竜から妖精へ………
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第12話 光
ゼクト歓迎会は、長く……とても長く続いた。
日も完全に落ちてしまっても、続いた。
ゼクトは、その宴の中心人物だ。
《あの場所》にいた時、《あの場所》を守り続けていた時と比べたら、《無音の世界》から突然《騒音の世界》へ来た、と言っても良い程、本当に騒がしいだろうと思える。
けれど、ゼクトは、心地よかった。……本当に。
いつまでも、いつまでも、続いて欲しい。
夢の様な空間で、いつまでも……。
と、ゼクトは思っていたのが、最後の記憶である。
何故なら……。
「「「「「zzz zzz zzz zzz zzz」」」」」
最終的に全員が騒ぎ疲れたのだろう。完全に眠ってしまっていたのだ。それも、ギルドの床で撃沈状態。子供も大人も関係なく。
その中には勿論、ゼクトも混ざっていた。夢の様な空間、と言うのは今も恐らく感じている事だろう。その表情は、少々疲れた所も確かにあるが、何処か穏やかで 笑っている様にも見えるから。
ゼクトの傍には、ミラやエルザ、ナツと言ったわんぱく系メンバーを中心に囲まれていた。
「ははは………」
「ふふ……」
その皆の姿を見て、思わず笑ってしまったのは、マスターマカロフとギルダーツである。
「しっかしのぉ……。ギルダーツ……」
深夜、静寂な空間に、マカロフの声が静かに響いた。先程まで、宴の席で飲み続けていた酒の影響で、ほろ酔い顔だった筈なのだが、変わっていた。
真剣な表情に。……ギルドの長、否 子供の親の様な そんな表情に。
「あん? どうした、マスター」
ギルダーツもそのことには十分に気が付いていたようだ。返答するギルダーツも表情は真剣だったから。
「……可愛ええもんじゃな。 ガキってヤツは。信じられんよ。この子に、ゼクトに記憶がない、なんてな。……こんな笑顔を、安心しきった寝顔を見せてくれる程に、フェアリーテイルを好いていてくれている事が、マスターとして、嬉しく思う。……そして、こんな幼気なガキを、魔力の高さ、それだけの理由で 調べ様として、返り打ちにあったから、と邪険して、依頼してくる大人の気が知れんわい……」
深くため息を吐いていた。それは、ギルドに依頼した評議員たちのことだろう。魔法評議会はこのフィオーレのトップ。無下にする事は出来ないと言うのは仕様がない事だ。秩序にも関わってきかねないから。無論、フェアリーテイルは、自由と共にある。
上からの目に 従うだけのギルドではない。
故に、引き渡す様な真似だけは、決してしないと、心に決めている。ギルドの仲間となった以上、当たり前だった。
「まぁ……な。その辺についてはオレも思うところはあるさ。評議員の奴ら、その下部組織だとは思うが、そいつらは、ちゃんと、向き合わなかったんだろうな。コイツ……ゼクトは、向き合って話せば ちゃんと判る。其れくらいの心は持ってると思うぜ? ゼクトが、いきなり、相手を攻撃……なんてことするなんて思えねぇ。よっぽど初対面がまずかったんだろうな。印象ってか……無理やりの実力行使できたのか……」
ギルダーツも呆れた様にそう言って頭を掻いた。
ギルダーツの名は、非常に有名だ。その力は大陸でも屈指のものである、と言う呼び声だって高い。本人はそう言う類の事を気にする性格ではないから、表立って上に上ろうと言って類の野心は持ち合わせていない。
ただただ、家族と一緒に、ずっと楽しく過ごす。それが目的だから。
「でもまあ、これからは、ゼクトはウチのギルドの仲間、もう家族だ。もう、連中の目に止まる様な事をする、そう言うことはないだろうさ。まぁ、魔力に関して目をつけられてるから、連中が接触してくるかもしれねぇが、こっちも、黙っちゃいねえだろ? マスター」
ギルダーツは、そう聞くと、マカロフは腕を組んで深く頷いた。
「んなもん、言うまでもないわい。無論じゃ。もう家族なんじゃぞ? ……ガキを守らん親などおってたまるかぃ。……こんなにフェアリーテイルを。我が家を愛してくれているガキじゃぞ……? 共に過ごした時間等関係ない。………答えてやらんとな」
真剣な表情から一変した。マカロフは 優しい表情でゼクトを……、そして、その周りを囲むように、まるで『何処にも連れて行かせない』と主張しているかの様に、周りに集って寝ている他の子供にも視線を向けた。
その寝顔をみて、このギルドの未来は安泰。――そう感じた。
「ふふ。まるで、ゼクトは、光のようじゃな……」
マカロフは、そう呟いた。
「………ああ。確かに、な。同感だよ」
ギルダーツも頷いた。
《光》
それは、人にとって、無くてはならないものだ。
そして、その周りには自然と人が集まるものだ。
ゼクトは、入ったばかりだと言うのに、入ってまだ1日目、だと言うのに、ギルドの殆ど全員を笑顔にしている、光と形容出来る程の輝きを見せていた。そして、更に暴れて? もいるが、初日でそんな事になるなんて、前代未聞。
そうそう出来る事でもないだろう。
通常は、長年積み重ねてきた信頼。そこから、時には衝突したり、ケンカにまで発展したりして、育んでいく。それが当たり前だ。
切欠は、子供らしからぬ、《力》を持っているから、と言う理由があるのかもしれない。でも、それでも ただ強いだけで 人と人の、……家族の輪の中に入る等、出来る筈もない。
ましてや、まるで、長年連れ添った家族の様な笑顔を向ける事も、向けられる事も。
全ては嘘偽りない、曇りのないゼクトと言う少年の心に光をみて、出来た事だと心底思える。
「さて……と」
マカロフは、手を魔法で大きくさせつつ伸ばし、ギルドの奥の棚から、毛布を儂づかみにする様に引っ張り出すと、そのまま、眠っている子供達全員に被せてあげた。誰1人、抜ける事の無いよう、全員一緒になれる様に。
「ふふ……いい夢をみるんじゃぞ?」
「ああ。それは問題ねえさそれも…… 顔をみりゃわかる」
最後に、眠っている顔を。……笑顔を見届けた後、ギルダーツは、ギルドの外へと。そして、マカロフは、ギルドの奥へ入っていった。
場面は、ギルドの奥、マカロフの執務室兼寝室として利用している部屋。
騒がしい1日も終わりを完全に告げた為、流石のマカロフも眠気が襲ってきていた様だ。
「さて……と、ワシも大分飲んだからのぉ……。そろそろ……寝るか。……明日が楽しみじゃわい」
そう言って、布団に入った。
ものの数秒で、マカロフは意識を消す事が出来た。
いや、何かに誘われた。
なぜなら、自分自身の身体が、宙に浮いているような感覚に見舞われていたから。何100、何1000と見続けてきた夢。
どの夢とも違う異質感が、そこにはあったのだ。
浮遊感の後は、眠っていると言うのに、瞼が非常に明るい。まるで、光に包まれている様な感覚が1番近いだろう。
『……これは、夢……? いや……違う。何か、何かが近づいてくる……?』
光の中、だと言うのに その夢は覚める事はなかった。瞼を開けても、決して明るさは変わらない。真っ白な世界に迷い込んだ、と表現して良いだろう。
そして、何かが近づいてくる気配をマカロフは感じていた。見ることが出来ない、それでいて 大きな気配を。
《………礼を……………》
その後は、光の中から声が聞こえてきた。
『な……なん……じゃ………? この、声……は?』
聞こえてくる。それだけだった。目の前には誰も見えない
凄まじいとさえ思える光源を目の当たりにしても、目を覚ます事が出来ない。光を見ていると言うのに、実際には見ていないと言う事だろうか?
矛盾しているが、それ以上の説明を仕様がなかった。だけど、この光は 紛れもなく存在していた。その中に、何かがいる、と言う事も。
『フェアリー…………、マスター……。礼を…………』
見る事は出来ないが、その声が近づいてきているのだろうか、徐々に大きく、そして鮮明になっていった。内容も聞き取れる様になった。
『礼、とは………?』
光の中に、手を伸ばすマカロフ。夢だと頭で判っていても、それでも 最早単なるの夢だとは思えなかった。何か、意味がある夢。何かの予知夢の類、だと言うのだろうか?
考えても判らない。ただただ、光にその答えを求めようと手を伸ばし続けた。
『……あの……、愛おしい……。フェアリーテイル………、心を、くれた……………』
伸ばした手は何も掴めない。
だけど、身体の全てを包み込まれている感覚はある。信じられない程、大きな存在感だった。
『三代目マスター・マカロフ……。フェアリーテイル ギルド・マスター……』
『………………光、お主は一体……』
光の正体が判らない。だけど、そこには、悪意といった類の魔力……そういったものは全く感じなかった。警戒すらする必要のない、そう思える程に。
そう、言うならば、《優しい光》だった。その光は 遂に核心を、話し始めた。
『あの子を……、どうか、頼む……………』
その光の言う《あの子》が一体誰の事なのか、判らない訳はない。
今日出会い、家族となったその日の夜に、この光の夢を見たのだから。
『我には…………、出………なかったが、この子は………、我の……………』
初めて光は、寂しそうな声を出していた。
だが、マカロフは この時 光が話した《あの子》の事しか、頭になかった。
『何者、なんじゃ? お主は。 それに、あの子というのは、ゼクト……のことじゃな?』
『………………………………』
光にマカロフはそう尋ねると、僅かな沈黙の後。
『ああ…………………』
返事が返ってきた。それが、肯定しているものなのかどうか、それを判断する事は出来なかったが。
『我は、願った……。……願いに、願った……。その願いが………、こういう形……、というのは、…………嬉しいものだ……。………大差ない………、故に―――。まぁ、身に纏う―――了は―――――、仕様がないが――――』
徐々にではあるが、声がまた訊こえづらくなってきた。
だが、最後の言葉だけは、はっきりと判った。
『愛おしきギルドの長……。今一度……、頼む。あの子を 宜しく頼む…………』
そう―――はっきりと判った。
そして、その願いに、答える言葉も決まっていた。
『……任せるが良い。それは、無論であり、愚問じゃ。……約束、しよう。あの子の事、《ゼクト》の事は、儂らに、《フェアリーテイル》に任せてくれ。………そして、まぁ あわよくば、お主の願いの通りと判断したならば、お主の事、教えてくれるか?』
マカロフは、固く宣言をした。
そして、その言葉に光は……。
『………………ふふふ。判る。何れは、また―――――』
そう答えると、やがて、目の前の光は徐々に暗くなっていく。
だが、まだマカロフは聞きたい事があった。
光の正体もそうだが、それ以上にゼクトの事を――。
離れていく光を、反射的に追いかけるマカロフ。
走り、追い掛け――光へと手を伸ばした。
「………待てっ!」
手を伸ばした先には何も無かった。いつのも、ギルドの執務室だった。
光に手を伸ばした筈なのに、この部屋には光はない。まだ、太陽も顔を出さない時間帯。光など、有るはずもない。
どこからが、夢でどこからが現実なのかもわからなかった。
「これは、魔法……?」
マカロフは、空気中のエーテルナノ濃度を入念に調べてみるも、特に変わった事はない。
いつも通り、何も変わってなかった。
「――一体、なんだったのか……」
手を握り……そして開く。幻覚魔法の類を受けた形跡は全くなかった。それ以外にも、身体は全く問題ない。いや、問題と言うよりも、あれだけ酒を飲んだと言うのにも関わらず、清々しささえ感じ、調子がかなり良かった。
……あの光に包まれていた心地よさがあるからだ。
言うなら、あの光は決して単なる夢ではない。
あの大いなる存在は、言うならば母なる海の様な大らかささえ思えていた。
「あの子……、《ゼクト》を頼む……か」
マカロフは、部屋を出て皆をみた。
部屋の様子は変わってない。ただ、眠っているだけだった。笑顔を浮かべて。ゼクトは勿論、皆可愛い寝顔だった。
「…………わかっとるわい。言われなくとも……もうこの子は」
ゼクトの顔を、見て決意を新たにした。
「――――もう、儂のガキなんじゃからな」
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