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第十六話その2 皇女殿下の亡命生活なのです。
前書き
ナンバリングがヘンです。なぜか?それは単にしくじったからなのです。
皇女殿下が辺境惑星で日々を過ごしております。願わくばずうっとこれが続いてほしい、と思うのはたぶん皇女殿下以外の人たち。
帝国歴480年10月6日 ゲアハルト星系惑星リューディッツ
■ カロリーネ・フォン・ゴールデンバウム
ここにきて三か月。だいぶ落ち着いてきてここでの暮らしも慣れてきた。あの時のことを思うと、怖くて夜も眠れないときもあるけれど、アルフレートがそばにいてくれるので、なんとかやってます。
ここはバウムガルデン家の荘園らしいけれど、なんというか田舎の地方都市っていう感じね。インフラは整備されていてよくOVAに出てきた中世の農園っていう感じでは全然ないわ。人々もよくバウムガルデン家になついているようです。
私はバウムガルデン家の館で刺繍したり、本読んだり、料理作ったり、勉強したり、馬に乗ったり。最近はファーレンハイトやシュタインメッツにせがんで射撃や剣を習うようにもなりました。だって、たいくつなんだもの。でも、三人はもっと退屈なんだろうな。
ごめんね、三人とも。私のせいでこんなことになって・・・。
恐怖が過ぎ去ってみると、お怒りモードに突入したけれど、それも長くは続かず、続いて考えモードに。どうして私の出生が降ってわいたように大ニュースになったんだろう?というかいつの間にか貴族に目を付けられちゃって。私けっこう慎重にやったつもりだったんだけれどなぁ。他人さまから見れば、そうは見えなかったのかな。
これからどうしよう。う~ん、一生ここでのんびり暮らすのもいいけれど、あそこでブラウンシュヴァイクやリッテンハイムに負けちゃったこと、私根に持ってんのよね。どっちかというとラインハルトよりもあいつ等に復習したい気分。
でもね、今帝都には戻れないのよね~。というか戻ったら速攻で処刑されそうな感じだし。
とか言ってここにじっとしているのは性に合わないし。
となると、亡命?マンフレート2世は亡命して自由惑星同盟に逃げ込んで、その後帝国に戻って即位したっていう先例もあるし、どうでしょうか?
それともいっそ私、自由惑星同盟に行って軍の指揮官になって、帝国に復讐しようかな。でも、ファーレンハイトやシュタインメッツ、アルフレートはついてきてくれるのかな・・・・。
帝国歴480年10月9日
■ アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン
ここにきてようやく生活は落ち着きを取り戻しつつある。ファーレンハイトやシュタインメッツには悪いが、今こういう場所で穏やかに暮らせるのは悪くない気分だ。
無為に日々を過ごすのはもったいないので、俺は蔵書に読み耽ったり、実技の稽古を積んだり、シミュレートシステムをここに持ち込んで、シュタインメッツやファーレンハイトを相手にして戦術・戦略を磨いている。いつか役に立つ日が来るだろうと信じて。
例の女性士官学校で導入されたシミュレーターだ。実物に接してみて、俺は驚いていた。自由惑星同盟のOVAに出てくるシミュレーターと格段に質が違う。こんなものが帝国にあったのか。いや、幼年学校にはこんなものはなかった。すると誰かが導入したことになる。
どういうことだ?まさかとは思うが、まだ転生者がいるのか?いや、わからないな・・・。情報が少なすぎる。
最初は見ていただけだった皇女殿下も加わるようになった。そして思った。意外と皇女殿下も強い。ファーレンハイトやシュタインメッツを驚かせている。
そんな日を過ごしている中、皇女殿下から爆弾が投下された。なんと自由惑星同盟に亡命したいという。そんなことをしたら父上がどう思うか?と思っていると、なんともショッキングなニュースが飛び込んできた。ブラウンシュヴァイクやリッテンハイムの陰謀に父上が屈し、爵位奪取、領地没収の沙汰が下ったのだ。やはり皇女殿下のご出生のダメージが響いたのか。だが、いくら何でも急展開すぎるだろ!!
まずい!!!幸いお金はこういう時のためにフェザーン・マルクやディナールに変えているし、父上から同盟にあちこち匿名口座を設けて多額の金を預けているから大丈夫だ。こういう時のために俺にカードと通帳を持たしてくれている。だが、ぐずぐずしていると追手が来る。
俺はファーレンハイトやシュタインメッツと話し合った結果、ひとまず4人で自由惑星同盟に亡命することに決めた。なんといっても10歳の少女と13歳の少年では心もとない。暫くは保護者が必要だ。二人とも快く引き受けてくれた。ただし、俺はファーレンハイトやシュタインメッツをいつまでも置いておく気にはならない。こういっては何だが二人ともラインハルトの陣営に必要な人材だ。二人に、それに皇女殿下には悪いが・・・。
帝国歴480年11月6日――
フェザーン商船客室
フェザーン回廊出口、自由惑星同盟領内――。
■ アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト
ようやくフェザーン回廊の出口が見えてきた。それにしてもなんという運命の悪戯だろうか。まさか俺が反徒共、いや、自由惑星同盟に亡命するなど想像もしなかったが、だからと言って皇女殿下の侍従武官として皇女殿下についていくという決意はいささかも変わりはしない。
帝都に残している家族のことは気にならないわけではない。特に、同じ軍属である妹たちに対する風当たりは強くなるだろう。すまないな、ユリア、アリシア・・・・。
ゲアハルト星系から、輸送船の定期便で、フェザーンに入れたのは僥倖だった。検問があると言っても、身元証明証書は完璧なものである。もっとも本名ではない。こういう時のために、バウムガルデン公爵が用立ててくださったものを使用しているのだ。
だが、それからが問題だった。どうやってフェザーンから自由惑星同盟に向かうか。
フェザーンにおいて、俺はつてを頼り、元帝国軍人で今は商船の船長をしている旧友に頼み込んだ。奴は驚いた顔をし、この問題は自分では扱えないと言い、大使館に駆け込むように言った。俺たちは迷った。今素性を明かしても大丈夫なのか?アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン様は大丈夫だろう。なんといっても、帝国では貴族であったが、財産を没収され、同盟に亡命するという話は、よくあることだ。同盟側もそれを受け入れて厚遇してきている。
問題は皇女殿下の方だ。話を聞くと、皇女殿下のご出生のニュースはフェザーンはおろか、同盟にまで広まっているという。なんということだ。こんな時に皇女殿下のまま亡命させるのはいかがなものだろう。
結論は出てこなかった。ただ、アルフレート様は憂いがちな顔でこうおっしゃられた。「仮に皇女殿下が帝室に連なる者ではなかったということになれば、皇族として厚遇してきた同盟の態度は一変するに違いなく、その風当たりは相当に厳しいものになるだろう」と。確かにそれは一理ある。同盟の態度の裏返しの早さは有名なのだから。
話し合った結果、皇女殿下はバウムガルデン公爵家の縁続きということにし、アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン様の婚約者という設定にしておいた。我々は皇女殿下に謝ったが、思いのほか皇女殿下は気にしておられなかった。むしろすまなそうに「苦労をかけるの」とおっしゃっていた。お一人でこんな環境に流され、心細かろうにけなげな方だ。この俺、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトが、一命を賭して守り抜かなくては。
手続きが済み、こうして旅立つことができるようになったのは、10月の終わりごろだった。あの騒動勃発からまだ半年ほどしかたっていないが、ずいぶんと長く生きてきたような気がする。
アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン殿下もよく皇女殿下に尽くしてくださっている。こうしてみるとお二人は兄妹というか何か目に見えない親近感を持っているかのようだ。
自由惑星同盟か、果たしてどんなところなのか。一部の人間からは自由と理想の国と話を聞き、一部の人間は腐敗した民主政治とやらの集大成なのだと聞く。どちらが本当の姿なのか、それともどちらも誤った認識なのか。今の俺には想像もできない。
■ カール・ロベルト・シュタインメッツ
アルフレート様にお仕えし、まさか自由惑星同盟に亡命することになるとは思わなかったが、この選択を悔いてはいない。アルフレート様も皇女殿下も未だ幼い身、そんな中亡命を決心されるとは驚いたが、さぞかしご心痛だろう。我々が支えなくてはならない。
こんな時にファーレンハイトがいてくれるのは心強い。私一人では心もとないが、二人ならばどうにかなるはずだ。だが、向こうに行けば男手だけではだめだろう。皇女殿下に置かれてはせめて侍女をつけたいものなのだが・・・・。
帝都オーディン――
話は前後するが、どうしてブラウンシュヴァイクやリッテンハイム以上の権勢を誇ったバウムガルデン公爵家が急激に没落したのか。
その原因はやはりカロリーネ皇女殿下のご出生の打撃であった。痛み分けになるという大方の予想を裏切る形で、ブラウンシュヴァイクやリッテンハイムはその後も攻勢を強め、バウムガルデン公爵は、なまじ皇帝陛下に素性の分からない私生児をおすすめしたという結果になってしまった。これが仇となって、バウムガルデン公爵家はとりつぶしになったのである。それほど帝室にとって血統とは重要なものであった。事にルドルフ一世が劣悪遺伝子排除法を発布しているという基礎もあって、ことに皇室の血は神聖不可侵なものでなくてはならないという伝統がしっかと根付いているのである。
バウムガルデン公爵の行った行為は、素性の分からない平民かもしれない者の血を帝室にいれるという、真っ向からルドルフ大帝の行いを否定するものであった。国務尚書であるリヒテンラーデ侯爵さえも庇うことができなかったのである。
バウムガルデン公爵は潔くその勅命に服した。なお、その際には自分だけを切り捨てる形にしてほしいとリヒテンラーデ侯爵にひそかに再三申し出ていた。貴族らしからぬ潔さにリヒテンラーデ侯爵も瞠目し、かつ懸命に慰留したが、最後にはそれを受け入れるしかなかったのだ。
バウムガルデン公爵はその際に条件として自分の荘園の人々の安全を保障してほしいと再三懇願した。それはいったんは聞きいれられたが、結果としてそれは裏切られる形で終了する。
結果、バウムガルデン公爵家の領地は皇帝陛下の直轄地に成り下がるか、ブラウンシュヴァイクやリッテンハイムの私有地と化し、あるいはそれに群がってきた貴族たちに分け与えられたので両家はますます発展した。
だが、バウムガルデン公爵は貴族意識の高い人ではあったが、領民の生活を考える人でもあったので、辺境の荘園であってもインフラ整備はきちんとしていた。それを頑迷な考え方の貴族に所有権が変わった途端、中世の農園そのものの生活に落とされたのだから、人々の混乱と反発は大変なものであった。
これを鎮圧するのにブラウンシュヴァイクやリッテンハイムも軍を繰り出すありさまで、各地で耳を疑いたくなる鎮圧行為が繰り返されていった。完全に平定できたのは約1年後のことになる。足の速いものは自由惑星同盟に亡命するか、フェザーンに逃げ込むかしたが、そのほかの者はとどまることを余儀なくされ、貴族たちの過酷な搾取に耐え忍ぶ日が続いたのである。
後書き
誰も彼もこんな結末は望んじゃいなかったでしょう。民衆弾圧なんて、後味悪い!!!あとお金もかかるわけで。
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