英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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外伝~真夜中の邂逅~(6章終了)
~ザクセン鉄鉱山・夜~
「……これは…………」
真夜中に鉄鉱山に現れたシャロンは据置型のライフルを見つけた。
「やはり銘は無し……超長距離狙撃用の対物導力ライフルですわね。………どうやらパテル=マテルに落とされなかった際はこれで落とすつもりだったようですわね……」
ライフルを調べたシャロンがその場で考え込んだその時女性の声が聞こえて来た。
「どうやらラインフォルト社のライフルでは無さそうですね。」
するとクレア大尉がシャロンの背後に現れた。
「はい……恐らく”例の工房”かと。ふふ、”赤い星座”といい、最近大人気のようですわね。」
クレア大尉の問いかけに答えたシャロンは苦笑しながら呟いた。
「ええ……由々しき事態ですけれど。シャロン・クルーガーさん。貴女とは一度、お話したいと思っていました。ちなみに―――貴女の”雇い主”はどこまで関与しているのですか?」
「ふふっ……それは”どちらの雇い主”を指しているのでしょうか?」
クレア大尉の問いかけを聞いたシャロンは微笑みながら振り向いて尋ねた。
「ふう……もちろん”両方”です。」
シャロンの問いかけを聞いたクレア大尉は溜息を吐いたが何かに気付いた。
「……すみません、どうやら掃討し損ねていたようですね。」
クレア大尉が呟くと二人の目の前にCと共に現れた人形兵器が2体現れた!
「はっ……!」
するとその時クレア大尉は軍用の大型導力銃で急所を貫き
「……ひゅっ……」
シャロンはどこからともなく取り出した鋼糸で切り裂いた!すると2体の人形兵器は爆発を起こしながら地面へと落下した!
「ふふ……お見事です、クレア様。”氷の乙女”の神技、見せていただきました。」
「そちらこそ……”死線”とはよく言ったものですね。」
シャロンに称賛されたクレア大尉は真剣な表情でシャロンを見つめ
「フフ、恐れ入ります。」
クレア大尉の称賛にシャロンはスカートを摘み上げて恭しく礼をした。
「――先程の質問ですが、イリーナ会長の方は何も。無論、今回の事態を最大限に利用されるでしょうが。」
「………でしょうね。」
シャロンの口から出た想定内の答えを聞いたクレア大尉は表情を変えず頷いた。
「そしてもう一方は―――いつもと同じ”戯れ”でしょう。今はまだ、ですけれど。」
そしてシャロンは笑顔でもう一つの答えを口にした。
~ログナー侯爵邸~
「このじゃじゃ馬娘が!これ以上貴様を野放しにはしておけん!士官学院は退学、その後は謹慎だ!これは決定事項だ!反論は許さん!」
「……………………」
父親であるログナー侯爵に怒鳴られたアンゼリカは重々しい様子を黙り込んでいた。
「こ、侯爵閣下!レ、レン姫が来訪されました!ザクセン鉄鉱山での件について話し合いたいと……!」
するとその時領邦軍の兵士が慌てた様子で部屋に入ってきて報告した。
「グッ……!?もう来たのか……!あの馬鹿どもの不始末に何故この私が…………――――すぐにお通ししろ。」
兵士の報告を聞いたログナー侯爵は表情を歪めた後指示をしたが
「そ、それとその……姫様―――アンゼリカ様も話し合いの場に参加させるようにと仰っていますが……」
「何!?」
「………………?」
兵士の話を聞いて驚いて声を上げ、アンゼリカは不思議そうな表情をした。そして数分後レンが護衛の兵士達を伴ってログナー侯爵とアンゼリカが話し合っていた場所に通された。
「ふふっ、このような夜更けの訪問に応えて頂き、誠にありがとうございます、ログナー侯爵。」
「いえいえ。レン姫を我が家にお迎えする事ができて大変光栄でございます。此の度は部下達が失礼をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」
レンに微笑まれたログナー侯爵は会釈をして答えた。
「部下の方達より既に報告を受けていると思いますが、ザクセン鉄鉱山で私の命を狙った事に加えてメンフィル軍が保有する兵器に銃撃を行った件についての件を内密にする代わりの条件―――まあ、”賠償金”と言ってもおかしくありませんね。それを払って頂く為に本日はこの場に参りました。」
「……一体何をお支払いすればよろしいのですか?」
レンの言葉を聞いたログナー侯爵は警戒の表情でレンを見つめて問いかけた。
「フフ、そんなに警戒しなくてもアルバレア公爵のように領地を贈与してもらったり、多額のお金を払ってもらう訳ではありませんから、ご安心ください。」
「では一体何を……?それに何故我が愚娘の同席を求められたのでしょうか?」
レンの説明を聞いてログナー侯爵は不思議そうな表情をして尋ねた。
「アンゼリカさんの同席を求めたのはアンゼリカさんには今回の件の”賠償金”としてしばらく私の部下―――秘書として働いてもらいますので、彼女を引き取る為に同席を求めました。」
「へ…………」
「なっ!?そ、それはどういう事ですか!?」
そしてレンの答えを聞いたアンゼリカは呆けた声を出し、ログナー侯爵は驚いた後信じられない表情で尋ねた。
「実は鉱員の方達を解放した後宿泊しているホテルに戻ろうとしていた所、アンゼリカさん自身が私に申し出たのですよ。―――自分が御父上であるログナー侯爵の代わりに責任を取るので、領邦軍の凶行を許して欲しいと。アンゼリカさんは学院では自由奔放な生活を送ってらっしゃっていましたが、学院での成績は優秀の上カルバード共和国では有名なかの武術―――”泰斗流”も修められていますので、私の秘書兼護衛としてちょうどいいかと思いまして、彼女の申し出を受け入れた形になります。」
「なっ!?こ、このじゃじゃ馬娘は……!私に相談もなく、また勝手にそんな事をしたのか!」
「…………………………」
ログナー侯爵はレンの説明を聞いて驚いた後アンゼリカを睨み、レンの説明に全く身に覚えのないアンゼリカは呆けた表情をしていたが
「――ああ、そうだよ。今まで自由にさせてもらっていたから、せめてもの親孝行として父上の代わりに責任を取ろうと思ってレン姫に申し出た所、私の申し出を快く受け入れてくれたんだよ。」
レンの話に乗っておけば、少なくとも実家に軟禁される事はないと瞬時に判断し、わざとらしく重々しい様子を纏って真剣な表情でログナー侯爵を見つめて答えた。
「よ、よくもぬけぬけと……!貴様程の親不孝者がこの世に存在する訳がなかろう!?」
一方ログナー侯爵は怒りの表情で身体を震わせながら怒鳴り
「やれやれ……大切な父親の役に立つ為に身を粉にして働こうとしている娘の気持ちがわからないなんて、悲しいねぇ。」
「き、貴様……!」
呆れた様子で答えるアンゼリカを見たログナー侯爵は怒りが頂点に達しかけた。
「コホン。”喧嘩するほど仲が良い”という諺は耳にした事がありますが、”客人”の前で喧嘩をするのは貴族―――いえ、”人”としてどうかと思いますが?」
「!!お身苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません!」
しかしレンの咳払いと指摘で我に返ったログナー侯爵は慌てた様子でレンに謝罪した。
「いえいえ、ログナー侯爵にとっては寝耳に水の話でしょうから、ログナー侯爵のお気持ちも十分理解していますのでお気になさらず。それで先程の”賠償金”の話に戻りますが、私が先程ログナー侯爵に提示した条件―――アンゼリカさんがしばらく私の下で働く事でよろしいですね?」
「ハ、ハア……私自身はこの愚娘がレン姫のお役に立てるとはとても思えないのですが……それに具体的な期間はどれほどの期間になるのでしょうか?」
「アンゼリカさんが私の役に立つかどうかを判断するのは私自身ですので、気になさらないで下さい。それと期間についてですが期間は私が成人するまで―――つまり今から6年間になりますね。勿論衣食住はこちらが用意しますし、多忙な私の下で働いてもらうのですから働きに応じた給与も出す上、アンゼリカさんが望めば短期間でしたら帰省も認めます。ログナー侯爵家の長女であり、将来はログナー侯爵家の跡継ぎもしくは跡継ぎにする婿養子の正妻となられる可能性が非常に高いアンゼリカさんが私の秘書として働き、そこで新たな知識を得る事や仕事の際に私を含めたメンフィル帝国の皇族、貴族、そしてメンフィル帝国と様々な取引きをしている各国の関係者との繋がりができる事はアンゼリカさん――いえ、ログナー侯爵家の将来の為にもなると思われますが?」
戸惑いの表情をしているログナー侯爵にレンは静かな表情で説明した。
「フム……………………………」
レンの説明を聞いたログナー侯爵はアンゼリカを自分の元に置いておくメリットとデメリットと、6年間レンの元に置いておくメリットとデメリットを比べて少しの間考え込んだ後、判断を下した。
「―――わかりました。こんな自由奔放な愚娘でよければ、いくらでもコキ使って頂いても構いません。ですがその代わり……」
「ええ、領邦軍が私の命を狙った件とメンフィル軍が保有する兵器―――パテル=マテルに銃撃を行った件については私の胸の奥にしまっておきます。」
「寛大なお心遣い、ありがとうございます。―――アンゼリカ!くれぐれも!侯爵家の恥にならないように、誠心誠意レン姫に尽くすのだぞ!?」
「フッ、勿論そのつもりさ。」
その後アンゼリカは荷物を纏めてレンと共に侯爵家を出た後、レンが乗ってきたリムジンに乗ってホテルに向かい始めた。
~車内~
「うふふ、突然の出来事でビックリしたかしら?」
車がホテルに向かい始めると猫を被るのをやめたレンは小悪魔な笑みを浮かべてアンゼリカを見つめ
「フフ、さすがの私も驚いたよ。いや~、それにしても助かったよ。おかげさまで、軟禁を逃れた所か6年もの自由まで手に入れたし。」
レンと同じように猫を被るのをやめたアンゼリカも口元に笑みを浮かべてレンに気さくな態度で接した。
「クスクス、何の事かしら?アンゼリカお姉さんにはレンの秘書としてビシバシ働いてもらうつもりだから、覚悟してね?」
「フフ、軟禁されて毎日”籠の鳥”の生活を送った挙句、親父殿が用意したお見合い相手とお見合いしたり、無理矢理結婚させられるより君のような可愛いくてしかも小悪魔属性に加えて天才少女属性付きという最高の条件が揃った仔猫ちゃんの下で働く事の方が断然いいよ。―――そう言えばずっと気になっていたけど、何故”賠償金”として私を侯爵家から連れ出してくれたんだい?侯爵家が溜め込んである莫大な財産の一部を要求した方がメンフィル帝国にとってメリットになると思うんだが。」
小悪魔な笑みを浮かべるレンに見つめられたアンゼリカは静かな笑みを浮かべて答えた後不思議そうな表情で尋ね
「うふふ、レンは最後はみんながハッピーエンドになる物語が一番好きなのよ♪」
アンゼリカの質問にレンは笑顔で答えた。
こうして……ザクセン鉄鉱山で起こった”帝国解放戦線”による占拠の事件は様々な謎を残して幕を閉じ、レンの”気まぐれ”によってアンゼリカはログナー侯爵による軟禁から逃れる事ができた…………
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