へ弾け飛んでいった。
「うぐっ・・・」
カミーユはその衝撃に操縦桿を握りしめてぐっと堪えた。そしてカミーユは笑みを浮かべていた。
「・・・どうやら起こせたみたいだな」
そうカミーユが呟いた。カミーユにはある予測があった。戦うことが本心でない者たちを説得するに直接心に呼びかけることができるのもサイコミュの一長一短であるということを。その点でバイオセンサーが半ば強引にサイコミュ搭載機に訴えかけられる。サードの乗るサイコガンダムはバランスを戻し、そのサイコガンダムからカミーユへと念じた知らせが届いていた。
「(ガンダムのパイロット。助かった。礼を言う)」
カミーユはサイコガンダムに近寄った。巨体の傍でモビルスーツ形態になり、サイコガンダムに触れて直接会話した。
「オレはラー・アイム所属のMS部隊隊長カミーユ・ビダン大尉だ」
しかし、彼は相変わらず念じての回答だった。
「(オレは日本支部所属第88小隊隊長ユウ・カジマ大尉。ムラサメ研究所で被検体になっていた)」
「ムラサメ研究所?被検体?」
「(ああ。あそこはニュータイプ研究所で洗脳と言う形で戦闘兵器を作っている)」
「なんだと・・・。彼らもか」
カミーユは遠くながらも迫りくる2体のサイコガンダムを見ていた。その時カミーユの視神経が不調をきたした。
「(ぐっ・・・負担か・・・)」
ユウはカミーユの身体状態を感じ取っていた。ユウはカミーユに母艦に帰投するように念じた。
「しかし、大尉1人で・・・」
ユウは首を振り、任せてもらうように念じた。カミーユは今の状態ではあのリフレクタービットを避け切れないと考え、ユウの提案に甘えることにした。
「必ず生き残れ」
カミーユはそう言うとウェイブライダーに変形し、自動操縦で母艦へ帰投していった。
ユウはそれを見送ると、ゼロとフィフスが乗るサイコガンダムへと自ら迫っていった。
ゼロはサードのサイコガンダムの様子がおかしい事をいち早く察知していた。
ゼロがサードへ念じた。
「(どうしたゼロ!何故あの飛行機を逃がす!)」
ゼロの想いをユウは受けて回答した。
「(・・・オレは開放された。お前らを止める)」
ゼロは苦虫を潰したような顔をした。そしてフィフスへ告げた。
「フィフス。サードは離反した。敵として撃墜する」
フィフスはその知らせに衝撃を受けたが、すぐさま了解した。
カミーユへ攻撃していたものをそのままユウに目がけて2人は攻撃を仕掛けた。
ユウは両フィールドを駆使し、全てをはじいていた。
ユウは自身のリフレクタービットを使い、2人に攻撃を仕掛けた。ゼロとフィフスのサイコガンダムはまともにその攻撃を受けて、体勢を崩した。
「バカな・・・オレらのフィールドをいとも容易く・・・」
「ああ・・・何故・・・サード」
ユウはサイコガンダムの弱点を乗り手として熟知していた。ここを壊す事で機動力を失わせることが出来ると。ユウが2機の航行不能を見届けると胸をなで下ろした。その刹那、思いもよらぬ遠距離からのメガ粒子砲の狙撃がユウに向かってきていた。
「(!・・・遠すぎるがオレに向かってきている)」
ユウは難なく避けることが出来た。ユウはその彼方より迫るおぞましい程の圧気を感じていた。
「(これは・・・最早憎しみしか存在しない・・・)」
その彼方にはある巨大な浮遊物が存在していた。
全体的に白い塗装で、ドゴス・ギアに匹敵する大きさのモビルアーマーだった。
それに乗り込む後部座席に白衣姿で眼鏡をかけ、白髪で長髪、髭を蓄えたムラサメ博士と前部に淡い緑色のセミロングのノーマルスーツを着込んだ一人の女性が居た。
「・・・外したか。まあ、そんなもんだろう。君の兄ギニアスは良い遺産を残してくれた。ひとつはこのアプサラス。もうひとつはお前だ」
「・・・」
「連邦よ。裁きの鉄槌を受ける時がきた。このサイコアプサラスを持って、ダカールを滅する」
ムラサメは遠い過去を思い浮かべていた。マ・クベとの取引であのオデッサでの連邦への背信行為。全ては己の野心の為だったが、それらを連邦は全て看破していた。連邦の上層にいつか復讐をしてやろうと躍起になっていた。
それにはあの時シロッコの知らせがなければ、シロッコの庇護がなければ、今頃核やレビル、ジャミトフに消されていただろう。それには一度連邦より除籍するほかなかったのだった。
「・・・因果な世の中だ。連邦には個人的な強烈な恨みしか残っていない。そんな連邦が今の我が物顔で世界に存在していることにとても困ってしまう」
シロッコはエルランの憎悪を機たるべき時期まで取っておいた。捨て駒でも利用する場面においては効果的と考えていた。シロッコの目的は連邦政府の解体、人類の新たな夜明け、新人類での組織改革。エルランはそこまでは考えてはおらず、ただ現体制の崩壊のみを望んで人外の物へと破綻していた。
「君の想い人も君の洗脳に大いに役立ってくれた。四肢粉砕されて尚叫ぶあ奴の姿がとても愛おしい・・・」
エルランはこの女性の洗脳の為、効果的なショック療法を与えた。それは7年前の戦でギリアスとのギリギリの勝負で勝利を勝ち取った連邦士官シロー・アマダを拷問することだった。
遠くに居たはずのユウを攻撃した物体が肉眼で捉えられるぐらい接近していた。
その間にもゼロとフィフスのサイコガンダムは何とか上空で浮遊できるぐらいに持ち直していた。それでも航行は不能であった。
エルランはその2体の姿を見て、目を顰めた。
「なんだ。その醜態は・・・」
彼らの心にはエルランの言葉は恐怖の対象でしか刷り込まれていなかった。
ゼロとフィフス共に縮み上がった。
「もう・・・しわけございません・・・」
「サードが離反しまして・・・」
フィフスのサード離反の知らせがエルランの興味をそそった。
「ほう・・・我が支配を逃れたとは・・・」
エルランがほくそ笑んだ。そしてこのサイコアプサラスのモビルアーマーでは特異と言えるモビルスーツ搭載機能があった。その全てのモビルスーツにはAIを積んでおり、そのAIはこのサイコアプサラスの操縦者のニュータイプ能力に呼応するようできていた。その数は10機にも及ぶ。
「お前らにこの2機を授ける。そのサイコガンダムは捨てておけ」
するとサイコアプサラスより2機の機体がゼロとフィフスの下へ放たれた。無論ユウもそれを見逃すわけなく撃ち落とそうと試みた。しかし両機体とも自ら自己防衛機能を発し、ユウの攻撃を躱していた。ゼロとフィフスももれなくユウの攻撃に対抗していたこともあった。
ゼロもフィフスも初めて見る機体だった。これもサイコアプサラスと同様に白色の4枚羽の様なモビルスーツだった。コックピットの仕様はサイコガンダムと遜色ない形であった。2人ともそれに乗り換えるとユウに対して襲い掛かっていった。
ゼロとフィフス共にファンネルとビームの応酬、そしてビームサーベルで斬りかかった。
ユウは巨体である故に回避することなく、持ち前の防御フィールドとリフレクタービットで応戦。
ゼロとフィフスの乗る機体はミノフスキークラフト非搭載の為、継続しての飛行が困難だった。
その分の俊敏性に優れていた。ユウの攻撃を受けながらも、ユウの集中力が及ばない防御フィールドを模索し、そこへピンポイントに攻撃を仕掛けた。
「(オレのフィールドを超えてきただと・・・)」
ユウはサイコガンダムの箇所箇所が小破している振動を自覚していた。彼らの攻撃するたびにコックピットに微動が感じられたからだ。
ゼロとフィフスは手ごたえがあまり感じられないながらも飛行限界に来ると、自分らが乗り捨てたサイコガンダムの上に舞い降りていた。すでに2体とも海に浮いている状態だった。そこより再び飛行し、ユウに攻撃を仕掛けてくる。
「フィフス!薄い皮を剥ぐようだが効果はある。このまま押し切るぞ!」
「了解ゼロ!」
ユウは4,5度とも攻撃を退けた。6度目の攻撃でユウのサイコガンダムが悲鳴を上げた。
「(・・・バランサーがいかれたか。このままでは落ちる)」
サイコガンダムが斜めになり、徐々に高度が落ちていくことが肉眼で確認できた。
ゼロとフィフスはとどめを刺す為、7度目の攻撃を仕掛けに行った。
「サード!残念だったな!これで終わりだ」
「私たちと共であれば、理想郷に辿り着けたのにね・・・」
ユウがゼロとフィフスの言葉を聞き、嘲笑した。
「(フッ・・・理想郷か。それすらも現状にすがるための刷り込みでしかないことを知らずお前らは縛られているんだ。まあ、救われたオレには関係ないことだがな)」
その念を感じ取ったゼロとフィフスの神経は逆立ち、ユウに苛烈な攻撃を仕掛けた。
「貴様!オレらを愚弄するかー!」
「貴方に私らの崇高な願いを侮辱されたくないわ!」
ユウの四方八方に無数のファンネルが飛び交っていた。そして彼らの全ての砲手が向いていた。
サイコガンダムのI・フィールドは既に機能不全で、サイコフレーム自体も損傷していた。
頼みのサイコフィールドも満足に張れそうもなかった。
「(ここまでか・・・)」
ユウが覚悟を決めた時にどこからともなく声が聞こえてきた。
「貴方にはまだ生きる権利があります。それを主張なさい。世界の悪意より貴方は還ってきたのだから」
そこからユウの記憶はない。次気が付いた時はZガンダムのコックピット内の簡易シートの中だった。
ユウが目覚めると、カミーユが声を掛けてきた。
「約束を守ってくれたようだな。奴らの姿は消えていた。大尉が撃退したんだな」
ユウは違うと思った。死を覚悟したところまでしか記憶がなかったからだった。
何故助かったのか、自分でも不明だった。
一方のサイコアプサラスはインド洋に浮かんでいた。エルランは予想だにしなかった出来事に苛立ちを禁じえなかった。その傍でゼロとフィフスが困惑していた。
「ムラサメ博士・・・」
フィフスがモニター越しで不安そうに語り掛けた。その声にエルランは一喝した。
「何も発するな。一言も、一語もだ」
フィフスはそう言われると口を閉ざした。エルランは状況を少し整理していた。
いきなりサードのサイコガンダムの緑白い発光が周囲を包み、それによりサイコアプサラスとゼロとフィフスの搭乗するクシャトリアが揃って機能不全で墜落した。発光は収まって尚、上空へ飛び立とうにもゲインが上がらない。クシャトリアも同じくだった。
「(・・・あの発光の正体はなんだ。機能不全に陥った理由は・・・)」
彼らが再び航行可能となるのはそれから12時間後の事だった。
* ア・バオア・クー宙域 3.6
シロッコはドゴス・ギアの艦橋にて、ア・バオア・クーの解体の指揮を取っていた。
その傍にメシアが立っている。そのメシアの雰囲気の変化にシロッコは感じ取った。
「・・・メシア。何か面白いことでも見つけたのか?」
シロッコは悪戯っぽくメシアに問いかけた。しかしメシアの黒いマスクの奥の表情は伺い知ることはできなかった。
「君はまだ抵抗するようだな。私の及ぶ範囲では君の力を支配させてもらう。及ばないところで何の力にもならない」
「・・・」
「ララア・スンの情報を見たとき、私は胸が弾んだ。私を凌駕するほどの才能だ。君は世界を動かすことができる。君が頂点に立ち、人類を導いて欲しい」
「・・・」
「と、思いきや、君にはまるで野心がない。先導する上でのね。君のような才能は援助者でいることが私が許さん。君の才能を持って、私が責任をもって、人類の覚醒を導こう」
「(・・・驕りが過ぎます、シロッコさん。貴方の才能持ってしても世界は変えられるはずです)」
シロッコはどこからともなく聞こえた声に目を丸くした。
「成程・・・。洗脳時に全てを取り込むことができなかったらしい。私を買いかぶってもらっては困る。私の才能が世界を揺るがすことはできても、変えるには程遠い・・・。時代の変革者は君のような女性が務めるべきなのだよ」
メシアはシロッコの話に微動だにしなかった。ただシロッコはメシアの外に逃げたわずかな精神に語り掛けるようだった。
「さて、そろそろ時代を動かそうか。君にはあのサイコガンダムを上を行くガンダムに乗ってもらう。フルサイコフレーム構造だ。時代の再生には相応しい」
「・・・」
「ティターンズの主力が全コロニーを威嚇し、エゥーゴ、カラバらと総力戦。その間に3方からの隕石落とし。どれもが保険だ。地上ではエルランが連邦本部を制圧するだろう」
そう、全ては完璧なのだ。全てを清算し、やり直す。シロッコはそれでも確信に至れない。
何かが不安なのだ。シロッコはあくまで再生を意識している。しかし、この世のどこかに本当の終焉を望む者の気配が拭い切れない。
「(一抹以上の不安を感じさせるとは。この世は私の想像の上をいく。派手な動きを見せないことにはその本性も明らかにならない・・・)」
シロッコは結果どうであれ、その正体をさらけ出させることに躍起と焦りを感じていた。もし、自分の行動もその者の範疇にあるならば・・・。
シロッコの背筋に汗が一筋垂れた。
「・・・果てしない。時流というものが<そのもの>だと思うと、何という奇蹟だ」
シロッコは自分が今振り向く、その行動ですら自分を不安にするものの予測の中のような思いにかられた。ただの考え過ぎなのかもしれない。しかし実感が時計の針を進めるごとに深まっていく、そのことが今のシロッコの全てだった。
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