戦国異伝
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最終話 天下の宴その七
「ではこれより」
「これより?」
「一体何が」
「外に出て」
そしてというのだ。
「天主を見ようぞ」
「この安土城の天主をですか」
「これより」
「左様、では帝も朝廷の方々も」
信長は上座におられる帝、そして皇室の方々や公卿にも声をかけた。
「是非」
「わかりました」
帝が応えられてだ、そしてだった。
信長自身が帝を案内してだった、その後に他の者が続き。
宴の場を出た、もう夜になっており天主は見えない筈だった。だが。
その天主は無数の光によって闇夜の中に映し出されていた、皆その天主を見上げて口々に驚きの言葉をあげた。
「何と、天主が」
「夜の中に浮かび上がっておる」
「これは一体どういうことじゃ」
「そういうことじゃ」
「帰蝶の言葉ではな」
信長は己のすぐ傍に控える帰蝶を見つつ皆に話した。
「天主の至るところに提灯を置いたのじゃ」
「それで、ですか」
「闇夜の中に天主が浮かび上がった」
「左様ですか」
「そうじゃ、これは実によい」
信長も満足した顔で言う。
「安土の天主が闇夜の中でもよく見えるわ」
「これは素晴らしきもの」
帝もその天主を見られて言われた。
「この様な美しきものを見たのははじめてです。これこそがです」
「何と思われますか」
「泰平が訪れた証、安土とは平安楽土と聞いております」
その中の安と土だ、信長も意識している。
「それが訪れたことの何よりも証です」
「そう言って頂けますか」
「はい、実によきもの」
帝はさらに言われた。
「素晴らしいものを見せて頂きました」
「さらにです」
「まだあるのですか」
「天主に登られればです」
その提灯達に映し出された天主にだ。
「さらによいものが見られるとか」
「それは一体」
「登ればわかるとのことです」
その天主にというのだ。
「ですから」
「そうですか、それでは」
「はい、これより登られますか」
「さすれば」
帝は信長の言葉に頷かれた、そして今度はだった。
その天主に登られた、無論信長と帰蝶達も一緒だ。
そしてその天主の最上階から下を見下ろした、すると。
今度は安土の城、町の全てが無数の光で輝いていた。信長はここでも帝に話した。
「城も町もです」
「その全てが」
「はい、提灯で照らされてです」
そしてというのだ。
「映し出されています」
「そうなのですね、闇は光に払われ」
魔界衆が信長にというのだ。
「これより新しき世がはじまる」
「これからそうした世になります」
「泰平と繁栄の」
「それがしが必ずそうします」
「これからの天下を頼みました」
帝は信長に顔を向けて言われた。
「この天主、そして城や町の様に」
「そうします」
信長は強い声で約束した。
「帝はその世を御覧になって下さい」
「それでは」
「戦の世が終わり」
信長もその闇夜の中に映し出される町を見て言う。
「これより泰平の世となる。ようやくな」
こう言うのだった、彼と共にここまで戦ってきた者達も天主に登りそのうえで城も町も見ていた。そしてこれからの世のことを確信していた。
天下は泰平になりそれから二十年程経ってだった、信長は美麗の島に兵を進め琉球と交易をはじめ耶蘇教を幕府の下に置いた。そしてスペインやポルトガルといった南蛮の国々と時には戦い時には手を結びつつ信長の次の代の信忠の頃には呂宋の島等を手に入れてだった。安土を中心とした幕府はさらに繁栄し。
明から清になった異朝ともやはり時には揉め時には手を結びつつ力をつけていった。そのまま南洋に力を伸ばしていった、そうして。
一八六七年の大政奉還による明治政府の議会制の国体が出来るまで本朝の中では戦を起こさせず南蛮や清、新たに来た亜米利加とも戦と交易を続けながらも国を守り抜いた。その全ては信長にはじまることは本朝の歴史書において書かれている通りである。
最終話 完
戦国異伝 完
2015・12・9
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