ハイスクールD×D 新訳 更新停止
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第5章
冥界合宿のヘルキャット
第104話 怒号の緋幻龍
前書き
アニメ版ロキ戦中盤です。
北欧から神の槌ミョルニルが届くまで北欧の神ロキの足止めを引き受け、熾烈な戦いを強いられていたが、ようやくミョルニルが届き、イッセー君がそれを用いてこの戦いに決着をつけようとした瞬間、神喰狼の凶牙がイッセー君を貫いた。その光景に僕達は言葉を失い、ただただ茫然としてしまう。
「チッ!」
真っ先に行動を起こしたのはアルミヤさんだった。無数の聖剣が撃ち出され、神喰狼に降り注ぐ。
それを受け、神喰狼が咥えていたイッセー君が放り投げられる。
そして、僕はすぐさま聖魔剣で神喰狼を拘束する。
「イッセー君は!?」
放り投げられたイッセー君は鎧が消失し、力無く地面に落ちる。
「イッセーッ!?」
「イッセー兄ッ!?」
悲痛な叫びを上げる部長と千秋さんが横たわるイッセー君に駆け寄る。
「イッセー!?しっかりして!イッセー!」
「………ぶ、部長……」
部長の呼び掛けに弱々しく応えるイッセー君。
「血が!?出てきちゃダメ!止まってよッ!?」
千秋さんは必死になって、イッセー君の傷口から流れ出る血を手で抑えて止めようとする。
だが、そんな事で出血が止まる様な傷じゃないのは誰の目からしても火を見るより明らかだ。千秋さんもそれは分かってるはず。でも、無駄だと分かっていても、イッセー君の命を取り留めようとしている。
「部長、フェニックスの涙は!?アーシア先輩は!?」
「ッッッ!?」
千秋さんの言葉に部長は目をきつく閉じて、悲痛な表情を浮かべて顔をそらすだけだった。
フェニックスの涙は僕とゼノヴィア、匙君を回復させる際に使い切ってしまった。 アーシアさんは転移人数の限りの都合上でこの場にはいない。
その事自体も千秋さんは分かってる。分かっていても縋りたくなってしまう。千秋さんにとって大切な存在であるイッセー君の命の灯火が今にも消え入りそうだから。
「………悪いな……千秋……心配…掛けて……」
「イッセー兄!?喋っちゃダメ!」
「………部長……すみません……俺…また…肝心な所で…ドジ踏んじまって……」
「話さないで!」
「………二人とも……逃げて……」
「ダメよ!」
「イッセー兄、気をしっかり持って!?」
イッセー君は担い手に持たれる事なく地面に落ちているミョルニルへと弱々しく手を伸ばそうとする。
「………ハ、ハン…マー……ハンマー…を……」
バタ。
『っ!?』
ミョルニルへと伸びていた手が糸が切れたかの様に落ちる。
そして、イッセー君は静かに目を閉じていた。
その事が意味するのは…。
「イッ…君……?」
「イッセー……」
「イッセー君……」
「そ、そんな……!?」
「……イッセー先輩が……!?」
「……イッセー君が……」
……イッセー君が死んだ。
「……兵藤、嘘だろ……?」
その事実にほとんどの者が茫然自失となってしまう。
「起きて、イッセー?起きなさい、イッセー?」
「起きてよ、イッセー兄?目を、目を開けてよ?寝ちゃダメだよ?寝ちゃ…ダ…メ……っ、うあああああああああああ!?!?!?」
……戦場に千秋さんの泣き叫びが木霊する。
『ッ!!』
千秋さんの泣き叫びを聞き、僕を含め、この場にいる部長を除いたグレモリー眷属のみんなや教会組の紫藤イリナさんや神田ユウナさんが一斉にイッセー君をあんな風にした神喰狼へと怒りと殺意を向ける!
「貴様ァッ!?許さぁんッ!!」
「よくもッ!!」
「イッ君をッ!!」
「ヤァアアアアッ!!」
「ウアアアアアアッ!!」
「ハアアアアアアッ!!」
僕の聖魔剣によって身動きが取れない神喰狼を一心不乱になって聖なるオーラ、光力、炎、剣戟、雷光で攻撃する!
よくも!?よくも!よくも、イッセー君をッ!!
僕達の一斉攻撃で苦悶の雄叫びを上げる神喰狼だったが、僕達は一切構うこと無く攻撃し続けた!
ー○●○ー
いや、いや、いや、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、嫌、嫌、嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!?いやあああッ!?!?
嫌だよ、イッセー兄!?死なないでよ!?
死なないって、ずっと一緒にいるって約束したのに!
お父さんとお母さんが死んで、今度はイッセー兄が死んじゃうの!?
部長が動かないイッセー兄に何かを呟いていたけど、私の耳には一切入ってこない。私はもう、イッセー兄の死と言う事実で頭の中がグチャグチャだった。もう、他の事がどうでも良いとさえ思ってしまっていた。
ふと、そんな状態でイッセー兄をこんな風にした神喰狼の方を見ると、他のみんなに一斉に攻撃されていた。
みんなの表情から、イッセー兄をこんな風にした神喰狼に対する怒りと殺意が感じられた。
殺す。ころす、ころす、ころす、コロス、コロス、コロス、コロス、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!あの狼を殺す!!
ドクン。
思考が殺意だけで満たされた瞬間、心の奥底でドス黒い力の塊みたいな物の存在を感じた。手にした瞬間、絶大な力を得られる、そんな予感があった。でもたぶん、そうすれば私は私じゃなくなるかもしれない、そんな予感もあった。なんでこんな物が私の中にあるのかは知らない。でも、もうなにもかもどうでも良く、あの狼を殺せればそれで良いと思っていた私は迷わずそれに手を伸ばす。そして、私の手がそれを掴もうとした瞬間…。
カラカラカラン。
私の視界にある物が映り込んだ。
それは、何かの入れ物みたいな物で、フェニックスの紋様が刻まれており、イッセー兄の懐から転がり出てきた。
「フェニックス!?」
なんでイッセー兄がそんな物を持っているのかは分からなかったけど、私は一抹の望みに縋り、それを手に取り、中に入っていた物を取り出す!
「ッ!?」
入っていた物を見た私は慌ててイッセー兄の胸に耳を当てる!
トクン。
私の耳に入ってきたのは、イッセー兄がまだ微かに生きている証である心音だった。
ー○●○ー
「ハァハァハァ…」
僕達の情け容赦の無い一斉攻撃によって、神喰狼は崩れた岩の下敷きになり、それきり動かなくなった。
……倒した…のか……?
「オーディンめ、わざわざトールの戦槌など持ち出すとは、小賢しい。神喰狼、その忌々しい玩具を噛み砕け!」
ギャオオォォォオオオオオン!
悪神ロキの命令を告げた瞬間、岩を跳ね除けて神喰狼が遠吠えを上げる!
なんて奴だ!あれだけのダメージを受けてもまだ動けるのか!
「いけない!?」
神喰狼がミョルニルの方へと行ってしまう!
あれを破壊されたら!?
ガシャンガシャン。
『ッ!?』
グルルルルルル!?
神喰狼がミョルニルへと差し迫ろうとした瞬間、神喰狼の足下に魔法陣が現れる、魔方陣から鎖が飛び出て、神喰狼を拘束してしまう!?
「……これはどう言う事だ?」
「魔法の鎖グレイプニル!?何故ここに!?」
「私達が用意したにゃん」
聞き覚えの無い女性の声が聞こえ、そちらへ視線を向けると、そこには黒い着物を着た猫耳の女性がいた!
「姉様!」
小猫ちゃんが驚愕の声を上げる。
そうだ、資料でしか見た事無いけど、あれは小猫ちゃんのお姉さんである黒歌だ。
「白音、その姿、ようやく自分の力を認めたって訳?」
「……私は姉様の様にはなりません!」
「さぁて、どうかしらねぇ。私達は心に安らぎを持てない戦闘種族。いつかは貴女も…」
「黒歌黒歌、可愛い妹との会話を楽しんでるとこ悪いけど、悪神殿がめっちゃ睨んでるぜ」
黒歌の隣に日本刀を帯びた長い茶髪を朱乃さんの様に結んだ男性が現れる。
男性の言う通り、悪神ロキは小猫ちゃんのお姉さんと男性の事を睨んでいた。
「極東の妖怪風情がどう言うつもりだ?」
悪神ロキが二人目掛けて魔法による攻撃を放つ!
パキャァァァン!
「……誰だ?」
悪神ロキの放った攻撃が新たに現れた人物によって弾き飛ばされた!
「私はヴァーリチームのアーサーと申します」
アーサーと名乗った人物は背広を着て、メガネを掛けた男性だ。だが、その男性で一番目に付くのは、手に持つ剣だ!その剣からは極大の聖なるオーラが発せられてる事から、間違い無く聖剣、それも並の物じゃない!
「それは!?聖王剣コールブランド!それに、腰に帯びているのは……支配!」
「流石は『錬鉄の剣聖』のアルミヤ殿ですね。ご明察通り、これは最後にして最強のエクスカリバー、『支配の聖剣』ですよ」
最後のエクスカリバー!?あれが行方不明になったと聞いていた七本目のエクスカリバー。
「そして、聖王剣コールブランド、またの名をカリバーン。地上最強と謳われたこの剣、神と言えども傷は付けられないでしょう」
地上最強の聖剣、聖王剣の名は伊達では無いと言う事か。
「チッ、答えろ。これは一体なんのマネだ?」
「なぁに、おたくの息子さんをかっぱらおうって魂胆さ」
「……なんだと?」
「神すら砕くこの子の牙をヴァーリが欲しがってるのよ」
「……謀ったな、ヴァーリ・ルシファー」
「騙される方が悪いのよ」
ヴァーリ・ルシファーが悪神ロキを手引きした事は聞いていたけど、目的は神喰狼を奪う事だったのか!
「さぁて、さっさとその子を連れて行こうかしら」
「そうだな…ん?あ、黒歌、急いだ方が良いぞ」
「ん?ロキの邪魔なら…」
「いや、悪神様の事じゃなくて……」
ドゴォォォン!
『っ!?』
「あ、遅かったか」
突然の轟音にこの場にいる全員が驚き、慌てて音の発生源の方を見る!
「……………」
そこにいたのは膨大な緋色のオーラを放出している明日夏君がいた。そして、放出されているオーラは巨大なドラゴンを形作っていた。
ー○●○ー
無茶なオーラの出力に体中から悲鳴を上げていた。
『おいおい、こんな無茶な放出をすれば体がぶっ壊れるぜ?』
この戦いまでもてば別に構わねえよ。
……で、お前から見て、俺の体はどれぐらいもつと思う?
『そんなにもたねえぞ。せいぜい数分ってとこだ』
それ以上行けば…。
『確実に体がぶっ壊れるな』
……だったら、あの駄狼をさっさと潰す!
『神喰狼を駄犬みたいな扱いかよ?』
無駄なやり取りをするつもりはねえぞ。
『はいはい。時間がありませんもんね』
それ以降、ドレイクは黙る。
俺は先ほど殴り飛ばした駄狼こと神喰狼を睨む。
「……ぶっ殺す!」
イッセーをやられた事に怒りが臨界点を超えた俺は殺意に満ちたセリフを口にする。
ー○●○ー
「……明日夏君……」
今明日夏君が口にした短い言葉には恐ろしい程の殺気が込められていた。
明日夏君の中で今どれ程の怒りと殺意が渦巻いているのだろうか?
明日夏君はゆっくりと神喰狼へと近付いて行く。
神喰狼は明日夏君から少し離れた場所で岩に叩き付けられていた。 おそらく、今の状態の明日夏君の一撃でそうなったのだろう。そして、体を縛っていた鎖もその一撃によってなのか、砕け散っていた。
「せっかく用意したグレイプニルをどうしてくれるのよ!?」
「完全にプッツンしてるな、ありゃ」
「キレたと言う事ですか。しかし、その割には冷静に神喰狼を見据えていますね?」
アーサーの言う通り、今の明日夏君は間違いなく、怒りが頂点に達しているだろう。にも関わらず、明日夏君は冷静そのものだ。普通なら、怒りに囚われれば、周りが見えなくなり、動きも単調化するものだ。僕でさえ、聖剣への憎しみを再発させた際にはそうなってしまった。
だが、明日夏君は激情状態のさらに先まで怒りが高まると、逆に冷静になっていく節があった。
以前、アーシアさんを助ける際に堕天使レイナーレと対峙した際にもレイナーレのイッセー君に対するあまりな言い分に怒った明日夏君はあの様な状態になっていた。
ギャオオォォォオオオオオオン!
神喰狼が遠吠えを上げて、明日夏君に迫る!
ガブッ!
神喰狼の牙がオーラのドラゴンの腕に深々と刺さる!
ギャウン!?
だが、神喰狼は口から煙を上げながら口を離す!
明日夏君が扱う緋色のオーラは攻撃性を持つ物。あのドラゴンは触れるだけで相手にダメージを与えられるのだろう。
怯んだ隙を明日夏君が逃すはずも無く、ドラゴンの拳の連撃が神喰狼に叩き込まれる。
拳が当たる度に神喰狼の体を焼かれ、鮮血が飛び散っていく。
「ッ!?」
連続で攻撃していた明日夏君に異変が起こる!
袖や額から酷い量の血が流れていた。服のあっちこっちからも血が滲んでいた。
そして、すぐに悟る。明日夏君は限界を超えたオーラの放出を行っており、それに体が耐えきれなくなっているんだと。
「……時間もねえ。とっとと決める!」
そう言った明日夏君は神喰狼をドラゴンの腕で抑え付ける。
そして、ドラゴンの口が開き、そこにオーラが集中していき、巨大な塊ができ始めていた!
あれはイッセー君のドラゴンショットに似ていた。おそらく、オーラを一点に集中させて撃ち出すところも同じなのだろう。
だが!
「明日夏君!?そんな至近距離で撃てば、君まで巻き添えに!」
ドラゴンの口にできているオーラの塊の大きさも濃度も明らかに異常だ!その威力は計り知れない!あんな物を至近距離で爆発させれば、明日夏君自身も危険だ!
「死ぬ気はねえ。だが、こいつを潰すには身を削るぐらいでも足りねえぐらいだ。だったら、これぐらいはやらねえとな!」
覚悟をしている明日夏君は以前オーラの塊の増大を止めない!
「させん!」
悪神ロキが明日夏君の攻撃を阻止しようとする!
「ッ!?」
「「………」」
だが、アルミヤさんとライニー・ディランディの妨害でそれもできなかった。
そして、準備が整ったのか、明日夏君が神喰狼に静かに語り掛ける。
「……待たせたな?…………ぶっ飛べッ!!」
明日夏君がその言葉を告げた直後、明日夏君と神喰狼を緋色の閃光が包み込んだ!
後書き
明日夏の捨て身の攻撃、その結末は次回!
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