英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第104話
12月22日――――
街を見て回っていたリィンは空港にいるフィーを見つけ、話しかけた。
~ルーレ市・空港~
「フィー。」
「……リィン。もう艦に戻るの?」
「いや、どうしようかと思っていた所だ。ヴァリマールと話したら休息をとるのもアリかな。なんだかんだで昨日の疲れは残っているし。」
「そ……わたしも同じ。”V"のこと……ちょっと頭から離れない。前に戦った時も、団長のことも悔やんでくれたし。」
「フィー……そうか。(……同じ元猟兵として思う所があるみたいだな。……フィーと一緒に景色でも見て過ごそうか……?)その、よかったら俺もここにいていいか?もし邪魔じゃなければだけど。」
「……ん、邪魔なわけない。気の済むまで一緒にいたらいい。」
「はは、ありがとう。」
フィーの許可を取ったリィンはフィーと共に景色を見つめていると突如動物の鳴き声が聞こえ、鳴き声を聞いた二人が振り向くとそこには仔猫が一匹リィン達を見つめていた。
「仔猫……?どうしてこんなところに。」
「みゃー……」
「ちょっと元気ないね。」
「もしかすると親猫とはぐれてしまったのかもな。首輪はつけていないから野良猫みたいだけど……」
「……ん………………」
仔猫をジッと見つめていたフィーは仔猫を抱き上げた。
「……リィン。」
「ああ、時間もまだ少しある事だし。せっかくだから俺達で親猫を探してあげるか。」
「みゃおん?」
こうしてリィンとフィーは、仔猫を連れて大都市ルーレを歩き回ることにした。
見るからに野良猫であったため、捜索は困難を極めたが……街の人やセリーヌにも聞きこみをしつつなんとか親猫の足取りを追うのだった。そして……
~市内~
「あ……!」
「みゃあっ♪」
リィンとフィーが見つめる方向にいる猫の親子を見た仔猫は嬉しそうに鳴いた。
「ふみゃあ……!」
「にゃ~ん!」
親猫はリィン達を警戒し、二人を睨んでいた。
「はは……どうやらあれがこの子の親みたいだな。」
「ん……間違いない。言葉はわからなくても、繋がっているのがわかる。」
「にゃにゃ~ん♪」
「にゃおん。」
フィーが抱いている仔猫に気付いた猫の親子は嬉しそうな鳴き声を出した。
「よかったな、なんとか親が見つかって。」
「ん……よかった、本当に見つかって。」
「置いてかれたり……捨てられたわけじゃなくて。ちゃんと家族と再会できて。」
「フィー……」
フィーが自分自身と重ね合わせている事に気付いたリィンは静かな表情でフィーを見つめた。
「……あの子を抱えている間、ちょっと思い出してた。団長がいなくなった日の……少し前のくらいのことを。」
「団長がいなくなった日……?」
「……わたしたちは、団長達の帰りを待つためにリベール付近の国境に野営地を構えていた。そこに偶然、女の子の猟兵が紛れ込んできたことがあった。」
「女の子の猟兵って……フィーみたいな?」
フィーの話を聞いたリィンは驚きの表情でフィーを見つめた。
「ん、歳はだいたい1つ上くらいだったと思う。反対側にある、団長達と同じように”結社”に雇われていた”赤い星座”の野営地……そこから野良猫を追いかけて入り込んできたらしかった。」
(赤い星座の女猟兵……?………………)
フィーの話に出てくるある人物に心当たりがあるアルティナは真剣な表情をした。
「同じ雇用主に雇われているとはいえ、敵対している猟兵団の中に……?それで、どうなったんだ?」
「まあ、別に戦闘になったりはしなかったけどね。あっちもその時は全然やる気がなかったみたいで。そのままわたしと猫を構いながらいろいろお喋りしてた。」
「それは、どちらも呑気というか肝がすわっているというか。……でも、いるんだな。フィー以外にもそんな子が……」
フィーのような存在が他にもいる事に冷や汗をかいたリィンは真剣な表情をした。
「ん……割とある話だし。でも、その子は当時から向こうの団で大隊長を任されるくらいの凄腕だった。心の底から戦場を愉しんで、生も死も、全てを呑み込んでしまうような……そんな人喰い虎みたいな。」
「それは……フィーとは似ても似つかないな。……猟兵と言っても、本当に色々いるんだな。」
「ん。……ちなみにその猟兵はわたし達が以前特別模擬戦で戦った人の親戚。」
「え……”特別模擬戦”って言うと、特務支援課の人達の事だよな?一体誰だ?」
フィーの口から出た意外な人物達の事を聞いたリィンは目を丸くした。
「”闘神の息子”ランドルフ・オルランド………今はランディ・オルランドを名乗っているみたいだけど。」
「!あの紅毛の人か…………そう言えばあの人の本来の得物は”ブレードライフル”だったし、実力もあの人があの中で一際群を抜いていたな……」
(そうなると……話に出ていた人物はやはり”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”ですか。)
ランディの姿や戦闘している様子を思い出したリィンは真剣な表情をし、ある人物を思い浮かべたアルティナも真剣な表情をした。
「ん。”殲滅天使”の話からすると今はクロスベルにいるようだけど……多分、あの子だったらたとえ一人でも十分に生きていると思う。団から置いて行かれて、一人になった途端に何もできなくなって……ただ、周囲の人に守られていたばかりだった”弱い”わたしとは違って。」
「……持っている力だけだが”強さ”じゃないさ。それにフィーも、このⅦ組でずいぶん強くなれたんじゃないのか?俺やラウラ、他のみんなとも切磋琢磨する中で。」
「……そうかもしれない。少なくとも、あの頃よりは……みんなのおかげだね、きっと。」
リィンの指摘を聞いて今までを思い返したフィーは静かな笑みを浮かべてリィンを見つめた。
「ああ……一緒にもっと強くなろう。俺もきっと、そうなる必要があると思うから。」
「リィン……そだね、強くなろう……みんなで……Ⅶ組で一緒に。」
その後親猫達のもとへと嬉しそうに去って行く仔猫を見送ったリィンはその場でフィーと分かれて市内を再び歩き回っているとドヴァンス食堂にいるトワとアンゼリカが気になり、二人に話しかけた。
~ドヴァンス食堂~
「トワ会長。それにアンゼリカ先輩。」
「あ、リィン君。」
「やあ、お疲れだったね。」
「お二人ともお疲れ様でした。二人でお茶しているんですか?」
「フフ、ようやく愛しのトワとゆっくりする時間ができたからね。ジョルジュも工科大学へ出かけたし、このまま二人でめくるめく世界へと旅立とうというところさ♪」
いつもの調子で答えたアンゼリカの話を聞いたリィンは冷や汗をかいた。
「た、旅立たないってば。もう、アンちゃんってばほんと相変わらずなんだから。えへへ……でもよかった。無事にまた会えて。……あとは……」
「……フッ、そうだね。あのお調子者のこともなんとかしなくてはな。」
「(せっかくだし、俺も二人とご一緒させてもらおうか……?)その、よかったら俺もここで休憩していっていいですか?」
「うん、もちろんだよ。」
「フフ、ここは先輩としてオゴってあげるのがスジかな。」
その後リィンは二人と共に休憩を始めた。
「ふう……落ち着きますね。」
「ふふ、大衆居酒屋にしてはなかなかいいお茶を出すだろう?以前からのお気に入りの店でね。よく屋敷を抜け出しては飲みに―――もとい、くつろぎにきたものさ。」
「もう、アンちゃんってば……お酒はダメなんだからね?」
アンゼリカの話を聞いたリィンが冷や汗をかいている中、トワは呆れた表情で指摘した。
「ふふ、わかっているとも。いやしかし、こんなやり取りも本当に久しぶりだな。父との決着―――乗り越えた甲斐があったようだ。」
「……ええ、そうですね。」
「リィン君、アンちゃん……」
「おや、トワ。よく見るとなんだか髪が乱れていないか?」
「え、そうかなぁ?艦長帽を被るようになったから確かに手入れは適当にしちゃってるけど。」
アンゼリカに突如髪の事を指摘されたトワは戸惑いの表情で答えた。
「せっかく長くてフワフワな髪なんだ。もっと大事にしたまえ。そうだな、学院にいた頃のように私が梳いてあげるとしようか。」
「え、いいの?じゃあよろしくお願いするね!」
(はは……先輩たちって本当に仲がいいよな。)
仲がいい二人の様子を見守っているとアンゼリカはトワの髪を梳き始めた。
「ん、こんなところかな。」
「こ、これは……その、いつも髪をしばっていますからなんだか新鮮ですね。」
しばっている髪を梳いたトワを見たリィンは驚き
(まあ……フフッ、髪を梳いたトワさんの方が素敵な気がしてきました。)
(髪形だけで別人になるという話を聞いた事はありますが……どうやらそれは本当だったようですね。)
(ええ……今の彼女はとても大人びているわ。私達も髪形を変えたらリィンは驚くかしら?)
(うふふ、髪は”女の命”とも言われているしね♪)
(………………私も髪を梳けば、マスターに驚かれるのでしょうか……?)
メサイア達が微笑ましそうに見守っている中、アルティナは左右に縛っている自身の髪を気にしていた。
「あう……そうかなぁ?」
一方リィンに驚かれた後ジッと見つめられたトワは恥ずかしそうな表情をした。
「フフ、トワは髪を下ろすと意外と大人っぽくなるからね。可愛らしさと大人びた雰囲気の両立……ああ、さすが私のトワだよ♪」
「も、もうわかったから。そろそろリボンを返してくれる?」
「いや、ダメだ。せっかくだから色々と試させてくれたまえ。こんなこともあろうかと、実家にトワ用のリボンをワンサカ用意しておいたからね。ちょっと待っていたまえ!」
トワの嘆願を断ったアンゼリカは実家に一端戻る為に走り去った。
「ちょ、ちょっとアンちゃん!?」
「行ってしまいましたね。」
「もう、アンちゃんったら……」
「はは……まあたまにはこういうのもいいじゃないですか。ようやく”日常”の一つを取り戻せたような……そんな気がしますし。」
「リィン君……」
リィンの言葉を聞いたトワはリィンをジッと見つめた後やがて口を開いた。
「アンちゃんやジョルジュ君とも話していたんだけどね。この内戦がなかったら、今頃士官学院も学期末……わたし達は2年生だから、本当だったら進路を決めなくちゃいけない時期だったんだ。」
「進路……そういえば確かにそんな時期みたいでしたね。会長たちは、何か決まっていたんですか?」
「うん、ありがたいことにわたしも色んな機関や省庁からお誘いが来ていてね。たしかジョルジュ君は各地の研究施設や工科大学から誘われていたみたいだし……アンちゃんはほら……期間限定とはいえレン姫の秘書兼護衛って決まっているでしょう?」
「はあ、皆さんすごいですね。俺も負けてられないな……」
トワの話を聞いたリィンは溜息を吐いた後自分の不甲斐なさに肩を落としていたが
「リ、リィン君……わたし達より凄い進路が決まっているリィン君がそれを言う?」
「へ?どういうことですか?」
「だってリィン君は将来クロイツェン州の統括領主になるってメンフィル帝国に決められているじゃない。しかも色々な理由でアリサちゃん達どころか、あのアルフィン皇女殿下も娶らなければならないし。」
「う”……そ、それは…………」
冷や汗をかきながら苦笑するトワに指摘され、表情を引き攣らせた。
「……り、私の入る……なんてないのかなぁ……みんな、素敵……し……スタイル……わたし……違って……」
「トワ会長?」
肩を落として小声で独り言を呟くトワの様子が気になったリィンは不思議そうな表情で尋ね
(あらあら♪これはもしかしてのもしかしてかしら♪)
(ふふふ、なるほど。だからアルティナと契約した際、アリサ達に訓練室に連れて行かれたご主人様に説教をしに来たのですね。)
(フフ、リィンならスタイルも気にしないし何人でもきっと受け入れてくれるから頑張って……)
(ア、アハハ……本当に最終的に何人と結婚する事になるのでしょうね……)
(既に婚約関係である女性達がいる上肉体関係の間柄である私達もいるのに、何故マスターはその事を自覚せずに更に増やそうとするのでしょう。)
トワの様子を見て何かを察したベルフェゴールやリザイラ、アイドスは微笑ましそうにトワを見つめ、メサイアは苦笑した後疲れた表情をし、アルティナはジト目になった。
「ハッ!?な、なんでもないよ!えっと………話を戻すけどわたしもジョルジュ君、そしてアンちゃんだって内心ではこの内戦やメンフィル帝国との外交問題でちょっと迷いが出て来てるんだ。例え内戦が終わって、メンフィル帝国との外交問題も終わって、日常を取り戻す事ができたとして……この先のエレボニア帝国を考えたら、単に目の前の選択肢から一つ選ぶのは違うんじゃないかって。」
「この先のエレボニア帝国……そこまで考えていたんですね。目の前の事で手一杯の俺なんかとは大違いというか。」
「ううん……きっとリィン君達がいてくれるおかげだよ。」
「え……?」
トワがふと呟いた言葉が気になったリィンは目を丸くした。
「リィン君達Ⅶ組はわたしたちにとって”希望”なんだ。希望があるから、この内戦やメンフィル帝国との外交問題を乗り越えて、明日を掴める事を信じられるんだと思う。だから……これからも一緒に頑張ろう?アンちゃんを助けられたように、きっとこの先もなんとかなるから。」
「トワ会長……はは、そうですね。ありがとうございます。少し前向きになれた気がします。」
「えへへ、そっか。」
「フフ、なにやらいい話をしていたみたいだね?」
互いを見つめて微笑み合っているとアンゼリカが戻ってきた。
「ア、アンゼリカ先輩。」
「いやー、逢引きをしたかったのなら事前に相談してくれればいくらでも協力してあげたのに。他の男ならともかく、リィン君になら可愛いトワを安心して預けられるからね。勿論トワを攻略したのなら、責任は取ってもらうよ?」
「ちょ、ちょっとアンちゃん、何を言い出すのっ?」
リィンにウインクをするアンゼリカの言葉を聞いたトワは頬を赤らめて慌て
「はは……」
いつものようにからかわれているだけだと思ったリィンは苦笑した。
その後、トワはアンゼリカの持参した大量のリボンを代わるがわる試され……そんな二人を傍から微笑ましく眺めていたリィンはゆっくりお茶を飲みほし、お茶を飲みほした後は再び街の見回りを再開し、その途中ラインフォルト本社により、24Fにある自分の実家にいるアリサに話しかけた。
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