| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十六話 天網恢恢疎にして漏・・・れちゃったのです。

 
前書き
意外にあっさり足元をすくわれた皇女殿下。しかしこれも序盤だったからできた技なのです。大きくなって勢力が固まったら、もう足元ひっくり返すのは無理だったかも。 

 
帝国歴480年7月3日――。

女性士官学校
■ フィオーナ・フォン・エリーセル
 カロリーネ皇女殿下が帝室の血を引いていないというニュースが瞬く間に帝都を覆いつくしました。3か月たった今も、断続的ではあるけれど、女性士官学校でもそのニュースでもちきりです。なかなか結論が出てこないので、みんなやきもきしています。
 流石は教官とアレーナさん。最初はそう思ったけれど、話を聞くとブラウンシュヴァイク公爵とリッテンハイム侯爵のお二人が流したのだそう。しかもある程度の信ぴょう性の高い証拠もそろえて。さすがは大貴族。これからこういう人たちを相手にしなくてはならないのね。

■ ティアナ・フォン・ローメルド
 あ~あ、イルーナ教官たちがやってくれたと思ったのだけれど、蓋開けてみれば貴族だったわけね。ま、同士討ちしてくれるのはいいけれどさ。おかげで少しは時間稼ぎできるんじゃない?いったんラインハルトが戦場にでれば後は原作通りに出世して7年後には元帥だものね。それまでなんとしても『チート共』からラインハルトを守り切るのが私たちの最初の仕事だけれど、さて、どうなることやらね。


帝都オーディン――。
 ここ数か月、帝都は揺れに揺れていた。エル・ファシル星域を敵に再奪取されたことを契機に、次はカロリーネ皇女殿下のご出生の疑義と、帝都全体が大地震にあったかのような様相であった。もっともこれは政務に携わる一部の人間だけであり、大部分の平民は「俺には関係なくね?」という態度でいたわけだが。

 エル・ファシル星域に関しては帝国軍は1月上旬に奪還のため2個艦隊3万隻を差し向けたが、たいした戦果をあげられることなく敗退して撤退。これは同盟軍第八艦隊の奮戦と、援軍として駆けつけていた第三艦隊、第十艦隊の援護があったからである。

 帝国軍上層部はそれ以上の遠征軍を派遣することを中断した。というのは、艦隊を動かすだけでも多大な費用が掛かる上に、今現在指揮官として戦場に派遣できるだけの力量を持つ者がそれほどいないことが原因であった。

 いや、ビリデルリング元帥が動きかけたのだが、たかが同盟領一辺境惑星の奪還に宇宙艦隊司令長官自らが行くのであれば、それは帝国軍の鼎の軽重を問われることとなるという反対意見があって実現しなかった。
 帝国軍上層部はイゼルローン要塞に拠って専守防衛に徹するだけの作戦をとりつつ、国力回復を待つこととしたのである。
 そんな中のカロリーネ皇女殿下のご出生疑義の話題は、ノイエ・サンスーシのいたるところで話題に上がらないことはなかった。

 当のカロリーネ皇女殿下は、ノイエ・サンスーシの一画に軟禁状態に置かれ、日々取り調べを受けるほかは部屋から出ることもできない状態でいた。ブラウンシュヴァイク、リッテンハイムをはじめとする、リヒテンラーデ侯爵等の主要政務貴族に反発する貴族連合が台頭してきており、リヒテンラーデ侯爵やフリードリヒ4世もその声を無視することができなくなってきたのである。

 ファーレンハイト等の侍従武官、アレーナたち侍女も遠ざけられ、カロリーネ皇女殿下の顔を見ることも接触もできない日々が続いていた。それが3か月もである。



バウムガルデン邸 私室
■ アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン
 カロリーネ皇女殿下が幽閉された。ご出生のことで、カロリーネ皇女殿下が実は先々代皇帝のオトフリート4世の血を引いていない、つまりは皇族ではないというのだ。バカバカしいが、これも血統を大事にする帝国ならではの事なのだろう。
 宮内尚書である父上は、日々リヒテンラーデ侯爵のもとに通って協議されている。リヒテンラーデ侯爵と父上の枢軸体制にとって、カロリーネ皇女殿下のご出生の打撃は小さなものではない。ことに宮中を司る宮内尚書の責任問題にまで発展しかねない。
 どうするか?俺はカロリーネ皇女殿下との約束がある。「私を一人にしないで。」とおっしゃっていたカロリーネ皇女殿下に協力すると誓ったのだ。助けないわけにはいかない。だが、どうすればいい?
 一つ考えられるのは、カロリーネ皇女殿下を拉致して自分の領内に引きこもってしまうことだ。自分の領内の「荘園」は治外法権、皇帝陛下と言えどもおいそれとは立ち入りできない。しらを切り続ければいつかは下火になるかもしれない。
 だが、そんなことをすれば真っ先に疑いは父上、リヒテンラーデ侯爵にかかるかもしれない。そうなればこちらは終わりだ。

 皇女を誘拐するか?それとも――。

 そう考えていると、ドアがノックされた。顔を上げ、どうぞと答えると、シュタインメッツが入ってきた。そばに父上がいるのにはおどろいた。

「父上!」
「アルフレート、心配をかけたな」

 だが、そういう父上の顔はよくない。そばにいるシュタインメッツも浮かぬ顔つきだ。

「何か、ありましたか?」
「うむ。座れ。座って儂の話すことをしっかりと聞くのだ」

 ぞっとなった。何かとても悪い予感がする。それが何なのかと言われるとよくわからないが。

「実はな、ブラウンシュヴァイク、リッテンハイムからの圧力が強く、とてもカロリーネ皇女殿下を庇い立てすることはできなくなってきたのだ。元々カロリーネ皇女殿下を皇帝陛下のおそばに置こうと言い出したのは、私なのだ。そのことを知る両者が私の失脚を画策しておるのだ」

 やはりそうか。俺は唇をかんだ。

「さらに、カロリーネ皇女殿下について、ご出生のことでの反証を示すことのできる証拠は今のところ見つかっておらん。先々代オトフリート4世の崩御より11か月後にお生まれになったというのは紛れもない事実。我らは最後の手段としてDNA鑑定を試みたのだが。」

 父上はそこで口をお濁しになった。なぜなら皇族の血は神聖にして不可侵なものであるため、当然血液など保存していない。DNA鑑定を行うためには、先々代皇帝オトフリート4世のご遺体から直接採取しなくてはならない。そんなことできるはずもなかった。

「お前の考えている通りだ。皇帝陛下のご遺体からサンプルを採取するなど不敬中の不敬行為だ。できるはずもない」
「・・・・・・・・」
「そこでだ」

 父上はぐっと顔を近づけてきた。


「カロリーネ皇女殿下を誘拐する」


 そうきたか。父上も同じことを考えていた。顔を上げると、父上は険しい顔で俺を見ていた。

「自領にお匿すれば、いかようにでもシラを切りとおすことはできる。皇女殿下さえ消してしまえば、ブラウンシュヴァイク、リッテンハイムとてそれ以上の追及はできん。それにだ、今宮中を警備しているのは奴らだ。皇女殿下を誘拐されたとあってはそれは奴らの失態。痛み分けということで双方引き下がるほかはない」
「実は私もそれを考えていました」

 おお、と顔を見かわす父上とシュタインメッツ。

「父上は動けないでしょう。ですから、私がやります」

 父上はその瞬間がっしと両手をつかんだ。

「すまぬな。お前に、まだ13歳のお前にはつらい思いをさせることとなる」
「お気になさいますな、父上。私とて父上のお役に立ちたいのです」
「うむ・・・・」

 父上は何と言っていいかわからない様子でシュタインメッツを見た。

「アルフレート様、小官もおとも致します」
「いいのか?」
「アルフレート様だけを危険な目に合わせるわけにはまいりません。既に公爵閣下にはご了承いただいております」

 俺は思わずシュタインメッツを見た。なんということだ、シュタインメッツは原作においてはラインハルトの麾下の主要提督となるはずである。それが俺の下に就いたばかりに、こんなことになるとは・・・・。俺はシュタインメッツの生涯を台無しにしてしまったのか。今更ながら悔やんだ。だが、俺一人ではどうしようもできない。情けないし申し訳ないが、ここはシュタインメッツの力を借りるしかないのだ。

「ありがとう、シュタインメッツ」

 そうと決まれば、と父上は早速居間のテーブルに地図を広げた。

「我がバウムガルデン家が作り上げた秘密の通路だ。幸い皇女殿下が幽閉されている場所は割り出せた。その通路はその部屋の真下にも通じている。皇女殿下を御救いしてくれ。そして我が邸の地下にある秘密の脱出艇でゲアハルト星系に赴きそこに潜むがいい。あそこはイゼルローン要塞からも近い。まさかそのような場所に潜むとは向こうは思わないだろう」
「承知しました。ところで父上」

 俺は気になっていたことを聞いた。

「父上は、カロリーネ皇女殿下は帝室の血を引いているとお考えでしょうか?それとも・・・・」
「私にはわからぬ。だが、あの方を皇帝陛下のおそばに置かせたのは我々なのだ。まだ10歳の皇女殿下を放り出すわけにはいかんだろうて」

 父上も人の親なのだ。俺と同じくらいの皇女殿下を放置しておくわけにはいかないのだろう。俺はそう思った。よし、いいだろう。やってやろうじゃないか。だが、その前にもう一人声をかけておきたい人物がいる。



グリンメルスハウゼン子爵邸
■ アレーナ・フォン・ランディール
 私がグリンメルスハウゼン子爵の邸に着くと、そこにはケスラーがいた。ま~原作でもケスラーはグリンメルスハウゼン子爵閣下の部下だったわけだし。仲がいいことは結構だけれどね。聞けばケスラーは父親の代からグリンメルスハウゼン子爵閣下の部下だったそうで。なるほどね~。親子そろってお仕えしてたってわけね。
 ケスラーを交えてお茶を飲みながら今話題の皇女殿下のことについて話が弾む。弾むってのもヘンな表現だけれどね。

「皇女殿下はどうなりますことやら」
「そうじゃのう。ご出生のことで先々代皇帝オトフリート4世の御血を引いていないとなれば、よくて追放、悪ければ死を賜ることになるかもしれんのう」

 私はほっと吐息を吐いていた。そりゃあ私だって木石じゃないし後味悪いわよ。皇女殿下を罠にかけて追い落とすようなまねをしたきっかけは私が作ったんだからね。でも、これもラインハルトのためなんだから。後、私の超一流のバカンスのためのね。

「皇帝陛下はなぜ動かれぬのでしょうか?あれほどかわいがっておられた皇女殿下のことでありますが」

 そりゃケスラー、最終的には誰もが自分の身がかわいいのよ。まぁ、確かに皇帝陛下が一声上げれば、皇女殿下は助かるかもしれないけれど、でも、出自という根本的な問題だし、それに、歴代皇帝をあっさり暗殺しちゃうような貴族様たちなのよ。フリードリヒ4世が逆らえば、さっさと殺して、別の人をたてるかもしれないじゃない。はぁ・・・なんだか血なまぐさい話よね。

「無理じゃよ。皇帝陛下がお声をかけたところで貴族たちの蠢動は収まるまい。陛下が下手にかばい立てすれば、陛下自身のお命も危うくなる。残念なことじゃがの」
「さようですか・・・・」

 ケスラーはそれ以上言わないけれど、絶対皮肉なことだと思ってるに違いないわよね。頂点に君臨する皇帝陛下が貴族たちのご機嫌をうかがわなくちゃならないなんて。

「アレーナはあまり気分がよくないようじゃの」
「そりゃあ、悪くなりますよ。皇女殿下のお美しい顔がぐったりなったところを想像しちゃったんだから」
「ほっほっほ。それはお茶の最中にはちと毒じゃのう」

 グリンメルスハウゼン子爵閣下が笑う。この爺様も食えない人だ。今のが本心かどうかもわからないし。

「でもね、このまま黙ってリヒテンラーデ侯爵やバウムガルデン公爵が見ていますでしょうかね」
「といいますと?」
「ケスラー、バウムガルデン公爵はカロリーネ皇女殿下を皇帝陛下のおそばに置いたそうじゃないの。そしてリヒテンラーデ侯爵はそのバウムガルデン公爵と手を組んでいるわ。その二人にとって今度のことは大きな打撃よ。今でさえそうなのに皇女殿下の罪が確定してしまったら、にっちもさっちもいかなくなるじゃない。私だったら皇女殿下を誘拐してどっかの星域に匿っちゃうわ。罪が固まる前に決行すればどっちつかずになるもの。それにね、今宮殿を警備しているのはブラウンシュヴァイク、リッテンハイムの部下たちでしょ。そうすれば彼らにだって責任問題はあるわ。つまり・・・・」
「痛み分けを狙う、ということじゃな」

 流石はグリンメルスハウゼン子爵閣下、そういうことですよ。ケスラーはなるほどとうなずいている。その効果が波及する様を想像していたんでしょう。ええその通りよ。

「それにしてもアレーナ様はよくそのようなことを考えつかれますな。」
「多少性格がひねくれてるとこうなっちゃうのね」
「ほっほっほ。それは儂に対する当てこすりかな」
「う、そういうことじゃないんですが」
「まぁよいわ。して、ケスラー。今の話を聞いてどうするな?」

 ケスラーはちょっと考えていたが、すぐに顔を上げていった。

「何もなさらぬ方がよろしかろうと存じます」

 流石ケスラー!!そうよ。それが一番いいの。何故って下手に教えるとブラウンシュヴァイク、リッテンハイムに肩入れすることになるもの。そうすれば彼らの勢力を助長しちゃうだけ。今のままだと双方痛み分けでたいした勢力の進展もないわけだし。現状維持若しくはちょこっとバウムガルデン・リヒテンラーデ枢軸体制にひびが入るくらいだもの。それがいいの。

「そうじゃの。下手に動けば要らぬ火の粉をかぶることになるの。ここはひとつ様子を見るとしようか」

 そういうとグリンメルスハウゼン子爵はこっくりこっくりとうとうとしだした。そういう姿はまるで平和ボケした老人だけれどね。



帝国歴480年7月6日深夜―。
ノイエ・サンスーシ付近噴水公園
この日は再建帝オトフリート2世の即位した日である。先帝の浪費を阻止したというそれだけで名君とされたオトフリート2世だったが、その即位した日は帝国再生の記念日として祝日になっていた。このため、宮中では宴が催され、警備にもどこか弛緩が生じている。そのノイエ・サンスーシからほど近い公園の噴水付近に三人の人影が集まっていた。

「すまないなファーレンハイト少佐。こんなことに巻き込んでしまって」

 アルフレートが謝る。それをファーレンハイト少佐は制した。

「遠慮などなさいますな。小官は皇女殿下の侍従武官です。その小官が真っ先に救出をすべきところこうしてご助力を受けている。そのことこそ小官にとっては痛み入るばかりなのですから」
「そのような気遣いは無用だ。私も父上からの命を受けなければ、こうして動くことはなかったのだから」
「行きましょう。ここでもぐずぐずしている間はありません」

 シュタインメッツがせかす。それを聞いた二人はうなずく。噴水の際に佇むルドルフ大帝の銅像に手をかけ、アルフレートが秘密のボタンを押すとそれはゆっくりと動き、地下への口が開いた。DND認証装置より、これはバウムガルデン家のものでしかあけられないようになっている。

「あぁ、行こう」

* * * * *
 ノイエ・サンスーシのそこかしこでは深夜にもかかわらず、まだ盛大な明かりがともっていたが、ここカロリーネ皇女殿下が幽閉されている一画は火の消えたような暗さだった。粗末なテーブルとベッドはかつて皇女殿下として暮らしていた居室に比べれば雲泥の差である。

 それでも食事だけはきちんとしたものが出てくるが、カロリーネ皇女殿下はそれにあまり手を付けられなかった。日に日にやせ細っていく皇女殿下に侍女たちも(カロリーネ皇女殿下にお仕えしていた侍女とは別の者たちである。)顔を見合わせるばかりだったが、声もかけることはできず、ただ痛ましそうな目を向けるだけだった。

 カロリーネ皇女殿下はテーブルに頭を付して横顔を月明かりに向けていた。今夜は満月、神々しいばかりの美しい月明かりが真っ暗な部屋に降り注いでいる。

「いっそ、もう、殺してほしい・・・・。こんなの、もう嫌・・・・」

 泣き疲れた声が空しく響く。もう何度そう思ったことだろう。かつてラインハルトを消し去ろうと思ったことがもう遠い昔のようだ。今の自分はラインハルトを始末するどころか自分の身さえ危ういのだから・・・。

 ふいにカロリーネ皇女殿下の口から歌が漏れた。何故かはわからないが、不思議な歌だった。前世で聞いていたどの歌手の歌とも違うもので、いつのまにか歌えるようになっていた。悲しいとき、不安なとき、この歌を口ずさんでしまう。


 どれくらい時間がたっただろう。不意にカロリーネ皇女殿下はかすかなものをうつ音に耳を澄ました。

「誰?」

 顔を上げると、誰も部屋にはいない。だが、使い古されて凍えそうな冷たさを持つ大理石でできた暖炉から虚ろな音がしている。

「・・・・・・?」

 カロリーネ皇女殿下はそっと立ち上がると、かすかな衣擦れの音をさせながら歩み寄った。暖炉の敷石にかがみこむと、彼女は思わず声を上げそうになった。

 暖炉から首が生えている!!!

 と、思ったがすぐさまそれは人間が身を乗り出していることに気が付いた。そしてそれはよく知っている顔だとも。

「遅くなりました。ここの暖炉が使われていたら、私の顔は黒焦げでした」

 そう微笑んだのは、アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデンだった。

「・・・・・・!!」

 カロリーネ皇女殿下の顔が驚愕で凍り付き、次の瞬間歪んだ。押し殺した嗚咽が彼女の喉から洩れた。



 カロリーネ皇女殿下行方不明!!!という震撼すべきニュースが流れたのは翌日早朝だった。ただしそれは帝都のごく限られた宮廷の一部の者だけであった。宮中の警備部隊から連絡を受けた時、ブラウンシュヴァイク公爵もリッテンハイム侯爵も大酔して寝ていたが、すぐに跳ね起きて着の身着のままでノイエ・サンスーシに到着した。

「何をしていたのだ!!」

 部下たちを怒鳴りつけながら、二人の貴族がカロリーネ皇女殿下の監禁部屋に押し入ると、そこはもぬけの殻。誰もいなかった。

「状況はどうなっておるか!?」
「は、はっ!!熱感知装置を確認したところ、そこの暖炉から何者かが侵入し、こ、皇女殿下を――!!」
「ええい!!して、その先はどうなっておる!?」
「は、はっ!!その先は地下の迷宮につながっておりまして・・・・。だいぶ時間がたった後でもあり、どこから賊が入ったのかまでは・・・・」
「バカ者!!!」

 ブラウンシュヴァイクもリッテンハイムも苦虫を噛み潰したような顔をしている。特にリッテンハイムは怒り心頭だった。なぜなら昨夜の警備担当はリッテンハイムの部下たちが行っていたからだ。

「リッテンハイム侯、これはどういうことかな!?あれほどカロリーネ皇女殿下を見張っているように口を酸っぱくして申したではないか!」
「いや、面目ない。・・・ええい、何をしておる!!すぐにさがせ!!探し出せッ!!!」

 リッテンハイムが当たり散らすように怒声を張り上げると、直ちに部下たちはクモの子を散らすように散開していった。
 それからの騒ぎはすさまじいものだった。ノイエ・サンスーシはまるで家探しを受けているかのように震動していた。各部屋、会議室はおろか、貴婦人型の部屋にまで兵隊が押し入り片っ端から捜索していく。ズシンズシンと家具がひっくり返され、いたるところのドアは開けられ、貴婦人の衣裳部屋さえ乱入され、悲鳴が飛び交った。

 当然ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムも自ら血眼になってカロリーネ皇女殿下を探していた。あまりにも騒がしいのでついにリヒテンラーデ侯爵が二人を探し当ててやってきた。

「何をしておられる?皇帝陛下のおそばをお騒がせ奉りますか?!」
「何をしておるかだと?決まっておろう!!カロリーネ皇女殿下が行方不明になられたのだ!!それを捜索しておるのだ!!邪魔立てするなッ!!」
「なんと!?・・・確か昨夜の警備責任者はリッテンハイム侯爵、卿でしたな」
「む、む」

 リッテンハイム侯爵としては顔をしかめるしかない。

「今回の事、卿の差し金ではないのか?」

 ブラウンシュヴァイク公爵の悪意ある問いかけにリヒテンラーデ侯爵は負けじと顔をしかめる。

「何をおっしゃられるか!恐れ多くも陛下のおそばを騒がせ奉るなど、臣下のなさることではありませんぞ。臣とてそれは同じ。カロリーネ皇女殿下につきましては、正式なさばきがあるまでは臣とて近づくわけにはまいりませぬ。それをご存じない両方ではありますまいに」

 リヒテンラーデ侯爵の性格はともかく、帝室に忠義を尽くす姿勢は無私と言ってよく、ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムもそのことはよく理解していた。

「わかった。今は争っていても仕方あるまい。卿もどうか捜索に力を貸してほしい」

 ブラウンシュヴァイク公爵が顔をしかめたままそう言った。

「むろんのことじゃ。ただちに近衛兵たちにも指示を下すようもうし付けよう」

 三人はあわただしく分かれた。

 
 皇女誘拐のニュースは、ご出生のニュースとは打って変わって、極秘中の極秘になったが、手から水が漏れるように噂はあっという間に帝都に広まっていった。皮肉にもそれはSNSなどを通じて一気に拡散し、ブラウンシュヴァイクやリッテンハイムらがいくら躍起になったところでどうしようもなくなったのである。
 皇女がどこに消えたのか、生きているのか死んでいるのか、それは一部の者を除き、誰にもわからない事だった。
 
 

 
後書き
 ちなみに家探しの際に壊れた家具や引き裂かれたドレス代の請求は、すべて国庫に対して行われました。なんという悪辣ぶり!!! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧