英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第106話
~カレイジャス・格納庫~
「……起動者カ――――」
リィンの接近に気付くとヴァリマールは起動した。
「ヴァリマール、調子はどうだ?昨日の戦闘はかなり激しかったけど………」
「問題ハナイ。装甲ノ損傷ヤ失ッタ霊力モホトンド回復シテイル。次ナル戦イマデニハ元通リニナッテイルハズダ。」
「そうか……はは、それにしてもお前、少し感じが変わったよな?機械っぽい話し方が少しずつ薄れてきているというか。」
(確かに言われてみればそうよね?)
(ええ。古代技術―――魔導技術で作られた”魔導兵”達とは余りにも違いすぎます。)
(”主”の指示に疑問を持つという時点で”人”に近くなっている証拠ね。)
(はい。一体どうやって傀儡に意志を宿らせたのでしょう?)
(……もしかして、クラウ=ソラスやアガートラムも”騎神”を参考に………―――いえ、もはや今の私はそのような事は気にすべき事ではないですね。)
リィンと会話するヴァリマールの様子をベルフェゴール達が不思議そうな表情で見ている中、アルティナは考え込んでいたがすぐに考えるのを止めた。
「ソウカ……?ダトスレバ、少シズツ記憶ガ回復シテキテイルノカモシレナイ。」
「ヴァリマールの……”記憶”?」
「私ハ――――ドウヤラ内部ノ記憶素子ヲ損傷シテイルラシイ。カノ”旧校舎”トヤラニ封印サレタ理由モ含メ、明確ナ”記憶”ハ殆ドナイ―――故ニ今マデハ、アラカジメアル最低限ノ言語機能ダケデ会話ヲ行ッテイタガ―――少シズツ機能ヲ修復シツツアルヨウダ。」
「じゃあ……”以前”の記憶が蘇ってきているのか?」
ヴァリマールの過去が気になったリィンは表情を引き締めて尋ねた。
「ノイズガカカッタヨウナ不確カナモノデハアルガ……オ前ト同ジヨウニ―――悩ンデイタ者ガイタヨウナ気モスル。」
「………ふう、お見通しみたいだな。俺と同じように悩んでいた者……か。」
ヴァリマールの話を聞いて溜息を吐いたリィンは複雑そうな表情で自分の手を見つめた。
「……オレは、目の前で人が死ぬのを止められなかった。あの時、もしかしたら何かができたかもしれない……そんな”後悔”が胸の中に棘のように突き刺さっている。……お前の記憶の人物は、”悩み”を乗り越えられたのか?」
「……ソノ記憶ハマダ検出デキテイナイ。―――シカシ、人間トハ元々悩ミ続ケル存在デハナイノカ?」
「あ……」
ヴァリマールの的確な指示を聞いたリィンは呆けた。
「再ビ同様ノ事態ニ遭遇シタ時、ドウスルカ―――ソレヲ常ニ想定シテオクコトダ。起動者ガ”ソレ”ヲ乗リ越エヨウトイウノナラ私モ助力ヲ惜シムマイ―――」
(ヴァリマールさん……)
(………………)
(フフ、私達の事も忘れないでよ、リィン。)
ヴァリマールの申し出を聞いたメサイアは目を丸くし、アルティナは静かな表情で黙り込み、アイドスは微笑み
(へえ?鉄屑の分際で中々言うじゃない。)
(ふふふ、評価を改める必要がありますね。)
ベルフェゴールとリザイラは感心した様子でヴァリマールを見つめた。
「そうだな……同じ過ちを犯さないためにも。答えを探し続けること自体に意味があるのかもしれないな……ありがとう、ヴァリマール。少しだけ楽になった気がする。」
「フム……ソレナラバイイガ。マアイイ―――私ハ今シバラク眠リニツク必要ガアル。マタ必要ニナレバ起コスガイイ――――」
リィンの答えを聞いたヴァリマールは再び眠りについた。
(……もっと強くならなくちゃな。せめて、手の届く範囲のものを守り抜けるくらいには……もうそろそろ整備も終わる頃だろう。仮眠でもとりながらみんなを待つとするか……?)
集合時間までの僅かな空き時間をどうするか考えていたリィンのARCUSに通信が入り、リィンは通信を開始した。
「―――はい。リィン・シュバルツァーです。」
「やあ、ジョルジュだ。今ちょっといいかい?」
「ジョルジュ先輩でしたか。何かあったんですか?」
「実は今、ルーレ工科大学に所用で顔を出しているんだが……ある人物から、騎神についての興味深い話を聞いてね。できればすぐにでもこちらに来て欲しいんだ。」
ジョルジュの話に驚いたリィンは思わずヴァリマールを見上げた。
「騎神についての話……?いったい誰からですか?」
「ルーレ工科大学の学長―――”シュミット博士”。この帝国における導力工学の第一人者さ――――」
その後リィンは詳しい話を聞く為にルーレ工科大学に向かい、ジョルジュの隣にいるルーレ工科大学の学長にしてエレボニア帝国の導力工学の第一人者―――G・シュミット博士と向かい合い、詳しい話を聞き始めた。
~ルーレ工科大学~
「G・シュミット。この工科大学の学長をしている。……しかし、貴様のような青臭い小僧が”灰の騎神”を操っていたとはな。貴族連合の連中も情けないものよ。」
「は、はあ……」
「博士……さすがに初対面でその言い草はないでしょう。以前は彼らにレアメタルの採取まで手伝ってもらったそうじゃないですか?」
紹介の後に口に出したシュミット博士の言葉にリィンは戸惑い、ジョルジュは呆れた表情で指摘した。
「フン、あれは学生どもが勝手に依頼を出しただけだ。間接的に私の研究を手伝えたのだからむしろ礼を言われてもいいくらいだろう。」
「ふう、まったく……」
「それよりも……さっきの話は本当なんですか?シュミット博士―――あなたが”機甲兵”を開発したというのは。」
目の前の人物が”機甲兵”を開発した人物である話を思い出したリィンは真剣な表情でシュミット博士を見つめた。
「そうだ―――カイエン公に依頼されてな。あやつの所有していた古の機体、”蒼の騎神”オルディーネ―――そして”結社”とやらの人形兵器。それらを参考に、ラインフォルト社の技術力でも量産可能な基本フレームを設計した。数タイプの設計図を引き、数ヵ月前には”ドラッケン”試作機の完成くらいは立ち会ってやったな。……それが一体どうした?」
「……あなたは……」
貴族連合の企みを知っていて自ら開発に関わり、罪悪感も見せないシュミット博士に怒りを抱いたリィンは厳しい表情でシュミット博士を睨んだ。
「ふう……リィン君。この人には何を言っても無駄だよ。興味を持ったものを設計し、完成させることばかりに熱中してその後の事は知らんぷり。あの”列車砲”や君達がノルドで見たという導力波妨害装置も彼の”作品”さ。」
「……そんなものまで。」
「フン、己の知的好奇心を満たさずして何が技術者か。その後、どう使うかは使う者が考えればいいのだ。」
「まったく……本当に相変わらずだよ。こういう所についていけなくて、結局、士官学院を選んだんだけど。」
シュミット博士の答えを聞いたジョルジュは呆れた表情で呟いた。
「……何となくわかるような気がします。そういえば……ジョルジュ先輩は何故シュミット博士のところへ?」
「ああ、それが本題だ。実は、博士から何かヒントが得られないかと思ってね。”灰の騎神”の武器について。」
「あ……!」
ジョルジュの言葉を聞いたリィンはパンダグリュエルで対峙したクロウの自分への忠告を思い出した。
―――余計な世話ついでに忠告だ。そろそろ”得物”も何とかしろ。お前の”八葉一刀流”―――刀抜きで真価を発揮できんのか?
武装でばいすノ選択ハ重要―――――起動者トノ相性ニヨッテ戦闘効率ガ飛躍的ニ上昇スル――――
「ジョルジュから話は聞いた。お前達”蒼の騎神”と戦うための武器を欲しがっているそうだな?袂をわかったとはいえ、一時は弟子として面倒をみた仲だ。設計の相談くらいなら乗ってやらんでもない。」
「それじゃあ……”灰の騎神”の武器を作っていただけるんですか!?」
「結論を急ぐんじゃない。手伝ってやってもいいが、一つ条件がある。」
「”ゼムリアストーン”―――リィン君はその名前に聞き覚えはないかい?」
シュミット博士の説明を捕捉するかのようにジョルジュは真剣な表情でリィンに問いかけた。
「ゼムリアストーン……!それって確か……前にジョルジュ先輩に武器に加工してもらった!?」
「ほう、話が早いな。あれはこのゼムリア大陸でごく稀に見つかる事がある、稀少な鉱物でな。内部に不可思議な輝きを秘め、凄まじいまでの強度を持つ。以前、機甲兵の開発の際に分かった事だが……―――”騎神”のフレームはそのゼムリアストーンによって構成されているのだ。”蒼”―――そしてお前の駆る”灰の騎神”もな。」
「そうだったんですか……」
シュミット博士の口から出た意外な事実にリィンは驚きを隠せない様子で相槌をうった。
「そして、クロウ―――蒼の騎神が使う”双刃剣”も間違いなく同じ素材らしい。――――ということは、だ。対抗するにしても、少なくとも『ゼムリアストーン製の太刀』が必要になるということさ。」
「あ……」
(というか、わざわざそんな物を用意しなくてもアイドスがご主人様が操縦している傀儡が今使っている剣に宿ればいいのだと思うのだけど。)
(確かにそうですね。幾ら鉱石の性能が良くても、”神剣”―――それも”古神”が宿る神剣には劣るでしょう。)
(……一理ありますね。ゼムリアストーンを探す手間が省けます。)
(え、えっと……確かに正論ではあるのですが……)
(それをしてしまったら、色々な意味で台無しになると思うわよ?)
ベルフェゴール達の意見を聞いたメサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、アイドスは苦笑しながら指摘した。
「おそらく、精製するには大量のゼムリアストーンが必要だ。その上、精製法が確立されたのも最近になってからのこと……加工はおそらく困難を極める。……だが、材料さえ用意できるなら、私も協力してやらんでもない。”騎神”に対抗し得る武器……興味をそそるものではあるからな。」
「ふう、あくまでも自分の興味のためなんですよね。”機甲兵を開発した罪滅ぼし”くらい言ってくれれば少しは可愛げがあるんですけど。」
「気色の悪い事を言うな。そもそもゼムリアストーン自体、易々と手に入るものではあるまい。万が一”材料が揃ったら”の話だ―――その時は最高の図面を引いてやろう。このG・シュミットの名に懸けてな。」
「シュミット博士……感謝します。何とか方法を探してみます。」
「フン……期待せずに待っておこう。」
こうしてリィン達は、思わぬところからヴァリマールの武器についての手立てを得ることができた。その後ジョルジュと共に工科大学を辞して、全員と合流し……整備を終えたカレイジャスに乗り込んでルーレ市を後にしたのだった。
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