英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第95話
12月20日――――
学院生達との合流や依頼を終えたリィン達はトワの突然の連絡によってカレイジャスに戻り、そのままトワに呼ばれ、待機していたメンバーと共にブリッジへと向かった。
~カレイジャス・ブリッジ~
「ただいま戻りました。」
「たっだいまー!」
リィン達がブリッジに戻るとジョルジュとアルフィン皇女もその場にいた。
「お帰り、リィン君達!」
「ふふっ、お帰りなさい。」
「いいタイミングで戻ってきたね。」
トワ達に近づいたリィン達は巨大なスクリーンモニターに気付いた。
「それは……」
「カレイジャスの大型スクリーンモニター?」
「えへへ、実はさっきビックリする人からの通信が入ったの。それで、もう一度かけ直すからってこの時間を指定してきて。」
「なるほど……それで戻ってくるようにと。それで一体誰が……」
「通信、入りました。」
通信士が端末を操作するとある人物の声がモニターから聞こえて来た。
「―――ハロー。フフ、聞こえるかな?」
「あ……!」
「まさか……」
声を聞いたアリサとラウラが驚いたその時モニターにアンゼリカが映った。
「アンゼリカ先輩……!?」
「ご無事だったのですね……!よかった……」
「ログナー侯爵家の……」
アンゼリカの登場にリィンは驚き、セレーネは安堵の表情をし、エリスは目を丸くした。
「――やあ、仔猫ちゃんたち。学院祭以来だが、元気にしていたかい?」
「ア、アンゼリカさん……!」
「はは……!ご無事だったんですね!?」
「フフ、ご覧の通りピンピンしているよ。連絡もできずに済まなかった。心配をかけてしまったね。アルフィン殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。サラ教官も久しぶりですね。」
「ふふっ、お久しぶりです。お元気そうで何よりですわ。」
「フフ、あんたも相変わらずみたいね。」
アンゼリカの言葉を聞いたアルフィン皇女は微笑み、サラ教官は苦笑した。
「エリス君も無事に助け出されて何よりだよ。」
「………ご心配をおかけしました。」
アンゼリカに視線を向けられたエリスは会釈をし
「―――お久しぶりです、シグルーン中将閣下。まさか貴女程の方が彼らに力を貸しているとは思いませんでしたよ。一体何故彼らに貴女が助力を?」
「それについては機会があれば説明致します。レン姫にも機会があれば連絡をしてください。」
「ええ、必ず。それと……そこの雪のように真っ白な髪の仔猫ちゃんは一体どこの娘だい?」
「?仔猫って私の事??」
アンゼリカに名指しされたゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。
「はは……そう言う所も相変わらずで本当に安心したよ。ケルディックにいるプリネやレン姫に尋ねてもその頃には君は行方不明になっていたからね。」
「フフ、すまなかった。家の事もあって少々、立て込んでいたものでね。」
「それは……当然そうでしょうね。」
「四大名門の一角……”ログナー侯爵家”だっけ。」
「アルバレアと同じく”貴族連合”の重要な一角……そちらはどのような状況ですか?」
「フフ、聞いたよユーシス君。出奔したそうじゃないか。私の方も親父殿―――ログナー侯と”少々”あってね。恥ずかしながら、近いうちに猛烈な親子喧嘩に発展しそうな勢いなのさ。」
ユーシスに視線を向けたアンゼリカはリィン達を見回して苦笑しながら答えた。
「お、親子喧嘩って……」
「……大丈夫なのですか?」
「まあ、協力者がいるから心配してくれなくてもいい。それより、アリサ君に伝えておきたいことがあるんだ。―――君の母上の居場所なんだが。」
アンゼリカの話を聞いたその場にいる全員は血相を変えた。
「イリーナ会長の……!」
「ほ、本当ですか……!?母様は……母は無事なんですか!?」
「ああ、少々面倒な場所に軟禁されてしまっていてね。なんとか助け出せないか策を講じているところさ。まあ、それも私に任せて―――」
アンゼリカが説明をしていると突如モニターから銃声が聞こえて来た。
「この音って……」
「……銃声だね。」
「……やれやれ、親父殿め。もう嗅ぎ付けたのか。」
「ア、アンゼリカさん……!?」
「あの……一体どういう親子喧嘩をしているのですか………?」
目を細めてどこかに視線を向けているアンゼリカの様子をアリサとセレーネは心配そうな表情で見つめた。
「すまない、また連絡する!声が聞けてよかった……こちらは気にしないでくれ!
「アン―――!」
「ア、アンちゃん、待っ―――!」
そしてアンゼリカはジョルジュとトワの制止の声を無視して一方的に通信を切った。
「……今のって。」
「……先輩、危ないことに巻き込まれているのでは……?」
「味方もいるようだが……厳しい状況にあるみたいだな。」
「アンゼリカさん……」
アンゼリカの状況を推測したセリーヌとエマは不安そうな表情をし、リィンは真剣な表情をし、アルフィン皇女は心配そうな表情をした。
「そ、それに母様も軟禁されているなんて……もしかしてゲルドが言っていた”アイゼングラーフ号”の中かしら?」
「………………」
アリサに視線を向けられたゲルドは静かな表情で黙り込んだ。
「どちらにしても心配だな……」
「先輩は気にするなと言っていたが……」
「うん……さすがに見過ごせないね。」
「みんな……」
「……ありがとう。」
Ⅶ組の面々の決意を知ったトワは嬉しそうな表情をし、ジョルジュは静かな笑みを浮かべて感謝の言葉を送った。
「ふむ―――行くのね?帝国北東部……”ノルティア州”へ。」
「―――ええ、アンゼリカ先輩も休学しているとはいえトールズ士官学院の一員です。苦境は放っておけませんし、アリサのお母さんの事もあります。」
「リィン……」
「俺達に何ができるかまだ判らないけれど……行こう―――”黒銀の鋼都”ルーレへ!」
こうしてリィン達は、アンゼリカとアリサの母・イリーナ会長の状況を調べにルーレ市に潜入することにした。しかし目的地は、四大名門の一角”ログナー侯爵家”の本拠地―――やるべき事を終え、万全な準備をしてから潜入する事にし、全てを終えたリィン達はブリーフィングを行い始めた。
ルーレへの潜入においては、やはり強力なノルティア領邦軍の本拠地であるのが最大の障害であり……いくらカレイジャスでもそのまま近づくのは危険だった。そこでリィン達は―――ノルド方面にいる”ある人物”のアドバイスを貰う事にした。
12月21日―――
~カレイジャス・ブリッジ~
「―――ふむ、どうやら滞りなくノルティア州には入れそうじゃの?」
モニターに映っている人物―――グエン・ラインフォルトはリィン達に問いかけた。
「はい、お祖父様。問題はどうやってルーレ市へ入るかなんですけど……」
「さすがに空港を使うわけにはいかないもんね。」
「とはいえ、街道も街からはほとんど丸見えだ。」
「正直、カレイジャスを降ろすいい場所が無いみたいなのよね。」
「ユミルの山道からルーレへと続くザクセン山道を降りる手も考えたのですが………」
アリサ達と共にルーレに潜入する方法を考えていたエリスは複雑そうな表情をし
「……ユミルはグエンさんもご存知の通りメンフィル軍による厳戒態勢に入っている影響で、ザクセン山道に降りる所までメンフィル軍が展開されている為、領邦軍もメンフィル軍による襲撃を警戒しているでしょうからザクセン山道方面からの潜入も厳しいという結論が出たのですわ。」
セレーネは疲れた表情でエリスの説明を捕捉した。
「そこでグエンさんに知恵を借りられないかと連絡したんですが……何か、いいルートを知っていたりはしませんか?」
「フフン、ワシを頼ったのはなかなか良い判断じゃ。それならちょうどいい場所を知っておるぞい。」
リィンに尋ねられたグエンは自慢げに答えた後リィン達が期待していた言葉を口にした。
「ご隠居、それは……?」
「ルーレ西側の”スピナ間道”―――あそこには小川が流れておってな。ワシも昔はよくそこで釣りをしておったもんじゃが……その川の源流は、ユミルの山麓方面にあっての~。」
「え……」
「もしかして……ユミル方面からボートで潜入するということですか?」
ガイウスの問いかけに答えたグエンの話を聞いたエリスは目を丸くして呆け、すぐに察したリィンは尋ねた。
「フフ、そういうことじゃな。かなり急な場所もあるから注意は必要じゃろうが……そのルートならば、気付かれずに街の近くへと出られるはずじゃ。」
「なるほど………それは見込みがありそうだ。」
「さすがに小川からの侵入や襲撃は想定していないと思いますわ。」
グエンの説明を聞いたラウラとシグルーンは納得し
「あはは、なんかスパイ小説みたいで楽しそー!」
「お前が言うな、お前が……」
無邪気な笑顔を浮かべるミリアムにユーシスは呆れた表情で指摘した。
「そうと決まればいったんユミル方面に向かうことにしましょう。」
「ボートで行くとなると人数を絞る必要もありそうね。」
「お祖父様、いい知恵をありがとうございます……!」
「な~に、他でもない可愛い孫娘のためじゃ。それに、可愛くない我が娘に恩を売るのも悪くあるまい。ワシの遊びの一番弟子であるアンゼリカちゃんも助けてやりたいしのう。」
「お祖父様……」
「フフ……とても優しい人ね。」
グエンの優しさを知ったアリサとゲルドはそれぞれ微笑んだ。
「皆さん………どうかお気をつけて。」
「……僕達もできればついて行きたいけれど……艦の運用を考えるとやっぱり君達に任せるしかないだろう。」
「アンちゃんたちのこと……どうかよろしくお願いするね!私やジョルジュ君……それとクロウ君のぶんも!」
「ええ―――任せてください!」
そしてリィンは潜入メンバーにアリサ、ゲルド、セレーネ、ラウラ、シグルーン、サラ教官を選んだ後一旦ユミル山麓へと向かい……用意したボートを小川に下ろして、ルーレ方面へ下っていったのだった。
同日――――11:00
~スピナ間道~
「なんとか見つからずにここまでこれたわね。思った通り、こちら方面は領邦軍の警戒も薄いみたいだわ。」
「こちらの方角には正規軍の中でも有力な機甲師団もいませんし、それにメンフィル軍がルーレに攻めてくるとしてもザクセン山道でしょうし、そちらからの襲撃を警戒しているのだと思いますわ。」
「あとはどうやって市内に潜りこむかだな。」
「シグルーン様とゲルドさん以外のメンバーであるわたくし達は領邦軍に指名手配をされていますからね……」
「とにかく一旦、ルーレ市に向かってみよう。ここから歩いていけば、街に通じる道に出られるはずだ。」
「ええ……!」
その後街道に出たリィン達は街の出入り口まで到着したが、そこには領邦軍の兵士達が見張りに立っていた。
「む……」
「ん、何だお前達は?」
ルーレに近づいてきたリィン達を領邦軍の兵士達は眉を顰めて呼び止めた。
「その、俺達は旅の者です。ちょうど、ユミルの山麓方面から歩いてきたところなんですが……」
「歩いてきただと……?この内戦下に、危機感が足りないというかなんというか………ん?そちらの娘は……」
リィンの説明を聞いて呆れた兵士はアリサに視線を向けた。
「な、なんでしょう?」
「いや………お前の顔をどこかで見たような気がしてな。よく見れば、他の者達も……?」
(チッ……露骨に怪しまれてるわね。)
(ルーレに来る方法が”徒歩”という普通なら信じられない手段ですからね……)
(歩いて街に来ただけでどうしてそんなに怪しむのかしら……?)
自分達を警戒する兵士の様子にサラ教官とシグルーンは厳しい表情をし、ゲルドは不思議そうな表情をして首を傾げていた。
(どうする……?)
そしてラウラがリィンに判断を促したその時もう一人の兵士が予想外な事にリィン達に対する助け舟を出した。
「まあ―――おそらく気のせいだろう。このくらいの年頃の若者はみな同じ顔に見えるものだ。昨晩行ったバーの店員と見間違えてるんじゃないか?」
「なっ……なんだと?」
「そもそも、我々が第一に注意すべきはあくまで正規軍とメンフィル軍だろう。さすがにこんな若者たちは関係あるまい。」
「……まあ、それもそうだな。いいだろう、通るが良い。ただし、くれぐれも街の中で騒ぎを起こさぬように。」
「は、はい。」
「……失礼します。」
こうしてリィン達はルーレへの潜入を無事果たした。
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