英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第191話
10月30日――――
~1年Ⅶ組~
リィン達はサラ教官をずっと待っていたが、HRの時間になってもサラ教官は未だ姿を現わさなかった。
「だあああっ……!HRはとっくに始まってるのにサラ教官はどうして来ないんだ!?」
痺れを切らしたマキアスは立ち上がって叫び、マキアスの言葉をきっかけにリィン達は集まって相談し始めた。
「……無理もないさ。教官達も今後の対策を検討してるんだと思うし……」
「はい……今朝の会議も長引いているみたいですね。」
リィンの意見にエマは不安そうな表情で頷いた。
「しかし信じられないな……あの巨大なガレリア要塞が”消滅”してしまったとは……」
「正確には”一部を除いて”らしいけど……ナイトハルト教官が助かったのは奇跡に近かったみたいだね……」
「ですが要塞にいたほとんどの人達は……」
「みんな、消滅に巻き込まれて消えた――――死んだなんて、ちょっと信じられないかも。」
エリオットの言葉に続いた不安そうな表情をしているセレーネの意見にフィーは不安そうな表情で呟いた。
「しかし、一体どんな兵器が使われたというのだ……?とても人の手によるものとは思えぬのだが……」
「……わからない。でも、現在の導力技術では不可能なことだけは確かだわ。」
ラウラに視線を向けられたアリサは首を横に振って不安そうな表情で答えた。
「フン……そんな”兵器”を今まで属州扱いしてきたクロスベルが保有している……帝国正規軍も躍起になるはずだ。」
そしてユーシスの言葉をきっかけにその場に静寂が訪れた。
「帝都方面も心配だな……ここ数日、デモなんかも広まりつつあるみたいだし……」
「打倒クロスベル、共和国の脅威に備えよか……」
「そもそも、共和国が侵攻してくるというのは本当なのか?」
「単なるデマだと思うけど……長年の対立があるから現実味を帯びているみたいね。」
エリオットとマキアスが考え込んでいる中、ガイウスの疑問を聞いたアリサは複雑そうな表情で答えた。
「……いずれにせよ、噂やデマに惑わされないように注意した方がよさそうですね……今何が起きているのか、慎重に判断して見極めないと……」
「そうだな………特別実習で確かめた帝国各地の状況や情勢……その経験が活かせそうだ。」
「フフ……確かに。自分達の目で現実を確かめることの大切さ……」
「確かにそれを毎回実践してきたもんね。」
「ええ……!」
リィンの言葉にラウラ、エリオット、セレーネはそれぞれ頷いた。
「しかし……こんな時にあの二人は何をやっている?」
その時クロウとミリアムが未だ不在である事が気になったユーシスは二人の席に視線を向けた。
「クロウがサボるのは珍しいことじゃないが……それとももう、2年のクラスに戻ったのか?」
「いや、今月いっぱいまではⅦ組に在籍すると言ってたな。ミリアムの方はちょとわからないが……」
「まさかというか……やっぱり”情報局”絡み?」
「ま、あれでも立派な情報局のエージェントみたいだし。」
アリサの疑問を聞いたフィーは静かに呟き
「うーん、普段の姿を見ると完全に忘れそうになるけど……」
「ふむ……いささか心配だな。」
エリオットは戸惑いの表情をし、ラウラは考え込んだ。
「それと………プリネさん達はもう学院に戻って来ないのでしょうか……?」
「あ…………」
そしてエマの疑問を聞いたアリサは呆けた声を出してプリネ達が座っていた席を見つめた。
「――――少なくとも現在の帝国の情勢が落ち着かない限りはメンフィル帝国自体が留学の続行を認めないだろうな。」
「プリネ達が去った後、リィンは何も知らされていないのか?」
「それにリィンって、プリネの護衛だったよね?リィンやセレーネには休学命令や帰還命令とか来ていないの?」
ユーシスは冷静な表情で推測し、ガイウスとフィーはリィンを見つめて尋ねた。
「ああ……護衛対象であるプリネさんが学院を去った以上、どうすればいいのか、通信でメンフィル大使であられるリウイ陛下に問い合わせをしたんだが……休学して軍に戻るか、学院に留まり続けるかは俺自身の判断に任せるとの事なんだ。だから俺達も学院に残っているんだ。こんな状況でみんなをほおって自分達だけ逃げるわけにもいかないしな。」
「そうなんだ……不謹慎だけど、リィンが残ってくれてちょっと安心したわね。」
「うむ……今の状況だからこそ我らⅦ組のリーダーを失う訳にはいかないしな。」
「ハハ……」
アリサとラウラの答えを聞いたリィンは苦笑し
「セレーネさんはツーヤさんと一緒にメンフィル帝国に帰らなくてよかったのですか?」
「はい……わたくしはリィンお兄様の”パートナードラゴン”。むしろ今の状況だからこそ、”パートナードラゴン”としてリィンお兄様から離れる訳にはいきませんわ。わたくしが残る事にツーヤお姉様は複雑そうな表情をされていましたけど、学院に残る事を認めてくれました。」
エマに尋ねられたセレーネは静かな表情で答えた。
するとその時サラ教官が教室に入って来た。
「―――待たせたわね。」
「サラ教官。」
「HRを始めますか?」
「悪いけど、本日の授業は中止。放課後まで学院内で自習か、寮で待機してもらうわ。」
「それって……」
「何かあったんですか?」
「正確にはこれからだけどね。本日正午、帝都のドライケルス広場でオズボーン宰相が声明を発表するわ。それもエレボニアの全国民に向けて。」
アリサに尋ねられたサラ教官は真剣な表情で答えた。
「ぜ、全国民に向けた声明……?」
「……尋常ではない話だな。」
「それに、こんなタイミングで出される声明といったら……」
「フン………ある程度、想像はつくな。」
サラ教官の説明を聞いたリィン達は顔色を変えた後黙り込んだ。
「ほら、しゃきっとしなさい!―――この学院に通う以上、君達は”士官候補生”でもある。将来、軍に進むかどうかはともかく有事に判断を問われるのはどんな立場や職業でも同じ……だから今は、せめて目を逸らさずに起きている事態を見届けなさい。」
「……了解です。」
「そうね……心を強く持たないと。」
「それとメンフィル帝国領であるセントアークとケルディックのギルドから入って来た情報なんだけどね……―――メンフィル帝国は軍備の増強を始めているそうよ。」
「ぐ、軍備の増強って……」
「もしかして今後エレボニア帝国で起こるかもしれない”有事”に巻き込まれた際に備える為でしょうか……?」
サラ教官の話を聞いて仲間達と共に血相を変えたエリオットとエマは不安そうな表情をし
「恐らくそうでしょうね。市内で巡回する兵達は以前と比べると数を増やしているそうだし、国境付近の砦や要塞には夏至祭の時に現れた戦艦―――”モルテニア”クラスの戦艦が数艦、配備されているそうよ。」
「なっ……メンフィルはあの”モルテニア”のような戦艦を他にも持っていたんですか!?」
「……………………そんなものまで配備するとはいつでもエレボニアと戦争を始めてもいいようにする為としか思えん。」
説明を聞き続けていたマキアスは驚き、ユーシスは目を細めた。
「―――教官。プリネさん達については、何か情報が入りましたか?」
その時ある事が気になっていたリィンはサラ教官を見つめて尋ねた。
「プリネなら、学院の休学を境にケルディックの臨時領主の一人として、忙しく働いているそうよ。元締めと例の資産凍結の件で起こった様々な問題解決についての相談を何度もしている上、ケルディック要塞に何度も出入りしている姿を目撃されているそうよ。」
「そうですか……」
「と言う事はケルディックに向かえばプリネ達に会えるようだな。」
「ま、会えるかどうかは微妙だけどね。」
「そうですね……プリネ様は皇族なのですし……」
サラ教官の説明を聞いたリィンとガイウスは考え込み、フィーの推測にセレーネは静かに頷いた。
「―――話を戻すわ。オズボーン宰相の演説だけど……とりあえず、それぞれの教室でラジオ中継を流すことになったわ。気になるんだったら正午までに教室に戻ってきなさい。」
「折角ではあるし、ここで聞かせてもらおう。」
「導力ラジオ、持ってないし。」
「持っていますが……一人で聞くのもアレですしね。」
「ふふ、それじゃあみんなで宰相閣下の演説を聞くとしますか。真面目に聞くのもシャクだしビールとツマミでも持ち込もうかしら。」
サラ教官の発言にリィン達は冷や汗をかいて呆れた。
「それはそうと……クロウさんとミリアムちゃんがいないのですけど。」
「教官、事情は知っていますか?」
「さあ、クロウはいつもの事だしミリアムは今朝、学院で会ったけど。」
「今朝、学院で………」
「ならば情報局から呼び出されたわけではないと?」
サラ教官の説明を聞いたガイウスは目を丸くし、ラウラは考え込む仕草で尋ねた。
「んー、あたしもそう思ったけど『別に何も言われてないよー?』って本人が呑気そうに言ってたのよね。だから学院にいると思うけど……」
「……どういう事だ?」
「学院にいるのに、どうしてわたくし達の前に姿を表さないのでしょう?」
「わからないけど……まあ、心配はいらなさそうね。」
「正午までに2人を見かけたらそれぞれ声をかけておくか。」
「うん、そうだね。」
その後Ⅶ組のメンバーは一端解散してそれぞれの部活に顔を出しに行き、リィンも行動を開始した。
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