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空気を読まない拳士達が幻想入り

作者:sibugaki
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第4話 激突、北斗対南斗! 生死を賭けた男達の弾幕ごっこ

 ケンシロウの額から一筋の冷や汗が流れ落ちた。彼は知っていたのだ。このお品書きの表紙に掘られた赤と黒の二色に彩られた十字架を象ったマークを。

「んでさぁ、このマークって一体なんなのぜ?」
「これは【血の十字架(ブラッディクロス)】と言い、俺の元居た世界でもこれを掲げる拳士が居た。奴の強さはこの俺と互角か或は―――」

 戦慄がケンシロウの脳裏を過る。平和な幻想郷に戦乱の嵐が吹き荒れる予感がしていたのだ。
 まぁ、ぶっちゃければ戦乱を巻き起こすのはどちらかと言うと寧ろケンシロウの方だと思われるのだが。

「え? ケンシロウさんと互角って、その北斗神拳に匹敵する凄い技がまだあるんですか?」
「その通りだ」
「へぇ、そうなんですか……へ!!」

 思わず相槌を打ってしまった文だったが、声がケンシロウの声ではなかった事に気づき、その声のした方を向いた。
 そこに居たのはまぁこれまたケンシロウやトキと同じどう見ても二頭身な背丈の男であった。
 金髪ロングのヘアーに紫と金の色で塗り固められたスーツに高級そうなマントを羽織るその顔は正しく自信に満ち溢れたといわんばかりの佇まいとなっていた。

「やはり貴様だったか……南斗聖拳のシン!」
「ケンシロウ。まさか貴様もこの幻想郷に流れ着いていたとはな。今もこうして生きている所を見る限り少しは腕を上げたようだな」

 互いに昔なじみっぽい語りをしだす。どうやら二人は顔見知りのようでもある。それもかなり因縁深い感じの―――

「シン、貴様も俺やトキと同じようにこの幻想郷に流れ着いてきたのか?」
「ふっ、それは違うな。俺はお前達の様に偶然流れ着いた訳ではない。己の意思でこの幻想郷にやってきたのだ」
「どう言う事だ?」

 ケンシロウの視線が強張る。だが、そんなケンシロウの視線など気にする事もなくシンは話を続けた。

「俺の目的は全世界をこの手に握る事。それは此処幻想郷も例外ではない。其処でだ、この世界を管理していると噂されている結界の主達を手始めにこの俺の力で懐柔させたのだ」
「シン……貴様まさか幻想郷の住人を傷つけたと言うのか!? 己の卑しき野望の為に、罪なき人々を苦しめるとは……」
「何とでも言え。所詮この世は力だ。力ある者が正義なのだ。全く良い時代になったものだ」
「へぇ、あんた紫達を倒したんだ? 見かけによらず結構やるもんなのねぇ」

 会話の間に入ってくるかの様に霊夢が言葉を投げかける。しかもちゃっかり注文を既に取っており呑気に茶まで啜っている厚かましさである。

「なぁに、ほんの少し奴らに俺の権力を見せたら素直になっただけさ」
「権力?」
「ふっ、大した事じゃない。ただ、奴らにお揚げ(最高級)と刺身(最高級)をそれぞれ1年分進呈したら快く俺を幻想郷に招き入れてくれただけの事だ」
「それって……要するに『買収』じゃねぇか。結界の大妖怪が買収されるって、あいつらそれで良いのかよ!?」

 身も蓋もない魔理沙の発言でもあったが、その話を聞いた途端さっきまで余裕の表情で茶を啜っていた霊夢の表情に変化が起こった。

「聞き捨てならないわね。あんたの権力ってのがどれほどの物なのか知らないけどそんな程度で自由に幻想郷を出歩けると思ってるの?」
「おぉっ! 何時になく霊夢が怒ってる。これって結構レアなケースなんじゃね?」
「正しくレアですよ! あのグータラ巫女と呼ばれている霊夢さんがここまで怒りを露わにするなんて。明日はきっと霙か雹が降って来ますね」

 隣で魔理沙と文が好き勝手言ってるが今の霊夢はそんな事など気になりはしない。ただただ目の前に居るシンを睨みつけるだけであった。

「ほう、何が不満なんだ? 一応結界の主からは許可を取っているが、まさかお前にも取らなければならなかったかな?」
「当然よ! 普通は真っ先に私の所に来るのが筋ってもんでしょ! 何でよりにもよって紫達の所なのよ! しかもそんな良い物まであげちゃって! 最初に私の所にくればそのお揚げとお刺身たらふく食べられたのにぃぃぃ!」
「あ、やっぱりそっちか……まぁ、そうだよな。お前だったら寧ろそっちに怒るよな」

 少しでも感心した自分がバカだったと心底そう思う魔理沙ではあった。

「成程、この幻想郷を自由に出歩きする為にはお前からも許可を取らねばならないと言う事か。だが、安心しろ。お前の事に関しては既に調べがついている。少ないがこれを進呈しよう」

 そう言ってシンが指を鳴らすと、何時の間に飼いならしたのか複数のモヒカン達の手により団積みで積み重ねられた米俵が大量にその姿を現した。

「なぁに、その辺に置いてあった安物の米(最高級コシヒカリ)をほんの30俵分だ。大した代物ではないのが申し訳ないがな」
「お………お米………さ……最高級……」
「おい、霊夢。よだれよだれ」

 目の前に団積みされた最高級コシヒカリを前に霊夢の心は完膚なきまでに鷲掴みにされてしまっていた。だが、シンの懐柔はこの程度では終わらない。

「さらに、聞けばお前は神社の巫女をしているようだな。ならば賽銭をするのは常識であろう。だが、生憎手持ちが少ないのでな。小銭だけとなってしまうが悪く思わないで貰いたい」

 そう言ってシンが霊夢の前にこれまたかなり大き目の革袋を置く、恐る恐る中を覗いてみると、その中にはぎっちりと小銭が詰め込まれていた。恐らくこれだけあれば霊夢の生活であれば半年は遊んで暮らせる程の額である。

「ようこそ幻想郷へ! 好きなだけ滞在して良いわよ。なんだったらいっその事永住しちゃっても私は一向にかまわないからね」
「心折れるの早すぎだろお前! それでも博麗の巫女かよ!?」

 博麗の巫女がすっかりシンに飼い鳴らされてしまった決定的瞬間であった。

「見たかケンシロウ。この俺の力の前では幻想郷の住人など足元にも及ばん。これが俺とお前の力の差と言うものだ」
「シン、貴様……」
「ケンシロウ。この俺にあってお前にない物。それは【欲望】【執念】そして【金】と【権力】だ」
「後半二つ嫌に生々しいですね」
「ってか、それって力って呼んで良い物なのか?」

 本人は誇らしげに語ってはいるが実際それは力としてはどうなのか甚だ疑問だったりする。

「ケンシロウ。この俺の力を持ってすれば貴様をこの幻想郷から追い出し元の世界に叩き返す事など造作もない事よ」
「な、何だと!?」
(あ、それはちょっとお願いしたいんだぜ)

 さりげなくそう願う魔理沙だった。

「だが、金や権力で貴様を葬っても面白くはない。それに此処は幻想郷。ならば、幻想郷のルールに則った方法で貴様を血祭に挙げてやる」
「幻想郷のルールに則った方法だと!?」
「聞けばこの幻想郷では古来より【弾幕ごっこ】と言う決闘方法があるそうではないか。何でも妖怪や神を相手に人間が戦えるように構築された戦いだとか……まぁ、俺達にとってみれば必要のないルールではあるがな。其処でだ!」

 ビシッとケンシロウを指さしてシンは豪語する。その言葉には自信と余裕、更には熱い闘志が宿っていた。

「ケンシロウ。この俺と弾幕ごっこで勝負しろ!」
「はぁぁぁ!?」

 突然の発言に魔理沙が声をあげてしまった。と、言うのも外から来た人間が弾幕なんて撃てる筈もないし、弾幕を撃てないのに弾幕ごっこで決着をつけるとかがそもそもおかしいと言える内容なのであった。

「おいおい、お前外から来た奴だろ? なのに弾幕なんて撃てるのかよ?」
「ふっ、愚問だな。この俺も南斗聖拳を極めし者。弾幕の一つや二つ簡単に出せる」
「何だろう。こいつの言ってる弾幕と私の知ってる弾幕が、明らかに食い違ってるような気がしてならないぜ」

 心配そうになる魔理沙だった。そして、多分その心配は現実の物になるかもしれない。とだけ言っておく。

「どうだケンシロウ。この勝負受けるか? それとも貴様では弾幕ごっこでは俺に勝てんかなぁ?」
「良いだろう。貴様のその挑戦受けて立つ。北斗神拳は如何なる挑戦も受ける」
「いや、だからさぁ! ケンも外の世界から来た奴だろ? 弾幕撃てるのか?」
「例え99%勝ち目がなくとも戦うのが北斗神拳伝承者の宿命。ならば、この弾幕ごっこから逃げる訳にはいかん!」
(駄目だこりゃ。話全く聞いてないし言ってる事もさっぱり分からない。こりゃもう私じゃ止められねぇよ)

 最早諦めたのか早々に匙を投げだす魔理沙。お前は頑張ったよ。誇っても良い。ただ、諭す相手が悪かっただけなんだ。だから気にする事はないよ霧雨魔理沙。

「此処では狭い。外で弾幕ごっこと行くか」
「良いだろう」
「へぇ、外の世界の人たち同士の弾幕ごっこですか。これは特ダネですねぇ」
「冗談じゃねぇよ! あいつら今度は人里を更地にする気か? 早く止めねぇととんでもない事になるかも知れないんだぜ」

 すっかりやる気を出してしまったシンとケンシロウ。それを面白そうなと言った表情で傍観を決め込もうとする文。そんな拳士達の事などお構いなく黙々と料理を注文して食べまくる霊夢。こいつらは宛にならない。何とか自分で止めねば。
 何時になく使命感に駆られ席を立つ魔理沙ではあった。

「魔理沙、この勝負に手出しをしてはならん」
「はぁ? 何でだよトキ?」

 そんな珍しく使命感に駆られた魔理沙を同じテーブルに座っていたトキが止める。って言うか、ようやくセリフが出たねトキ。

「これはケンシロウとシンの勝負。私達が入り込む余地はないのだ。それに、北斗神拳の戦いに二対一の戦いはない。例えそれで勝ったとしてもそれは勝利にはならないのだ」
「いや、私が心配しているのは別にあいつの勝ち負け云々じゃなくて、此処がぶっ壊されねぇかって事だよ」
「確かに、ケンシロウの弱点はその優しさにある。生死を分けた戦いの場であったとしてもかつての友を前にして躊躇する事もあるやも知れん」
「だぁかぁらぁ、私が心配なのはそう言うのじゃなくてさぁ―――」

 話が全く進まなかった。必至に止めようとする魔理沙だったがそれをトキが良しとしない。更に言えば言動が一々訳が分からないと言うか支離滅裂と言うか、とにかく話にならなかった。

「もう良いよ。こうなったらあんま人里で撃ちたくはなかったけど私の弾幕であいつら黙らせて……」

 決意を胸に店を出て二人を止めようと外へと飛び出した魔理沙ではあったが、外の光景を目の当たりにした瞬間、その熱意はすっかり何処かへと消え去ってしまった。
 それは、魔理沙の目の前で弾幕ごっことやらをおっぱじめているケンシロウとシンの両者の姿を目撃したからだ。
 だが、本人達は弾幕ごっこと言ってはいるが、実際にやってる事と言えば両者共物凄い速度で拳を繰り出しているだけの光景、要するに元の世界でやってた事と大して変わらない光景だったりした。

「あっれ~~。おかしいなぁ、弾幕ごっこってこんなにむさ苦しい感じだったかな~~~……って、あれどう見ても全然弾幕ごっこじゃねぇじゃねぇか!!」

 魔理沙渾身のツッコミが炸裂した。しかしそんな魔理沙を他所にケンシロウとシンの弾幕ごっこの熱は更にヒートアップしていく。
 仕舞にはその辺歩いていた人達が口々に「見ろよ、男同士の弾幕ごっこだぞ!」とか「男が弾幕ごっことか珍しいなぁ」とか呟いていた。
 誰もかれもがあれを弾幕ごっこと誤解してしまっているようだ。

「絶対あんなの弾幕ごっこじゃない! あんなむさ苦しい弾幕ごっこなんて私は絶対にやりたくないんだぜぇぇ!」

 頭を抑えて天を仰ぎながら絶叫する魔理沙。其処までショックだったのだろう。目の前で起こっていた弾幕ごっこがあぁも男臭くむさ苦しい光景になってしまった事に。

「しばらく見ない間に腕を上げたなケンシロウ! 昔のお前であれば此処までこの俺と張り合えはしなかっただろうに!」
「執念、この俺を変えたのは貴様が教えた執念だ!」
「ふっ、執念か……だが、たかが執念を身に着けた程度でこの俺に勝てる道理はあるまい!」
「それをこの弾幕ごっこで証明してみせる!」

 二人は今自分達が行っている事が弾幕ごっこなのだと迷う事なくそう思っているようだ。が、これを読んでいる読者諸君は既にご理解している事であろう。
 これ、絶対弾幕ごっこじゃない……と。

「おい、お前ら! いい加減にしろ! それの何処が弾幕ごっこなんだよ!?」
「何を言っているんだ魔理沙よ。あれこそ純然たる弾幕ごっことやらではないのか?」

 ごくごく自然に会話に絡んできたトキ。彼から見て二人が行っているのは純然たる弾幕ごっこなのであろうが明らかに違う。どう見たってあんな殺伐とした弾幕ごっこなどある筈がないのだ。

「全然違うだろ! どう見たって只の殴り合いじゃねぇか! あれの何処が弾幕ごっこなんだよ!」
「違うと言うのか? 聞いた話によれば弾幕ごっことは無数の拳と拳で勝敗を決し、敗者は勝者に命を差し出すと言うルールだと聞いていたのだが―――」
「誰だあああぁぁぁぁぁ! こいつらに嘘を教えた奴誰だぁぁぁぁぁ!」

 一体誰がこんなはた迷惑な事を仕組んだと言うのだろうか。よりにもよって一番面倒な奴らにとんでもない嘘を吹き込んだ挙句、それをこの拳士達は全て鵜呑みにしてしまって更にそれを実践してしまっているのだから。

「あややや、もしかして私がこの間書いた新聞のネタをそのまま信じ込んじゃった感じでしょうかねぇ」
「おい、パパラッチ天狗……そのネタが書かれてる奴……ちょっと見せてみろ」
「どうぞ」

 全く悪びれる様子もなく懐から新聞紙を取り出す。それを主室に広げると其処にはでかでかとこう書かれていた。

【激震!弾幕ごっこのルール改定!!】

 と、どでかい文字でそう書かれており、その下には明らかに嘘っぱちとも言えるようなとんでもないルールが書き込まれていた。具体的に言うと―――

1.弾幕ごっこは拳で行うべし
2.弾幕ごっこは1対1で行うべし
3.弾幕ごっこは命懸けで行うべし
4.敗者は勝者に命を差し出すべし

 とまぁ、こんな感じであった。

「おい、これは一体どういう事だぜ?」
「いやぁ、最近新聞の売れ行きが下回ってたもんでして……ちょっとねつ造記事を書いてみようかなぁ……何て思っちゃった次第なんですよぉ」
「ちょっとじゃねぇだろうが! 明らかに嘘っぱちじゃねぇか! しかもどうすんだよ! そのせいであんな面倒な事になっちまってるんだからなぁ!」

 諸悪の根源は皆のアイドル(?)ことパパラッチ天狗……基射命丸文のねつ造記事であった。どうやら新聞の売れ行き回復の為に書いた記事だったようだが、生憎幻想郷の住人では相手にされる筈もなくがっくりな結果だったようだ。だが、そのねつ造記事がよりにもよって外から来たケンシロウ達の手に渡ってしまいそれを信じ込んでしまったのだから性質が悪い。
 
「ちょっと、食事中なんだから弾幕ごっこするんだったら人里の外でやってくんない?」
「おめぇは一体何杯そば食ってんだ! いい加減にこれが異変だって気付けよ!」
「異変? 何処がよ」
「今目の前で起こってる事全てが異変だろうが!? 早くしないととんでもない事になるんだぜぇ!?」

 最早顔面蒼白となった魔理沙が霊夢に詰め寄る。が、そんな魔理沙に対し霊夢はと言えば涼しい顔で何杯目になるか分からないそばを啜り続けていた。

「別に異変でもなんでもないんじゃない? ただの男同士の喧嘩じゃないの。それだけだったら別に問題ないんじゃない?」
「人里に居る有象無象の男だったら私だって別にほっておくさ。だけど今目の前で喧嘩してる奴らは明らかに人外だからな! 空飛ぶ奴に走って追いついたり神社を指先一つでぶっ壊したりする人外の集まりなんだからな! こんな奴らが本気で喧嘩なんてしたら人里どころか幻想郷そのものが跡形もなくなっちまうよぉぉ!」

 言い過ぎかも知れないだろうが半分事実も混ざってはいる。現にケンシロウは過去に空を飛んで逃亡を図った魔理沙に対して走って追いついた事もあるし、霊夢の住んでいた博麗神社を誤って北斗神拳を放ってしまい爆発四散させてしまっている。此処までやらかしたらそれは人外と言われても仕方ないかも知れない。
 まぁ、他にも人外と呼べる輩は此処にはいるので案外珍しくはないかも知れないのだが。

「そうだ、トキ! 頼む、あの二人を止めてくれ」
「何故だ? 北斗と南斗の戦いに横やりを入れる行為は禁じられている。今我々に出来る事はこの戦いの行く末を見守る事だけしかない」
「その結果幻想郷が滅びちまうかも知れねぇんだよ! そうなったら此処に住んでる奴ら全員が死んじまうんだよぉ!」
「むぅぅぅ……本来ならば戦いの横やりを入れたくはなかったが、止むを得んか。こうなれば私が二人の戦いを止めるしかあるまい」

 必死の説得に応じてくれたらしく、北斗の次兄トキが動いた。

「助かったぜ。あんたがあれを止めてくれたら幻想郷は安心だ」
「任せよ。私の拳は柔の拳。激流に抗うのではなく激流に身を任せdゴフッ!!」

 セリフを言い終わる前に盛大に吐血し、その場に倒れ伏してしまった。北斗の次兄トキ。戦わずして死す―――

「何で肝心な時に吐血してんだこの半病人はよぉぉぉ!」

 盛大に絶叫する魔理沙。最早打つ手がない。霊夢は異変ではないと言って動こうとしないし、北斗の次兄は吐血した為に戦闘不能状態。パパラッチ天狗は頼るだけ無駄。最早このバイオレンスな空間を打破できるのは魔理沙しかいない。

(やるしかねぇ……私の弾幕でこの破壊活動を止める他ない。私が幻想郷を救うしかないんだぜ!)

 下唇を噛みしめ、魔理沙は歩み寄る。実際ケンシロウ達と戦った事はないが勝算はかなり低めに感じられた。そもそもこいつらに弾幕が通用するかどうかすら怪しい。
 だが、詮索は後回しだ。今はこの二人を止める事が最重要と言えた。

「フハハハハ、そろそろ決着をつけるぞ、ケンシロウ!」
「望むところだ、シン!」
「いい加減にしやがれお前ら! 【恋附!マスタースパーク】」

 魔理沙が技名を叫び、懐から取り出すは携帯にとても便利なミニマムサイズの八卦炉。其処から七色の極太ビームが盛大に放たれる。まるでレーザービームでも打っているかのような音と共にその極太ビームはさっきまで激闘を繰り広げていたケンシロウとシンをすっぽりと包みこんでしまった。
 その際に二人の断末魔が聞こえた気がしたが、この際そこには目を瞑っておくとしよう。

「効いた……な、なぁんだ! 初めからこうすりゃ良かったんじゃねぇか。弾幕が効くんならこれからは安心だな。うんうん、やっぱり弾幕はパワーだぜ」
「成程、それが弾幕と言う物か」
「あぁ、そうだぜ……へ?」

 ふと、魔理沙は先ほどの声に違和感を感じた。そんな筈がない。この声の主が居る筈がない。恐る恐る声のした方へと首を向ける。
 其処には信じ難い光景が映し出されていた。
 
「恐るべき拳法だ。魔理沙も相当な使い手のようだな」
「ふっ、この俺に手傷を負わせるとは、女の身でありながら油断ならぬな」

 其処には、魔理沙のマスタースパークを受けたにも関わらず大したダメージを受けていないケンシロウとシンの両名が魔理沙を睨んで立っていた。
 どうやら折角決着をつけられる寸前だった場面に水を差されたのが相当腹立たしく思っているようにも思える。

「な、何でお前ら……私のマスパを食らってその程度のダメージで済んでるんだぜ?」
「別に大した事はない。俺達は生まれたころから暗殺者として生きて来たのだ。この程度の事で倒れる程柔な体ではない」
「仮にも幻想郷を支配しようと勇んで来た身だ。この程度の障害など覚悟の上の事。寧ろこの俺の魂に火が付いた程だ」

 止めるどころか逆効果であった。一体何のために弾幕を撃ったのか分からなくなってきた。
 そもそも外の世界の人間が弾幕を直撃してほぼ無傷だなんてあり得るのだろうか?
 
「って言うか魔理沙さん……良かったんですか?」
「ま、まぁ……良いんじゃねぇか。私のマスパのお陰で幻想郷の危機は去ったんだしさ」
「それはそうなんでしょうが……あれの後始末、どうするんですか?」

 恐る恐る文が指さす方。それはケンシロウとシンの後方に位置する建物……だった残骸の数々であった。
 どうやら魔理沙が放ったマスタースパークの射線上にあった建物が軒並み巻き添えを食らい、その結果崩壊してしまったようだ。
 まともに残っている建物は射線上には一件もない。

「えっと……そのぉ……」
「あんたが放った弾幕なんだからあんたが責任を取りなさいよね。私は関係ないけど」
「あ、私これから記事の作成がありますので失礼しますね」
「こ、この薄情者! こうなったら……おい、お前ら! これの原因はお前らなんだからお前らも手伝って―――」

 このまま一人で後始末をするのは至極大変。しかし、霊夢も文もすたこらさっさとその場を後にしだしていた。となれば後は外の世界からやってきた拳士達に頼むしかない。

「……あれ? あいつら……何処行ったんだぜ?」

 既に拳士達の姿も忽然と消えてしまっていた。この場に残っているのは最早魔理沙一人だけなのであった。
 
「ち……畜生! 幻想郷は救われても、私はちっとも救われてないんだぜぇぇぇぇ!」

 天を仰ぎ、嘆きの絶叫を叫ぶ魔理沙であった。因みに、この後弾幕ごっこの後始末はしっかりこなしたと言うのでご安心を。




     ***




【文々。新聞 第1号】

『複数の亜人、人里にて出没! 被害甚大との事』

 本日未明、幻想郷を騒がせている外から来たと噂されている例の亜人達がついに人里に出没すると言う事態が発生した。
 筆者の調査によるとこの亜人はどうやら複数存在しており、その亜人同士は互いに争い憎み合っている関係であったらしく、そのせいで人里全体に甚大な被害が出たとの報告が出ている。
 幸い、死者並びに怪我人の報告はなく、家屋の倒壊だけの被害で済んだのは奇跡と言えるであろう。
 今後も当新聞は幻想郷を騒がせる亜人達の追跡を続行。更なる真相の究明に尽力する所存である。


書記 射命丸 文




     第4話 終 
 

 
後書き
次回予告

幻想郷を手中に収めんと動き出したシン。だが、幻想郷を脅かす存在は奴だけではなかった。ケンシロウと同じ北斗神拳を使う悪しき男が、幻想郷に牙を剥く。

次回、空気を読まない拳士達が幻想入り

第5話「復讐に燃える男、俺の名を言ってみろ!」

 お前はもう、死んでいる 
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