油断したら
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3部分:第三章
第三章
「あらっ!?」
マーガレットは最初にそれを見てまずは何かと思った。
「何でオスカーの後ろに?」
位置したのかわからなかったのだ。何故そこに。しかしその羊は羊達を誘導しながら池のそすぐ側にまで来たオスカーの後ろに来ていた。
マーガレットはそれがどうしてか首を傾げた。だが羊はここで思わぬ行動に出たのだった。
まず後ろに数歩後ずさった。そうして自分に気付いていないそのオスカーに対して突進する。そのまま。
何と頭でどん、と突いて彼を池に突き落としたのだった。オスカーは最初何が起こったのかわからなかった。池に落ちながら目を点にさせていた。そうしてそのまま池に落ちてしまった。
「な、何なんだ!?」
池の中から起き上がりながら言っている。当然ながらもう濡れ鼠である。
「何で池の中に!?誰が突き飛ばしてくれたんだ?」
「羊よ」
マーガレットも今までの光景を見て呆然となっていた。まさか羊がそんなことをするとは夢にも思っていなかったのだ。しかもその羊はもう群れの中に入って何事もなかったように平然と水を飲んでいる。
「羊に後ろから突き飛ばされたのよ」
「何、またか」
オスカーはマーガレットの今の言葉を聞いてこう述べた。
「またやって来やがったのかよ」
「またなの」
「そうだよ、まただよ」
オスカーはマーガレットに答えながら池から出てきている。出ながら上着の箸を両手で絞ってそのうえで水を出している。勿論全身そんな有様である。
「言ったよな、こいつ等に後ろを見せたらってな」
「狙われるってことなのね」
「そうだよ。容赦しないからなこいつ等」
ここでやっと池を出た。出ながら羊達を忌々しげに睨み据えている。しかし当の彼等は全く平気な顔だ。しかもその突き飛ばして羊が最もそうであった。
「隙を見せたら本当に一瞬でな」
「物凄く悪質なのね」
「言っておくがこいつ等だけじゃないからな」
しかしオスカーはまだ言うのだった。
「山羊にも気をつけろよ」
「山羊もこんなのなのね」
「性格の悪さは同じだよ」
こう言ってそのことを認めるオスカーだった。
「背中見せるなよ、絶対にな」
「ゲリラみたいな連中ね」
ゲリラは民間人の中からいきなり背中を撃ってくる。だからこそ悪質なのである。あのアメリカ軍ですらベトナムではそれに悩まされたのである。
「全く。穏やかな顔をして」
「顔は穏やかでも性格は最悪なんだよ」
まだ言うオスカーだった。
「羊も山羊もな」
「わかったわ。じゃあ後ろには気をつけるわね」
「言っておくがいつもだぞ」
オスカーはこのことにも忠告しておくのだった。
「いつもだ。いいな」
「いつもって」
マーガレットはその言葉を聞くと少し首を捻った。
「そんなの仕事している最中でいいじゃない」
「まあそのうちわかるよ」
しかし今はこう言うだけだった。何はともあれオスカーはトランクス一枚になってそのうえで服を乾かしはじめた。彼にとってはとんだ災難だった。
それから一月程経った頃だった。マーガレットは自分が住んでいる家の大掃除をしていた。とにかくとてつもなく広い牧場なので彼女も家を一つ貰ってそこに住み込んでいるのである。もっともその家は粗末なログハウスでありあちこちがたはきているのだが。
それでも家に一人暮らしなので満足していた。この日彼女は山羊の世話をしていたが思ったよりも早く終わったので家の掃除をしているのだ。
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