英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第178話
10月22日―――
学院祭準備日最終日―――それぞれの出し物をする学院生達の準備は次々と完成に近づいて行った。
~講堂~
「いいですわね……!」
舞台用の衣装を着て予定している小歌劇を一通り終えたフェリスは満足げな表情をし
「ああ―――これで貰ったぞ……!」
フェリスの言葉にパトリックは力強く頷いた。
リィン達のライバルとなるであろう各クラスの出し物についても万全の準備が整えられるのだった。そして―――
~屋上~
「……フフ、去年以上に今年は盛り上がりそうだのう。帝国を取り巻くモヤも晴れぬまま東に暗雲が立ち込めているが……」
屋上で学院祭の準備をする生徒達を微笑ましそうに見守っていたヴァンダイク学院長は重々しい様子を纏い
「それでも若者は若者らしく、熱き血潮を燃やすもの―――いつの時代も同じでしょう。」
ヴァンダイク学院長と共に見守る保険医―――ベアトリクス教官は静かな表情で見守っていた。
「ハハ、そうじゃろうな。ワシにしても、貴女にしても、オリヴァルト皇子にしても……陛下にしても、オズボーンの馬鹿者にしてもな。」
「……ええ……」
そしてヴァンダイク学院長の言葉にベアトリクス教官が重々しい様子を纏って頷いたその時サラ教官が2人に近づいてきた。
「見回り、行ってきました。」
「ご苦労、サラ君。」
「この様子だと、何とか夜までに一通り完了しそうですね―――って、ベアトリクス先生!お、お疲れ様です!」
ヴァンダイク学院長に報告したサラ教官は隣にいるベアトリクス教官に気付いて緊張した様子で敬礼をした。
「ふう、貴女も立派な実力と実績があるのですから……いつまでも私などに畏まらなくてもいいでしょうに。」
「い、いや~……命の恩人に対しては中々……遊撃士に転向するきっかけを頂いた恩もありますし。」
困った表情をしているベアトリクス教官の指摘にサラ教官は苦笑しながら答えて二人に近づいた。
「ふふ、早いものですね。もう10年になりますか……」
「ハハ、ナイトハルト君も君の部下だったと聞くし。ハインリッヒ君には悪いが次の学院長には貴女を推薦させてもらおうかのう。」
「あ、それいいですね!」
「ふう……ご冗談を。ですが、この学院が来年にはどうなっているのか……この状況を考えると少々心配ではありますね。」
ヴァンダイク学院長の話を聞いたサラ教官は笑顔になり、ベアトリクス教官は溜息を吐いた後心配そうな表情になった。
「………ええ……学院長、ナイトハルト少佐から何か連絡は?」
「今のところは。明日の学院祭には顔を出すと言っておったが。」
「そうですか……クロスベルのギルド支部からも不穏な情報が入ってきてますし。遊撃士の一人は”結社”の手の者によって重傷を負わされて病院送りにされ……もう一人は数日前から行方知れずとの話ですし……」
「そうか…………じゃが、今のクロスベルには”六銃士”に加えて”嵐の剣神”達もいる。彼らがいれば、クロスベルで渦巻く陰謀も何とかなるじゃろう。」
サラ教官の話を聞いて重々しい様子を纏って頷いたヴァンダイク学院長は話を続けた。
「それなんですが……クロスベルのギルドからの情報では”嵐の剣神”達は祖国からの帰還命令でクロスベルを去り……”六銃士”は彼らを慕う”六銃士派”と共に全員行方知れずだそうです。」
「何と……彼らは一体何を考えているのじゃ?今のクロスベルにとっての”希望”は彼らだけじゃというのに……」
「わかりません。ただ、”通商会議”の件を考えるとメンフィルが何か知っていると思うのですけど、”剣帝”に聞いても煙に巻くんですよ。ホント、相変わらず腹が立つ奴ですよ。”元祖国”の為にちょっとくらい情報を提供してくれてもバチは当たらないと思うんですけどね。」
「……12年前の”悲劇”によって故郷を失った彼はむしろエレボニアに憎しみを持っているじゃろうし、今の彼はメンフィル帝国人であり軍属の身じゃ。祖国の機密をおいそれと話す訳にはいかぬから仕方ないじゃろう。」
「いずれにせよ、あらゆる事が大きく動き始めているようですね。そんな中でも、我々の使命は何も変わる事はないでしょう。」
「ですね。」
「うむ、その通りじゃ。」
ベアトリクス教官の言葉にサラ教官とヴァンダイク学院長はそれぞれ頷いた。
「女神よ……それに獅子心皇帝よ。若者たちに勇気と加護を。そして無事、今回の学院祭をやり遂げられるよう導きたまえ。」
そしてヴァンダイク学院長は空を見上げて祈った。
―――リィン達の知らない所で多くの大人たちが手助けしてくれていたことを……この時のリィン達は知る由もなかった。
~数時間後・旧校舎~
「~~~っ~~~……」
「あはは、やったああああっ!」
「今まで一番いいかも。」
「大成功ですわ!」
「ああ……やり切った実感があるな。」
「はあはあ……もうこれ以上は無理です……」
「つ、疲れた……エヴリーヌも、もう無理……」
「フフ、頑張りましたね、エヴリーヌお姉様……」
「エヴリーヌさんがこんなに頑張ったのって始めてかもしれないですね……」
数時間後リハーサルを終えたリィン達はそれぞれ満足げな表情をしていた。
「ふふっ、問題は本番で今のができるかだけど……」
「大丈夫―――心配はいらないよ。ここまで仕上げたからにいは後は運と女神様しだいだから。」
「フフ、そういうものか。」
アリサの言葉に答えたエリオットの話を聞いたラウラは苦笑した。
「裏を返せば、どこまでやっても運に左右されるんだな……」
「フン、だったら運すら強引にねじ伏せてくれる。
疲れた表情で呟いたマキアスの話を聞いたユーシスは鼻を鳴らして呟いた。
「いや~、お疲れさん。これ以上やっても仕方ねぇし、あとは本番でいいだろ。」
「そうか………そっちこそお疲れ。」
「えへへ、クロウにそう言ってもらえると安心かな。」
クロウの感想を聞いたリィンは頷き、エリオットは嬉しそうな表情をした。
「ふう、今の時間は……」
「午後3時……もう夕方くらいかと思った。」
「フフ、それだけ密度の濃い時間を過ごしたという事だろう。」
「と、とにかく寮に戻ってちょっとだけ休みたいです……」
「エヴリーヌは明日の朝までずっと寝たい……」
「おいおい、何を寝ぼけてんだ?ステージにはサプライズとアンコールがつきもの……やっと他のクラスに勝てそうな”ダメ押し”が狙えるんじゃねえか。」
エマとエヴリーヌの意見を聞いたクロウは目を丸くした後口元に笑みを浮かべた。
「え。」
「サプライズとアンコール……?」
「なにそれ。」
クロウの言葉にアリサは呆け、ガイウスとフィーは首を傾げ
「ま、まさか……」
「こ、これはさすがに私も参ったわね……」
「それはあたしもですよ……」
ある事を察したセレーネは表情を引き攣らせ、プリネとツーヤは疲れた表情になり
「冗談で言ってた”アレ”をやるつもり!?」
エリオットは信じられない表情で声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ……!」
「この上、追加の曲をやれと抜かすんじゃあるまいな……!?」
「クク、そのまさかだ―――なぁに、聞いちまったらお前らだってやりたくなるだろ。メロディはシンプルかつ有名、歌詞もそれなりに知られてる……さぁて―――時間もないことだし、段取りを説明させてもらおうか?―――勿論、異種族のお姉さん達用のもあるから、異種族のお姉さん達も参加してもらうぜぇ?」
マキアスとユーシスの反論を聞いたクロウは不敵な笑みを浮かべ
「あ、悪魔……」
(ええっ!?せ、せっかく終わったと思ったのに~!)
クロウの言葉を聞いたアリサはジト目で呟き、ミルモは驚き
(ちょっ、嘘でしょう!?この鬼!悪魔!)
(ふふふ、”魔神”に”悪魔”と呼ばせるとはあの男、やりますね。)
(リ、リザイラ様、感心している場合じゃありませんよ~。)
(さ、さすがにこれは私も驚いたわね……)
(ええええええ――――ッ!?もう、勘弁してよ~!?)
(クッ、精霊女王たるこの私を謀ったどころかここまで酷使した”借り”は高くつきますわよ……!)
(うむ、わかっているではないか!)
(ア、アハハ……さすがのワタシも、ヤバイわね~………)
それぞれと契約している異種族達はアムドシアスを除いて全員悲鳴を上げたり、冷や汗をかいたり、表情を引き攣らせていた。
「ふうっ…………」
その時エマが地面に崩れ落ち
「いいんちょー!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「し、しっかりするがよい!」
それを見たミリアムは驚き、セレーネとラウラは声をかけた。
(あはは……何だかんだ言ってクロウが一番熱心なような……)
(ああ……こうなったらとことん付き合うしかないな。)
こうしてリィン達はクロウによって突如追加されたアンコール用の曲の特訓を開始した………
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